ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

坂の上のクラウド:クラウド・SaaS普及の背景

2010年06月19日 | ネットワーク
これまでのASPブームとその衰退などを見てきた人からすると、「日本企業にはなじまないよ…」と感じているのかもしれないが、今度の「クラウド」「SaaS」ブームは本物のようだ。では、何故、今、クラウドなのだろうか。

そもそもコンピュータシステムの歴史を紐解けば、ホスト集中型から始まりC/S型のような分散処理になり、ASPサービスが登場したが普及したとは言い切れず、やはりWEBベースでのC/S型が主流となって…とセンター化/分散化を繰り返してきたわけで、片方でNC、シンクライアントが登場しつつも一部用途に限られており、WebOSでどうなるかというのはあるけれど、基本的には「自前主義」が強かったというところだろう。

それが何故、今、「クラウド」なのか、何故「SaaS」なのか。状況が変化した要因は大きく5つに分けると整理しやすい。

1)経済環境の変化
2)ブロードバンド環境の普及
3)ハードウェアスペックの高性能化(過剰感)
4)仮想化技術の発達
5)Googleの登場


「経済環境の変化」というのは、企業の競争環境がグローバル化し、また国内市場の不況という状況もあって、企業内のコスト削減圧力が高まっているというのが背景にある。しかしその一方で、ICTの活用というのは企業にとって切り離すことができないものであり、利用範囲や規模にしろその使い方や依存度にしろ益々大きくなっている。

しかし限られた要員と予算の中では、全ての情報システムを自らが「お守り」するということに限界があり、任せられるものは外部に任せよう、(他社を含めて)共用化できるものは共用化して「コストを下げよう」というように、企業のトップや情報システム部門の考え方が変わってきた。

自社の業務システムであれば、それが業務プロセスに直結する分、それなりに手間隙もかけなければならないだろうが、それほど大差のないインターネットやメール、グループウェアのような情報系システムに手間をかけている余裕はない。また業務システムであってもASPやSaaS/PaaS形式で基盤部分が提供されているのであれば、それはそのまま利用して、必要な部分のみをカスタマイズ/チューニング出来るのであれば、面倒を見る範囲を絞り込める。「集中と選択」がキーワードだ。

そうしたコスト削減圧力と情シス部門の負担軽減がクラウド時代を後押ししているといえる。

2番目の「ブロードバンド環境の普及」というのはその名の通り。

かっては重要拠点をDA1500(1.5Mbps)、各拠点をDA64(64kbps)、DA128(128kbps)といった専用線で結んでいた企業内ネットワークも、IP-VPNや広域イーサといったデータ通信系ネットワークに移行することでコストパフォーマンスを上げつつ高速化・データ通信への最適化を図ったきたが、最近ではインターネットやフレッツ網・NGN網の安定化ということもあって、インターネットVPNを使ったネットワークへの切替が進んでいる。

もちろんIP-VPNや広域イーサの方が品質はいいに決まっている。勘定系や基幹業務系などの一部業務システムは以前としてこうした安定性の高いNWを使っていくことになるかもしれないが、それでも情報系が中心の拠点やアプリケーション側で安定性をフォローできるような場合は必ずしもIP-VPNなどである必要はなくなってきている。

コストパフォーマンスを重視するのであれば、NGNを中心としたVPNやインターネットVPNに切り替えれば、安いだけではなく「通信速度」も遥かに高くできる。しかも各拠点が直接インターネットに接続するような構成をとるのであれば、ベストエフォードで100Mbpsの速度が期待できるようになる。

それはモバイル環境で利用する時も一緒。かってはPHSでの64kbpsのアクセスが主流だったかもしれないが、今では定額制サービスで7.2Mbpsの速度が出る時代。インターネットへ通信できる速度や帯域は格段に高くなった。

そうなると企業システムもセンター集中型、あるいはインターネット上のサーバを利用するといった使い方でも問題ない。サーバの分散設置での管理コストよりもネットワークを利用したほうが効率的なのだ。

3番目が「ハードウェアスペックの高性能化(過剰感)」だ。

インテルの共同創業者 ゴードン・ムーアが提唱した法則に従うと、集積回路におけるトランジスタの集積密度は18~24か月ごとに倍になるという。

「ムーアの法則(呪い?)」に限らず、CPUやHDDの性能は年々向上しており、これまでであれば各業務ごとに必要なサーバ構成を検討し設置してきたが、サーバ上で動くアプリケーションだけではその能力を消費できないことも多い。

またブレードサーバの登場は、それまでバラバラに設置しなければならなかった物理サーバを、1つの収納ユニット内に高密度に集約することが可能とした。ブレードサーバでは、CPUやメモリー,ハードディスクがブレードと呼ばれる1枚の基盤に搭載されており、それを電源部や冷却ファンなどがついている収納ユニットに差し込んで使う。これまでであればラックマウント型のサーバは1台で1U(4.45cm)必要であったが、ブレードサーバを使うと3U~4U(13.4~18cm)で20台相当の収納できることになる。これによってデータセンターの利用効率を高め、コスト削減が可能になる。

そして向上したH/Wの能力を効率的に使うための技術が「仮想化技術」だ。

仮想化とは、1台のサーバコンピュータをあたかも複数台のコンピュータであるかのように論理的に分割し、それぞれに別のOSやアプリケーションソフトを動作させたり、複数のディスクをあたかも1台のディスクであるかのように扱い、大容量のデータを一括して保存したり耐障害性を高めたりする技術。物理的な存在としてのサーバやストレージをその物理的な制約を超えて、論理的に扱うことが可能となる。

例えば10台のサーバの機能が必要だとして、1台の物理サーバ=1つのサーバ機能とすると10台のサーバが必要になる。1つのサーバ機能が物理サーバの70%のリソースを消費しているとすると、この仮想化技術を使えば使われていない30%分の「空」リソースを活用することで、5台の物理サーバで10台の論理サーバを利用することが可能になる。

こうした統計多重効果は規模が大きければ大きいほど効率的な使い方が可能になる。また利用者やサーバの種類によって利用されている時間帯が偏在しているならば、違う時間に利用するユーザーがと組み合わせればより効率的な使い方が可能になる。日本の拠点だけで利用しているのならば9:00~21:00までに集中して残りの時間はリソースが空いているかもしれないが、これをブラジルの拠点も使えば一日中無駄なくサーバのリソースが使われることになる。

この規模のメリットを活かしつつ、また時間帯に関わらず利用効率を高めていくためには、より多くの企業や利用者と共通のリソースを使えばいい。利用者が多ければ多いほど、また異なる使い方をする利用者か多ければ多いほど、利用効率が高くなり、それぞれが負担するコストも下がるのだから。

こうした経済環境の変化や利用環境(ネットワーク)の変化、サーバ側の技術革新といった背景があり「クラウド化」の時代への準備は整っていくわけだけれど、もう1つ人々のメンタルを変えたものとして「Google」の存在がある。

Googleに限らず、これまでだってYahoo!の検索があり、gooのフリーメールがあり、辞書検索があり…とネット上のサービスは誰もが利用してきたことだ。しかしほぼ無制限のフリーメール・GmailやAPIがを利用すれば自社サービスとも組み合わせることが可能なGoogleマップ、GoogleアースやGoogleストリートのような自社では到底用意できないようなサービスが「無償で」提供されたことで、人々のネット上のサービスを利用することへの意識は相当変わっただろう。

ネット上だからこそ「リッチ」なサービスが手軽に・安価に利用できる、インターネット上のサービスを利用してもいいんじゃないか…などなど。セキュリティ面の不安以上にネットサービス・クラウドへの肯定的な意識が浸透した。

こうしたことが、今、「クラウド」の時代・「SaaS」の時代を後押ししているのだろう。

ただこれで一気に普及していくかというとまだまだ不透明だ。

情シスの担当者からすれば、クラウドにすれば管理負担が減るというメリットがあるものの、ある意味、ブラックボックス化するわけで、何かあった時の不安は当然する。またそのウラハラではあるけれど自社で自分たちが分かった状態で構築したい(自前主義)という意識はまだまだ根強いだろう。

まずは自社での管理を一元化するために…とプライベート・クラウド化を進めるという可能性もある。先には書いたけれど、仮想化を活用することでサーバリソースの利用効率を高めるためには出来るだけ「規模」を拡大し、また利用時間・利用方法を多様化させることが望ましい。

プライベート・クラウド、つまり自社やグループ会社間で閉じたクラウド化はこうした効果が限定的だ。「四次元攻撃」ではないけれど、他社と相乗りしないことでセキュリティに対する不安感は減るかもしれないが、これまでのサーバの集約とあまり違いはない。

またパブリック・クラウドが普及するためには、中堅、中小企業に普及することが必須だ。しかしこれらの企業の情シス部門、情報システム担当者に「クラウド」の意識があるか。ブレークポイントはまだ見えていない。


クラウド化する世界 / ニコラス・G・カー,Nicholas Carr


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