さよなら渓谷。あぁ、原作を読んでみたいな、と思う。映画としてうまくまとめられているが、きっと、原作はまた違う深みがあるのだろうな、と。日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得した真木よう子はもちろん、大西信満、大森南朋、鶴田真由、鈴木杏らがそれぞれいい味を出している佳作。
【予告編】
【あらすじ】
都会の喧騒から離れた緑が覆う渓谷で、幼児が殺害され実母が犯人として逮捕されるショッキングな事件が起こる。母親の逮捕により事件は解決したかに見えたが、一件の通報により、この渓谷に住む尾崎俊介(大西信満)がこの母親と不倫関係にあったことがわかり、俊介に共犯の疑いがかけられる。通報したのは俊介の妻・かなこ(真木よう子)であった。取材に当たっていた週刊誌記者の渡辺(大森南朋)は、かなこが俊介を告発したこと、二人が必要最低限の物しか持たず、まるで何かから隠れているかのような生活をしていることにひっかかりを感じる。調べていくうちに、渡辺は二人を結びつけている15年前の罪に行きつく……。(Movie Walker より)
【レビュー】
パトリス・ルコントの「髪結いの亭主」のラスト。アンナ・ガリエナ演じるマチルドは、自らが「老い」ていくこと、そしてそのために今の「幸せ」や「愛」が失われていくことを怖れ、嵐の中、濁流の川に身を投じた。
この作品のラスト、尾崎かなこは夫・尾崎俊介とともに、吊り橋から深い渓谷を眺めている。落ちていくサンダル。「私たちは幸せになろうと思って一緒にいるんじゃない」そう呟くかなこ。
全く対照的な作品、対照的なカップルでありながら、両方の作品には女の「愛」や「幸せ」を失うこと/そもそも「幸せ」になることの不安を描いている。
尾崎俊介とかなこは慎ましく暮らしている。傍から見れは、物静かな仲の良い夫婦にしか見えないかもしれないが、2人は「愛」とは一言で片づけられないほど、過剰に体を求め合う。それはそうしなければ「愛」を確認できないかのように、あるいはそうすることで相反する感情を押し殺すかのように…
立花里美の嘘の証言で事情聴取を受ける尾崎俊介。そしてかなこは「2人が愛人関係だったと嘘の証言をする」。俊介に接見するかなこ。怒りや何故という想いや、にもかかわらずそれを押し殺そうとする俊介と何事もなかったかのように、あるいはその様を観察するかのように俊介を見やるかなこ。
そして俊介はかなこの感情を汲み、自らが愛人だったことを認める証言をする。
2人の間にあるものは「愛」と呼んでいいのだろうか。
俊介の中には、深い罪悪感があるのは間違いがない。だからこそ、かなこに何とかしてあげなければならないという強い想い、責任感がある。全てを捨ててかなこに付き添うことを選ぶ。
かなこには自分がもう普通に幸せになれないことに対する憎悪の念がある。
「私が死んであんたが幸せになるんだったら、あたしは絶対に死にたくない。あんたが死んで楽になるんだったら、あたしは絶対にあんたを死なせない。」
時間はそうした憎悪や罪悪感の形を変えていく。否、2人で過ごす時間の中で少しずつその思いは溶けだし、「愛情」と呼べるもの、思いやりやいたわる気持ちが生み出されてきたのかもしれない。
それでもそれが全てになるわけではない。
だからこそ2人は過剰に抱き合う。「愛情」や今の「穏やかな生活」が脆く崩れてしまわないように。
しかし彼らは幸せになることはない。「かなこ」と名乗った時から、俊介と自らに呪いをかけてしまったのだ。彼女が「許す」ということは「かなこ」が消えることに他ならない。
ラストシーン。全てを理解した雑誌記者の渡辺はこう問いかける。
「事件を起こさなかった人生とかなこさんに出会えた人生とどっちを選びますか」
その答えの果てに幸せは見つかるのだろうか。
【評価】
総合:★★★★☆
役者陣の演技力:★★★★★
最初、鈴木杏だと気付かず…:★☆☆☆☆
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【予告編】
【あらすじ】
都会の喧騒から離れた緑が覆う渓谷で、幼児が殺害され実母が犯人として逮捕されるショッキングな事件が起こる。母親の逮捕により事件は解決したかに見えたが、一件の通報により、この渓谷に住む尾崎俊介(大西信満)がこの母親と不倫関係にあったことがわかり、俊介に共犯の疑いがかけられる。通報したのは俊介の妻・かなこ(真木よう子)であった。取材に当たっていた週刊誌記者の渡辺(大森南朋)は、かなこが俊介を告発したこと、二人が必要最低限の物しか持たず、まるで何かから隠れているかのような生活をしていることにひっかかりを感じる。調べていくうちに、渡辺は二人を結びつけている15年前の罪に行きつく……。(Movie Walker より)
【レビュー】
パトリス・ルコントの「髪結いの亭主」のラスト。アンナ・ガリエナ演じるマチルドは、自らが「老い」ていくこと、そしてそのために今の「幸せ」や「愛」が失われていくことを怖れ、嵐の中、濁流の川に身を投じた。
この作品のラスト、尾崎かなこは夫・尾崎俊介とともに、吊り橋から深い渓谷を眺めている。落ちていくサンダル。「私たちは幸せになろうと思って一緒にいるんじゃない」そう呟くかなこ。
全く対照的な作品、対照的なカップルでありながら、両方の作品には女の「愛」や「幸せ」を失うこと/そもそも「幸せ」になることの不安を描いている。
尾崎俊介とかなこは慎ましく暮らしている。傍から見れは、物静かな仲の良い夫婦にしか見えないかもしれないが、2人は「愛」とは一言で片づけられないほど、過剰に体を求め合う。それはそうしなければ「愛」を確認できないかのように、あるいはそうすることで相反する感情を押し殺すかのように…
立花里美の嘘の証言で事情聴取を受ける尾崎俊介。そしてかなこは「2人が愛人関係だったと嘘の証言をする」。俊介に接見するかなこ。怒りや何故という想いや、にもかかわらずそれを押し殺そうとする俊介と何事もなかったかのように、あるいはその様を観察するかのように俊介を見やるかなこ。
そして俊介はかなこの感情を汲み、自らが愛人だったことを認める証言をする。
2人の間にあるものは「愛」と呼んでいいのだろうか。
俊介の中には、深い罪悪感があるのは間違いがない。だからこそ、かなこに何とかしてあげなければならないという強い想い、責任感がある。全てを捨ててかなこに付き添うことを選ぶ。
かなこには自分がもう普通に幸せになれないことに対する憎悪の念がある。
「私が死んであんたが幸せになるんだったら、あたしは絶対に死にたくない。あんたが死んで楽になるんだったら、あたしは絶対にあんたを死なせない。」
時間はそうした憎悪や罪悪感の形を変えていく。否、2人で過ごす時間の中で少しずつその思いは溶けだし、「愛情」と呼べるもの、思いやりやいたわる気持ちが生み出されてきたのかもしれない。
それでもそれが全てになるわけではない。
だからこそ2人は過剰に抱き合う。「愛情」や今の「穏やかな生活」が脆く崩れてしまわないように。
しかし彼らは幸せになることはない。「かなこ」と名乗った時から、俊介と自らに呪いをかけてしまったのだ。彼女が「許す」ということは「かなこ」が消えることに他ならない。
ラストシーン。全てを理解した雑誌記者の渡辺はこう問いかける。
「事件を起こさなかった人生とかなこさんに出会えた人生とどっちを選びますか」
その答えの果てに幸せは見つかるのだろうか。
【評価】
総合:★★★★☆
役者陣の演技力:★★★★★
最初、鈴木杏だと気付かず…:★☆☆☆☆
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