p203
なによりも身体に響いたのは、「低さ」の感覚である。下っていくこと、地平線より自分が下にいることに、自分の身体がこれほど反応するとは思っていなかった。
p205
関連文献で読んだ記念碑の黒い壁が「恥や悲しみや堕落、無力さを想起させる」というのは、大袈裟な解釈ではないかと思っていたが、たしかにそう見える。傷だとは知っていたものの、そこに凄みのある美を感じられるとわたしは期待していたのかもしれない。ところが実際に感じたのは、しみじみとしたみじめさだった。
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私は感動しなかった。みじめだと思った。けれども、それもまた別の形で、リンが構想した筋書き通りの反応だったといえるかもしれない。
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美しい傷など、実際にはまずありえない。傷は痛い、傷はうずく。血が流れ、膿が出て、熱をもち、ウジがたり…見たくない。自分の傷をもてあまし、目を背ける。
傷をさらけ出す人間には嫌悪感を覚える。