耐震改修を終えたはずの学校や病院でも、災害時に期待される役割を十分に果たせない恐れがあります。全国の自治体が管理する公共施設の耐震化の状況を調べた会計検査院は、10月9日に公表した報告書でこのように警告しています
浮かび上がった課題は2つです。1つは、校舎や体育館などの構造体そのものが耐震性能を満たしていても、天井や外壁といった非構造部材が崩落してしまう可能性です。設備機器の損傷も起こり得ます。その結果、児童や生徒の安全な避難を妨げたり、住民の避難所として使えなくなったりする恐れがあります。非常に大きな問題です。
もう1つは、病院などに備わる自家発電設備が使えなくなる可能性です。燃料を十分に確保していても、断水が続くと発電機を冷却できなくなり、短期間で運転がストップしてしまうケースが少なからずあることが判明しました。
会計検査院は、岩手と宮城、福島の3県を除く44都道府県と1615市町村が管理する公共施設を対象に調べました。その結果、小中学校や高校の校舎などの耐震化率は84.3%、病院は同76.1%となっていることが分かりました。
学校の場合、13万6538棟ある校舎や体育館のうち、7万9176棟が1981年以前の旧耐震基準で建てられています。旧耐震基準の建物で12年末までに耐震診断を受けたのは7万5307棟ありました。
耐震診断の結果、必要な耐震性能を満たしていることが分かった建物が1万4948棟、耐震性能を満たしていないことが分かって耐震改修を実施した建物が4万2776棟ありました。81年以降の新耐震基準で建てられた5万7362棟と合わせると、合計で11万5086棟が耐震性能を満たしています。全棟数に対する耐震化率は84.3%でした。
文部科学省は11年、公立学校の耐震化を15年度末までのできるだけ早い時期に終わらせるという目標を掲げました。あと2年余りの間に、耐震性能を満たしていないことが分かったり、耐震診断さえ受けていなかったりする約2万棟の早急な対策が求められます。予算の無い昨今、本当に2年で耐震化できるのでしょうか?地震はいつ起こるかわからないので、早急に対策を取ってほしいです。
会計検査院が自治体に耐震診断や耐震改修を終えていない理由を尋ねたところ、「既に予算計上しているものの、工事などを実施していないため」という回答が最も多かったそうです。
災害拠点病院や救命救急センター、第2次救急医療機関といった病院の耐震化率は76.1%でした。耐震化率は学校より低いものの、新耐震基準で建てられた建物の割合が多く、耐震改修よりも建て替えが進んでいる状況です。改修工事による騒音や振動を嫌うほか、医療機器の高度化に建物も対応しなければならないといった病院特有の理由があります。病院は、災害などの時に被災者や患者が治療を受ける施設なので、100%耐震化してほしいです。
全1万234棟のうち、耐震性能を満たしていなかったり、耐震診断を受けていなかったりする建物が2444棟残ります。理由として「建て替えや廃止の予定があるため」という回答が最も多かったそうです。
庁舎の耐震化率は70.4%でした。用途別に見ると警察署などが80.4%、消防署などが75.3%だったのに対して、市役所などは61.2%と低いです。。市役所などは、災害復旧の中心となる施設です。早急な対策が求められます。
庁舎の耐震化率について、耐震改修促進計画で具体的な目標を定めていた都道府県は全体の43%、市町村は48%といずれも半分に満たなかったそうです。大きな問題です。「庁舎は災害時に情報収集や対策の指示を出す重要な施設。計画を定めて耐震改修を着実に実行すべきだ。業務継続計画を作成したり、代替施設を想定したりしておくことも必要になる」と会計検査院は指摘しました。
これまでに見てきた耐震化率は、いずれも構造体そのものが耐震性能を満たしている建物の割合です。会計検査院が詳しく調べた結果、非構造部材や設備の耐震化率は、構造体と比べて大幅に低いことが明らかになりました。例えば、学校における非構造部材の耐震化率は45.8%、設備は46.1%といずれも半分を下回っています。
ここで注意しなければならないのは、新耐震基準に基づく建物であれば、非構造部材や設備も必要な耐震性能を満たすと仮定して分類している点です。学校の場合、非構造部材が耐震性能を満たしているとする6万2577棟のうち、新耐震基準に基づく建物が5万7362棟と9割以上を占めています。つまり、天井などの崩落を防ぐ耐震改修はほとんど進んでいないのが実態です。 天井崩落は、NEWSなどでも大きく取り上げられました。早急な対策が必要です。
会計検査院が自治体に理由を尋ねたところ、最も多かったのが「構造体の耐震化を優先しているため」。次いで「耐震化に関する基準が不明であるため」との声が多かったようです。
東日本大震災では、新耐震基準の建物でも非構造部材に多くの被害が発生しました。目立ったのが大空間を有する体育館などの天井崩落です。
会計検査院の調査によると、東日本大震災で天井材に被害があった体育館などは計735棟。その半分強を占める375棟は、新耐震基準に基づく建物でした。基準の見直しが必要ではないでしょうか?
国土交通省は13年7月に天井の落下防止措置を盛り込んだ建築基準法施行令の一部を改正したほか、文科省も10年に「学校施設の非構造部材の耐震化ガイドブック」を作成して、自治体の教育委員会などに配布しています。同ガイドブックでは、新耐震基準に基づく建物でも、天井や外装、内装、窓ガラス、設備機器、家具などの耐震点検を学校側と設置者の双方がそれぞれ実施して、必要な対策を講じるよう求めています。建物だけではなく、中の家具や電化製品などの耐震かも重要です。
会計検査院は、地震で建物自体に問題は生じなくても、停電などによって病院などの業務継続が困難になる可能性も指摘しました。今の世の中は、電気が無いと何も出来ないので。
もっとも会計検査院の調査では、対象とした643の災害拠点病院と救命救急センターの全てが自家発電設備を備えていました。そのうち56%に当たる359病院が、通常時の6割以上の発電容量がある発電機を持っています。3日分以上の燃料を確保している病院も全体の50%に当たる319病院ありました。
ところが、643病院のうち44%に当たる285病院は、水冷式の発電機を導入していました。水冷式の発電機は、運転時に冷却水の補給が必要となるものがあります。会計検査院は「停電と同時に断水が起こると、発電機の燃料を十分に確保していても、冷却水の不足で運転できなくなる恐れがある」と指摘しています。大問題です。
断水時に発電機の連続運転が可能な時間を調べたところ、3日以上の運転ができるのは265病院で、全体の41%でした。燃料の確保量だけで見た場合と比べて、9ポイント下がっています。
厚生労働省は災害拠点病院を指定する際の要件として、自家発電設備の設置と燃料の確保を求めているものの、発電機の冷却方式までは定めていませんでした。断水時でも運転できるように冷却水を十分に確保したり、空冷式の発電機を採用したりといった対策が必要となりそうです。
閉校する校舎を譲り受ける方法も建物の耐震化を進める以外の対策も考える必要があります。
例えば会計検査院は、必要な耐震性能を満たすにもかかわらず、学校の統廃合で閉校が決まった施設などを他に活用できないか、十分に検討すべきだと指摘しています。北海道名寄市が、耐力不足が判明した中学校の校舎を耐震改修せず、近隣で閉校が決まった高校の校舎を北海道から譲り受けて、中学校を移転した事例などを報告書で紹介しています。有効利用です。税金の節約になるので、ぜひ活用してほしいです。
さらに、学校が防災マニュアルなどを作成する際に、避難所の運営方法について自治体の防災部局と調整していないケースもありました。会計検査院は、震災時に公共施設が有効に機能するためには、「耐震化以外のソフト面の対策についても積極的に進めていくことが重要だ」と指摘しています。
浮かび上がった課題は2つです。1つは、校舎や体育館などの構造体そのものが耐震性能を満たしていても、天井や外壁といった非構造部材が崩落してしまう可能性です。設備機器の損傷も起こり得ます。その結果、児童や生徒の安全な避難を妨げたり、住民の避難所として使えなくなったりする恐れがあります。非常に大きな問題です。
もう1つは、病院などに備わる自家発電設備が使えなくなる可能性です。燃料を十分に確保していても、断水が続くと発電機を冷却できなくなり、短期間で運転がストップしてしまうケースが少なからずあることが判明しました。
会計検査院は、岩手と宮城、福島の3県を除く44都道府県と1615市町村が管理する公共施設を対象に調べました。その結果、小中学校や高校の校舎などの耐震化率は84.3%、病院は同76.1%となっていることが分かりました。
学校の場合、13万6538棟ある校舎や体育館のうち、7万9176棟が1981年以前の旧耐震基準で建てられています。旧耐震基準の建物で12年末までに耐震診断を受けたのは7万5307棟ありました。
耐震診断の結果、必要な耐震性能を満たしていることが分かった建物が1万4948棟、耐震性能を満たしていないことが分かって耐震改修を実施した建物が4万2776棟ありました。81年以降の新耐震基準で建てられた5万7362棟と合わせると、合計で11万5086棟が耐震性能を満たしています。全棟数に対する耐震化率は84.3%でした。
文部科学省は11年、公立学校の耐震化を15年度末までのできるだけ早い時期に終わらせるという目標を掲げました。あと2年余りの間に、耐震性能を満たしていないことが分かったり、耐震診断さえ受けていなかったりする約2万棟の早急な対策が求められます。予算の無い昨今、本当に2年で耐震化できるのでしょうか?地震はいつ起こるかわからないので、早急に対策を取ってほしいです。
会計検査院が自治体に耐震診断や耐震改修を終えていない理由を尋ねたところ、「既に予算計上しているものの、工事などを実施していないため」という回答が最も多かったそうです。
災害拠点病院や救命救急センター、第2次救急医療機関といった病院の耐震化率は76.1%でした。耐震化率は学校より低いものの、新耐震基準で建てられた建物の割合が多く、耐震改修よりも建て替えが進んでいる状況です。改修工事による騒音や振動を嫌うほか、医療機器の高度化に建物も対応しなければならないといった病院特有の理由があります。病院は、災害などの時に被災者や患者が治療を受ける施設なので、100%耐震化してほしいです。
全1万234棟のうち、耐震性能を満たしていなかったり、耐震診断を受けていなかったりする建物が2444棟残ります。理由として「建て替えや廃止の予定があるため」という回答が最も多かったそうです。
庁舎の耐震化率は70.4%でした。用途別に見ると警察署などが80.4%、消防署などが75.3%だったのに対して、市役所などは61.2%と低いです。。市役所などは、災害復旧の中心となる施設です。早急な対策が求められます。
庁舎の耐震化率について、耐震改修促進計画で具体的な目標を定めていた都道府県は全体の43%、市町村は48%といずれも半分に満たなかったそうです。大きな問題です。「庁舎は災害時に情報収集や対策の指示を出す重要な施設。計画を定めて耐震改修を着実に実行すべきだ。業務継続計画を作成したり、代替施設を想定したりしておくことも必要になる」と会計検査院は指摘しました。
これまでに見てきた耐震化率は、いずれも構造体そのものが耐震性能を満たしている建物の割合です。会計検査院が詳しく調べた結果、非構造部材や設備の耐震化率は、構造体と比べて大幅に低いことが明らかになりました。例えば、学校における非構造部材の耐震化率は45.8%、設備は46.1%といずれも半分を下回っています。
ここで注意しなければならないのは、新耐震基準に基づく建物であれば、非構造部材や設備も必要な耐震性能を満たすと仮定して分類している点です。学校の場合、非構造部材が耐震性能を満たしているとする6万2577棟のうち、新耐震基準に基づく建物が5万7362棟と9割以上を占めています。つまり、天井などの崩落を防ぐ耐震改修はほとんど進んでいないのが実態です。 天井崩落は、NEWSなどでも大きく取り上げられました。早急な対策が必要です。
会計検査院が自治体に理由を尋ねたところ、最も多かったのが「構造体の耐震化を優先しているため」。次いで「耐震化に関する基準が不明であるため」との声が多かったようです。
東日本大震災では、新耐震基準の建物でも非構造部材に多くの被害が発生しました。目立ったのが大空間を有する体育館などの天井崩落です。
会計検査院の調査によると、東日本大震災で天井材に被害があった体育館などは計735棟。その半分強を占める375棟は、新耐震基準に基づく建物でした。基準の見直しが必要ではないでしょうか?
国土交通省は13年7月に天井の落下防止措置を盛り込んだ建築基準法施行令の一部を改正したほか、文科省も10年に「学校施設の非構造部材の耐震化ガイドブック」を作成して、自治体の教育委員会などに配布しています。同ガイドブックでは、新耐震基準に基づく建物でも、天井や外装、内装、窓ガラス、設備機器、家具などの耐震点検を学校側と設置者の双方がそれぞれ実施して、必要な対策を講じるよう求めています。建物だけではなく、中の家具や電化製品などの耐震かも重要です。
会計検査院は、地震で建物自体に問題は生じなくても、停電などによって病院などの業務継続が困難になる可能性も指摘しました。今の世の中は、電気が無いと何も出来ないので。
もっとも会計検査院の調査では、対象とした643の災害拠点病院と救命救急センターの全てが自家発電設備を備えていました。そのうち56%に当たる359病院が、通常時の6割以上の発電容量がある発電機を持っています。3日分以上の燃料を確保している病院も全体の50%に当たる319病院ありました。
ところが、643病院のうち44%に当たる285病院は、水冷式の発電機を導入していました。水冷式の発電機は、運転時に冷却水の補給が必要となるものがあります。会計検査院は「停電と同時に断水が起こると、発電機の燃料を十分に確保していても、冷却水の不足で運転できなくなる恐れがある」と指摘しています。大問題です。
断水時に発電機の連続運転が可能な時間を調べたところ、3日以上の運転ができるのは265病院で、全体の41%でした。燃料の確保量だけで見た場合と比べて、9ポイント下がっています。
厚生労働省は災害拠点病院を指定する際の要件として、自家発電設備の設置と燃料の確保を求めているものの、発電機の冷却方式までは定めていませんでした。断水時でも運転できるように冷却水を十分に確保したり、空冷式の発電機を採用したりといった対策が必要となりそうです。
閉校する校舎を譲り受ける方法も建物の耐震化を進める以外の対策も考える必要があります。
例えば会計検査院は、必要な耐震性能を満たすにもかかわらず、学校の統廃合で閉校が決まった施設などを他に活用できないか、十分に検討すべきだと指摘しています。北海道名寄市が、耐力不足が判明した中学校の校舎を耐震改修せず、近隣で閉校が決まった高校の校舎を北海道から譲り受けて、中学校を移転した事例などを報告書で紹介しています。有効利用です。税金の節約になるので、ぜひ活用してほしいです。
さらに、学校が防災マニュアルなどを作成する際に、避難所の運営方法について自治体の防災部局と調整していないケースもありました。会計検査院は、震災時に公共施設が有効に機能するためには、「耐震化以外のソフト面の対策についても積極的に進めていくことが重要だ」と指摘しています。