すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【サッカーW杯予選】偉大なる2トップが引き裂く時空間~日本2-0北朝鮮

2005-06-09 15:40:24 | サッカー日本代表
 大黒がチームを変えた。バックラインの裏を狙い、再三、スペースへ飛び出す。彼の動きが中盤からボールを引き出し、全体を活性化させた。パスは回すがフィニッシュの形が見えないボールキープゲームに、落とし前をつけた形だ。予選突破は想定内だが、柳沢、大黒という2枚のFWで2点取ったのは大きい。さあ、あとは本大会だ。

 前半の立ち上がり、日本のデキは悪くなかった。バーレーン戦同様、相手ボールへの寄せが非常に速く、強い気持ちを感じさせた。ビルドアップもいつものように時間をかけすぎず、テンポがいい。特にグラウンダーのパスにスピードがあり、全体のペースアップにつながっていた。いい流れで立て続けにビッグチャンスを呼び込んだ。

 だが前半10分ごろから、集中力が切れたような瞬間がふえてきた。暑さのせいだろうか? フリーランニングがめっきり減り、次第にパスが足元、足元にしか出なくなる。ボールの収めどころがなく、横パスとバックパスが目立つようになった。フィニッシュへ行く形がまるで見えない。「ガス欠」状態だ。

 前半が終わり、「引き分けならなんとか……」という暗いムードが漂い始めた。

 だがそんな流れをひっくり返したのが大黒だった。後半のド頭から投入されると、裏を狙う動きでチームを活性化させた。「ここへ出せ」とカラダで強烈に示す動きは、自陣で停滞していたボールを敵陣めがけて解放した。

 後半の立ち上がりから、サイドをからめて何度もチャンスがくる。サイドを深くえぐり、折り返しに反応した小笠原が前に飛び出すシーンも見られるようになった。

 そんな展開に呼応するかのように、スタジアムの外からは日本のサポーターたちの歌声が聞こえてくる。彼らは文字通り、地の果てまでついて行くのだろう。まったくすごいヤツらだ。

 後半27分、柳沢のゴールを引き出したのも大黒だった。彼が裏へ抜ける動きにボールが出る。それが競り合いになってこぼれたところを、柳沢がスライディングしながら豪快に決めた。

 とはいえこの日、柳沢はワクへ行く強烈なシュートを少なくとも3本、放っている。バーレーン戦同様、非常にアグレッシブだった。日本で最も技術のあるFWのひとりが、唯一、引きずっていた欠点を解消した。そんなふうに見えた。私の中で柳沢はこの日、完全に「信頼できる男」に変わった。本大会も頼むぞ、柳沢。

 後半44分の大黒の2点目は見てのとおりだ。この試合、北朝鮮はラインをかなり押し上げるケースが目立った。それが裏を狙う大黒の得意形にハマった形だ。

 さあ、あとは本大会だ。大黒、柳沢という積極的に前のスペースへ飛び出すFW2枚にメドが立ったのは大きい。特にバックラインの浅いチームとやるときには有効だ。

 これなら引いてカウンター狙いのチームにはポストプレーヤーを、逆に高い位置にゾーンを敷くチームには彼らのようなタイプを、という使い分けもできる。もちろん1試合の中でゲーム展開に応じてカードを切ることも可能だ。

 W杯まであとわずか。残された時間、いい準備をして、世界に日本の「脅威」を見せつけてほしい。

 ぶちかましてこい! ニッポン。
コメント (2)
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【サッカーW杯予選】ドイツを引き寄せた「勝ちたい気持ち」~日本1-0バーレーン

2005-06-05 15:24:22 | サッカー日本代表
 ドイツ行きへ王手をかける一発だった。中村がはたいたボールをワンフェイント入れて持ち替え、小笠原はルックアップした。マーカーは彼の左をオーバーラップして行くアタッカーをケアし、瞬間的に左を切った。そのためわずかにシュートコースが空いている。小笠原が振り抜いたボールは美しい軌道を描き、彼がほんの2秒前にイメージした通りゴール左隅へ吸い込まれていった──。

 バーレーン戦はすべてがうまく回転した試合だった。いまの代表の最大の問題点は、メンタル面だ。そしてこのゲームで採用したシステムやチームが置かれた状況が、彼らの強い「気持ち」を引き出した。

 1トップ2シャドーは、2列目がイヤでも前に飛び出さざるをえない形だ。柳沢のうしろに配置された中村と小笠原は、もともと「人を使うタイプ」の選手である。使われるタイプじゃない。そのためペルー戦のエントリーで指摘したように、「パスを出したら終わり」になりがちなのが彼らのアキレス腱だった。

 だが1トップの下に置かれたために、「オレがやらなきゃ、やるヤツがいない」という意識が生まれた。ジーコはこのシステムを採ることにより、「おまえがやるんだぞ」てなメッセージを送ったことになる。これが彼らの気持ちを変えた。

 象徴的だったのは、中村らを囮に使った小笠原の得点シーンだ。縦パスを受けた中村はダイレクトで小笠原にはたき、すぐに右前へ走った。リターンパスを受けるためだ。これも同じくペルー戦のエントリーで「日本にはこれが足りない」と指摘した基本中の基本、パス&ゴーである(中村はこの動きを今後も絶対に忘れないでほしい)。

 一方、中村から横パスを受けた小笠原の左には、もうひとりのアタッカーが爆発的なランニングを見せてオーバーラップしてきた。小笠原の左右で前へ飛び出した中村らは、釣る動きをしたわけだ。特に中村にはバックラインの2~3人が反応しているから笑える。

 場所はペナルティエリアのちょい外。バーレーン守備陣はシュートより、パスをケアした。中村たちの動きが彼らの意識を分散させ、そのぶんマークがやや甘くなった小笠原のシュートを生む遠因になったのだ。

「パスを受けるために走ろう」という受け手の気持ちと、「オレが決めるんだ」という小笠原の気持ち。いままでにない強いメンタルが生んだゴールだった。

 また1トップの柳沢も、バックラインの裏を狙って精力的なダイアゴナルランを繰り返した。

 彼の場合は存在自体が囮なのだが(笑)、それにしてもよく走った。相手ボールのときはチェイシングし、マイボールになったら前のスペースに走る。私は柳沢のひたむきな気持ちに心を打たれた。もう鳥肌ものだったよ。しかし柳沢をいきなり1トップに使うって、ジーコは私の原稿を読んだのか?(笑)

 そして特筆すべきは、中田英の気持ちだ。とにかく玉際でねばるわ、ねばるわ。

 マイボールのときしか動かない選手ってのはよくいるが、彼の場合はそんなのとは無縁だ。どっちのボールであろうが、常に必要な動きをする。特に疲労がたまった後半のドン詰まりあたりで、あんな動きはできないよ、ふつう。よっぽど強い気持ちがなけりゃ。

 ひとことでいえば、中田英のそんな気持ちがチーム全体に乗り移り、全員でもぎ取った勝利だった。かつて、あの木村和司が「サッカーは気持ちだよ」と言っていたのを懐かしく思い出した。

 このチームは「1対1で勝つ」とか、「玉際のねばり」とか、「勝ちたい気持ち」とか、もう、そういうきわめてプリミティブな部分で相手に競り勝つしかテがないのだろう。私はそんなものはプロとして当たり前の前提として、「そこから先」を見たいのだが致し方ない。

 サッカーというゲームは実にカンタンだ。相手ボールになったら、とにかく敵のジャマをする。そしてマイボールのときには、敵のジャマをかいくぐってゴールすればいい。特に90年代以降はその「ジャマのしかた」や、「ジャマを無力化する方法」がとてもロジカルになっている。

 だが、「気持ち」や「ねばり」は時としてそんなロジックを吹っ飛ばす力になる。「理屈抜きの気持ち」は人を感動させるし、だからこそ人々はフットボールに熱狂するのだ。

 もしロジックではなく超人的な精神力を武器に本大会の決勝トーナメントへ行けるのなら、これはこれでリッパな「日本のサッカー」である。日本がアイルランドみたいなチームになるなら、想定外ではあるがもちろん賛成だ。彼らのひたむきさは、ホントに人を熱くさせる。

 そうかあ。日本はアイルランドになるのかあ。

 そう考えたらなんとなく、もう納得できそうな気になってきたよ、わしは。

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(追記)小笠原の左をオーバーラップした選手が映像では確認不能だったため曖昧です(6/5)
コメント (5)
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