すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【W杯への修正点】4-1-4-1でバイタルを埋めろ

2018-03-29 10:49:15 | サッカー戦術論
プランBは本田の1トップと中島のセカンドトップだ

 まったくあのウクライナ戦からは多くの情報を得られた。非常に有意義なテストマッチだった。この試合から引き出せる修正点は数多いが、今回は「バイタル空くよ」問題と、W杯本番でリードされた場合のプランBについて考察してみよう。

 まず前者に対する修正点だ。結論から先にいえば、ハリルジャパンの守備のやり方では中盤の横幅を4枚(4-2-3-1のダブルボランチと2SH)で埋めるのは無理だ。

 実際、4-2-3-1で臨んだウクライナ戦では、サイドに開く敵MFにボランチがついて開いて中盤真ん中にスペースを空けてしまい、そこを狙われて失点した。しかもこの現象はウクライナ戦だけでなく、過去のテストマッチでも何度も発生している。ハリルが人について行く守備を志向する限り、この「バイタル空くよ」問題は解決できない。

 そこでシステムを4-1-4-1にして中盤には3センター(アンカーと2インサイドハーフ)を置き、相手ボールになったら4-5-1に変化してリトリート対応する。これで中盤は5枚でしっかり守れる。おまけに守備時の4-5-1は4-1-4-1や、3センターを後ろに残した4-3-3にも変化できるため、場合によってはハイプレスもかけられる。

 問題は3センターの人選だが、アンカーとインサイドハーフ1枚は長谷部と山口蛍で決まり。あとは残りのインサイドハーフ1枚が悩ましい。柴崎か、井手口や長澤を呼び戻すのも1案だが、ここは大胆に本田を推す。後述するが、本田をインサイドハーフのスタメンで使っておけば、さらなるシステム変更が可能になるからだ(後述)。

 本田って実は何気に守備もうまく粘りがある。ゆえに3センターの一角をやれるはずだ。現に所属チームでもやるときがある(私個人としては、彼には本当にボランチをやってほしい)。

ハリルは「政治的」に本田を警戒している

 さてハリルは本田を4-2-3-1の「3」の右SHでテストしている。ハリルはこのポジションの選手には攻撃時、ウイング的に裏のスペースに飛び込むことを要求している(久保や浅野のように)。だが、ぶっちゃけスピードがなく(悪くいえば鈍重な)本田には向かない動きだ。

 私は戦術的にはハリルを支持するが、こと選手選考と選手起用にはかなり異論がある。いまだにFW杉本健勇や宇佐美を見切らずテストしているのもそうだが、この「本田問題」もその最たるものだ。そしてこの本田案件には、ハリルのメンタリティの深い部分が影響していると見る。

 結論から先にいえば、ハリルにとって本田は「目の上のたんこぶ」なのだ。ハリルは監督として厳然たる権力を握り、絶対的な長として君臨したがる帝王キャラだ。そんなハリルにとって、発言力と実績があり、ややもすればフィールド上の「現場監督」になりかねない本田は常に警戒すべき対象なのである。

 このことは記者会見を見ただけでわかる。メンバー発表の席上で、本田のことに記者の質問が集中するだけでハリルは露骨に嫌がる。結局自分は本田を選ぶクセに、「みなさんの質問は本田の話ばかりですね。大量に出ているケガ人のことはどうでもいいんですか?」などと、チクリと嫌味を言う。人々が本田を認め、本田について知りたがるのが気になってしかたないのだ。

 私などはそんなハリルのキャラを見て「わかりやすいなぁ」「子供みたいだ」「おもろいおっさんだな」と好ましく見るのだが、反対に「腹黒く権謀術数を駆使する独裁者だ」と嫌う人もいるかもしれない。ま、それはともかく。

 ハリルが本田には(彼が好む)トップ下を絶対やらせないのも、ハリルの警戒感ゆえではないかと私は睨んでいる(なぜならトップ下は「帝王」のポジションである)。そして本田には最も向かないWG的なSHをあてがい、これまた本田には向かない裏への飛び出しを要求するのも同じ理屈だ。ハリルは本田に苦難を与えようとしている。誤解を恐れずにいえばパワハラの一種かもしれない。

 チーム内で政治力がある帝王・本田は「タテに速いだけじゃなくタメも必要だ」「カウンターばかりでなくポゼッションすべきだ」などと、ハリルの戦術コンセプトに逆行する発言を公然としかねない。本田は政治力を生かしてチームメイトを口説き、内部から反乱を起こす可能性がある。そうなればチームはバラバラ、非常に危険だーー。

 ハリルの目にはそう見えるのだ。

リードされれば本田をワントップへ

 話がそれた。ハリルのプロファイリングは別の機会に譲るとして、本題へ行こう。本田のポジション問題だ。上の方で本田を4-1-4-1のインサイドハーフに推したが、実はこの案はひとつぶで二度おいしい。

 ロシアW杯の本番で仮に同点の膠着状態になるか、またはリードされてどうしても点がほしいとき。交代カードを切ることなく、インサイドハーフの本田を(大迫に代えて)ワントップへ移動できるのだ。で、システムを4-4-1-1にして中盤センターはダブルボランチに。セカンドトップには中島を投入する。

 つまりチームで最も「個」が強く、1番シュートが上手い選手と、2番めにシュートがうまい選手を最前線で組ませるわけだ。こうすれば日本代表名物の得点力不足解消の一助になるし、「中島問題」も解決できる。

 え? 中島問題って、いったい何だ? 

 この3月シリーズで一番インパクトがあったのは、まちがいなく中島だ。攻撃的で日本人離れした「個」の強い彼を使わない手はない。だが中島が主戦場とする左サイドは、ハリルの戦術を最も理解しているハリルの申し子、MF原口がレギュラー確定だ。おまけに控えにはあの乾までいる。もう満員である。

 ならば中島は、現状、絶対的な存在がいないトップ下枠(セカンドトップ枠)で選出する。加えて中島をセカンドトップに使うことで、彼の守備の問題だって解決できる。それって何か?

 ハリルが考えるSHは、守備時には上がってくる敵のSBについて自陣深くまで引き最終ラインにも加わらなきゃいけない。それが約束事だ。W杯本番まで残り2ヶ月ちょいで、守備がまったく素人の中島にそんなノウハウを仕込むのはムリだ。なにより中島には、持ち味を生かしてもっと攻撃的な役割をやってもらいたい。

 で、セカンドトップである中島の守備の仕事は、敵の最終ラインがボールを保持しているときのファーストディフェンダーとしての役割に限定する。「おまえは引いてくるな。リードされてるんだから攻撃に専念しろ」って話だ。

 さて、あとはW杯で勝利の美酒に酔うだけである。

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【ハリルジャパン】またマスコミのネガな情報操作が始まった

2018-03-27 08:36:04 | サッカー日本代表
「チームはバラバラ」と煽って売る

 マリ戦が1-1で引き分けに終わるやいなや、マスコミは蜂の巣を突いたような騒ぎになっている。彼らが問題にしているポイントは2つだ。1つは「選手がハリルに反乱を起こした。もうチームはバラバラだ」なるフィクション。2つめは「W杯直前なのにマリに勝てないなんて大丈夫か? 本番に間に合うのか?」てな煽りである。

 では1点目の「チームはバラバラだ」論から行こう。メデイアというのはまず持ち上げて話題を作って部数を売り、ひと段落したら今度はどん底に落としてまた話題を作って売る。それがマスコミの典型的なビジネスモデルだ。

 ハリルジャパンはロシアW杯をめざすアジア最終予選を突破した。この時点でメディアはさんざん持ち上げ、たんまり稼いだ。さあ、お次はどん底に落として売る番だ。で、目下、マスコミはしきりに「あるストーリー」を作りたがっている。

 すなわち、ハリルはマリ戦で「縦に早く」とロングボールばかり要求した。しかたなく選手は放り込みに終始したが、試合後には異議申し立てをし「俺たちはパスを繋ぎたい」と反乱を起こし始めた。しかもゲーム内容は散々。もはやチームはバラバラだーー。そんなフィクションを、メディアは事実であるかのように仕立てたいわけだ。

 では実態はどうか? マリ戦の特に前半はロングボールなんて数えるほどだ。逆にハリルジャパンの面々はメディアが作りたがっているフィクションとは正反対に、ゲームの前半は日本人が大好きなパスサッカーを展開した。前半は明らかに日本が優勢。しかも前回の記事で分析した通り、シュートに至った決定的チャンスは前半に少なくとも8回あった。そのうちほんの2本でも決めていれば、前半でゲームは完全に終わっていたのだ。

 おわかりだろうか? 「選手が反乱」みたいなお家騒動はマスコミの大好物。読者の興味をひきやすい売りのツボだ。で、1-1の引き分けに終わったマリ戦をネタに「ハリルと選手が戦術をめぐり対立」「チームがバラバラで勝てなかった」てな話にしたくてたまらないわけだ。

マリ戦、ウクライナ戦は選手選考の場にすぎない

 さてマスコミが問題にしている2つ目のポイントへ行こう。「こんな本番直前なのに格下に勝てないなんて大丈夫か?」なる疑問である。

 そもそもマリ戦とウクライナ戦は、FW中島のようなまったくの新戦力や、本田、宇佐美、柴崎ら「復活組」をかき集めてテストする場だ。つまりどの選手をW杯本番へ連れて行くのか、チェックするためのテストマッチにすぎない。そりゃコメントを求められればハリルは「勝ちに行く」と口では言うだろうが、おそらく勝負にはこだわってない。

 例えばマリ戦のスタメンなんて完全なレギュラーは大迫と長谷部、長友の3人だけだ。あのメンバーで「今まで通りのサッカーをして圧勝しろ」なんてヘソが茶をわかす。従来のレギュラー完全固定で勝てなかったのなら別問題だが、繰り返しになるがこの3月シリーズは「勝つこと」が目的ではない。あくまで選手選考のための場なのだ。

「マリは仮想セネガル、ウクライナは仮想ポーランドだ」などというのは、マスコミが勝手に話を盛り上げて部数を売りたいためのキャッチフレーズにすぎない。

 だいたい本番直前のこの時期にレギュラー固定して「本来のサッカー」なんてやった日には、W杯の対戦相手に徹底研究されてしまう。逆に対戦相手によって戦術や選手まで変える策士のハリルは、この段階でライバル国に「丸裸」にされないよう、わざわざマリ戦とウクライナ戦を選手のセレクションに特化した試合に位置付けたんじゃないか? などと私はカンぐっている次第だ。

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【国際強化試合】決定力のなさに唖然 〜日本1-1マリ

2018-03-24 11:32:38 | サッカー日本代表
前半で試合を決められたはずだ

 前半の日本は悪くなかった。ラインが高くコンパクト。プレスもかかる。唯一、欠けていたのは毎度おなじみの決定力だった。フィールドを斜めに横切る大きなサイドチェンジを入れながら、ダイレクトプレーも織り交ぜ前半の日本はいい展開を見せた。大迫が前線で基点を作る。長谷部は中央から大きく左右にボールを振り分けるナイスパスを出す。そんななか、日本は右サイドの久保をうまく使って多くのチャンスを作り出した。

 ただし、ゴールが遠い。前半に作った以下の決定機のうち何本かを決めていれば、完全に日本のゲームになっていただろう。

⬛️前半2分。左にいた長谷部がCB昌子に落とし、昌子が降りてきた久保に当てる。久保はダイレクトで右SB宇賀神にはたき、すぐタテへ走る。宇賀神はダイレクトで中央の大迫に出し、大迫はヘディングで裏に飛び込んだ久保に渡す。シュートには行けなかったが、組み立てからフィニッシュまでダイレクトプレーが3つ絡んだいい展開だった。

⬛️前半9分。左サイドでこぼれ球をひろった宇佐美から、ウラのスペースへ走り込んだ久保に鋭いパスが出る。受けた久保のシュートはポストの右へそれる。

⬛️前半10分。左サイドの宇佐美が短くドリブルし左45度の角度からシュート。ゴール右にそれた。

⬛️前半11分。大迫のポストプレイから、久保がドリブルで持ち込みシュートしたがGKの正面をついた。あれは決めないと……。

⬛️前半22分。中央で久保からパスを受けた大島がどフリーでシュート。ゴールの右にそれる。あれは決めたい。

⬛️前半24分。宇佐美が左のCKを蹴り、久保がヘディングシュート。ゴール上に、かすかにそれる。

⬛️前半35分。左のCKから昌子がフリーでヘディングシュート。ゴール右にそれる。

⬛️前半40分。相手のクリアボールを拾った大迫が、ダイアゴナルランでゴール前に走り込んだ宇佐美にパス。宇佐美のシュートはGKにキャッチされた。

⬛️前半44分。左サイドの宇佐美からクロスが入り、中央で大迫が倒れながらヘディングシュート。GKの正面を突く。

 日本はこれだけ大量のチャンスを逃し、結局、前半43分に宇賀神がPKを取られて0-1と先行された。アディショナルタイムの後半48分に途中出場のFW中島がダイレクトシュートを決めて同点にしたが、時すでに遅し。前半に山とあった得点機をモノにできず、流れをマリに持って行かれたのが致命的だった。

 マリは思いのほか歯ごたえがあり、ラインを高く保ってプレスをかけてくる。個の能力が高く、瞬発力とキープ力がある。またマリの選手は体幹の強さが目立った。競り合いでカラダを当てられると日本の選手はすぐバランスを崩すが、マリの選手は微動だにしない。そんなシーンが散見された。

 途中出場の本田はまったく機能せず。同じく途中出場の中島がよくボールに絡み、見せ場を作ったのとは対照的だ。後半30分以降のマリは自陣に引いてブロックを作り、日本は見切られ遊ばれているかのようだった。あくまで選手のテストが目的のゲームであるとはいえ、この決定力不足を本番までに解消する方策はあるのだろうか?

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【代表メンバー発表】またハリルの「ないものねだり」が始まった

2018-03-16 08:17:50 | サッカー日本代表
持ち味と違うプレイを求める悪いクセ

 欧州遠征に挑む日本代表メンバーが発表された。3月23日にマリ代表、3月27日にウクライナ代表と対戦する。メンバーは以下の通りだ。

GK
川島永嗣(FCメス)
東口順昭(ガンバ大阪)
中村航輔(柏レイソル)

DF
酒井宏樹(マルセイユ)
遠藤航(浦和レッズ)
昌子源(鹿島アントラーズ)
植田直通(鹿島アントラーズ)
森重真人(FC東京)
槙野智章(浦和レッズ)
長友佑都(ガラタサライ)
車屋紳太郎(川崎フロンターレ)
宇賀神友弥(浦和レッズ)

MF
長谷部誠(フランクフルト)
三竿健斗(鹿島アントラーズ)
山口蛍(セレッソ大阪)
大島僚太(川崎フロンターレ)
柴崎岳(ヘタフェ)
森岡亮太(アンデルレヒト)

FW
本田圭佑(パチューカ)
久保裕也(ヘント)
宇佐美貴史(デュッセルドルフ)
原口元気(デュッセルドルフ)
中島翔哉(ポルティモネンセ)
大迫勇也(ケルン)
杉本健勇(セレッソ大阪)
小林悠(川崎フロンターレ)

ハリルは「あるがまま」を肯定できない

 さて、選手に関するハリルの選評を見ていると、「また例のやつが始まったな」という感じがする。選手の「あるがまま」=持ち味を素直に肯定できない。ハリルは選手をいじり、自分の理想とするタイプに作り変えようとする。セレクション型でなく、フィロソフィ型の監督ゆえだ。

 例えば本田に関し「足元でボールをもらうだけでなく、裏のスペースにも走りこんでほしい」と「使われるタイプ」のプレイを求める。それが得意な浅野はゆえに今まで選ばれていたわけだが、入れ替えて選んだスピードのない(悪くいえば鈍重な)本田にも同じことを要求する。

 いや本田の持ち味はまったく別のところにある。彼は「使われるタイプ」ではなく人を使うタイプであり、キープ力と強靭なフィジカルで時間を作りタメを生む。ボールを奪ったら少しでも速く攻めたいハリルのサッカーとはまったく逆のタイプだ。

 選手の持ち味を生かすプレイを求めるのでなく、自分(ハリル)の頭の中に岩盤のように存在するフィロソフィ(サッカー哲学)を実現するためのプレイを選手に頑なに要求する。で、それが選手の持ち味と食い違って苦労する。チームが力を出せない。2015年の旧・東アジアカップでさんざん見せられた名人芸だ。

 それなら初めから自分が理想とするタイプの選手を選べばいいのに、ハリルはそれとは違う選手の「異能」につい惹かれて選んでしまう。で、結果、自分の考える戦術を実現できず、チームが機能しない。ハリルの選手選考が裏目に出るときのお決まりの失敗パターンだが、この本番間際になってまだそれをやるのか? という感じがする。

 念のため補足すると私個人は、本田は代表に必要な選手だと考えている。ただしハリルが考えるのとはまったく別のプレイスタイルを持つ選手として、であるが。

FW中島は守備を要求されて苦労するだろうなぁ

 かたや攻撃的な中島は、自分の持ち味と真逆の「守備」を要求されて苦労するだろう。初めてハリルに選ばれたときの宇佐美と同じことがまた起きる。

 ハリルジャパンにおけるSHは、守備になれば上がってくる相手SBについて自陣に下がり最終ラインまで引いてこなければならない。それが約束事だ。原口はそれができるから選ばれているが、ハリルはまちがいなく中島にも同じことを求めるはずだ。

 中島に守備を求めるなんて、魚に「陸へ上がれ」というようなものだが……ハリルはフィロソフィ型の監督だからしょうがない。自分の内なるフィロソフィを、他人に要求するのがハリル流だ。やれやれ、である。

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【アルガルベ杯】つまらないミスから2失点し自滅 〜なでしこ0-2カナダ

2018-03-09 08:36:46 | サッカー日本代表
基本に帰り、基本を見直せ

 なでしこジャパンは最終戦で、基本を無視したつまらないミスから2失点し自滅した。それは「笛が鳴るまでプレイを止めるな」と、「ディフェンディング・サードでプレスをかけられたらセーフティ・ファーストで」だ。逆にいえば、2つのミスのシーンを除けば今大会でいちばんのデキだったのが悔やまれる。

 1失点目は前半19分。日本の右サイドでSB有吉がカナダのベッキーと1対1になる。MF中島が加勢し2枚で対応したためベッキーは縦への突破をあきらめ、センタリングに切り替えた。

 ところがセンタリングされたボールが有吉と並んだ中島の腕に当たる。ベッキーが腕を上げて「ハンド!」とコールしたため中島は審判のほうを見た。かたや有吉はセンタリングのボールが飛んだはずの方向に目をやる。その間に、中島の腕に当たり跳ね返ったこぼれ球をベッキーに詰められた。2人がプレイを止めてボールから目を離さなければ、カンタンに防げた失点だった。「笛が鳴るまでプレイを止めるな」だ。

 2失点目は後半4分。日本のゴール前にボールがこぼれ、GK山下と見合ったCB熊谷が対応した。ボールを見送りGKにまかせた場合、詰めてきている敵にかっさらわれそうなタイミングではあった。だがそう判断した熊谷は、あの危険なゾーンでボールを「ひと突き」する。で、小突いたボールを敵にさらわれシュートを食らった。「ディフェンディング・サードでプレスがかかればセーフティ・ファーストで」だ。

 熊谷はボールを長めにひと突きドリブルして敵をかわし、ボールをビルドアップにつなげようとしたのだろう。だが場所は自ゴールが目の前の危険なエリアだ。ダイレクトでクリアさえしていれば、なんてことはなかった。以上、日本は基本を無視した、たった2つのプレイで負けた。残念だ。

FW菅澤はマーカーを背負いポストプレイができる

 立ち上がりのなでしこはハイライン・ハイプレスで入り、緊張感のあるいい滑り出しだった。パスワークは2タッチ以内でこれまでの大会中、いちばん速い。相手ボールホルダーに対してはよくプレスがかかり、タイトな守備だ。中盤では複数の選手による組織的なプレッシングをしていた(ただし修正点は後述)。

 特に岩渕と2トップを組んだFW菅澤はマーカーを背負いながら下がってクサビのボールを受け、いったんボールをはたいて、また上がるポストプレイが非常にいい。ボールがよく収まる。

 また日本は最終ラインからのビルドアップ時には、両SBのどちらか一方が高い位置を取り3バック気味になる。だがあれをやるなら右SBは今大会不調の有吉より、若い清水のほうが適任のように見えた。ただしいずれにせよ、前半は悪くない内容だった。

 前半30分。最終ラインのビルドアップからFW菅澤がポストになってつぶれ、中央にオーバーラップしてきた中島にパス。中島はカナダGKと1対1になりシュート体勢に入ったが、カナダのベッキーに足を払われ倒れてしまった。明らかなPKに見えた。何度も映像をくり返しチェックしたが、中島はスネを蹴られたようにも見えるし、ベッキーの足はボールに行っているようにも見える。微妙な判定だった。

 また後半21分には途中出場した右SB清水から、フィールドを斜めに横切る素晴らしいサイドチェンジのボールが左前に開いたMF阪口に入った。だがヘディングで競った阪口はファウルを取られた。映像を見直すまでもなく、ファウルでもなんでもないプレイだった。中島の腕にボールが当たったシーンと合わせ、ハッキリしないジャッジだった。

課題は最終ラインから「どうボールを引き出すか?」

 さて、この試合の修正点はどこか? まずなでしこは最終ラインからボールを引き出すのに苦労した。後ろ半分ではボールを回すが、どうしてもビルドアップの1本目の縦パスをカナダの選手に引っかけられる。で、CBからSBにボールが出るが、前をうかがったSBはリスクを避けてまたCBにバックパス。そしてCBが再びSBに出す、というサイクルをくり返していた。

 ならば縦パスには、もっと速いボールスピードがほしい。それならカットされずにすむ。なでしこの感覚ならば、「シュートを打つ」ぐらいの気持ちでパスを出してちょうどいい。で、その強いボールをワントラップで次のプレイをするのに「ベストな場所」に置くワンタッチコントロールがほしい。もちろん最終ラインから縦パスを引き出すためのフリーランニング、速い動き出しとオフザボールの動きもいる。

 またときには「グラウンダーのボールでビルドアップしよう」という発想を変えるのも方法だ。例えばCBの熊谷からポストのできるFWの菅澤までロングボールを入れ、菅澤がパスをダイレクトで胸トラップし味方にボールを落とせば、次の瞬間にはもうアタッキングサードでボールキープできる。「それは自分たちのサッカー」じゃない、などといわず、そういうチャレンジもどんどんしてほしい。

守備にはディアゴナーレとスカラトゥーラを

 守備面では、1人が前に出てボールにプレスをかけ、他の選手がその斜め後ろについてカバーリングに備えるディアゴナーレとスカラトゥーラの動きをマスターしてほしい。



 なでしこはボールホルダーに対し2人が行き、敵がドリブルで前進すると守備者2人が横に並んだまま平行にズルズル下がるケースが散見される。味方が引いてくるための時間を稼ぐ場合は別だが、そうでない場合は1人がはっきりボールに対しチャレンジすべきだ。

 そのためには接触プレイを怖がらず、スタンディング・タックルで敵にカラダを当ててバランスを崩させる。例えばレスリングではセオリー化されているが、「相手がこの体勢のときには、ココに圧力をかければバランスを崩せる」というポイントがある。研究してみてほしい。

 くり返しになるが、この試合はたった2つのミスを除けば今大会でいちばんいいデキだった。FW菅澤が交代し前でボールが収まらなくなったのが悔やまれるが、なでしこ最大のテーマである「相手に劣るフィジカル」の問題もそう感じさせなかった。

 なでしこジャパンは、まだ実力の50%も出してない。伸びしろがとんでもなくでかい。ミスを減らし、持てる力をすべて出せればもっともっと勝てる。1人1人はすでに高い技術をもっているのだから、あとはグループ戦術で1+1を「2以上」にすること。そして守備のセオリーをマスターすることだ。

 そうすればなでしこは、必ず世界一になれる。その日がくるのが楽しみだ。

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【アルガルベ杯】重馬場の戦いを泥臭く制す 〜なでしこ2-0デンマーク

2018-03-06 08:51:16 | サッカー日本代表
相手ボール時の「粘りの寄せ」が身についてきた

 試合前の雨で水を含んだグラウンドは状態が悪く、立ち上がりのなでしこジャパンは足を取られてボールも走らずぎこちなかった。重馬場はグラウンダーのボールを転がすスタイルのなでしこに不利だ。で、立ち上がりはデンマークにポゼッションされていた。

 だが徐々に重いグラウンドに慣れてゲームを作り、アタッキングサードでプレイする時間帯が長くなる。特にデンマークの足が止まった後半は、完全に試合を自分のものにした。後半37分にMF長谷川がゴール前のこぼれ球を泥臭くアクロバチックに決めて先制点。同48分にはFW岩渕がPKを決めて2-0で勝利した。終わってみれば完勝だった。

 立ち上がりのなでしこはボールを奪っても、いったんスローダウンして必ず遅攻になってしまっていた。もっと状況判断をよくし、前に人数が少ないなら時間を作ってタメる、逆に相手の守備のバランスが崩れていればすぐ速攻をかける、と攻めにメリハリをつけたい。

 またこの日のように湿気を含んだグラウンドでは、バックパスは厳禁だ。ボールが止まってしまい、かっさらわれる危険がある。こんなときにはセーフティファーストで、浮き球のミドル〜ロングボールをうまく使う必要がある。グラウンド状態に合わせた賢いプレイ選択をしたい。

守備は1対1の基本から見直せ

 守備面の課題としては、特に前半の序盤は敵ボールホルダーに寄せる間合いがわかってないシーンが目立った。相手と距離を取ったまま、自由にやらせてしまうのだ。オランダ戦などはこの症状が特にひどく、1対1の基本からやり直す必要性を感じた。

「どこからプレスをかけるのか?」などという組織の問題ですらない。「個」の対応のまずさだ。ただしこの点は試合を追うごとに目覚ましく改善されており、この日のデンマーク戦では序盤を過ぎて以降は球際でよく競っていた。

 選手別では、MF長谷川は前半の4-4-2の左SHから、後半に4-2-3-1のトップ下に入るといっそうイキイキ度が増した。ゴール前に詰め、倒れながらこぼれ球を詰めた1点目はさすがテクニシャンだ。

 FW岩渕はコンスタントにチャンスを作りよくシュートを打った。前半、ポストを叩いた目の覚めるような一撃は惜しかった。何度見ても個の強さでは群を抜いている。ただしワンプレイ終わるとフッと気を抜くようなところがある。どこまで緊張感を持続できるかがテーマだろう。

 MF中島はしっかりカラダを入れて競る「強さ」と運動量、左SB鮫島はタテへの攻め上がりがいつも通り効いていた。この2人はある程度計算できる選手だ。また熊谷と組んだCBの三宅は、ミドル〜ロングレンジのフィードが光っていた。

 最後に後半頭から途中出場した右SBの清水は、相変わらず上がるタイミングが非常にいい。決断が速くプレイ選択に迷いがない。オーバーラップしアーリークロスで終わるスタイルが身上である。

 さあ次は7日の順位決定戦だ。ぶちかまそう。

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【アルガルベ杯】オランダ戦で出た課題に打ち勝つ 〜なでしこ2-1アイスランド

2018-03-03 09:09:39 | サッカー日本代表
格下相手に危なげなく貴重な1勝

 このチームはいい意味で予想を裏切ってくれる。

 前回のオランダ戦のレビュー記事で「フィールドを斜めに横切る大きい展開がない」と書いたら、さっそく今回のアイスランド戦では、散発的に最終ラインからロングボールを入れて敵陣をタテに引き伸ばし敵のバイタルにスペースを作ったり。中央から左右サイドに振り分けるダイアゴナルな大きいパスを出したり。

 極めつけは前半15分に右SBの清水が放ったアーリークロスに反応し、中央で前タテに飛び込んだFW菅澤が見事に決めた1点目だ。あんなヨーロッパのチームみたいなダイナミックなフィニッシュをなでしこジャパンが見せるのはいつ以来だろうか?

 かと思えば6失点したオランダ戦のレビューで「淡白にあっさり失点しすぎる。1対1ではカラダを当てて粘りがほしい」と書いたが、本節では試合の随所でオランダ戦ではなかった粘り強い競り合いを展開する。

 こんなふうに1試合ごとにまるで猫の目のようにスタイルが変わり、前節での修正点を次々に克服して行く。「打てば響く」とはこのことだ。高倉監督もさぞ、やりがいを感じているんじゃないだろうか?

「得点はセットプレイから」の格言通りコーナーキックから失点し同点に追いつかれたが、タイムアップが迫った後半40分には宇津木が2点目を取り突き放す。「サッカーの試合運びはこうやれ」という見本のようなゲームだった。

超攻撃的SBの若い清水にはシビレた

 初戦オランダ戦とくらべアイスランドはフィジカルがそう強くなかったので、選手はやりやすかったのではないだろうか。明らかに格下の相手だった。

 なでしこは一方的にボールを握って相手にチャンスを作らせず、アイスランドはほぼ「ノーチャンス」。オランダのように浮いた鋭いミドルパスでライン裏を狙ってくるような危険な攻撃もなかったし、組みやすい相手だったことは割り引いて考えるべきだ。

 とはいえ、ていねいにパスをつないで最終ラインからビルドアップし、中盤ではボールを動かし揺さぶりをかけ、ポゼッション率を高めるなかで敵の開けた「穴」を狙って行く試合運びは見事だった。

 選手別では、右サイドを激しく上下動する超攻撃的SBの若い清水にはシビレた。タテに走ってボールをもらい、いったん横にはたいたかと思ったらもうゴール前にいる。あのアグレッシブさには口をあんぐりだ(ああいうSBが男子にもほしい)。いっぺんでファンになってしまった。

 また「強さ」がないので評価は保留にしていたMF長谷川にもシャッポを脱いだ。彼女のパスセンスには脱帽した。いままで名前を挙げなくてスミマセン。

「ゴメン」といえば、オランダ戦のレビューで期待のFW陣として列挙しなかった菅澤にも参った。あんな難しい浮き球のアーリークロスをカンタンに決めるなんて。彼女はなでしこジャパンでは珍しく強さがあり非常に積極的だ。同じくスタメン出場した岩渕も随所でドリブルを仕掛け「らしさ」を見せた。FWのスタメン争いは、これでますますおもしろくなったきた。

 一方、ボランチとして待望のスタメン出場を果たした猶本は、1対1の競り合いで地味にカラダを入れて粘り強くデュエルしていた。目立たないが、ああいう粘っこいハードワークの集積こそがチームの「勝負強さ」の元になる。ぜひ今後も続けてほしい。

 この試合で出た修正点といえば、自分を過信し敵にプレスをかけられているのにボールを持ちすぎこね回す点だ。特に最終ラインでそのテのリスキーなプレイは絶対に避けてほしい。

 また1点目が取れポゼッション率で圧倒するなか相手との力の差を楽観したのか、やや試合が間延びした。メンタルの緩みは禁物だ。ラッキーな追加点がなければ引き分けに終わっていたことを厳しく自覚してほしい。

 さて次戦はEURO 2017準優勝のデンマークだ。さらに課題を克服しながら前に進んでほしい。

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【アルガルベ杯】最終ラインの1対1に強さと粘りを 〜なでしこ2-6オランダ

2018-03-02 16:27:39 | サッカー日本代表
フリーでシュートを打たれすぎる

 E-1で露呈した消極性は払拭できた。だがまた課題がなでしこジャパンに降りかかる。守備の崩壊だ。フィジカルの強いオランダ相手に6失点。失点シーンはどれも「1歩の寄せ」が遅れ、ほぼフリーでシュートを打たれている。男子とちがい、岩渕、田中、横山らいい意味でエゴイスティックな個の強いFWはいる。彼女たちを軸にすれば攻めはなんとかなる。まずは守備の構築が必要だろう。

 立ち上がりからなでしこはアグレッシブで、E-1で見られた消極性は完全にリカバリーできていた。E-1のときのようなムダなバックパスもなく、「前へ」の強い意識が見られた。またパスのボールスピードもE-1時よりかなり速くなっている。ここは収穫だ。

 だがいかんせん、守備に粘りがない。最終ラインでは数的優位を作るどころか、競り合いでのスピード不足と読み、ポジショニングのミスで簡単にシュートを打たれていた。「いるべきとき」に、「いるべきところ」にいられないのだ。

 いやたとえ間に合わなくても、1歩でもカラダを寄せて相手のバランスを崩す、充分なシュート体勢を作らせない。そういう守備の粘りがない。ふところに入り込んでゴリゴリ圧力をかけるような強さがなく、淡白にあっさりとやられていた。

 またE-1のときも散見されたが、「ペナルティエリア外だから、まだシュートは打ってこないだろう」と決めつけ、ボールをキープする敵の選手と距離をあけてしまいカンタンにシュートを打たれるケースがある。「自分たち」にはその距離からシュートを打つ力はないが、「相手は」打ってくるのだ。自分たちの常識と感覚でヤマカンをかけてはいけない。ここは修正点だ。

フィールドを斜めに横切る大きい展開がない


 選手別では、隅田はテクニックがあり、敵にプレスをかけられてもカラダを入れてしっかりボールをキープできる。また左サイドを激しくアップダウンする鮫島の攻め上がりが効いていた。やはり彼女はSBで見たい選手だ。

 中島の豊富な運動量と積極性は相変わらずだし、この日は2トップの一角で起用された櫨もいい選手だ(ただし彼女はFWというよりパッサーだと思うが)

 こんなふうに1人1人を眺めれば見るべきものがあるが、このチームはまだ1+1が2になっていない。0.5や0.6で留まっている。これを2.5や3にしたい。それと大きいのは総体として強さやフィジカルがない点だ。またミドル〜ロングレンジのボールのフィードがほとんどない(これができるのは阪口くらい)。

 基本的にグラウンダーのボールをていねいに転がしてショートパスをつなぐチームなのでないものねだりだが、この日対戦したオランダがフィールドを斜めに横切る大きく正確なサイドチェンジをしていたのと見比べてしまうと「サッカーが小さいなぁ」と感じてしまう。

 もっとも高倉監督は若い選手を積極的に起用し長期計画でチームを作っているのだろうから、その過程であれこれ決めつけるべきではない。E-1と比べれば確実に進歩はしている。今は見守ろう。

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