FW小林悠とCB昌子が芸術弾を決める
最後の最後にやっと決めてくれた。大会第2戦を迎えた日本は消極的だった初戦とは対照的に、イタリアの名将リッピ率いる中国と積極的にタテへボールを入れ合う展開になった。中国の選手はフィジカルは強いが小回りが利かない。ならば日本選手のアジリティを生かす展開になれば、と見ていたが、後半39分、その通り俊敏なFW小林悠がカラダをひねりながらのアクロバチックな先制弾を決める。
続く後半43分には昌子の芸術的なロングシュートまで飛び出し2-0とリード。その後PKからやらずもがなの1点を献上したが、なんとか日本が逃げ切った。さて、いよいよ男女アベック優勝が現実味を帯びてきたーー。
日本の立ち上がりのシステムは4-1-4-1。GKは東口順昭、最終ラインは右SBにCBが本職の植田直通をコンバートし、CBは昌子源と三浦弦太、左SBは山本脩斗。中盤はアンカーに今野泰幸を置き、右インサイドハーフが大島僚太、左インサイドハーフに倉田秋。最前線のワントップには待望の小林悠を据え、右がスピードスター伊東純也、左に土居聖真という布陣を敷いた。
日本は消極的なバックパスと横パスに明け暮れた初戦の北朝鮮戦と違い、ロングボールを織り交ぜながら「タテへ」「前へ」の意識が強く、勢いがあった。だいぶハリルにネジを巻かれたのだろう。特に待望のスタメンを射止めた右SB植田は、2タッチ以内でぐいぐい前へ縦パスをつけていた。意欲的だ。
グラウンダーのショートパスをつなぐ展開にならないので「日本標準」の前線の選手は違和感があるかもしれないが、これでいい(理由は
この記事を参照のこと)。短く、弱いパスばかりでチャレンジがなかった初戦とくらべはるかにマシだ。そんなわけで日本はまったくポゼッションなどするつもりがないのに(笑)、前半は結果的に60%の支配率に。ただし途中から中国にペースを握られ、一進一退の攻防が続いた。
小林が前半だけで3度のヘディングシュートを外す
3-4-3の中国はあまりコンパクトでなく結構スペースをくれる。だがここぞの場面ではファールもどきのチャージで防がれ、日本はなかなか試合を決められない。なかでもFW小林が前半だけで3度、決定的なヘディングシュートを外したときには思わずバンザイしそうになった。
だがその小林がどん詰まりの後半39分にやってくれた。中央で倉田がドリブルし、前に張る小林へ縦パスを入れる。ゴールを背にして受けた小林がこのボールを右足インサイドで見事なフリック。ゴール前にいた途中出場のFW川又堅碁に渡す。
川又は左足でシュートするが、このボールが再び小林にこぼれてくるのだからたまらない。受けた小林の一発目のシュートはGK正面を突いたが、なんと彼はそのリバウンドをカラダをひねりながら反転して無理な体勢のままゴールに叩き込んだ。まるで忍者のような動きだった。
実はこのゴールには、小林の抜け目ない「仕込み」があった。まずフリックで川又にボールを渡したあと、小林は足を止めずに右前のスペース深くへとさらに侵入。彼のこの献身的な動きが川又のシュートのこぼれ球を呼び込み、自身の決定的なシュートチャンスを作り出した。つまり小林は結果的にフリックで川又とワンツーを咬ましてシュートしたわけだ。
そして続く後半43分には、CB昌子が代表初ゴールになる40メートルのロングシュートを叩き込み2-0。最後の最後でド派手なゴールショーを演出した。
PKで失った1点はまるで余計だ
ただし手放しでは喜べない。PKで献上した1点はまったくやる必要のない点だった。
最後のアディショナルタイム。中盤にいた今野が右前へボールを出せる局面であるにもかかわらず、(2-0で逃げ切るための時間稼ぎの狙いで)並んでいたSB山本に中途半端な横パスを出したのが始まりだった。
ここに手負いの中国からプレスをかけられ、圧迫を受けた日本は結局GK東口までボールを戻したあげく、自陣で中国に競り合いにされてペナルティエリアに侵入されPKを取られた。
今野はうまく時間を使おうしたのだろうが、安易な横パスは致命傷になる。結果的に日本は敵のプレスを受けて窮屈な形でボールキープしようとしてしまい、自陣でボールロストした末にPKにされた。ああいうミスは絶対に避けたい。
一方、この日先発したMF大島は前半27分、シュートした瞬間に自分で足をひねって負傷し退場。井手口と交代し、チームは貴重な交代ワクをみすみすひとつ潰した。
世間で大島は「テクニシャン」などと持て囃されているが、相変わらずパスが致命的に弱く、しかも中途半端なショートパスばかりを好む傾向がある。チマチマした「小さいサッカー」が大好きな日本が生んだ「筋悪」な選手だ。大島や香川のような10番タイプの選手ばかりが評価される日本のサッカー界はまったくガラパゴス化している(このテの「小さいサッカー」が抱える問題点については
この記事を参照のこと)。
大島といえば、A代表デビューした2016年9月のアジア最終予選初戦、UAE戦で致命的な失点のモトを作ったいわくつきの選手である。その試合でも彼はボールスピードのない弱々しいパスを出していたが、まったく進歩していない。しかもこの日の負傷とあわせ、まるで「持ってない」。香川の「持ってなさぐあい」と似た芳香を放っている。
Jリーグという狭い世界しか知らない井の中の蛙のこういう選手は、Jリーグでは「その弱いパスが当たり前」だからいつまでたっても直らないし、自分で自分の欠点に気づけない。まさか彼はヨーロッパの選手のボールスピードを一度も見たことがないのだろうか? ハリルはいいかげん、彼にお付き合いするのは最後にしてほしい。
なぜ植田はいままで起用されなかったのか?
さて最後に選手評をつけておこう。まず良くも悪くもひとり舞台だった小林は、やはり北朝鮮戦で感じた通りCFのほうが持ち味が出る。決定機を3度も逃したのはいただけないが、基礎技術の高さと瞬間的なスピード、俊敏性、ちょっとしたスペースを見つけてそこに潜り込んでいくセンスは買える。残る問題はアジアでなく「世界」に通用するかどうかだ。
1点目の起点になった倉田は試合から消える時間帯もあったが、シュートの意識が高かった。北朝鮮戦を終えた彼はメディアの取材に「絶対ゴールがほしい。結果を残さなければ生き残れない」とコメントしていたが、言葉通り意欲的だった。飛び抜けた「一芸」に秀でた選手ではないが、各種のプレイがアベレージで出来る。複数のポジションをこなすユーティリティー性やハードワークできる強さはハリル好みだろう。
中盤の底を務めた今野は運動量豊富で泥臭いプレイが持ち味だ。ピンチの場面には必ず顔を出し、カラダをぐいぐい入れて逞しく敵と競り合う。まるでフィールドに3人くらい今野がいる感じである。正直、W杯アジア最終予選で彼がエントリーされたときには「この年齢の選手を選ぶのか?」と感じたが、この日の働きでグッとアピール度を増した。不動のレギュラー・長谷部との排他起用でロシアがあるかもしれない。
後半30分に交代出場した川又は、大柄な中国選手に見劣りしないフィジカルでポストプレイをこなした。あの高さと強さは、このチームではDF植田と並び1、2を争うだろう。小林のあげた先制点にも絡んでいる。結果を出せなかった前回大会とくらべ、やはりひと回り成長している。「ここぞ」の場面でややパニックになるきらいはあるが、アグレッシブでワイルドな素材としての魅力は一級品だ。あとは身体能力だけでなく、さらに基礎技術を身につけてほしい。
対中国の高さ対策で右SBとして起用された植田は、破綻なく「異国のポジション」をこなしていた。初戦に出場した室屋よりはるかに安定感があった。チャンスになれば機敏にオーバーラップする攻撃センスもある。少ないタッチ数で縦パスを繰り出し、ハリルの戦術を高度に理解していた。なぜ彼がいままで起用されなかったのか、まったく理解できない。エクセレントだ。
一方、右WGとして初先発した期待の伊東純也は、ほろ苦いデビューになってしまった。なぜかプレイに迷いがあるのだ。なんと「パスをしようか?」などとプレイ選択に悩んでいる。「個の力」を生かした縦へのドリブル突破が得意で思い切りのよさが身上であるはずの彼は、いったい何を弱気になっているのか? 中国レベルのディフェンスなんて、軽いはずじゃないか? ただこれで切ってしまうのはあまりにも惜しい。追試が必要だろう。
さて次は優勝を決める韓国戦だ。
ぶっちぎろう。