すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【サッカー日本代表】9月のカンボジア戦を「有効活用」する6つの秘策とは?

2015-08-30 13:18:09 | サッカー戦術論
敵は5バックでリトリートしてくる

 ハリルジャパンは9月3日、ホームにカンボジアを迎え、ロシアW杯・アジア2次予選を戦う。

 さんざん攻めながら引いて守る相手に1点も取れなかった初戦のシンガポール戦、また1勝もできず最下位に沈んだ東アジアカップの記憶も新しい。これまでのところ、ハリルジャパンの対アジア対戦成績はさんざんだ。

 そこでハリルホジッチ監督はアジア諸国を分析し、対策を練っているという。

 例えば当面の敵であるカンボジアは、ハリルによれば「引いて守ってカウンター狙いでくる。おそらく5バックだろう。そのためトレーニングでもDFを5人置いてシミュレーションし、相手の低いラインをどう崩すか考えている」。

 つまり9月3日のカンボジア戦は、初戦のシンガポール戦とまったく同じ展開になるわけだ。そもそも3バックや4バックでなく5バックを選択している時点で、「低く構えて全員で守るぞ」という意図が読み取れる。

 とすれば日本はどう戦えばいいのだろうか?

わざと攻めさせてカウンターで仕留める

 カンボジアは、あのシンガポールに4点取られて負けている相手だ。ぶっちゃけ、かなり弱い。したがって敵のリトリート対策を講じてただ勝つだけでは、得られるものは少ない。

 もちろんド本番の予選だから勝つことは最優先課題だが、ここはW杯本大会をにらみ、2次予選をその練習台として「有効活用」したい。つまり少しでも本大会の予行演習になるような戦い方をしたい。

 例えば点差や残り時間によっては、日本もブロックを意図的に低く構える時間帯を作る。で、敵を前におびき出してわざと攻めさせ、これで敵陣内にスペースを作ってからカウンターで仕留める。

 すなわちボールを奪ったら、グラウンダーの強くて速いタテ方向へのクサビを突き刺す。同時に選手は2タッチ縛りで敵に守備体形を整える時間を与えない。第3の動きも活発に入れる。

 これなら引き込んで自陣のスペースを消してくるであろうカンボジア相手でも、タテに速い攻撃の予行演習ができる。また押し込んでくる相手に対し、プレスをかける練習にもなる。ただ勝つだけでなく、W杯本大会を想定した実戦トレーニングになる。

 こんなふうに試合ごとに特定のテーマを持ち、「それが何%実現できたか?」を考えながらプレイすれば進歩も速い。

点差や時間帯を見て原口や遠藤、米倉ら新戦力をテストする

「おいおい。わざと攻めさせるとか予行演習とか、予選本番でそんな悠長なこといってていいのか?」と思う向きもあるだろう。

 だが繰り返しになるが、相手はあのシンガポールに4点取られて負けたチームである。「練習相手」としては弱すぎて強化にならないし、そんな相手にただ勝つだけでは収穫が少ない。であれば自チームに「あえて負荷をかける」ことも必要だろう。

 そう考えれば、これまた点差や時間帯によっては、新戦力を大胆に投入し実戦に慣れさせることもありうべしだ。

 例えばレギュラーの海外組でスタメンを立ち上げ、まず大量リードを稼ぐ。そのうえで原口元気(ヘルタ・ベルリン)や遠藤航(湘南ベルマーレ)、米倉恒貴(ガンバ大阪)など、まだ予選のド本番でのプレイ時間が少ない、または未経験の選手たちを投入するテもあるだろう。

サイドからクロスを入れる形を完成させろ

 もうひとつ、カンボジア戦で大きなテーマにしてほしい案件がある。それはサイド攻撃への取り組みだ。同じように引いてくる相手に対し、シンガポール戦の前半みたいにまた中央突破一辺倒になるのでは「どれだけ学んでないんだ?」って話になる。

 それでなくてもハリルジャパンは、サイドからクロスを入れるフィニッシュが極端に少ない。そもそも選手の頭の中にその発想自体がないフシがある。

 これはある意味ザックジャパンから受け継いだ負の遺産であり、致命的な欠点だ。そこでカンボジア戦では、サイドからの崩しが何%まで構築できるか? これが大きなチェックポイントになる。

 今回はハリルによれば戦術練習しかしないという話だが、それならサイドからクロスを入れる形を練習で徹底させてほしい。カンボジア戦はそのための「守備者を付けたパターン練習だ」と思うくらいでいい。

 厳密にいえば、現状の手駒を考えるとまず質の高いクロッサーを育てるところからやる必要があるが、それではワールドカップ本番にとても間に合わない。付け焼き刃でもやるしかない。

 また相手がカンボジアなら高さで負けることは必ずしもないと思うが、単に頭に合わせるハイクロスだけでなく、相手の最終ラインとGKの間を狙うグラウンダーの速いラストパスを織り交ぜるなど、クロスのバリエーションにも工夫がほしい。

片サイドに敵を引きつけ囮にしてサイドチェンジを

 また引いた相手を攻めるにはサイドチェンジも有効だ。例えば一方のサイドに複数の敵の選手を引きつけておいて囮にし、相手ブロックのバランスを崩させた上で、一発のロングボールでサイドチェンジする。

 で、サイドチェンジのボールを入れたら、敵がポジショニングを修正する時間を与えず、なるべく手数をかけずに速く攻める。5バックでリトリートし真ん中を固めてくる相手には、こうした左右への揺さぶりもカギになる。

 このほか敵の引きこもり対策として有効なのは、積極的にミドルシュートを打つことだ。フリーでシュートを打たれてはリスキーだから、守備者はプレスをかけようと前に出てくる。つまり敵をおびき出すことができる。

 たとえゴール前に相手が密集していてシュートが直接入らなくても、シュートのリバウンドはどこへ飛ぶかわからない。つまり何が起こるかわからない。すなわち敵はそれだけ読みが効きにくく、シュートのセカンドボールを拾って攻めれば有効打になりやすい。

 またゴール前でドリブルを有効に使うのもいい。

 守備者があせり、足さえ出して引っ掛けてくれれば、バイタル近くでファウルをもらえる。ハリルが27日の記者会見で語っていた「インテリジェンス」である。とすればキーマンになるのは、ドリブルが得意な宇佐美や原口あたりかもしれない。

 アジア2次予選初戦のシンガポール戦で、1点も取れずに迎えるカンボジア戦。上にあげた6つの秘策でぜひとも大量得点し、ロシアへの扉をこじ開けてほしい。

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【サッカー日本代表・メンバー発表】ハリルは宇佐美、永井と心中するつもりだ

2015-08-28 12:42:55 | サッカー日本代表
飛び抜けた能力と、飛び抜けた「穴」がある2人

 9月3日(カンボジア戦)と8日(アフガニスタン戦)に向けたワールドカップ・アジア2次予選のメンバーが27日、発表された。メンバー表は文末に掲載した。本稿では記者会見のインターネット・ライブ配信を見て、会見で語ったハリルホジッチ監督のコメントをもとに、彼が考える日本代表チームの「ツボ」を考察してみる。

 まず選手選考に当たり、ハリルが特によく使う言葉はフィジカル(スピード&強さ)と、戦う強い気持ちだ。技術的に甘さのある永井を選び続けている点から考えて、ハリルは技術よりむしろフィジカルとメンタルを重視している印象がある。また次のワールドカップを考え、年齢にも特に留意している。そのため、おそらくFWの豊田陽平と大久保嘉人は今後も選ばれる可能性が低い。

 ただしハリルは、身長がありフィジカル的に強いフォワードを強く求めている。ゆえに過去何度も川又が浮上したが、彼は試合で結果を出せず、決定的な存在になれていない。チームにぽっかり空いたこのフォワード像の穴はハリルジャパンにとってハマらない最後のパズルのワンピースであり、逆にいえば身長が高くフィジカルの強い若いフォワードにとってはチャンスともいえる。

ハリルは永井を自分で育てるつもりでいる

 さてハリル就任から初めの数試合の選手起用を見ると、前回ワールドカップに出たザックとちがう色を出そうと彼は強く意識し、腐心していた。「前のヤツとオレはちがうぞ」とアピールしている印象があった。だがハリルはやはりザック同様、本田と香川、岡崎がチームの核になると考えている。

 一方、宇佐美にかけるハリルの期待も変わらず高い。もはや情熱的ともいえるだろう。これについては宇佐美が今後修正すべき点、すなわちオフ・ザ・ボールの動きと運動量・スタミナ不足、また苦手な守備面についてハリルはどう考えているのか? 聞いてみたい気がする。特に宇佐美を今のポジションで使いながら、ハリルが考えるハイプレスが機能すると考えているのかどうか、考えを聞いてみたい。

 また永井については、ハリルは彼を自分の手で育てるつもりでいるようだ。会見では東アジアカップでのパフォーマンスについて「疲れ」を指摘したが、永井のスピードとファイティング・スピリットに対するハリルの熱い思いは揺るぎない。ハリルは今後も決して彼を外さないだろう。

どこからプレスをかけるのか?

 山口蛍については、気持ちが前に出すぎるあまりゾーンを無視してスーッと前へ出てプレスに行ってしまう点について「しっかり指導したい」と語っていた。歴代の日本代表にとって、「どこからプレスをかけるのか?」は永遠のテーマだ。ジーコ・ジャパン時の中田と福西の論争が懐かしく思い出される(懐かしんでいては困るのだが)。歴代、日本代表は、(岡田ジャパンを除き)いつもこの点があいまいなまま本番に突入していた。ハリルにはきっちり仕切ってもらいたい。

 他方、左SBとしては東アジアカップに引き続き、ガンバ大阪の米倉が入った。同カップでの躍動が認められたようだ。あの中国戦1試合だけでのインパクトでいえばW酒井を上回っていたように個人的には思えたので、選ばれて本当によかったと感じた。

「活躍すれば認められる」という、このような信賞必罰は組織にとって重要だ。ただし遠藤航を「中盤の選手だ」と言ったり、所属チームで右SBの米倉をあくまで「左SBの候補だ」と念押ししていたのは、頑固なハリルらしいなと思った。

ペナルティエリア内でファウルをもらう「ずる賢さ」を

 選手選考以外では、ペナルティエリア内でファウルをもらうマリーシア(ポルトガル語で「ずる賢さ」)が必要だとも強調していた。つまり「演技」、もしくはファウルの「誘い方」だ。ちなみにハリルは「マリーシア」という言葉ではなく「インテリジェンス」と表現したが、わかりやすくいえば大同小異だ。

 日本でマリーシアなる言葉を初めて使ったのは、私が知る限り、当時ジュビロ磐田にいたドゥンガである。記者会見で「日本代表に足りないものは何か?」と記者に聞かれて、ドゥンガは「マリーシアだ」と発言した。記者としてその席にいた私はひどく意表を突かれたのでよく覚えている。てっきり「トラップの精度だ」うんぬん、などと言うと思ったからだ。

 それ以降、マリーシアの必要性を語った外国人は枚挙にいとまがない。かつて日本代表監督だったフィリップ・トルシエもディフェンダーが備えるべきマリーシアとして、「審判に見えないよう、マークする相手のユニフォームをなぜ引っ張らないんだ?」と口を酸っぱくして言っていた。そして今、ハリルがまた同じことを強調している。

「正々堂々」をモットーとする日本人にはもともとないメンタリティであり、個人的には相変わらず非常に違和感がある。勝負より芸術点を優先してしまう「左翼の観戦者」である私は、「そこ」で争ってどうするんだ? と思ってしまう。

 だが勝つか負けるか、スレスレの勝負どころではやはり必要とされるのだろう。特に日本がワールドカップの決勝トーナメントの常連国になるためには避けて通れない道だ。

 このほか会見を見て断片的に感じたことを、以下3点だけあげておく。

1. 本田をトップ下で使う気はない。

2. 所属チームでは2トップの一角で出場している武藤嘉紀については、センターで使うことも考えているフシがある。

3. 興梠は大迫の控えであり、レギュラーとは考えていない。おそらく期待度もそう高くない。

 このほか記者会見の言動からうかがえたハリル自身のユニークなサッカー観や、日本サッカー協会の致命的なダークサイドについて、また浦和レッズの武藤雄樹などリストから漏れたが惜しい選手は「ここをこう直せば必ず選ばれる」など、いくつかのネタを近日中に公開する予定だ。

 では、乞うご期待。


【代表メンバー】

GK
西川周作(浦和レッズ)
東口順昭(ガンバ大阪)
六反勇治(ベガルタ仙台)

DF
吉田麻也(サウサンプトン)
長友佑都(インテル)
槙野智章(浦和レッズ)
森重真人(FC東京)
丹羽大輝(ガンバ大阪)
酒井宏樹(ハノーファー96)
酒井高徳(ハンブルガーSV)
米倉恒貴(ガンバ大阪)

MF
長谷部誠(フランクフルト)
香川真司(ドルトムント)
山口蛍(セレッソ大阪)
柴崎岳(鹿島アントラーズ)
原口元気(ヘルタ・ベルリン)
遠藤航(湘南ベルマーレ)

FW
岡崎慎司(レスター・シティ)
本田圭佑(ACミラン)
宇佐美貴史(ガンバ大阪)
武藤嘉紀(マインツ05)
永井謙佑(名古屋グランパス)
興梠慎三(浦和レッズ)

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【サッカ−日本代表】敗因の分析は「言い訳」とは違う

2015-08-25 08:00:33 | サッカー日本代表
感情的になり怒る相手に「客観的な分析」を語っても意味がない

 ハリルホジッチ監督が、アルジェリアの代表監督を務めていた時代の記者会見をYoutubeで見た。彼はスライドを使いながら、記者団にこう説明していた。

「今のアルジェリア代表のボール奪取位置は、ディフェンディング・サードにおいてが全体の42%を占める。そうではなく、もっと前からプレスをかけてボールを奪いたい。そういうスタイルにチームを変えたい」

 明快な分析だ。

 こういう客観的な事実に基づく緻密な分析を聞かせてくれれば、誰もが納得するだろう。

強行日程は客観的事実であり改善すべきだがーー

 ただしシチュエーションがちがえば、状況は一変する。

 ハリルは個が強く、自分の考えをはっきり主張する。結果、(日本人の感覚としては)少し喋りすぎる。

 例えば今回の東アジアカップでも、「強行日程だった」、「選手はJリーグの疲れがたまりフィジカルが十分でなかった」、「35歳の選手を連れてくれば無難だとわかっていたが、今回はあえて若手を試した」などと敗因を語っていた。

 冒頭に挙げた「ディフェンディング・サードでのボール奪取率が全体の42%だ」という件と同様、彼の言うことはすべて客観的事実である。

 だがあくまで敗軍の将は黙して語らず、監督がひとこと「すべて私の責任です」と言うのを潔いと考える日本人から見れば、「ヤツは言い訳ばかりだ」と受け取られてしまう。

 皮肉な言い方をすれば、日本人は「負けた、くやしい」という一時の劇的な感情に引きずられ、冷静で論理的な思考ができなくなる。で、「日程の話なんかクソくらえだ!」と叫び、「もしスケジューリングやフィジカルに不備があるなら努力して改善し、今後に生かそう」という理性的な話にならない。

 では負けた責任を追及する彼らの感情を満足させるには?

 おおげさでなく、血しぶきをあげながらその場で「腹を切る」しかないのだ。負けた要因をいくら客観的に説明されてもその教訓を次に生かそうとせず、「言い訳だ」とネガティヴにしか受け取らないのだから仕方ない。

批判を恐れて長期的な視点を失うな

 かくて日本代表は未来永劫、そういう近視眼的な批判を恐れて目先の1勝に囚われ続け、ベストメンバーという名の「数年後(W杯本番)には金属疲労であちこちガタがくるはずの老馬」に頼り続ける。

 で、過去代表がそうだったように「練習試合」では勝ち続けるが、肝心のワールドカップのド本番ではサッパリ勝てない魔のサイクルにハマる。練習試合でさえ負けを怖がり新しい戦術的トライがなく、常に名ばかりのベストメンバーにこだわるがゆえ次の世代も育たなくなる。

 これでは日本がワールドカップの決勝トーナメント「常連国」になるのに100年かかるだろう。

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【東アジア杯総括 その8】未遂に終わった「中国戦・2トップ」計画の謎

2015-08-19 11:00:32 | サッカー日本代表
ハリルは本当に3つのシステム、3つのメンバー表を用意していた

 8月8日に書いた本ブログの記事「すべてはシナリオ通りに進んでいる」で、私は(1)今大会、ハリルは3つのシステムと、3つのメンバー構成を用意している。ゆえに(2)最後の中国戦はシステムやメンバーを変え、2トップもありえるーーと推理した。どうやらこのシナリオは事実だったらしい。

 この件に関し、サンスポが8月17日の紙面で、代表チーム関係者に裏取り取材をしている。それによると、(1)今大会、システムは4-2-3-1と4-3-3、4-4-2の3つを用意していた、(2)中国戦は4-4-2を試すはずだったが、予定外の1分け1敗に追い込まれたハリルはプラン変更を余儀なくされ、中国戦でも4-2-3-1を採用したーーということらしい。

 確かに中国戦で負けていれば、監督解任を煽るムードは激しくなっていただろう。ゆえに中国戦はハリルにとって「絶対に負けられない戦い」になった。だが解せないのは、4-2-3-1なら勝てる確率が高く、4-4-2だと負ける公算が高い、と判断したらしい点だ。

 確かにハリル政権下、試合で4-4-2は使ってない。だがまさか4-4-2は練習でも試したことがなく、そのシステムを中国戦ではぶっつけ本番でやろうと計画していたのだろうか?

2トップにだれを使う予定だったのか?

 さらに最も興味深いのは、中国戦で2トップにだれを使う予定だったのか? である。実際の中国戦ではワントップが川又だった。ゆえに彼はスタメン確定だろう。

 とすればポストプレイが得意な興梠と彼を組み合わせ、川又を苦手なポストから解放することで自由にプレイさせ、川又の覚醒を狙ったのかもしれない。

 あるいはハリルがイチ押しのスピードのある永井をトップで使い、バックライン裏のスペースを狙わせようと考えたか? それとも若い浅野を最前線で使い、経験を積ませようとしたのだろうか?

 もしくは4-4-2となれば(ボランチは2人だろうから)ハリル政権下ではトップ下を務める武藤のポジションがなくなる。とすれば彼の得点力を生かし、トップで使おうとしたのかもしれない。

宇佐美を2トップの一角で使う計画だった?

 いや、ひょっとしたら宇佐美を2トップの一角で使い、彼の守備の負担を軽くすることで点を取る作業に専念させればどう機能するか? これを見ようとしたのではないか? 宇佐美が左SHで今ひとつ力を発揮できない問題は、ハリルジャパンの深刻な足かせになっている。彼には破壊的な攻撃力があるだけに、これは重大案件だ。

 もし仮に「宇佐美2トップ案」が当たっていれば、今後の代表チームを占う重要な意味を持つトライであるだけに、ぜひ実行すべきだった。もし仮に中国戦で最悪負けても、2トップに手応えが得られれば今後につながる。

(あえていえば)たかが東アジアカップの目先の1勝より、将来のロシア・ワールドカップ本大会での1勝につながるチャレンジのほうがはるかに意味がある。

もっとロングスパンでものを見る必要があるのではないか?

 そう考えれば代表強化の足を引っ張っているのは、目先の1勝を求める世間の近視眼的な空気だ。負けるとメディアが騒ぎスポンサーが困り、と大人の事情が続出するため、監督は意味のない目前の1勝に囚われる。で、長期的なチーム強化につながらない。

 うろ覚えだがそのために加茂ジャパンでは「現状での最強チームを組む」と宣言せざるをえなくなり、ザックも海外組完全固定で目先の1勝にこだわった。結果、「練習試合」でザックジャパンは「最強」だったが、ワールドカップのド本番では散々だった。主客転倒も甚だしい。

 すべてはワールドカップの本大会で勝つためにあるのだ。そのために長期的視野に立ち若手をテスト登板させ、また新しい戦術にチャレンジして(負けながら)「次へのステップ」を目ざす。チーム力を蓄える。ワールドカップで勝つためなら、目先の1勝にはこだわらない。価値ある「実験」をして負けることもありうべし。

 そんなロングスパンでものを見る必要があるのではないだろうか?

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【東アジア杯総括 その7】「タテに速いサッカー」の虚像と実像

2015-08-18 11:36:41 | サッカー日本代表
言葉の解釈をめぐる監督と選手の行き違い

 東アジアカップは、今にして振り返れば監督と選手のコミュニケーション・ギャップを埋めるための大会だった。例えば非常に誤解されている「タテに速いサッカー」の真意である。

 おそらくハリルは監督就任に当たり、あらかじめザックジャパンの映像を分析し「もっとタテに速く仕掛ける意識付けをすべきだ」と考えたのだろう。

 というのもザックジャパンは、複数のショートパスを横につないで前が詰まるとバックパスするのが常だった。そしてひんぱんにGKまでボールを戻し、今度はバックラインでじっくりボールを回す。で、機を見てグラウンダーのショートパスを使い、最終ラインから丁寧にビルドアップし遅攻を仕掛けた。

 だがこうした遅い攻めは、相手に守備の態勢を立て直す時間を十分に与える。いわば強い者が弱者を相手に仕掛ける「王者のサッカー」だ。しかしワールドカップでは立場がまったく逆になる。例えばヨーロッパや南米の強豪国と日本が戦うとき、ただでさえ格上の彼らに「さあ、守備体型をじっくり整えてくださいよ」などと余裕を与えていては勝てるチャンスがない。

 日本のような格下がヨーロッパや南米の強豪とやるときは速攻、しかもボール奪取地点がより相手ゴールに近いショートカウンターが有効だ。で、ハリルは「タテに速く」と言い出した。

自分の頭で考えるサッカー脳がない

 ここで選手が「自分の頭で考えるサッカー脳」をもっていれば、「なるほど。まずファーストチョイスはタテに通すことだ。そしてもしタテが空いてなければ、横か斜め、またはサイドチェンジを入れよう」と常識的に監督の指示を解釈する。

 サッカーでは、なんでも同じだ。例えばフィニッシュの形にしろ、まずど真ん中が空いていれば中央から攻めるのが一番速い。ゆえに真ん中がファーストチョイスだ。で、中央が空いてなければ、セカンドベストのサイドを使った攻め方をする。こういう「湯加減」は、選手が自分の頭で考えるべきものだ。

 ところが生真面目で応用力のない日本人選手は、監督が「タテに速く」といえば「どんな局面であろうと」常に無理やりタテを狙おうとする。愚直に指示「だけ」を守ろうとする。つまりこの時点で監督のイメージを選手が正確に読み取っていない。

「ケースバイケース」という当たり前の結論

 で、今回の東アジアカップでは、合計3試合かけてやっとこのコミュニケーション・ギャップが修正された。

「そうか。タテが無理なら、横につないでもいいんだ」

 そう選手が理解した。

 ハリルにしてみれば「そんなことは初めから自分の頭で考えろよ」といいたいだろう。だが彼は日本人のメンタリティを理解してない。悲しいかな、自分の頭で考え、自分で責任を一身に引き取り「最終決定」を下す自決型の行動を取らない責任回避型思考の日本人は、こんなふうに一歩一歩進めていくしかない。

 そんなわけで最終戦の中国戦では、かくてタテへの速さとポゼッションが共存した。例えば前半40分、槙野が出したタテへの速く長いスルーパスに抜け出した米倉が折り返し、武藤がゴールするというタテに速いパターンが登場した。

 かと思えばボランチの山口蛍と遠藤航が必要な場面では中盤でボールを落ち着かせ、前へ急がなかった。つまり「タテに速く」はケースバイケースなんだ、と3戦目にしてやっと選手たちは「当たり前のこと」に気がついた。

ハリルは時間との戦いに勝てるか?

 だが難題はまだまだ続く。例えばどのゾーンからプレスのスイッチを入れるのか? またそのとき後ろの選手はスイッチャーに連動し、どんなポジショニングを取るのがベストか? など選手全員が共通理解をもっておくべき要素は無限にある。しかしアジア最終予選まで、あと1年しかない。

 300ページある教科書のうち、いまハリルがいったい何ページ目を開いて講義しているのか知る由もないが、「このペースじゃ、10年かかるんじゃないの?」と皮肉のひとつも言いたくなる。

 ハリルは時間との戦いに勝てるか? 

 はたして納期までに完成品をお披露目できるのか? 

 プロジェクトの成否を分けるのは、いつの世も「タイム・イズ・マネー」である。

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【東アジア杯総括 その6】W杯予選に東アジア杯「出世」組を抜擢する

2015-08-14 23:59:28 | サッカー日本代表
コードネーム「獅子は千尋の谷底に子を落とす」作戦

 新戦力の発掘をかけた東アジアカップで、日本代表はあらためて選手層の薄さを露呈した。数人の新顔が気を吐いたが、このままではロシア・ワールドカップは海外組頼りにならざるをえない。結局、ブラジルW杯の二の舞だ。そこで予選から武藤、遠藤航、米倉ら新顔を大胆に抜擢し、新陳代謝を図りたい。

 東アジアカップで代表レギュラー取りに新しく名乗りを上げたのは、武藤雄樹(浦和レッズ)と遠藤航(湘南ベルマーレ)、米倉恒貴(ガンバ大阪)の3人だけ。倉田秋(同)や藤田直之(サガン鳥栖)もおもしろい存在だが、バックアッパーだろう。

 このほかボランチの山口蛍(セレッソ大阪)とCBの森重真人(FC東京)も合格点だったが、彼らはすでに実績があり新戦力とはいえない。

 他方、能力はありながら期待を大きく裏切ったのは、宇佐美貴史(ガンバ大阪)と柴崎岳(鹿島アントラーズ)だ。彼らのデキは不合格とまではいえないが、ポジション的にもゴールにからむ働きができなかったのは致命的だ。

 また正確なクロスが売りの太田宏介(FC東京)、スピードと思い切りのよさの浅野拓磨(サンフレッチェ広島)は、十分な出場時間が与えられず残念だった。2人とも潜在能力は高いだけに、今後も腕を磨いてレギュラー取りに参戦してほしい。

9月のW杯アジア2次予選のスタメンは?

 ハリルジャパンは9月から、またW杯アジア2次予選の連戦が続く。カンボジア戦(3日)とアフガニスタン戦(8日)だ。ではスタメンはどうなるのか? 「予想」ではなく強い希望を提示しておく。

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              ◯宇佐美

      ◯武藤嘉紀   ◯武藤雄樹   ◯浅野拓磨

           ◯山口螢   ◯遠藤航

      ◯太田   ◯槙野   ◯森重  ◯米倉恒貴

               ◯川島

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 大胆だが、考え方としては東アジアカップに続くテストである。ハリルは「準備期間があと3日あれば3試合とも勝てた」というのだから、では実際にやってもらう。大サービスで左SHに武藤嘉紀(マインツ)を入れてあるんだから文句ないだろう。宇佐美のワントップは「強制」だ(笑)

海外組で圧勝してしまっては問題点が潜在化する

 そもそもあのシンガポールに4点取られて負けているカンボジアや、シリアに6点も取られて負けたアフガニスタンに本田や香川、岡崎ら「お偉いさん」をスタメンで使い圧勝してしまっては、肝心の問題点が覆い隠される。「なんだ、余裕じゃん」で終わってしまう。東アジアカップの教訓が何も生きない。

 で、相変わらず海外組の長期固定が定着してしまう。だがブラジル・ワールドカップの本番で勝てなかったメンバーで、アジア2次予選を当たり前のように勝って何の意味があるのか? 相手が弱すぎて強化にならないし、新戦力の底上げにも役立たない。で、結局、前回の海外組でまたロシアの本大会を戦うのでは、ブラジルの惨劇の繰り返しである。何の進歩もない。

 そもそもアジア最終予選まで、もう1年しかないのだ。日本はあのシンガポールに1点も取れなかったのだから、冗談抜きで予選突破自体怪しい。

 なんとかしてさらなる「新しい井戸」を掘り、戦力の底上げを図る必要がある。

 ゆえにここは東アジアカップで結果を出した武藤雄樹と遠藤航、米倉恒貴をアジア2次予選で抜擢し、「結果を出せば認められるんだ!」とモチベーションを上げてもらう。そうすることで、いまだ潜在している新戦力たちに門戸が開いていることを指し示す狙いもある。

機能しない宇佐美の起用法をド本番で探る

 冒頭にあげた布陣の狙いは、まず東アジアカップ組の武藤雄樹と遠藤、米倉がド本番のワールドカップ予選で引き続き安定して力を発揮できるかどうか? そして機能しない宇佐美をワントップで使い守備の負担を軽くし、W杯本大会までに彼を生かすシステムを開拓する。

 第3に、代表ではまだ未知数の太田と浅野を覚醒させることだ。彼らは出場時間さえ与えれば必ず芽を出す。いや、逆にそうでなければロシアでの勝利はない。

 そして第4には、ハリルジャパンの核になるべき期待の新海外組、武藤嘉紀が新代表チームでどこまで機能するか? 本来なら(武藤嘉紀の件を除き)すべて東アジアカップで試しておきたかった要素ばかりだ。だがハリルは川又と永井ばかりに時間を割いてテストのチャンスをフイにした。しかし終わったことを嘆いても始まらない。

 で、まずはこのテスト・システムでスタメンを立ち上げ、試合経過を見る。そして各選手の見極めがつくか、または0-0のまま点が取れない場合は本田や香川、岡崎らを順次、投入して勝ちに行く。万一、海外組でも圧勝できなかったら、もうワールドカップは辞退したほうがいい。

 名づけて「獅子は千尋の谷底に子を落とす」作戦、発動だ。

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【東アジア杯総括 その5】ハリルは柔軟な監督か? それとも頑迷な独裁者か?

2015-08-13 23:00:00 | サッカー日本代表
選手が機能しない、だがポシションや使い方は完全固定だ

「ハリルは特定の戦い方に拘泥しない。戦況に応じて柔軟に策を打つ監督だ」

 こんな声がある。主にブラジル・ワールドカップでハリルが率いたアルジェリア代表での戦い方を根拠としている。だが本当にそうだろうか?

 確かにチーム戦術に関してはその通りだ。現に東アジアカップでも、北朝鮮戦はハイプレス&ショートカウンター、韓国戦はリトリートからのロングカウンター、最後の中国戦ではポゼッション・スタイルとタテへの速さの融合にトライした。

「チームとしてどう戦うか?」に関しては確かにバリエーション豊富だ。1試合の中で戦況に応じてシステムを変えたり、それに応じた選手交代を行う。例えばハリルが好むシステムは4-2-3-1だ。だが試合の流れを見て4-3-3に変え、インサイドハーフを攻撃的に使ったり、アンカーにバイタルを見させたりする。チーム戦術についてはかなり柔軟だといえる。

 だが一方、各ポジションに置くそれぞれの選手の「使い方」については、頑固そのもので完全固定だ。あらかじめハリルが描いた青写真通りの起用法にこだわり、絶対にポリシーを曲げようとしない。「この選手は◯◯な使い方をするつもりだったが、機能しないぞ。それなら、ポジションを変えてこういう使い方に変えよう」という柔軟さが、まったくない。

鋳型にハメ込まれた川又が輝けないワケ

 具体的に説明しよう。

 特に顕著なのが川又と永井、宇佐美の起用法だ。今大会、彼らはまったく機能しなかった。だがハリルは自分があらかじめ作っておいた鋳型にこだわり、途中で修正せず同じ使い方を続けた。川又はワントップ、永井は右SH、宇佐美は左SHでしか使わなかった。

 ではハリルの「鋳型」とはいったい何か?

 まず大前提としてハリルは4-2-3-1または4-3-3を基本にしている。集めた選手にそのシステムが向く向かないに関係なく、両システムを使い続ける。これはフィロソフィ型(過去記事参照)の監督ならではだ。自分の哲学を優先する。ゆえにまずシステムや戦術ありきで、選手の特性に合わせて鋳型を変えることはない。

 加えて前々回の記事で解説した通り、ハリルにとってのワントップは「ポストプレイヤーであること」が戦術的な絶対条件である。ゆえにハリルは川又に、彼の苦手なポストプレイを強要し続けている。なぜならハリルは、もとから用意してある鋳型に選手をハメ込むタイプだからだ。

 人並みはずれたフィジカル(高さと強さ)で選ばれた川又は、強靭なカラダと高さを生かしたヘディングシュートや自由奔放でワイルドなプレイが身上だ。にもかかわらず窮屈そうに(本来の持ち味でない)ポストを行儀よくこなす川又のプレイぶりは実に痛々しい。彼が本領を発揮できないのは、いつもなら本能でプレイする野獣が「ハリルという檻」の中に幽閉されているからだと容易に想像できる。

川又のヘッドを生かすクロスからのフィニッシュがない

 そもそも川又の高さを生かすなら、サイドからハイクロスを入れるフィニッシュの形をチームの共通理解として持っておくべきだ。だが川又にそんなボールが入った記憶はほとんどない。これでは彼が生きるはずがない。つまりハリルは川又の特徴を生かす形で使ってない。

 技術ではなく川又のフィジカルに惚れて選んでおきながら、いざ本番となるとフィジカルが武器になる起用法をしない。それどころかまさに技術が要求される「ポストプレイをやれ」と自分の鋳型にハメ込む。選手の持ち味とちがう使い方をする。つまり選んだ選手の特徴と、実際の起用法が矛盾しているのだ。

 この点が前回前々回の記事で指摘した「ハリルはフィロソフィ型の監督であるにもかかわらず、リアリズムに徹し切れてない」という問題点だ。

 ハリルの考えるサッカーを実践したいなら、ポストのできない川又やボールコントロールの荒い永井、オフ・ザ・ボールがだめで運動量が少なく守備のできない宇佐美をそもそも(1)選ぶべきでない。逆に彼らを選ぶなら、(2)彼らの武器が生きるような使い方をすべきだ。だがハリルは(1)も(2)も、どちらもやってない。前回の記事で指摘したとおり、完全などっちつかずである。

永井はスピードを生かす起用法をされてない

 永井に関してもまったく同じだ。川又案件と同様、ハリルは永井のフィジカル(スピード)に惹かれて選んでおきながら、そのスピードが生きる形で使ってない。

 もし私が監督で、どうしても永井を使えと川淵サンに強制されたら(いや私ならそもそも選ばないので)、苦肉の策で永井をワントップにする。で、(中国戦の後半に永井が実行したように)前からガンガン、プレスをかけさせる。

 彼のスピードと運動量、身体的強さは驚異的だ。チーターの快速を持つキングコングみたいなものである。敵のバックラインは、悠長に最終ラインでボールを回していられない。永井が寄せるスピードは相手にとって未体験の速さであり、「ここでボールを離せば、寄せに間に合う」という目測を狂わせる。そんな相手に追われたら、簡単にボールを失ってしまう。

 しかも永井に続き、二の矢、三の矢でトップ下が寄せてはパスコースを限定し、ボールサイドのSHがタテを切り、とやれば、強力なハイプレスでボールを前から奪取できる。で、ショートカウンターで敵を蹂躙する戦術が成立する。

 よしんばボールを取れなくても、パスコースを切られて寄せられた相手は苦し紛れで前にロングボールを放り込むしかない。つまり永井を中心とするフォアプレッシャーで、相手は最終ラインから丁寧にビルドアップできなくなる。結果、必然的に攻めが荒くなる。この効果は絶大だ。

ワントップの永井がライン裏を引き裂く

 一方、攻撃面でもメリットは大きい。ワントップの永井の眼前には、広大なバックライン裏のスペースがある。そのスペースめがけ、持ち前のスピードを生かして前に飛び出すプレイができる。ラインで駆け引きし、マーカーと「よーい、ドン」で競争になれば、永井に勝てるヤツなんていない。たちまちGKと1対1になり、おもしろいようにゴールが取れるだろう。

 とすれば裏のスペースを狙うキラーパスが出せる柴崎のような選手も生きてくる。例えば永井に前で精力的にダイアゴナルランをさせ、そこに柴崎がスルーパスを出せばカンタンに裏のスペースを突ける。つまり永井のワントップ起用は複数の選手を生かし、生かされ、「Win-Win」の関係を築くことができる。

 となれば相手のディフェダーは裏のスペースを作るのを怖がり、今度は不用意にラインを上げられなくなる。永井の足を警戒し、ラインを高く保てなくなる。ズルズル下がる。こうなればしめたものだ。今度は逆に、相手の最終ラインと中盤の間にスペースができる。

 つまり「永井をワントップに置く」という戦術によって、バイタルエリアがガラ空きになる。トップ下やSH、前に飛び込んだボランチがこのスペースをうまく使えば、おもしろいように点が取れるだろう。

ハリルは自分との戦いに勝てるか?

 こんなふうにちょっと考えればいくらでも彼らを生かす使い方ができるのに、なぜハリルは策を打たないのか? 繰り返しになるがそれは彼がフィロソフィ型の監督であり、上にあげたような柔軟な起用法はハリルの辞書にないからだ。

 それは無能という意味ではない。

 目の前の現実に合わせ、前述したような修正策を取るのはセレクション型の監督だ。だがハリルにとってサッカーは、自分の内なるフィロソフィを実現するためにある。自分のポリシーにない起用法をするなどまさに「辞書にない」。それで勝っても自己実現できないし、彼の「芸術」は完成しない。

 しかしそれなら内なる芸術作品の完成を目指し、そもそも自分のポリシーに合う選手だけを選ぶべきなのだ。だがそれもできずに、川又や永井、宇佐美のような自分が考えるサッカーのコンセプトからはずれた「規格外」の選手にホレて手を出してしまう。

 繰り返しになるが、ハリルに必要なのは、自分のサッカーに合わない宇佐美を絶対に招集しなかったアギーレがもっているようなリアリズムだ。あるいは逆に、セレクション型の監督のような選手の特性に合わせた柔軟なチーム作りである。さてハリルは自己を抑制し、現状を修正できるか? これは自分自身との戦いだ。

 はたしてハリルは今後のチーム運営で、自分に勝てるか?

 ここが勝負どころである。

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【東アジアカップ・大会総括 その4】ホレた相手に「自分好み」の家を押し付ける自己矛盾

2015-08-12 22:31:19 | サッカー戦術論
哲学は曲げない、だが結婚したい 

自分の哲学は曲げないクセに、鋳型(哲学を実現するための戦術)に合わない選手にホレ込む。で、彼らを選んで自滅する。これがハリルジャパン崩壊のシナリオだ。

 現実に合わせて方法論を柔軟に変え、そのぶん腕によりをかけてセレクトした魅力的な選手に合わせたチーム作り(システムや戦術)を用意するか? それとも自分のフィロソフィに合う選手だけを採用し、冷徹に理想を実現するか? 勝てるサッカーの監督が選ぶ道はこの2つしかない。

 前者はセレクター型、後者はフィロソフィ型だ。(前回の記事参照)

 だがハリルはそのどちらでもない。いや正確に言えばフィロソフィ型だが、惚れっぽくて邪念に惑わされる。自分に勝てない。

 彼はあらかじめ設計図を持っていながら、ショーウィンドウに並んだ自分の青写真に合わない規格外の商品(川又や永井、宇佐美)に惹かれてしまう。予想もしなかった機能のスペックが高いのだ。

「予定外だが、これは買いだ」

 で、つい浮気心を起こし、ホレ込んで注文ボタンを押す。キラキラ光る魅惑の品々に目がくらみ、誘惑に負けて手を出してしまう。リアリズムに徹することができない。

相手の好みを聞かずに家を建てる自己矛盾

 おそらくハリルは一目惚れしやすい愛すべきロマンチストなのだろう。理想を高く掲げるナルシストの芸術家だ。ナルシストであるがゆえに「自分」を持っている。つまり自分が考える理想のサッカー像がある。その理想を実現するためのシステムや戦術も、すでに自分の中にある。ならば、あとはそのコンセプトに合う選手をセレクトするだけだ。

 だがそこで惚れっぽいロマンチストの彼は、思わぬ美人に会ってしまう。いやだれだって自分の価値観(システムや戦術)を粉々に崩壊させてしまうような、個性的な相手に弱いものだ。で、ハリルは自分じゃ想定してなかった彼女の意外な魅力に惹かれ、ついプロポーズしてしまう。自分の理想のマイホーム(システムや戦術)は、すでにもう用意してあるというのにーー。で、その結婚相手を家に連れてくると、彼女は大声で叫ぶのだ。

「なんなの、この家! 私は聞いてないわよ。壁の色が気に食わない!」

 で、彼らの結婚生活はうまく行かない。

 これがいまの日本代表に起こっていることだ。

どの段階で気がつくか? それが分かれ目だ

 すなわち川又や永井のようなワイルドな野獣たちを選んでおきながら、かといって彼らの獣性が生きるやり方をするわけじゃない。ギラギラした猛獣たちに対し、(自分が持っている)難解な哲学や高邁な知性を要求する。

 で、あらかじめ用意してある戦術に選手が合わず、苦労する。

 ハリルジャパンは、このパターンから抜け出せるかどうかがカギだ。

 自分の考えるサッカーに合わないため宇佐美を決して呼ばなかったリアリストのアギーレと、宇佐美に魅了され「結婚生活」が破綻することも厭わずプロポーズしてしまうロマンチストのハリル。自分の哲学をもっている点では同じだが、方法論において2人の監督は好対照だ。

 選んだ美人にマッチする家をあとから建てるか? それともすでに買ってある家に合わない美人はスルーするか?

 ふたつにひとつ。どっちつかずなら、まず勝てない。

 日本とハリルは新婚さんだ。だから結論を出すのはまだ早い。だが銀婚式までは、もちろん待てない。

 どの段階で、どっちつかずから抜け出すのか?

 その頃合いを見て、私は「判断」しようと考えている。

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【東アジアカップ・大会総括 その3】ハリルが選手を本職じゃないポジションで使うのはなぜか?

2015-08-11 15:24:28 | サッカー戦術論
ハリルは自分の鋳型に選手をハメ込むタイプだ

 今大会、ハリルホジッチ監督はまるで何かに取り憑かれたように、選手を所属チームと違うポジションで使い続けた。いやハリルにはもともとその傾向があったが、今大会は徹底していた。例えば武藤のトップ下と遠藤の右SB、米倉の左SB起用である。

 この3つのパターンは当たり、武藤は大会得点王を取った。遠藤は再コンバートされたボランチで早くもチームの軸になり、米倉はアシストするなど大活躍した。後述するが、ハリルは内心してやったりだろう。ほかにも宇佐美や浅野など、本来のポジションとちがう位置で使われている選手は多い。

 いったいなぜか? 謎を解き明かすには、まずハリルをプロファイリングする必要がある。

 おそらくハリルはかなりの自信家であり、同時に(いい意味で)自己顕示欲が強い。で、所属チームにおける選手の使われ方を見て、「なぜ彼をそんな使い方するんだ?」「もしオレなら彼の◯◯な特徴を生かし、このポジションで使うぞ」と考える。(現に遠藤航に関し、ベルマーレとそんなやり取りがあったとの記事を見た)

 で、ハリルは自分の信念や特有の価値観に基づき、代表チームでコンバートを繰り返す。加えて本来のポジションと異なる位置でわざわざ使うことにより、人とちがう自分の個性を強く主張する。つまり「オレ独自の考えはこうだ」と社会に自分をアピールしている。そして議論を吹っかけている。

 自己主張しない日本人には考えられないメンタリティだろう。だが議論を好み、任意の概念を哲学的に突き詰めて考えるのが好きなフランス文化の影響が濃いハリルが、こうした思考をするのは十分にうなずける。「ああ。あのおっさんなら、そうだろうな」という感じがする。ハリルにとってサッカーは哲学なのだ。(現にハリルの行動や思考パターンは、日本のサッカー関係者なら誰でも知っている「あのフランス人」に非常によく似ている)

まず戦術ありきの監督とセレクター型とのちがい

 さて代表監督には2種類しかいない。

 自分の哲学を実現するため(1)あらかじめ用意した鋳型(戦術)を使うフィロソフィ型と、(2)まず能力優先で力のある選手を集め、彼らにマッチし彼らが力を発揮できるようなシステムや戦術をあとから考えるセレクター型ーーの2種類だ。おそらくハリルは典型的な前者だろう。

 彼は(いい意味で)自信家であり、自分の哲学を持っている。で、それを広く社会に向けてアピールしたい。(いい意味での)自己顕示欲が強い。このタイプの監督がチームを作るとき、採用する方法はひとつである。

 まず自分が信奉する戦術とシステムが先にあり、その鋳型にハメ込むようにあとから選手を合わせていく。したがって、(1)その鋳型に合う選手がいないとき、および(2)鋳型には合わないが、非常に能力が高くどうしても使いたい選手がいるときーーには、選手を本来のポジションと違うポジションで使うことになる。こう考えればすべての疑問が氷解する。

 例えば武藤と宇佐美はハリル政権下ではどちらも(2)に分類される選手である。だが武藤は順応し、宇佐美は適応できずに苦しんでいる。

 また浅野も(2)だが、彼の場合はスタメンで使い時間をやればモノになるだろう。宇佐美のようなある種のひ弱さや繊細さは、大胆で思い切りのいい浅野にはない。だから「異国の地」のポジションでも通用する。そもそもトラップミスを繰り返す永井にあれだけ時間をやるなら、若く将来性のある浅野を少なくとも1試合はスタメンで使うべきだった。ハリルのあの永井に対する偏愛は、プロファイルの域を越えている。一見、理解不能だ。

永井は戦術の犠牲になっている

 だがこの「永井問題」の謎も、ハリルの鋳型と照らし合わせれば容易に想像がつく。本来、永井は持ち前の絶対的なスピードを生かし、相手バックラインの裏のスペースを狙って走り込み、前でボールを受けるプレイをすれば最大限自分の武器が生きる。つまり「人に使われる」タイプのプレイヤーだ。

 かつ、自分の前にスペースがあればあるほど、強みを発揮する。

 にもかかわらずハリルジャパンでの彼のプレイスタイルはどうか? 引いて守備もやりながらサイドに自分でポイントを作り、なんとパス出しで「人を使う」プレイをしている。しかもスペースをもってない。持ち味と正反対なのだ。あれでは永井は生きない。

 本当なら2トップにでもしてポストプレイヤーとセットで使い、彼には相手の裏のスペースを重点的に狙わせるべきだ。だが2トップという選択はハリルの辞書になく、ゆえに永井は機能不全のまま沈んでいる。それもこれも永井という選手を先に選んだのでなく、ハリルの鋳型(システム)がまず先にあるからだ。そうではなく、セレクター型のチーム作りをしなければ永井は生きないだろう。

 もちろんハリルもそんな永井の特徴はわかっている。そもそもハリルは彼のスピードに惚れて招集したのだから。だがそれでいながらハリルは、自分の鋳型を曲げて永井が生きる形で使ってやろうとしない。ハリルは頑固に自分の哲学を変えない。で、永井は実質、飼い殺しになっている。

 ゆえに私は前回の原稿で、自分の哲学を優先し飼い殺しにするならチームにとってマイナスだから「永井は見切れ」と主張した。さらに前の記事では、「これは永井の問題というより、選んだ監督の問題だ」とも書いた。そして後述するが、この永井問題は「宇佐美問題」とまったく同じ構造を抱えている。

鋳型にハマらない「宇佐美問題」に解決策はあるか?

 さて深刻なのは、ハリルの鋳型にハマらない宇佐美である。今大会を通じ、宇佐美はほとんど「ただいるだけ」。特に45分たてば、守備でバテバテになり消えてしまう。彼を本来のポジションで使うか、あるいは彼の守備の負担をもっと軽くするテを考えなければ宝の持ち腐れだ。

 いや個人的には、現代的なフットボーラーなら全員が守備をするべきだと考えている。だが宇佐美の場合はそれによるマイナスがあまりに大きく、ならば彼を呼ぶ意味がないとさえ思える。それなら解決策を打つ一手だろう。

 まず宇佐美をワントップで使えば解決するが、ハリルはハリルで自分の鋳型(哲学)を持っている。例えば今大会で使われた興梠は、典型的なポストプレイヤーだ。また海外組の大迫もポストプレイが売り物である。さらにレギュラー格の岡崎はポストにもなれ、裏も狙える。つまりハリルが選ぶワントップの選手はすべてポストプレイヤーか、またはそれに準じるタイプである。

 一方、ハリルの鋳型に合うからでなく図抜けたフィジカル(高さと強さ)で選ばれている川又は、ぶっちゃけポストは下手だ。だが(おそらく監督の指示で)ポストプレイに徹している。すなわちハリルにとってのワントップは「ポストプレイヤーであること」が戦術的な絶対条件であり、ゆえに宇佐美はワントップでは使われない。

 とすれば宇佐美には、まだ今の左サイドよりトップ下のほうが合いそうに思える。だがこちらもハリルの鋳型にハマらない。ハリルにとってのトップ下の理想像は香川だ。自在にパス出しができゲームを作れ、自分もセカンドストライカーとして前へ飛び込み点が取れる。また守ってはハイプレスをかけ、前線で体を張って粘れるーー。これら要素のうち「点を取る」という一点を除き、すべて宇佐美に当てはまらない。ゆえに宇佐美はトップ下で使われない。

 かくて宇佐美はSHで守備も要求され、消耗し、力が出せない。この状況は、監督がハリルである限り変わらない。ならば宇佐美は守備をするスタミナと強いメンタリティを養わない限り、おそらくこの代表チームでは活路を見出せない。

やはり宇佐美はFWで生かすのが合理的だ

 合理的に考えれば、今のシステムが前提なら宇佐美の得点能力を生かしてワントップで使い、かつポストプレイもやらせる(ハリルはワントップには恐らく必ず要求する)ほうが現実的に思える。これなら日本代表の決定力不足への解になる。またポストプレイを強要されるにしろ、どう考えても川又よりは宇佐美のほうがはるかにボールタッチがうまい。ポストとしても機能するはずだ。

 あるいは宇佐美を生かすため2トップにし、ポストができるFWと彼を組み合わせるテも有力である。これならクサビを受けるため常に張っている必要はなく、宇佐美は自由に動いて裏も狙える。いったん引いてドリブルもできる。彼のよさが十二分に出そうだ。だが恐らくこの案は、ハリルの鋳型と食い違うため採用の可能性はない。かくて「宇佐美問題」は解決策がないまま漂流するのだろうが、個人的には最後にあげた案を推しておく。

 いずれにしろハリル丸の将来は、彼が用意した鋳型次第だ。そもそもハリルが当初から掲げるハイプレス&ショートカウンターという戦術も、選んだ選手に合うタクティクスとして「選手ありき」で出てきたものではない。ハイプレス&ショートカウンターなる鋳型がまず先にあった。

 とすれば日本代表の命運は、やはりハリルが丹精込めて作った鋳型にかかっている。

 ではこの迷路をどう抜け出せばいいのか? 次回、公開する記事でわかりやすく解説しよう。

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【東アジアカップ・大会総括 その2】川又と永井は切るべきだ

2015-08-10 17:31:20 | サッカー日本代表
マイボールをハジき続けた戦犯の2人

 今回の記事を書くのは正直いって気が重い。だが少しでも早い段階で、だれかが問題提起しておくべきだ。ゆえに、あえて筆を取ることにする。

 今大会、ワントップでたびたび起用された川又は、チャンスをひたすら潰し続けた。どフリーのシュートチャンスに、ボールを利き足に持ち替えてハズす。頭にドンピシャで合っているサイドからのハイクロスを、ゴール前でなんと「肩に当てて」弾くーー。思わず目を覆うばかりの悲惨なプレイを続けた。

 もし仮にもっと決定力のあるフォワードがワントップにいれば、今大会の勝ち星はまったく変わっていただろう。例えば武藤を前で使ってもいいし、スタメンで興梠をワントップで使い、2列目の武藤や宇佐美らゴールゲッターと組み合わせてもよかった。

 興梠は周りを生かすポストプレイがうまい。かつての柳沢のように「最前線のゲームメーカー」的なプレイができる。興梠がクサビになり落としたボールを、前に飛び込んだ武藤や宇佐美がシュートする形を作れば、もっともっと点を取れていたはずだ。

 ところが川又はポストプレイも荒く、非常に精度が低い。せっかく彼にグラウンダーのすばらしいクサビのボールが入っても、足元でボールを弾いてしまいコントロールできない。で、マーカーに時間的余裕をプレゼントして寄せられてしまい、せっかく出たクサビのボールをなんと最終ラインへ戻すシーンまであった。

 川又のところで試合の流れがぷっつり途切れる。彼にボールが渡ると、とたんに流れがギクシャクする。日本はボールを失ってしまう。ボールポゼッションがガックリ下がる。はっきり言って川又は、「ボールを止める」「蹴る」という基礎的な技術レベルがプロの水準にない。

マーカーとの駆け引きがまったくない

 また川又は中央でゴールに背を向けてグラウンダーのクサビのボールを受けるとき、初めから「ダイレクトで落とす」と決め込んでいる。背中にマーカーを背負っているかどうか? なんて関係ない。とにかくクサビはダイレクトで落とすとあらかじめ決めている。ボールを受ける直前に、首を振って背後のマーカーの状態を確認する習慣がついてない。

 おそらくボールコントロールに自信がなく、クサビをもらうと「ボールを早く離したい」という心理が働き、状況に関係なく常にダイレクトで落としてしまうのだろう。

 敵の守備者から見れば、こんなフォワードなんて怖くもなんともない。

 例えばクサビが10回入ったとしよう。そのうち3〜4回はワンタッチでゴールに向き直られ、シュートを狙われるからこそマーカーは怖いのだ。「次は振り向くのか? それとも落とすのか?」。守備者は一瞬そう「考えただけ」でたちまち判断が遅れる。で、フォワードの動きに置き去りにされる。とすればフォワードは駆け引きとして、常に守備者に「二択以上」の選択肢をチラつかせておく必要がある。

 つまり10回入ったクサビのうち、たった2回だけでもゴールの方に振り向く動きをしておけばどうか? 守備者の頭に「次はどう動くのか?』という思考が生まれ、そのぶん判断が立ち遅れる。で、フォワードの動きについていけなくなる。つまり守備者の脳内にいかに雑念を起こさせるか? その勝負なのだ。

 だが川又みたいにクサビを常に100%ダイレクトで落としていれば、彼にボールが出た瞬間、「また落とすぞ」と守備者に素早く判断されてしまう。駆け引きもなにもない。守備者から見て怖くもなんともない。ゆえに相手に正確に対応されてしまうーー。

トラップの技術がプロレベルでない永井

 次は永井である。彼も川又同様、トラップ技術など基本的な技術レベルがはっきりプロの水準ではない。川又と同様、彼にボールが渡ると流れが途絶え、チャンスが潰れる。またシュートを選択する思い切りのよさがなく、窮屈そうにパスに逃げるなど攻撃的な選手として使う意味がない。

 ハリルジャパンは4バックだ。ゆえに中盤から前の選手は6人しかいない。逆にいえばこの6人でパスを回すことになる。にもかかわらず6人中、3分の1を占める2人(川又と永井)がトラップもろくにできないレベルの選手なのだ。これではパスが繋がるはずないし、流れが途切れるのも当然だろう。

 勝てないのは当たり前だ。

 ふり返ればハリル体制がスタートし、彼ら2人が初めて同時に使われたのは2015年3月27日に行われたキリンチャレンジ杯・チュニジア戦の前半だった。このときの模様と、同じく彼ら2人が同時に使われた今回の北朝鮮戦のボールの落ち着きのなさはまったく同質なのだ。どちらのゲームもパスがブレては受け手がハジき、とボールの流れがギクシャクしていた。原因ははっきりしている。

 6人中、3分の1を占める2人が、川又と永井だったからだ。

 今大会の敗因のひとつはハリルが彼ら2人に固執し、使い続けたことにあるといっていい。そのためパスワークが乱れて攻撃の精度が落ち、日本は簡単にボールを失ってしまった。で、敵のカウンターをたびたび食らった。

 新戦力をテストするための大会だというなら、少なくとも第2戦までで彼らに見切りをつけるべきだった。そして若い浅野を1試合は先発で使って時間をやるなど、もっと柔軟な采配をするべきだった。

チーターは足は早いがトラップできない

 おそらくハリルは「川又の高さと身体能力は魅力だ」「永井には爆発的なスピードがある」と考えて招集しているのだろう。つまり彼らを選ぶ理由は技術ではなくカラダ(素材)だ。

 だがいくら足が速いからといって動物のチーターを連れてきてサッカーパンツをはかせても、それはあくまでチーターであり人間ではない。ボールに素早く追いつくことはできても、チーターはボールをトラップしたりシュートしたりできない。

 ハリルがやっていることは、それ(=チーターを連れてくること)と同じだ。

 もちろん川又も永井も「素材」としてはすばらしい。もしこれがクラブチームなら監督が惚れ込み、「よし。彼らを獲得し、じっくり5年かけてオレが育てよう」となるかもしれない。だがここはクラブチームではない。選手個々の技術レベルが一定水準をクリアしているべき代表チームである。決して育成の場ではない。

 トラップやパス出しがスムーズにできない選手が来る場所ではないのだ。

 ハリルはそれほど川又と永井が気に入っているなら、日本代表監督をやめたあとクラブチームの監督になり、彼らを獲得して自分で時間をかけて「トラップの仕方から」教えて育てればいい。はっきりいうが、ハリルの川又と永井への偏愛は代表チームという「公共空間」を私的に流用するものであり、公私混同だ。とうてい私は納得できない。

 もし今後もハリルが川又と永井を招集し続けるなら、そのとき私はハリルホジッチ監督に対する見方をハッキリ変えようと思う。

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【サッカー・東アジアカップ】ポゼッション・スタイルへの転換点 〜日本1ー1中国

2015-08-10 13:14:24 | サッカー日本代表
タテに速いスタイルとポゼッションとの融合が進むか?

 東アジアカップ最終戦になった中国戦。日本はこの試合でそれまでのタテに速いサッカ一辺倒から、ポゼッション・スタイルとの融合にトライした。結果は上々。中国のプレスが甘かったせいもあり、初戦、第2戦とはまったく別のチームのような滑らかなパスワークを見せた。

 戦術的には時計の針を30年くらい昔に巻き戻したような凡戦ではあったが、ポゼッションへの手応えをつかんだ日本にとっての意味は大きい。

 一方、新戦力発掘という意味では、最前線のお笑い芸人、じゃない武藤(浦和レッズ)の華麗なゴールショーや、この日右SBからボランチにコンバートされ獅子奮迅の活躍をした若い遠藤航(湘南ベルマーレ)、また今大会この試合で初出場した左SB・米倉恒貴(ガンバ大阪)の大ブレイクなど、ひさびさに明るい話題が多い試合になった。

新戦力のテストに徹したブレないハリル

 前半10分、中国に先制され「またか」とイヤなムードが漂った。だが日本は40分、センターバックを務める槙野の強くて速いグラウンダーの鋭い縦パスを受け、左SBの米倉が爆発的なダッシュでゴール近くまで抜け出した。そしてダイレクトで折り返しを入れる。

 これに鋭く反応した武藤が倒れ込みながらすばらしいダイレクト・シュートを決めた。武藤は初先発・初代表ゴールとなった北朝鮮戦での得点と合わせ、通算2点目。大会得点王となる目ざましい働きをした。ゲームは1ー1のまま引き分けで終わった。

 日本のシステムは4−2−3−1。1分1敗で迎えたどうしても勝ちたい最終戦だった。だがハリルホジッチ監督はまったくブレなかった。「新戦力の発掘」という今大会の当初からの位置づけ通り、平然と3人の大会初出場選手を抜擢しテストした。左SBの米倉と右SBの丹羽大輝、GKの東口順昭(いずれもガンバ大阪)だ。

 センターバックは槙野、森重の不動のコンビ。また今大会、右SBとしてA代表デビューを飾るや攻守に気を吐きまくる遠藤航をボランチに抜擢し、山口蛍と組ませた。前の両翼は左に宇佐美、右に永井。トップ下は初戦の北朝鮮戦以来の武藤が務めた。ワントップは川又だ。

ハイプレス&ショートカウンター一辺倒からの脱却へ

 さてフタを開けるとそこには懐かしい風景が広がっていた。相手ボールになってもコースを切るだけ、互いにプレスをかけ合わない。よくいえば牧歌的な80年代のようなのんびりしたサッカーが展開された。

 日本はサイドチェンジを織り交ぜながら、あわてずじっくりポゼッションした。まるで時計の針をブラジル・ワールドカップ前に戻したかのような試合運びだった。当時とちがうのは徹底した遅攻だったザックジャパンとくらべ、無意味なバックパスや最終ラインでのボール回しがない点だ。

 またフィニッシュもサイドをうまく使い、ザックジャパンのように中央偏重に陥らない。真ん中から左右へのボールの散らしも有効だった。その意味ではあきらかにザックジャパンとは違う、進化系のポゼッション・サッカーといえる。

 日本はハリルホジッチ監督就任以来、監督が標榜する「タテに速いサッカー」を実現しようとあせる余り、無意味でアバウトなタテパスを繰り返した。そして試合を壊してきた。

 だがこの試合ではボランチを務めた遠藤と山口がボールをいったん落ち着かせ、タテに急がなかった。うまくゲームをコントロールしていた。その意味ではポゼッション・サッカーに初挑戦した中国戦は、いい意味でやっと日本が「親離れ」した試合だといえる。

 今後は監督が目指すハイプレス&ショートカウンターのスタイルに加え、試合の局面に応じて要所でポゼッションを織り交ぜれば新しいスタイルが熟成する。それはトータルバランスに優れたサッカーになるだろう。この戦術的な転換は、今回の東アジアカップで得られた大きな収穫である。

 ただしこの試合は中国がほとんどプレスをかけてこなかったため、そのぶん「ラクにポゼッションできた」という見逃せない側面がある。つまり日本が自然にポゼッションできたのは、中国のプレスが甘かったからだ。

 一方、世界の頂点であるロシア・ワールドカップ本大会を見据えれば、厳しいプレスを受けた状態で「どんなサッカーができるのか?」こそが問題である。それがハリルジャパンの中長期的なテーマになる。世界レベルはその次元だ。くれぐれも「中国戦でポゼッションできたから」などと楽観することのないよう、気をつけたい。

じゃない武藤劇場、開演する

 次は選手別に見ていこう。この試合での武藤と遠藤、米倉の活躍はすばらしかった。まず武藤は前半13分に米倉に見事なスルーパスを出し、受けた米倉はシュートまで行った。このプレイを皮切りに、華麗な武藤劇場が演出された。

 いちばんのハイライトは、いうまでもなく前半40分の先取点だ。倒れ込みながらのあの輝かしいゴールは、おそらく少年たちのあこがれの的になり、そして未来のJリーガーがその背中を見て育っていくーー。そんな貴重な瞬間に立ち会えたことを誇りに思う。

 また武藤は守備も精力的にこなし、相手ボールになると中国のボールホルダーにプレッシャーをかけていた。この日の武藤は前回先発した北朝鮮戦とちがい、時間が経過しても足が止まることはなかった。後半28分に柴崎との交代で退いたが、少なくとも私の目にはさほど運動量が落ちているようには見えなかった。あれはむしろ柴崎を出したいための戦術的な交代だったのではないだろうか?

 一方、ボランチに入った遠藤は、中盤を精力的に動き回り「だれがチームの中心なのか?」をカラダで見せつけた。左右へのボールの散らしやタテへの繋ぎ、カバーリングなど、どのプレイひとつ取っても「なるほど彼はボランチが本職だ」と見る者のだれをも納得させるプレイを続けた。本大会での彼のプレイを見る限り、出来不出来のムラがある柴崎でさえボランチのレギュラーは危なくなったのではないか? と思わせた。

ポリバレント米倉が大ブレイクする

 また今大会、この試合で初出場した左SB・米倉恒貴の働きは目覚ましかった。前半40分には武藤のゴールをお膳立てする爆発的なオーバーラップと完璧な折り返しを見せ、まず名刺を置く。

 また後半5分には左サイドをドリブルで駆け上がり、シュートまで行く。後半30分にもいいオーバーラップを敢行した。加えて攻撃だけでなく守備もよく、後半15分頃にはすばらしいカバーリングをした。

 米倉はジェフ千葉時代はもともと右SHだったが右SBにコンバートされ、点を取れるSBとして知られていた。現在所属するガンバでも右SBで試合に出ている。で、実は本ブログでもつい先日、中国戦のスタメン予想記事で、先発メンバーとして米倉を右SBで推したばかり。

 なのに代表ではいきなり逆のサイドの左SBで初先発し、しかもあの大活躍である。今後は彼のことを「ポリバレント米倉」、もしくは「ミスター・ポリバレント」、あるいは「サッカーパンツをはいたポリバレント」と呼ぼう。

 彼は前からイケメンとして知られており、2014年にはネット上に「イケメン度はすでに日本代表クラス」としたまとめページが立ち上がるほど。ところがどっこい、実はイケメン度なんかよりサッカーセンスのほうがはるかに凌駕していた、というオチがついた。

「日本代表はSBが不足している」といわれていたが、まったくこんな逸材がいるならガンバとハリルは「もったいぶらずに早く出せよ!」って感じだ。しかも中国戦の内容だけから判断すると、この人ったらなんと「左右両SB」ができるんですよぉ? しかも彼を右SBで使えば中国戦のように、遠藤航をボランチで使うことができるのだ。

 この中国戦での新兵器・米倉の新たな発掘は、遠藤のボランチ当確、武藤のチーム得点王ゲットと並び、とんでもなく大きな収穫といえる。

 しかも彼が(この試合だけでなく)左右両用のSBとして継続的に力を発揮できるのだとすれば、チームのメンバー構成的にはいい意味での「流動性」が高まる。例えば試合の展開に応じ、彼を右SBから左SBに動かし(もちろん逆もありえる)、そのぶんほかの選手を投入したり、だれかを交代させるなどさまざまなカードが切れる。このアドバンテージはとんでもなくデカい。

 ぶっちゃけ、今回の東アジアカップは武藤と遠藤航、米倉の3人を新たに発掘できただけでも大成功だ。「屈辱の最下位」、「連覇ならず」などという、サッカーを知らない無知なマスコミの扇情的でくだらない見出しなどクソ食らえだ。

「東アジアカップ、新戦力が躍動し大成功に終わる」

 これが正しい見出しである。さあ、次行こ、次。

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【サッカー・東アジアカップ/大会総括】ショートカウンター一辺倒にポゼッションが加わった戦術面の変化

2015-08-10 02:10:57 | サッカー日本代表
勝てないながら武藤、遠藤ら頼もしい新戦力が芽を出す

 本大会でのハリルジャパンは、3試合で3種類の戦術を試した。

 まず初戦の北朝鮮戦ではタテに速いサッカーを、第2戦の韓国戦では逆にリトリートからのロングカウンターを、そして最終戦の中国戦ではボール保持率を高めるポゼッション・スタイルを、と1戦ごとに異なるサッカーを模索した。

 そのなかでいちばんハマっていたのは第3戦のポゼッション型であり、この結果だけ見ればザッケローニ元監督を見切った意味がまったくない。

 ただし問題はこれからだ。ハリルホジッチ監督が就任当初から掲げていたハイプレス&ショートカウンター・スタイルに加え、1試合のなかで局面の変化に応じ適宜ポゼッションの要素をうまく散りばめて行けば、今後トータルとしてバランスのいいサッカーになるだろう。その意味では、最終戦の中国戦でつかんだポゼッション・スタイルへの手応えは今後に生きる。

 ただしこの試合での中国はプレスをかけてこなかった。ゆえに日本はノー・プレッシャーの状態でラクにポゼッションできた。この点には強く留意しておく必要がある。すなわちこのチームの中長期的な課題は、厳しいプレッシャーを受けたなかで「どんなサッカーができるのか?」である。今後の推移を注意深く見守る必要がある。

海外組が抜けると日本代表はこれだけグレードダウンする

 本大会は、「海外組が抜けると日本代表はこれだけグレードダウンする」という層の薄さが実証された大会だった。

 ただしそのなかでも通算2点を取った武藤雄樹(浦和レッズ)や、攻守に大きく貢献した若い遠藤航(湘南ベルマーレ)、最終戦にきて起用され1アシストに加え質の高いカバーリング能力も見せた米倉恒貴(ガンバ大阪)など、よい結果を出した新戦力も少なからずいた。

 また今大会で点も取ったボランチ・山口蛍は、積極的に前へ出てプレスをかけるスタイルで存在感を示した。中国戦でボランチとして新たに名乗りをあげた遠藤航とあわせ、ボランチのポジション争いはすっかりホットになってきた。また泥臭いハードワークが光る倉田や藤田もおもしろい存在だ。

 もちろん結果を出した新戦力は確かに一部の選手だし、海外組のレギュラー達に取って替わるレベルだとまではいい切れないかもしれない。だが限定的にせよ、選手層の底上げになった大会だったといえるだろう。

毅然として「テスト」に徹したハリルホジッチ監督

 1分け1敗で迎えた最終戦の中国戦。ふつうなら「絶対に勝ちたい」となる局面だった。だがハリルホジッチ監督はスタメンで計算できる選手だけに頼らず、まだ出場してないDFの米倉恒貴(ガンバ大阪)、丹羽大輝(同)、GKの東口順昭(同)の3人を使った。

 このスタメンを見れば、大会に対する監督のスタンスは一目瞭然だ。ハリルは本大会で単に結果だけに囚われず、ガマン強く新戦力をテストし続けたのだ。

 第2戦を終えて1分け1敗。近視眼的な監督批判が世間に巻き起こるなか、ハリルは決して世論に迎合しなかった。自分の哲学とポリシーを曲げない芯の強さを見せた。この点は高く評価されるべきだろう。すべては「テスト」なのだ。確かに勝ち星という意味では直接的な結果は出なかったものの、そんな彼のチーム運営は批判されるような内容では決してない。

 ただしいつまでも結果を出せない川又と永井に拘泥し、最後まで彼らに固執し続けた点は大いに疑問がある。例えば最終戦はスタメンに川又でなく興梠、永井でなく倉田や藤田を選んでおけば結果は変わっていた可能性もある。

 これは単に結果論でなく、第3戦を迎えた時点ですでに川又と永井への評価は固まっていてしかるべきだったと考える。このあたりの選手の見極めについては、ハリルは自分独自の価値観にこだわりすぎ、バランスを欠いたようにも見える。

 こうした選手起用に関する不可解が今後もまだ尾を引くようなら、結果、それがもしかしたら監督解任運動の契機になって行くかもしれない。もちろん、そうならないことを祈ってはいるが。

期待を大きく裏切った宇佐美と柴崎

 なお大会全体をトータルで見て機能した選手、機能しなかった選手はそれぞれ以下の通りである。(どちらにも含まれない選手は、出場時間不足などの理由で判断を見送った選手)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【機能した選手】

武藤、遠藤、山口、槙野、森重、米倉、倉田、藤田、興梠、西川

【機能しなかった選手】

川又、永井、宇佐美、柴崎、太田、浅野

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 選手別に見ると、特に才能と能力にあふれる宇佐美と柴崎、太田の3人は期待されながら、その期待を大きく裏切る結果になった。宇佐美は実質45分間しか持たないスタミナと、出来不出来の差の激しいムラっ気なプレイぶりが顕著だった。ゴールが取れなかったのも致命的だ。

 また柴崎は実質的な「10番」と目されながら、最後までチームの軸になり切れなかった。そのプレイぶりからは自分がチームを背負っているという気持ちが感じられず、彼の大きな特徴である決定的なラストパスも出せなかった。

 一方、韓国戦に出場した太田は持ち前のクロスの精度がきわめて低く、また韓国が彼のサイドを起点に攻めたこともあり防戦に追われた。ただし彼は十分な出場時間が与えられたわけではなく、これだけで総括してしまうのは酷かもしれない。またもちろん宇佐美と柴崎の代表キャップはこれで終わるわけではなく、本大会は長い長い道程の1里塚でしかない。今後の成長に期待したい。

 一方、同様に結果が出せなかった川又と永井については、基本的な技術レベル自体に疑問がある。これについては彼ら自身というよりも、彼らを選んだ監督自体の責任が大きい。また若い浅野については経験不足に加え、途中出場ばかりでうまくゲームに入れなかった。機会があれば今度はぜひスタメンで見てみたい。

 なお西川、東口の両GKについては川島を脅かすほどのさらなるインパクトがほしいが、ひとまず本大会の結果としてはまずまずのところだろう。

 さてハリルジャパンの「東アジアカップ2015」冒険編は、ひとまず終わった。今後、このチームがいったいどんな化学変化を起こし、それによって日本が目指すべき「世界で勝てるサッカー」はどう変わるのか?

 今後も興味深く見守って行きたい。

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【サッカー・東アジアカップ】中国戦はこのメンバー&システムでぶちかませ ver.2

2015-08-09 12:28:33 | サッカー日本代表
マスコミは監督批判で騒ぎすぎだ

 まず最初に有権者に訴えたいことは、この大会は「新戦力を発掘するためのテスト」であることだ。もちろんプロの監督は全体のバランスをうまく取り、テストしながらそれを勝ちに結びつける手腕を有するべきだ。そういう視点でなら一聴の価値はある。

 だがいま行われているマスコミによる監督批判は、明らかにテストの意味を理解していない。就任直後は「ハリルは日本を変える魔術師だ!」と持ち上げておき、テストのための試行錯誤で勝てなくなると、とたんに同じ口で水に落ちた犬を叩く。やれ「監督はフィジカルのせいにした」、「強行日程を言い訳にしてる」と揚げ足取りばかりだ。

「日本が世界で勝つためには何が必要か?」という本質論が一切ない。

 ゆえに有権者のみなさんは、あくまでこの本質論に立った上でマスコミの煽りに惑わされず、清き一票を投じてほしい。もちろん私も「ロシア・ワールドカップ本大会で勝つため」の挑戦的なテストである限り、勝ち負けを問うつもりは一切ない。(ただしこれ以上ハリルが川又と永井を偏愛するなら、言うべきことは言わせてもらうが)

中国戦のスタメンを大胆シミュレーションする

 さて本題だ。3回前の記事で中国戦の「おすすめスタメン大予想」を書いたが、ちと常識に囚われてスパイスが足りなかった。で、今回は再度、同じテーマで大胆にシミュレーションしてみる。予想図(というか妄想図)は以下の通りだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

               ◯興梠
      ◯宇佐美(武藤)          ◯倉田(浅野)
 
           ◯山口螢   ◯柴崎岳
               ◯遠藤航(藤田)

      ◯太田   ◯槙野   ◯森重   ◯米倉(丹羽)

               ◯西川

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ポリバレントな遠藤航を心臓部に置く

 どうも今大会の代表チームを見ると、4−2−3−1よりアンカーを置いた4−3−3(や4−1−4−1)のほうが安定する。そこですでにチームの「軸」になっている遠藤航を心臓部、つまり大胆にアンカーに置き、バイタルを見させる。

 むろんそれだけでなく遠藤には、前線の宇佐美や興梠、倉田に強くて速いグラウンダーのロングパスを突き刺してもらう。これが通ればたった1〜2本のパスで点が取れる。

 また彼は複数のポジションをこなせる上に、チーム全体のチェンジ・オブ・リズムを担う戦術眼もある。で、タテに速く行くところと、いったんタメて落ち着かせるところを仕分けするコンダクターにもなってもらう。

 新人にはとんでもなく荷が重いが、もしこなせればロシア・ワールドカップ本大会を担う目玉になれるだろう。さらに彼をアンカーに移すことで、右SBとして米倉、丹羽など新戦力を試すことができ一石二鳥だ。

 で、この布陣でリードして逃げ切る場合など、局面によっては対人プレイに強く驚異的な粘りがきく藤田をクローザーとしてアンカーに途中投入する方法もある。もしその時点で右SBに入れた新戦力のデキがよければ、そのまま遠藤をベンチに下げる。または右SBの新戦力がいまひとつなら、遠藤を下げずに右SBと交代させる。

 こうしておいしい遠藤をたっぷり使いこなすことで、メンバー交代を最小限にしながら新しいトライもできる。一石三鳥である。

未来のある浅野を頼れる男にしたい

 前線の右に倉田を置く意図は、3回前の記事で書いた通りだ。倉田と藤田は同じ匂いがする。彼らはチームが苦しいとき、たとえ足を引きずってでも弱音を吐かずに踏ん張れる。粘り強くファイトできる。熱い気持ちをカラダで示し、チーム全員のメンタルを鼓舞してくれる。

 また将来を見据えればこの倉田のポジションに浅野の途中投入もある。特にリードされて点がほしいときだ。思い切りのよさと持ち前のスピードで切り裂いてほしい。浅野はすでに何度か使われ、シュートチャンスに打てないなど若さもあったが、あれはシュートコースがないことを見切ってセカンドベストを選択したと見ることもできる。

 とにかくフル代表は初めてなのに、あの落ち着きと思い切りのよさは将来性を強く感じさせる。「浅野を頼れる一人前の男にする大会」と位置づけてもいいくらいだ。個人的にはそう思っている。

じゃない武藤をシャドーで活かす

 思案したのは秘密兵器兼、お笑い芸人の「じゃない武藤」の活かし方だ。彼は宇佐美と並ぶシュートの精度とキープ力、パス出しのセンスがある。だが非常に残念ながら、いかんせん90分間スタミナがもたない。

 初先発・初ゴールした北朝鮮戦でもいい働きをしたが、後半は足が止まってゲームから消えかけた。だがそれでも思い出したように現れては「攻めるときだけは足が動いた」。宇佐美と同様、ゴールハンターとしての嗅覚がカラダを動かす。まったく現金な野郎どもだが(笑)、しかし彼らをうまく使えばとんでもない攻撃力を発揮するのはわかっている。

 で、そんな武藤をもしど真ん中のトップ下で使えば、相手ボールになった瞬間に足を止め、敵センターバックからビルドアップの一発目のボールが自在に前線へ直通になる可能性が出てくる。

 それならリスクヘッジし、少しでも被害が少ないサイドに置こう。で、同じく足が止まる可能性のある宇佐美と交代で使う。片方がバテたらもう片方が行く。「1試合中・ターンオーバー制」にしよう。ああスッキリ、これで解決だわ。「最前線のゲームメーカー」である興梠がポストになって落としたボールで、2人はとにかく点を取ってほしい。

 このほかの選手の起用意図は、3回前の記事で書いた通りだ。特に柴崎には、最前線のスナイパーをあやつる決定的なラストパスを出してほしい。今日は君の日だ。カギは柴崎と宇佐美、遠藤がこのドン詰まりの修羅場を突き抜けられるかどうか? われわれに、ロシアへの光を。

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【サッカー・東アジアカップ】すべてはシナリオ通りに進んでいる

2015-08-08 19:43:56 | サッカー日本代表
ハリルは3つのシステムとメンバー表を用意している

 ふと思いついて過去の記録を漁ってみた。今年の7月23日。今回の東アジアカップの男子代表23人が発表されたときの記者会見の記事だ。このときハリルホジッチ監督は会見の席上、「3つのメンバー構成、3つのシステムを用意した」とはっきりコメントしている

 東アジアカップは言うまでもなく3試合だ。つまりこのコメント通りコトが運ぶのだとすれば、最後の中国戦はまたもや違うメンバーとシステム、戦術で来る可能性がある。

 ふり返れば初戦の北朝鮮戦は、ハイプレスでショートカウンター狙いのタテに速いサッカーを志向した。システムはそれに向く4−2−3−1。そして大会最強の韓国戦では、弱者が強い相手とやるときの戦術、つまりリトリートからロングカウンター狙いのパターンを試した。システムは前の両翼が引き気味になる4−1−4−1だった。(このやり方はロシア・ワールドカップの本大会でヨーロッパや南米の強豪国と当たったとき、「だがどうしても負けられない。最低引き分けがほしい」という局面のためのシミュレーションになる)

 つまりシナリオでは大事な初戦をハイプレスで勝ち、難敵の韓国戦は引き気味で悪くても引き分けを狙う。これで2勝、または1勝1分けだ。(ところが初戦に思わぬ逆転負けを喫しシナリオが狂った)

 とすればすべては基本的に、ハリルがあらかじめ下書きしてあった3つのシナリオ通りに進んでいることになる。

韓国戦でなぜか武藤を使わなかった意味とは?

 そういえば思い当たるフシがある。

 第2戦の韓国戦で、なぜか武藤を使わなかったことだ。

 彼は初戦でいきなり代表初ゴールをあげ、いい働きをした。だが試合自体には負けて迎えた次の韓国戦。必ず勝ちたいこの第2戦で采配を振るう監督の心理としては、当然、1戦目に点を取った選手を使いたくなる。だがハリルはなぜか武藤を使わなかった。いったいなぜか?

 それはあらかじめ韓国戦用に描いてあったハリルのシナリオ(しかも守備的な)に、攻撃的な武藤は入ってなかったからだ。で、ハリルは粛々と、事前に韓国戦用に用意してあった守備的なメンバー構成とシステムを採用した。すべてはテストのため。つまりロシア・ワールドカップ本大会のシミュレーションのためだ。

 そう考えれば、どうしても勝ちたい韓国戦に武藤を使わなかったのも合点が行く。また1試合ごとに猫の目のように戦術とシステムが変わるのもうなずける。

 すべてはシナリオ通りに進んでいるのだ。

中国戦は攻撃的な3バックや前から突っかける2トップもある?

 とすれば最後の中国戦で、いったいハリルはどんなシステムとメンバー構成で来るのだろうか? ひょっとしたら両ウイングバックを攻撃的に使う3バックもありえるかも? あるいは必勝を期して前がかりで突っかける2トップや3トップもあるかもしれない。

 またメンバー的にも、まだ出場してない(つまりシナリオに沿って温存している)米本拓司(FC東京)や攻撃的なDFの米倉恒貴(ガンバ大阪)、丹羽大輝(同)、水本裕貴(サンフレッチェ広島)あたりにも出番がくるかもしれない。(ただし武藤と宇佐美、柴崎の3人は必ず使うと思うが)

 はてさて、いったいどうなるんだろう?

 いやはやハリルジャパンは、負けが込んでも目が離せませんな。

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【サッカー・東アジアカップ】日本のハイプレスは通用するか?

2015-08-08 10:46:48 | サッカー日本代表
韓国戦、前後半立ち上がりに見せた閃光のプレッシング

 引き分けに終わった韓国戦、日本は終始リトリートして自陣のスペースを消す試合運びをした。だがこの試合で2回だけ、相手にハイプレスをかけた時間帯がある。それは前半立ち上がりの7分までと、後半の立ち上がりである。

 前半立ち上がりの日本は、前から積極的にプレスをかけていた。守備に回るとインサイドハーフの柴崎が高い位置を取り、ボールに対し距離を詰めて圧力をかけた。また周囲の倉田や永井、前に出てきた山口らも連動して意欲的にプレスをかけ、韓国のボールホルダーに脅しをかけた。

 するとボールを持った韓国のディフェンスラインはビルドアップに苦しみ、バックパスや逃げの横パスをするシーンが目立った。また中央にクサビのボールを入れられた場合でも、その次の展開ができず、結局、韓国はボールを最終ラインまで戻す場面も見られた。

 一方、同点に追いついてからの後半立ち上がりにも、似たような場面があった。韓国のバックラインがボールを持つと、前へ飛び出した山口と柴崎が積極的にスイッチを入れ、ハイプレスをかけた。すると前半立ち上がりと同様、韓国は最終ラインからビルドアップできなくなり、前へのアバウトな放り込みに逃げるシーンが見られた。

中国戦はハイプレスからのショートカウンターで締めろ

 結論から先にいえば、日本のハイプレスは十分に通用する。たまたま初戦の北朝鮮戦で逆転される展開になったため、今大会でハイプレスは一種のタブーのようになってしまったが、何も恐れることはない。十二分に成立する戦術である。

 おそらく韓国戦でも終始前からプレスをかけていれば、試合展開はもっとアグレッシブなものになっていただろう。韓国は思ったより攻めの精度も高くなく、看板ほど強いチームではなかった。「たられば」をいうつもりはないが、ハイプレスを多用していれば試合は逆転していたかもしれない。

 いや別に、自陣に引いて相手にボールを持たせるやり方が悪いという意味ではない。それもひとつの戦術だし、特に相手が自分たちより強い場合は有効だ。つまり戦い方の選択の仕方の問題であり、リトリートもひとつのオプションのうちである。

 ただし「ハイプレスを使うのは避けよう」という雰囲気にチームがなっているのだとしたら、「恐れることはない」と声を大にしていいたい。むしろ次の中国戦では積極的に前からプレスをかけ、相手の攻撃の芽をつむ戦い方をしたい。

 で、前でボールを取ったら、速いショートカウンターで敵を仕留める。ツータッチ以内でテンポよくパスをつなぎ、相手に守備の体勢を立て直す時間を与えない。そのまま少ない手数でゴールを取る。

 キーワードは「初心に帰れ」である。

 ハリルが掲げる(1)ハイプレスからのショートカウンター(2)ツータッチ以内の速いパス回し(3)第3の動きを入れた連動する攻めーーというスタイルは、生真面目で労を惜しまない日本人に合う。特にロシア・ワールドカップの本大会で、ヨーロッパや南米の強豪とやるときには有効だ。

 最後の中国戦。

 日本は自信をもって、今こそ「自分たちのサッカー」をしてほしい。

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