ハイプレス&ショートカウンターの「テスト」だったシリア戦
ロシアW杯・アジア2次予選最終戦。いろんな意味で「てんやわんや」だったあのシリア戦を終え、ネットコミュニティも含めて日本のサッカー界内外で、いま大論争が起こっている。
「原口をボランチに起用するとは何だ?」
「ハリルは攻守のバランスを考えてないのか?」
「なぜ格下相手に無謀な『撃ち合い』をするのか?」
「ハリルはいったい何を考えているんだ?」
今回の記事では、これら論争の疑問にズバリ結論を出そう。実はあのシリア戦は、ハイプレス&ショートカウンターの「テスト」だったのだ。
ハリルはそのための「オーガナイズ」を用意し、当初からそのつもりでシリア戦に臨んだ。そしてテストゆえ、さまざまな失敗と成功、つまり「てんやわんや」が起こった。テスト=チャレンジとは、そういうものだ。
だがあの試合はテストマッチではない。W杯予選というド本番ゆえ、監督としては口が裂けても「あれはテストでした」なんて言えない。結果、あの「てんやわんや」だったシリア戦という社会現象は人々の憶測を生み、ああでもない、こうでもないと論争を巻き起こしているーー。こういうことだ。
ハイプレス&ショートカウンターは「公約」だった
ハリルは代表監督に就任当初から、「ハイプレス&ショートカウンターのチームを作る」と公言していた。つまりタテに速く、である。その意図とは、日本は世界のサッカー界では2~3流国であり、その日本がワールドカップの本大会で勝つにはカウンターしかない、と見切ってのプランニングだったはずだ。
ところがいざアジア予選が始まりフタを開けてみると、どのチームも日本に対しリトリートでくる。あらかじめ自陣の低い位置に守備ブロックを敷き、「専守防衛」でやってくる。ところがハリルがやりたいカウンター戦術は、当然、相手が攻めて来なければ成立しない。
W杯本大会ではハイプレス&ショートカウンターで戦うのが理想だ。だがアジア予選では日本は常にその真逆の戦い方を敷いられるーー。つまり「引いた相手をどう崩すのか?」である。ここでボタンの掛けちがいが起こった。「プランとちがう」。おそらくハリルは2次予選初戦、ベタ引きで引き分けに持ち込まれたあのシンガポール戦に、2重の意味で衝撃を受けたことだろう。
「2重」とはどういう意味か? ひとつは遥か格下に勝ち点1しか取れなかったこと。そしてもうひとつは、試合内容がW杯本大会のための強化にまったく役立たなかったこと。つまり日本がハイプレス&ショートカウンターをかける展開にはならなかったことだ。
シリアは2次予選で唯一「テスト向き」だった
日本はアジア2次予選では、「引いた相手を崩す戦い」を強いられる。だが強豪ひしめくW杯の本大会で日本が勝つには、どう考えても攻め込んでくる列強国にハイプレス&ショートカウンターで挑むのがベストだーー。さて、ここでハリルのジレンマが始まった。あの長かったアジア2次予選は彼にとって、この二律背反との戦いだったにちがいない。
ところがアジア2次予選でただ一カ国だけ、日本がハイプレス&ショートカウンターを「テスト」できるチームがあった。いうまでもなくシリアである。
シリアはアジア2次予選の対戦国中、唯一、「引きこもり戦術」ではなく前に出てくるチームだ。しかも好都合なことに、日本はシリア戦を前にすでに最終予選への進出が決まっていた。かくてハリルはやっと、ハイプレス&ショートカウンターを試す機会に恵まれた。そして彼はそれを実行に移した。
スタメンの顔ぶれは本田、香川を始め、ハリルがロシアW杯の本大会で「これがレギュラーだ」とすでに決めている鉄板スタメンだ。そして戦術は、ハリルがロシアW杯本大会で「こう戦うぞ」と決めているハイプレス&ショートカウンター。かくてシリア戦は、完全なロシアW杯本大会のためのシミュレーションになったーー。これが真相だろう。
では原口のボランチ起用の意図は?
そしてハリルのテストは半分は成功し、半分は失敗した。成功とは、シリア戦の前半30分までだ。日本代表はこの時間帯、積極的に前からプレスをかけ、タテに速い攻撃で少なく見積もっても5回以上の「完全な決定機」を作った。そして失敗とは、ことごとくそのすべてで得点できなかったことだ。
後半は、見ての通りである。選手の消耗もあり、ハイプレス&ショートカウンターのシミュレーションをするというゲームプランが崩れた後半は、単なる派手な「撃ち合い」になった。
では原口のボランチ起用は、いったい何だったのか?
あのシリア戦、もとからハリルは「前から行く」つもりだった。ゆえに山口蛍が負傷退場した後半には、攻撃的な原口を「攻撃的なボランチ」として送り出した。もともと原口のボランチ起用は、「彼は真ん中でもできる」と繰り返していたハリルの腹案でもあった。つまりこれもテストだ。そして結果はあの通り、これについても半分は成功し、半分は失敗した。
日本人離れしたフィジカルとアグレッシヴさを持つ原口は、見る者をワクワクさせるような大きな可能性を示した。それほど彼のプレイはダイナミックだった。これが成功だ。そして失敗とは、原口はボランチのセオリーなど知らずやったこともないのだから、当然、ポジショ二ングはバランスを欠く。中盤に「穴」も開けた。
ではなぜハリルは半分は失敗し、半分しか成功しないような「危ないこと」をやったのか?
それはシリア戦が「テスト」だったからである。
ロシアW杯・アジア2次予選最終戦。いろんな意味で「てんやわんや」だったあのシリア戦を終え、ネットコミュニティも含めて日本のサッカー界内外で、いま大論争が起こっている。
「原口をボランチに起用するとは何だ?」
「ハリルは攻守のバランスを考えてないのか?」
「なぜ格下相手に無謀な『撃ち合い』をするのか?」
「ハリルはいったい何を考えているんだ?」
今回の記事では、これら論争の疑問にズバリ結論を出そう。実はあのシリア戦は、ハイプレス&ショートカウンターの「テスト」だったのだ。
ハリルはそのための「オーガナイズ」を用意し、当初からそのつもりでシリア戦に臨んだ。そしてテストゆえ、さまざまな失敗と成功、つまり「てんやわんや」が起こった。テスト=チャレンジとは、そういうものだ。
だがあの試合はテストマッチではない。W杯予選というド本番ゆえ、監督としては口が裂けても「あれはテストでした」なんて言えない。結果、あの「てんやわんや」だったシリア戦という社会現象は人々の憶測を生み、ああでもない、こうでもないと論争を巻き起こしているーー。こういうことだ。
ハイプレス&ショートカウンターは「公約」だった
ハリルは代表監督に就任当初から、「ハイプレス&ショートカウンターのチームを作る」と公言していた。つまりタテに速く、である。その意図とは、日本は世界のサッカー界では2~3流国であり、その日本がワールドカップの本大会で勝つにはカウンターしかない、と見切ってのプランニングだったはずだ。
ところがいざアジア予選が始まりフタを開けてみると、どのチームも日本に対しリトリートでくる。あらかじめ自陣の低い位置に守備ブロックを敷き、「専守防衛」でやってくる。ところがハリルがやりたいカウンター戦術は、当然、相手が攻めて来なければ成立しない。
W杯本大会ではハイプレス&ショートカウンターで戦うのが理想だ。だがアジア予選では日本は常にその真逆の戦い方を敷いられるーー。つまり「引いた相手をどう崩すのか?」である。ここでボタンの掛けちがいが起こった。「プランとちがう」。おそらくハリルは2次予選初戦、ベタ引きで引き分けに持ち込まれたあのシンガポール戦に、2重の意味で衝撃を受けたことだろう。
「2重」とはどういう意味か? ひとつは遥か格下に勝ち点1しか取れなかったこと。そしてもうひとつは、試合内容がW杯本大会のための強化にまったく役立たなかったこと。つまり日本がハイプレス&ショートカウンターをかける展開にはならなかったことだ。
シリアは2次予選で唯一「テスト向き」だった
日本はアジア2次予選では、「引いた相手を崩す戦い」を強いられる。だが強豪ひしめくW杯の本大会で日本が勝つには、どう考えても攻め込んでくる列強国にハイプレス&ショートカウンターで挑むのがベストだーー。さて、ここでハリルのジレンマが始まった。あの長かったアジア2次予選は彼にとって、この二律背反との戦いだったにちがいない。
ところがアジア2次予選でただ一カ国だけ、日本がハイプレス&ショートカウンターを「テスト」できるチームがあった。いうまでもなくシリアである。
シリアはアジア2次予選の対戦国中、唯一、「引きこもり戦術」ではなく前に出てくるチームだ。しかも好都合なことに、日本はシリア戦を前にすでに最終予選への進出が決まっていた。かくてハリルはやっと、ハイプレス&ショートカウンターを試す機会に恵まれた。そして彼はそれを実行に移した。
スタメンの顔ぶれは本田、香川を始め、ハリルがロシアW杯の本大会で「これがレギュラーだ」とすでに決めている鉄板スタメンだ。そして戦術は、ハリルがロシアW杯本大会で「こう戦うぞ」と決めているハイプレス&ショートカウンター。かくてシリア戦は、完全なロシアW杯本大会のためのシミュレーションになったーー。これが真相だろう。
では原口のボランチ起用の意図は?
そしてハリルのテストは半分は成功し、半分は失敗した。成功とは、シリア戦の前半30分までだ。日本代表はこの時間帯、積極的に前からプレスをかけ、タテに速い攻撃で少なく見積もっても5回以上の「完全な決定機」を作った。そして失敗とは、ことごとくそのすべてで得点できなかったことだ。
後半は、見ての通りである。選手の消耗もあり、ハイプレス&ショートカウンターのシミュレーションをするというゲームプランが崩れた後半は、単なる派手な「撃ち合い」になった。
では原口のボランチ起用は、いったい何だったのか?
あのシリア戦、もとからハリルは「前から行く」つもりだった。ゆえに山口蛍が負傷退場した後半には、攻撃的な原口を「攻撃的なボランチ」として送り出した。もともと原口のボランチ起用は、「彼は真ん中でもできる」と繰り返していたハリルの腹案でもあった。つまりこれもテストだ。そして結果はあの通り、これについても半分は成功し、半分は失敗した。
日本人離れしたフィジカルとアグレッシヴさを持つ原口は、見る者をワクワクさせるような大きな可能性を示した。それほど彼のプレイはダイナミックだった。これが成功だ。そして失敗とは、原口はボランチのセオリーなど知らずやったこともないのだから、当然、ポジショ二ングはバランスを欠く。中盤に「穴」も開けた。
ではなぜハリルは半分は失敗し、半分しか成功しないような「危ないこと」をやったのか?
それはシリア戦が「テスト」だったからである。