モアノー探偵事務所 万引き! 安子ばぁちゃんが?
ハルさんとマルコスーパーの店長に誓って安子ばぁちゃんはもう2度とこんな問題は起こさないと自分にも誓った。
3週間ほどして久しぶりにマルコスーパーに行ったその日、安子ばぁちゃんはチョコバーを万引してしまったのだ。
スーパーの奥の事務所で安子ばぁちゃんは「なんで、なんで」と自分を責めていた。
そして駆けつけた巡査に安子ばぁちゃんは言った。
孫にチョコバーを買っておかけなければ・・・と思って、チョコバーを持ったのですが、その後のことを覚えていなくて・・・・
事務所にいた人は皆顔を見合わせた。
もう夕方で安子ばぁちゃんが逃げ出すこともなかろうとひとまず安子ばぁちゃんは家に帰ってもいいことになった。
その夕方、ケンちゃんはおかあさんに言われて、キャベツと鶏のササミの酒蒸しのサラダと桜餅を安子ばぁちゃんに届けに来た。
家の中は暗く、玄関の戸をたたいても何の反応もなかった。
そこに止まったのがパトカーだった。
中から安子ばぁちゃんが下りてきた。
ケンちゃんは安子ばぁちゃんの具合でも悪くなったかと思った。
でもお巡りさんが「ではまた明日お話を伺いますので」と言って去ったのを見て、ケンちゃんの胸はツキとした。
ケンちゃんは門の横の木の後の隠れた。
安子ばぁちゃんが中に入ってちょっと経ってからケンちゃんは今着いたように「こんばんは」と声をかけた。
ケンちゃんはこれ母が作ったサラダです。 届けるように言われて・・・・・
と包みを渡した。
安子ばぁちゃんは 「まあ、ご苦労様」 と包みを受け取って「もう暗いから気をつけて帰ってね。おかあさんによろしくお伝えください。 後で電話します。」
ケンちゃんは安子ばぁちゃんの顔も見ずにペコンと頭を下げて走りさった。
ケンちゃんは家につくと見たことを全部おかあさんに話した・
安子ばぁちゃんはまたやったのかしら?
ケンちゃんの曇った顔つきを見て、おかあさんは
まだ何もわからないのだから、悪いほうに想像をめぐらせては駄目よ と言った。
ケンちゃんが席をはずしてからケンちゃん母はハルさんに電話した。
ハルさんはマルコの店長に電話して何があったか確かめた。
安子ばぁちゃんは本当に孫のためにって言ったのですか?
孫はみんな大きくて、チョコバーを買っておく必要なんてないのに。
そう言われてマルコの店長も「もっともだ」とつぶやいた。
店長、私、安子ばぁちゃんを医者に連れていきたいの。 何かおかしいわ。警察に頼んでくれるかしら?
もしかしたら認知症?
警察はハルさんが医者に行くことを条件に待ってくれることなった。
医者に行くタクシーのなかで安子ばぁちゃんはハルさんに言い出した。
ハルさん、実はね、私も医者に行こうかと考えていたのよ。
チョコバーを見るとまるで誰かに操れるみたいに手がでるの。・・・・でもその後は思い出せなくて・・・・
安子ばぁちゃんの声が震えた。
だって正一はもう二十・・・いくつだったかしら。
正一にチョコバーを買っていたのは20年以上前の話よ。
ハルさんは気の毒そうに安子ばぁちゃんを見た。
ハルさんが安子ばぁちゃんを連れて行った医者は沢村良子先生と言って心療内科の先生だった。
沢村先生は安子ばぁちゃんより若かったけれど、前髪の半分以上が真っ白で、縁なしのメガネをかけていた。
予約のときの感じよりずっと若く見えるとハルさんは思った。
待合室には誰もいなかった。
受付の看護婦さんは40前後のどこかのおばさんという感じの暖かい感じだった。
二人はすぐに診察室に通された。
沢村先生は一応の問診をしてから家族構成も聞いた。
それから話は少しずつ問題点に移っていき、
安子ばぁちゃんは
息子は失業して親の家にしばらく居候した話をした。
親はすでに年金生活だったけれど、全力で息子の家族をサポートしたのだ。
しかし、孫の正一が望むようにはお菓子なの買ってやれなかった。
しかし、正一は物わかりの良い子で、チョコバーをねだってはいけないのだと理解していたのだ。
それが安子ばぁちゃんには不憫でならなかった。
1年も経ないで息子は仕事を見つけた。
そして北海道に一家を連れて行ってしまったのだ。
正一は大学を出てアメリカに行ってしまい、息子夫婦は大好きになった北海道にそのまま住んでいる。
数年前、正一は一時帰国して安子ばぁちゃんに会いに来たのだ。
そして一緒にスーパーに行った。
正一は陽気にチョコバーをねだれなかったことなんかを話たのだけど、それが安子ばぁちゃんの心にひっかかった。
ちょうどそんなころ、ケンちゃんとスーパーで会った。
ケンちゃんはもう中学生だったけれど、彼がチョコバーが大好きと言いながらいくつか買い込んだのを見たときから安子ばぁちゃんは乱れた。
沢村先生はうなずきながらメモしていた。
それから言った。
安子さん、大丈夫ですよ。 認知症でもないし、ただちょっと昔の悔いが頭を持ち上げているのでしょう。
これは私の提案ですよ。
お孫さんの正一さんに懺悔するのはどうでしょう。
心配をかけすぎないように、手紙で自分のやってしまったことを話してみましょう。
正一さんはとても賢いお子さんで、親が祖父母の家に居候していたことを理解していたのです。
幼いながらそれ以上祖父母に負担をかけてはいけないとわかっていたのです。
しかも正一さんはそれを覚えていて、それが彼にはある意味良い思い出になっているのです。
悩んでいるのは、安子さん、あなただけなんですよ。
安子ばぁちゃんはハッとした。
そして亡くなったご主人の「頭を切り替えて」のアドバイスを何十年ぶりかに思い出したのだ。
安子ばぁちゃんは安堵の笑みを浮かべた・・・けど、目に涙が浮かんだ。
そして言った。 私、頭を切り替えます。
支払をすませると、安子ばぁちゃんとハルさんは外に出た。
そこは入口とは違うドアだった。
戸惑って振り返ると、事務員が言った。
うちの先生は患者さんのプライバシーを守るために患者さんがすれ違わないようにしています。
廊下をでると入口の隣に出ますよ。
ハルさんが外に出て最初に見たのはスズメだった。
あれ、チュン太?
電線のスズメはさっと姿を消した。
途中のタクシーの中でハルさんは植え込みに止まっているスズメを気がついた。
あれ、チュン太?
タクシーが安子さんの家の前に止まった。
安子さんを下ろし、清算してからタクシーを降りたハルさんが最初に見たのは門の上にいたチュン太だった。
ハルさんは「ただいま、チュン太」と言った。
ハルさんの疲れがアッと言う間に消え去ったのは言うまでもないことである。
筆者のメモ
5月にこの章を書き始めたけど、ペンディングになっていた。
毎日いくつもを投稿するのでつい後回しになってしまった。
もっとひどい万引事件を書きたかったのだけど、私の周囲にはそういう話題がなく、想像だけでは書く技術が足りなかった。
この章はモアノー探偵事務所 万引き! 安子ばぁちゃんが?の第4話になる。
ハルさんとマルコスーパーの店長に誓って安子ばぁちゃんはもう2度とこんな問題は起こさないと自分にも誓った。
3週間ほどして久しぶりにマルコスーパーに行ったその日、安子ばぁちゃんはチョコバーを万引してしまったのだ。
スーパーの奥の事務所で安子ばぁちゃんは「なんで、なんで」と自分を責めていた。
そして駆けつけた巡査に安子ばぁちゃんは言った。
孫にチョコバーを買っておかけなければ・・・と思って、チョコバーを持ったのですが、その後のことを覚えていなくて・・・・
事務所にいた人は皆顔を見合わせた。
もう夕方で安子ばぁちゃんが逃げ出すこともなかろうとひとまず安子ばぁちゃんは家に帰ってもいいことになった。
その夕方、ケンちゃんはおかあさんに言われて、キャベツと鶏のササミの酒蒸しのサラダと桜餅を安子ばぁちゃんに届けに来た。
家の中は暗く、玄関の戸をたたいても何の反応もなかった。
そこに止まったのがパトカーだった。
中から安子ばぁちゃんが下りてきた。
ケンちゃんは安子ばぁちゃんの具合でも悪くなったかと思った。
でもお巡りさんが「ではまた明日お話を伺いますので」と言って去ったのを見て、ケンちゃんの胸はツキとした。
ケンちゃんは門の横の木の後の隠れた。
安子ばぁちゃんが中に入ってちょっと経ってからケンちゃんは今着いたように「こんばんは」と声をかけた。
ケンちゃんはこれ母が作ったサラダです。 届けるように言われて・・・・・
と包みを渡した。
安子ばぁちゃんは 「まあ、ご苦労様」 と包みを受け取って「もう暗いから気をつけて帰ってね。おかあさんによろしくお伝えください。 後で電話します。」
ケンちゃんは安子ばぁちゃんの顔も見ずにペコンと頭を下げて走りさった。
ケンちゃんは家につくと見たことを全部おかあさんに話した・
安子ばぁちゃんはまたやったのかしら?
ケンちゃんの曇った顔つきを見て、おかあさんは
まだ何もわからないのだから、悪いほうに想像をめぐらせては駄目よ と言った。
ケンちゃんが席をはずしてからケンちゃん母はハルさんに電話した。
ハルさんはマルコの店長に電話して何があったか確かめた。
安子ばぁちゃんは本当に孫のためにって言ったのですか?
孫はみんな大きくて、チョコバーを買っておく必要なんてないのに。
そう言われてマルコの店長も「もっともだ」とつぶやいた。
店長、私、安子ばぁちゃんを医者に連れていきたいの。 何かおかしいわ。警察に頼んでくれるかしら?
もしかしたら認知症?
警察はハルさんが医者に行くことを条件に待ってくれることなった。
医者に行くタクシーのなかで安子ばぁちゃんはハルさんに言い出した。
ハルさん、実はね、私も医者に行こうかと考えていたのよ。
チョコバーを見るとまるで誰かに操れるみたいに手がでるの。・・・・でもその後は思い出せなくて・・・・
安子ばぁちゃんの声が震えた。
だって正一はもう二十・・・いくつだったかしら。
正一にチョコバーを買っていたのは20年以上前の話よ。
ハルさんは気の毒そうに安子ばぁちゃんを見た。
ハルさんが安子ばぁちゃんを連れて行った医者は沢村良子先生と言って心療内科の先生だった。
沢村先生は安子ばぁちゃんより若かったけれど、前髪の半分以上が真っ白で、縁なしのメガネをかけていた。
予約のときの感じよりずっと若く見えるとハルさんは思った。
待合室には誰もいなかった。
受付の看護婦さんは40前後のどこかのおばさんという感じの暖かい感じだった。
二人はすぐに診察室に通された。
沢村先生は一応の問診をしてから家族構成も聞いた。
それから話は少しずつ問題点に移っていき、
安子ばぁちゃんは
息子は失業して親の家にしばらく居候した話をした。
親はすでに年金生活だったけれど、全力で息子の家族をサポートしたのだ。
しかし、孫の正一が望むようにはお菓子なの買ってやれなかった。
しかし、正一は物わかりの良い子で、チョコバーをねだってはいけないのだと理解していたのだ。
それが安子ばぁちゃんには不憫でならなかった。
1年も経ないで息子は仕事を見つけた。
そして北海道に一家を連れて行ってしまったのだ。
正一は大学を出てアメリカに行ってしまい、息子夫婦は大好きになった北海道にそのまま住んでいる。
数年前、正一は一時帰国して安子ばぁちゃんに会いに来たのだ。
そして一緒にスーパーに行った。
正一は陽気にチョコバーをねだれなかったことなんかを話たのだけど、それが安子ばぁちゃんの心にひっかかった。
ちょうどそんなころ、ケンちゃんとスーパーで会った。
ケンちゃんはもう中学生だったけれど、彼がチョコバーが大好きと言いながらいくつか買い込んだのを見たときから安子ばぁちゃんは乱れた。
沢村先生はうなずきながらメモしていた。
それから言った。
安子さん、大丈夫ですよ。 認知症でもないし、ただちょっと昔の悔いが頭を持ち上げているのでしょう。
これは私の提案ですよ。
お孫さんの正一さんに懺悔するのはどうでしょう。
心配をかけすぎないように、手紙で自分のやってしまったことを話してみましょう。
正一さんはとても賢いお子さんで、親が祖父母の家に居候していたことを理解していたのです。
幼いながらそれ以上祖父母に負担をかけてはいけないとわかっていたのです。
しかも正一さんはそれを覚えていて、それが彼にはある意味良い思い出になっているのです。
悩んでいるのは、安子さん、あなただけなんですよ。
安子ばぁちゃんはハッとした。
そして亡くなったご主人の「頭を切り替えて」のアドバイスを何十年ぶりかに思い出したのだ。
安子ばぁちゃんは安堵の笑みを浮かべた・・・けど、目に涙が浮かんだ。
そして言った。 私、頭を切り替えます。
支払をすませると、安子ばぁちゃんとハルさんは外に出た。
そこは入口とは違うドアだった。
戸惑って振り返ると、事務員が言った。
うちの先生は患者さんのプライバシーを守るために患者さんがすれ違わないようにしています。
廊下をでると入口の隣に出ますよ。
ハルさんが外に出て最初に見たのはスズメだった。
あれ、チュン太?
電線のスズメはさっと姿を消した。
途中のタクシーの中でハルさんは植え込みに止まっているスズメを気がついた。
あれ、チュン太?
タクシーが安子さんの家の前に止まった。
安子さんを下ろし、清算してからタクシーを降りたハルさんが最初に見たのは門の上にいたチュン太だった。
ハルさんは「ただいま、チュン太」と言った。
ハルさんの疲れがアッと言う間に消え去ったのは言うまでもないことである。
筆者のメモ
5月にこの章を書き始めたけど、ペンディングになっていた。
毎日いくつもを投稿するのでつい後回しになってしまった。
もっとひどい万引事件を書きたかったのだけど、私の周囲にはそういう話題がなく、想像だけでは書く技術が足りなかった。
この章はモアノー探偵事務所 万引き! 安子ばぁちゃんが?の第4話になる。