2/26 あれはいつだった? 第38話
旭は一人になると直子を思った。
あの指輪を渡したときプロポーズすべきだった。
何度もあの日を呪った。
なんで、なんでプロポーズしなかったんだろう?
妻なら、せめてフィアンセなら殺すなんてしなかっただろう・・・・
指輪、返すんじゃなかった。
俺って、俺って馬鹿、自分をののしった。
直子に会いたかった。
側にいてほしかった。
旭の横に寝そべって、猫みたいに体をすり寄せてきて
顔を旭の首すじ・肩にうめて、
きょうはネーといろんなことを話してくれた。
それは旭にとって大きな癒しだった。
あれはある日曜日、旭の部屋だった。
旭はバスローブを着て黒皮のソファに座っていた。
日差しが部屋の中まで入ってきていた。
直子は昨日つけてやった宝石をちりばめた首輪をしていた。
それは旭が某宝石店に特注した首輪だった。
旭の好きな腰がすっぽり隠れる長い真っ白な上着。
そしてお揃いのパンツ。
直子はそれを素肌につけていた。
旭は両腕を広げておいでサインを出した。
直子はにっこりして、ゆっくり来ると旭の前にひざまずいて座った。
旭は直子の両肩をもって引き寄せてから
足を開くと、頭を両手でつかみ自分の股間に引き寄せた。
直子は一瞬ビクとしたけど、されるがままに顔をうずめた。
な・お・こ な・お・こ
旭は目を閉じて小さい声で直子を連呼した。
なんであんなことを
旭の目じりから涙が流れた。
旭はどうしようもないほどを悔いていた。
あの日から3-4か月、もう少し経っているかも。
夜寝る前のニュースで身元不明の白骨死体が発見されたと
テレビでやっていた。
旭は気にしなかった。
ベッドに横になって、ウイスキーの水割りにさらに
氷の大きな塊を入れて飲んでいたところだ。
〇x〇△ホテルと聞こえた。
旭はテレビを振り返ってみた。
文字のバックにあのホテルが写っていた。
旭は起き上がって、ベッドに腰掛け、それからもう一度横になった。
心臓がバクバクしていた。
旭は仕事のほかは外出しなくなった。
久子はフランスの夫のもとに帰ってしまっていた。
旭には他に気楽に話せる友達はいなかった。
旭は恵まれた家庭で、同級生がうらやむ生活をしていた。
ただ旭はそんなことは気がつかなかった。
両親はやっと生まれた男子に、駄目ということはまずなかった。
旭は遊び仲間の欲しがるものまで親にねだって
そして手に入れた。
旭の立場は悪用されてもなにも不思議はなかったのだが
旭の人の好さだけでなく、勉学の成績の良さ
運動能力にもたけて尊敬される子供だったから
仲間外れにされたり、いじめられることはなかった。
でも絶対に旭のためならという友人ができなかった。
旭はどうしてだろうと自問した。
結論はでなかった。
それが何か変わってきた。
あれはいつだった?
旭はアルバイトをしたことがなかった。
研修や実習止まりだった。
旭は物欲が少なく、金をほしいと思うことがなかった。
教授の推薦で入った企業で、旭はトントン拍子に出世した。
旭は祖父のそして父の継いだ企業に入ることを断った。
教授の推薦してくれた会社の人たちはみな親切で、協力的にみえた。
しかしながら同僚だけでなく、旭は社内の先輩社員にも嫉妬されていた。
旭の足を引っ張る用意を誰もがしていた。
旭の並外れた勘が旭を守ってきた。
これまでは・・・・・
旭は疲れていた。
上司に相談して、比較的暇な月にまとめてたまっていた
有休を10日ほど取らせてもらった。
どこに行くという計画もなかった。
退社後、旭は大きなスーパーで保存食をかなりまとめて購入した。
旭は家に引きこもるつもりだった。
誰でもいい、昔の友達に会いたかったけれど
同時に一人にもなりたかった。
マンションに着くと、力を振り絞って購入した食品を冷凍庫や冷蔵庫に
詰めた。
それからウイスキーの氷・水わりを大き目のコップに作って
テレビをつけてから、ベランダ際のソファに行くと一口飲んで横になった。
横になるなり旭は寝込んだ。
旭が目覚めたのは5時少し前だった。
時間を知って旭はあわててテレビを消した。
何してんだ、俺?
それから会社に行かなくてもいいんだとつぶやいた。
うれしかった。