■脳の発達障害の原因がわかった例 脳の発達障害の原因がはっきりとわかった有名な例は、アルプスの谷の発達障害として有名な重い精神遅滞を伴うクレチン症です。原因不明だった時には遺伝説がささやかれました。1950年代になって、このクレチン症の原因は、環境中のヨード゛が欠乏し、ヨードを成分とする甲状腺ホルモンが母体、胎児に不足し、子どもの脳の機能発達に障害が起こったためと判りました。遺伝子が正常でも、環境中の化学物質の異常により発達障害が起こるという例です。 複雑な原因を持つ病気(多因子疾患)の原因研究は困難で、一般に研究が少なく、いまだに不明のものが多いのです。他の因子と複雑にからみあい、化学物質だけでもさまざまなものを既に取り込んでいます。脳の発達障害の原因研究は最も困難なものの1つで、ようやく進歩し始めた段階です。はっきりした結論が出たら対処しようというのではなく、予防原則が重要です。 環境ホルモンは遺伝子発現を攪乱するので、広範囲の悪影響をもちます。生殖系、脳神経系のほかに、免疫系も影響を受けます。遺伝子発現は免疫系をつくりあげる時にも、免疫系のシステムが一生機能していくのにも重要です。 脳の働きに対して化学物質の悪影響があるというのは、脳の働きの基本的な部分で、頭を使う時に何十種類という化学物質(正常な脳の働きに必要な物質で、グルタミン酸、ドーパミン、ギャバなど)が電気の情報を一度化学物質にかえて情報のやりとりをしているのです。ですから、もしグルタミン酸と似た人工の化学物質(正常ではない物質)が脳の中に入ってくると情報伝達がおかしくなってしまいます脳を働かせている時に使っているのはすべて化学物質なので、能力的には無限大であるけれども化学物質には弱い面があります。特に、今まで脳の中に入ったことのない人工の化学物質には大変弱いのです。 このように、脳の本質的な所には化学物質が働いている、だから脳の中に似たような人工の化学物質が入ると悪いことが起こるということは、まだ一般的に知られていません。 問題の解決には、みんなで健全な知恵を働かせていただいて、こういう種類の化学物質はいらない、使わないという行動を通して変えていくより仕方がないと思います。 日本人の一般男女の総PCB血中濃度は平均650pg/g(単純換算濃度:1.6nM)で、現在でも最小毒性濃度より高いことが分かっています。 値は個人によってばらつきがあるので、値が高い人、感受性が高い人は注意が必要です。 リスク評価において、従来の毒性学は致死率をターゲットにしてきたので、今問題になっている発達障害、うつ病、アレルギーなど死なない毒性に対するリスク評価がひじょうに甘くなっているのです。 天然にも毒物はありますので、進化の過程で化学毒性物質に対する防御システムができたヒトを含む生物の系統だけが、生き残っているのです(肝臓の解毒システムや脳を守る血液脳関門)。何が危ないか、天然の毒物の知識はどの民族でも豊富です。それに対して、ここ50年で新しく生じた人工の毒物に対しては、人体は一般に防御できないのです。そのため、新しい病気や障害が増えています。
クレチン症は甲状腺ホルモンの異常とわかり、新生児検診でホルモン量を検査し、早期発見が可能となり、ホルモン剤で治療、障害は起きなくなりました。環境因子が原因である場合、発達障害でも予防や治療は可能なのです。
花粉症が増えていますが、人類は長い間杉の花粉に曝露されてきたのだから、杉の花粉でこんなにアレルギーが増えるわけがありません。免疫系の仕組みがおかしくなっているからではないかと考えられます。