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JKビジネス「やっちゃダメ」 より「買っちゃダメ」

2017年08月01日 | 社会・経済

情報・知識&オピニオン imidas  2017/7/26

      仁藤夢乃“ここがおかしい”第18回

 東京都の危険啓発サイトに疑問

  2017年7月1日、18歳未満の女子高生などに男性客の接待をさせる、いわゆる「JKビジネス」を禁止する東京都条例「特定異性接客営業等の規制に関する条例」(JKビジネス規制条例)が施行された。

 これに合わせて都は危険啓発サイト「STOP JKビジネス!」(http://www.stop-jk-business.tokyo/)を公開。小池百合子都知事は定例会見で、JKビジネスによる性被害が問題となっていることを挙げ、「女子高生をはじめとした青少年に向けて、情報発信を強化する取り組み」として、このサイトを紹介した。

 

 女子高生に人気のファッションモデル、タレントの藤田ニコルさんを起用し、「ほんっとに、ヤバイよ。そのバイト。」をキャッチコピーに、彼女からのメッセージを発信するというもので、都のホームページやツイッターを使って広く告知を行い、このサイトのリーフレットは学校を通じて都内のすべての高校生に配布すると発表した。
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 小池知事は、このサイトを通して「友だちとSNSで情報共有し、互いに注意喚起し合う機会になれば」とか、「(被害に遭うと)将来の不安がずっと残るのだということをよく理解してもらいたい」「こうした取り組みを通じて、性被害から自分自身の身を守る力をつけてほしい」などとも話した。

 しかし、この啓発サイトは「ずれまくっている」と私は思った。

 「ダメ、絶対」的な啓発は逆効果

   公開されたサイトを見ると、「JKビジネスはハマると危険なコワイ沼」「ほんっとに、ヤバイよ。そのバイト。」「絶対、やっちゃダメ。」などのコピーが並ぶ。
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 しかし本連載の前回で対談した精神科医の松本俊彦先生の話にもあったように、薬物依存などと同じで、「ダメ、絶対」的な啓発は当事者を追い詰めるだけだ(17年6月22日、対談! 10代のあなたへ)。家庭や学校生活に困難を抱えていなかったり、自分を大切にしたいと思っている人に「危ないんだな」と感じさせる効果はあるかもしれないが、そもそもそうした人はJKビジネスなどに関わる可能性は低い。

 一方、実際にそこで苦しんでいる子は、「やっちゃダメ」と言われれば言われるほどSOSを出しにくくなる。つまり、まったく逆効果だ。

「藤田ニコルは許さない!」とも書かれているが、サイト内で「ヤバイ」とするJKビジネスのバイトをしたら許さない、という意味なのだろう。女子高生に対して、10代のニコルさんに「許さない」と言わせ、少女たちを「JKビジネスに関わる人」とそうでない人に二分していることにも危機感を覚える。JKビジネスに取り込まれる人の中には、家庭や学校で孤立を感じている人も多いが、こうしたメッセージは友人関係の中でJKビジネスに関わる人がいた時に、その人をコミュニティーから排除することにもつながり、さらなる被害へのリスクを高めるからだ。

 子どもを騙したり、巧みに誘惑する手口が横行している中にもかかわらず、こんな啓発のやり方をしていたら、被害に遭った時、子どもたちは「悪いことをしてしまった」と自分を責めることになるだろう。

 サイトには、「JKビジネスは、青少年と性犯罪被害をつなげるものです」と書いてあるのに、JKビジネスに取り込もうとする大人たちの具体的な手口は紹介されておらず、被害に遭った時の相談先についての情報も不十分。あちらこちらをクリックして、匿名で相談できるサイトが小さく紹介してあるのをようやく見つけることができた。

 子どもを脅し、責任を押し付ける

  さらに、このサイトでは「お金と引き換えに失うものは大きいよ…!」「商品(モノ)扱いされて嫌じゃないの!?」などと呼びかけている。お金に困って関わる人がいることを把握しているのなら、そういう時にはどうしたらいいかを教えるべきだ。しかも女子高生の性を商品化しているのは大人たちなのに、少女の性をモノ扱いし、商品化を容認してきた人の責任については一切書かれていない。ただ「ストップ!」とだけ言う東京都、無責任すぎる。
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?「断らないと、友達減るより怖いことに巻き込まれるよ!」「後から後悔しても、なかったことにできないんだよ?」「ほんとにヤバかった子は言えないんだよ…!」「利用されてるだけだよ!」とも書いてある。必要なのは、こんな脅しをすることではなく、友だちに誘われたらどうしたらよいか、もし被害に遭ったらどうしたらよいかを教えることである。??

 大切なのは、困った時に信頼がおける大人に相談できるようにすることであり、大人たちには子どもが相談しやすい環境づくりをする責任がある。これでは「足を踏み入れたあなたが悪い」と言っているのと同じで、被害者はますます声を上げられなくなる。

 少女を利用しようとする人がいることや、被害に遭った人が声を上げたり、助けを求められないことが多いのを把握しているのなら、どうしてこんなサイトを作ったのかと疑問が湧くばかりである。?

 性犯罪の被害者の多くは、「抵抗できなかった」と自分を責める。抵抗できない状況を加害者が用意したり、加害者との支配的な関係性の中で抵抗できなかったり、命だけは守るという本能が働いて抵抗しないこともある。

「もし被害に遭っても、あなたは悪くないよ。ちゃんと大人が守るから」と伝え、支えていくのが大人の責任ではないか。万一、JKビジネスに関わって困っていることを誰かに打ち明けられたら、「そんなことしちゃダメ」「危ないってわからなかったの?」「もうしないって約束して」などという気持ちを押し付けるのではなく、「話してくれてよかった」と伝えてほしい。その上で、どのような経緯や理由でそこにかかわったのか、背景に目を向けながらその子の安全や安心をどう作っていくかを考えてほしい。

 子どものケアと加害防止策が欠如

  JKビジネスは、女子高生という商品を「売りたい大人」と「買いたい大人」との需要と供給によって成り立ち、子どもたちが商品化されているのが現状である。需要を絶たない限り、供給する側はどんな手を使ってでも売ろうとするだろう。都のサイトには「JKビジネスはハマると危険なコワイ沼」「ドロ沼にハマるな!」とも書かれているが、その沼を作り、巧みに中高生を誘っているのは大人だ。売り買いする大人に目を向け、「売っちゃダメ」「買っちゃダメ」「性犯罪や、子どもの性の商品化を許さない!」と書くべきだ。

 さらには、「すぐそこのリスク JKビジネスに関連する被害事例」として、淫行(性交渉)、強制わいせつ、児童買春、ストーカーなどの被害があり、法律違反などにつながるともある。「将来のリスク」としては「売春や危険ドラッグにつながる」「進学や就職に悪影響」とし、「危ない商売はつながってる」「やりたいこと できなくなるかも」「そんなつもりじゃなかったのに」などと書いてある。
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 売春や危険ドラッグにつながっていることがわかっているなら、子どもに「性被害から自分自身の身を守る力をつけてほしい」なんて無責任なことを言わずに、まず子どもを売り買いする人に対して啓発しなければ。性犯罪被害に遭うことで進学や就職に悪影響が出たり、将来やりたいことができなくなる危険性があるような社会であることを認めるのなら、被害者のケアに力を入れたり、世の中の偏見をなくすための発信が求められよう。

 子どもを脅すことに税金を使うのではなく、少女を売り買いする大人の側にこそ「お金と引き換えに子どもの性を売り買いしていいの?」「少女の性をモノ扱いしていいの?」「友だちや家族や会社に話せるの? 犯罪だよ?」「後から後悔しても、無かったことにできないんだよ?」と言い、条例や法律に違反することを啓発してほしい。「JKビジネスで女子高生を買うことは人身取引です。子どもへの性暴力は犯罪です」という啓発サイトを作って、大人たちにこそリーフレットを配るべきだ

 しかし今回施行されたJKビジネス規制条例でも、買う側への規制や少女へのケア、被害に遭った時にどうすればよいか、また加害者にならないための教育についての視点は欠けており、営業を届出制にしたり、少女の補導に力を入れ、警察が従業員名簿をチェックするなど、女性に対する取り締まりばかり強化されている。

 「リアルJK」でなければ解決か?

   そんな中、警視庁は「STOP? リアルJK」という、ショッキングなコピーのパンフレットを製作した。JKビジネスの問題の本質は「本物の女子高生が被害に遭っているかどうか」ではないのに、これでは「リアルJK」でなければ18歳未満でも問題ない、と堂々と言っているようなものだ。
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 問題の本質は、国連やアメリカ国務省が日本の人身取引に関して報告書で指摘するように、貧困や虐待などで孤立したり騙されたりした少女たちが、手を差し伸べるふりをした大人によって取り込まれ、被害に遭う搾取や暴力の構造があることや、女子高生を「JK」という記号で性的に価値の高いものとしてブランド化し、商品化し消費する社会そのものにある。そのことに目を向けなければ現状は変わらない。

 私はこれまで、JKビジネスに取り込まれた中高生120人以上と関わり、支援してきた。自著『女子高生の裏社会』(14年、光文社?)で、JKビジネスの実態をまとめることもした。国連やアメリカ国務省の調査に当事者たちと共に協力し、15年には東京都の青少年問題協議会委員になり、都の子ども支援に関する方針をまとめた「東京都子供・若者計画」にJKビジネスの危険啓発や対策について、意見を入れることができた。国会議員などとの意見交換や情報交換も行い、17年になってようやく自民党も「女性活躍・子育て・幼児教育プロジェクトチーム」などの勉強会に呼んでくれて、条例制定まで来たと思っていた。?

 しかし条例の検討会には、中高生に現場で関わっている支援団体のメンバーは入っていない。そのせいか、取り込む側の手口や買う側への視点、被害児童へのケアの視点が不足し、子どもの取り締まりばかりが強まるような条例になっていることにがっかりしている。??

 また、内閣府と警察庁は17年7月を青少年の非行・被害防止全国強調月間とし、こんなポスターを製作した(http://www8.cao.go.jp/youth/ikusei/h29hikokyo.html)。{1718BECF-550C-4DD8-BA3B-BAF274D9913A}ファッションモデル、タレントの岡田結実さんがにっこり笑いながらこちらを向き、真ん中に「#はしゃぎ過ぎダメ」という啓発コピーが大きく入っている。さらに「危険はあなたの身近なところに潜んでいます!!」「#出会い系 #JKビジネス #援助交際 #ポルノ #ストーカー #ドラック #お酒 タバコ #いじめ #夜遊び #万引き #振り込め詐欺 #まず相談」と書いてある。

「なんのポスターだよ?」と思った。清楚で若い女性モデルを使って目を引かせ、「ダメ」を言わせていることがまずひどい。女性の商品化を国や警察が率先して行っているようなものだ。

 それに子どもたちが性犯罪被害に遭うのは、決して「はしゃぎ過ぎている」からだけではない。「ダメ」は加害者に対して言うべきだ。買春容疑で逮捕・連行されるおじさんや男子大学生の姿をポスターにしたら、効果があるはずだ。ドラックや酒・タバコへの依存、万引き、詐欺の手伝い、夜遊びと呼ばれるような非行や深夜徘徊についても、貧困や虐待や孤立や不安が背景にあることがほとんどだ。いじめの多くも「はしゃぎ過ぎ」が原因ではないのに、どうしてこんな決めつけ方をするのだろう? 青少年の自己責任ということにしたいのか?

「#まず相談」とあるが、こんな発信をしておいて「相談したい」と思われると本気で思っているのだろうか。

 JKビジネスが「日本における人身取引」と、世界から指摘されるのはなぜなのか。搾取の構造や暴力には目を向けることなく、子どもに責任を押し付ける大人たちによって物ごとが決められ、処理され、切り捨てられていく現実に絶望しそうになる。こうして、いちいち説明を繰り返さなければならないことにも疲れてくる。?

 それでも声を上げ続けなければ、現状は悪化するばかりである。読者のみなさんも一緒に考え続けて、声を上げてほしい。それが、子どもの性の商品化を許さない社会をつくるために必要なことなのだ。


8月です。
終戦の8月。
2発の原子爆弾が広島・長崎に落とされた8月。
国民がこぞって戦争と平和について考える8月です。
メディアも様々な角度から取り上げると思います。
先祖を供養しつつ、戦争と平和について考える8月にしましょう。