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何としても阻止したい「働かせ方」改革法案

2018年06月03日 | 社会・経済

年収400万円も狙う「高プロ」の罠

戸舘 圭之 - 東洋経済オンライン - 2018年6月3日

   安倍晋三政権が今国会での成立を目指している、いわゆる「働き方改革法案」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)が5月31日に衆院を通過した。週明けの6月4日にも、参院で審議入りする。

 今回の働き方改革法案は、多くの法律改正をまとめて1本の法律としており、それぞれの法改正の評価はさまざまだが、中でも議論を呼んでいるのが「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」だ。

 正確には、労働基準法改正案41条の2でうたわれている「特定高度専門業務・成果型労働制」を指す。一定の年収要件を満たす一部の労働者について、労基法が定める労働時間規制(労働基準法第4章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定)をすべて適用しないとする制度である。同時に、使用者には、労働者へ104日の休日付与と一定の健康確保措置を講じる義務が課されることになっている。

 高プロは労基法32条が定めている1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないという規制が適用されない。つまり、法律上の規制は1日何時間でも働かせてもよいということになる。

 使用者は、労働者がいくら長時間労働をしても残業代支払い義務がなくなる。深夜労働をした場合の割増賃金も発生しない。この点が、いわゆる管理監督者とは異なる。管理監督者の場合は、深夜労働をした場合の割増賃金の支払いに関する規定は適用除外とはなっていないからだ(労働基準法41条3号)。

 高プロについて一部報道などでは、「時間ではなく成果に応じて賃金を定める制度」などと表現されることもあるが、実際の法律案にはそのような内容は一切含まれていない。そもそも成果に応じた賃金制度は現在でも多くの企業で導入している。

 高プロ制度を導入するためには年収要件を満たした労働者でなければならないといわれており、ちまたでは「年収1075万円以上」の労働者が対象であると言われている。

 「年収1000万円プレーヤーの話だから自分には関係ない」と思うビジネスパーソンが大半かもしれない。確かに現時点ではそうかもしれない。たとえば東洋経済オンラインが独自推計した「40歳年収『全国トップ500社』ランキング」(2017年10月26日配信)で見ると、40歳で年収1075万円以上をもらっていると推計される上場企業社員は21社しかない。集計対象である全上場企業約3600社の1%未満だ。今回の高プロ制度で対象になりそうな労働者は多めに見積もっても全体のせいぜい1割に満たないと考えていいだろう。

実は年収要件の具体的な数字は一切書かれていない

  一方で、あまり知られていないが、法律の条文上は高プロの年収要件が1075万円などという具体的な数字は一切書かれていない

少し専門的になるが、法案の条文を引用しよう。

「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう)の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること」(労基法改正案41条の2第1項2号ロ)

このように、一定の統計に基づいて算出された「基準年間平均給与額」を基準としてその金額の3倍の額を「相当程度上回る水準」「として」、結局は厚生労働省が命令で定める額以上の年収が「見込まれる」労働者が対象となっている。

このような条文の書きぶりから明らかなとおり、そもそもの年収要件の金額は法律では明示されていないだけでなく、「3倍の額」「相当程度上回る水準」など定め方次第ではその金額を上げることを下げることも可能な条文の構造となっている。

そもそもの基準の算出の仕方自体、不明瞭であることはもちろんのこと、今後、法改正実現してしまえば、「3倍」が「2倍」に変更されたり年収要件の金額を引き下げたりすることが容易な構造になっているのだ。

高プロはいわゆる「残業代ゼロ法案」と言えるが、これをめぐる議論は過去10年以上にわたって繰り返されてきた。発端は2005年。日本経団連が表明した「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」にその考えが示された。当時そこにまとめられた残業代ゼロ構想の理想型は、「年収400万円以上で時間の制約が少ない頭脳系職種、つまりホワイトカラー労働者をすべて残業代ゼロにすること」だ。

 経団連の意図はこうだ。「総務や経理、人事、企業法務、ファイナンシャルプランナーなどのホワイトカラー労働者の場合は、労働時間の長さと成果が必ずしも比例しないため、工場労働者がモデルとなっている現行の労働時間規制はなじまない。ホワイトカラーの生産性を上げるためには、年収や年齢で対象者範囲を限定せずに、労働時間規制を外すことが望ましい」。

 経団連をはじめとする経済界が年収要件の引き下げを意図していることは現時点でも明白である。高プロ導入に賛成している竹中平蔵氏は、同制度の適用対象を拡大すべきとの意見を表明している。

法案では、高度プロフェッショナル制度導入の要件として、一定の健康確保措置が義務づけられており、これによって、労働者の健康を害する長時間労働や過労死が防止できると考える人もいるかもしれない。

しかし、ここで義務づけられている健康確保措置は、年間104日の休日確保措置に加えて、次の4つだ。

① インターバル措置

② 1月又は3月の在社時間等の上限措置

③ 2週間連続の休日確保措置

④ 臨時の健康診断

法案では、この4つの措置のうちいずれか1つを選択すればよいということになっている。多くの企業が、④の臨時の健康診断(対象労働者が一定の労働時間を超えて働いた場合に健康診断を義務づける措置)を選択することは目に見えている。健康診断については、やらないよりはましかもしれないが、長時間労働の歯止めになるほどの強力な措置にはならないだろう。

 このように、高プロが導入され、それが発展すると、今まで労基法が定めていた厳格な労働時間規制は、少なからぬ労働者を対象に撤廃されかねない。労働者の健康を確保するための実効的な措置は制度上ほとんど保障されておらず、長時間労働の歯止めにはならない。

 高度プロフェッショナル制度は労働法の根幹を揺るがす

   この間の高プロをめぐる議論では、労働組合や労働弁護団などが反対の声明を挙げているが、その中でも、過労死によって家族を亡くした遺族の方々の発言が目立っている。

   彼らが反対するのは、今回の法改正によって、長時間労働、働き過ぎによって命を落とす労働者をなくすことはできず、むしろ、過労死を助長するおそれがあることを、経験に基づいて痛切に感じているからだ。

   安倍総理は、かつて、過労死遺族らと面談をし、過労死をなくす旨を明言し、その政策的実現としての「働き方改革」であったはずである。ところが、実際には、長時間労働の是正をうたいながらも、長時間労働是正とは正反対の長時間労働を助長しかねない制度を法案の中に含ませたうえでの一体法案として今回働き方改革関連法案が提出されている。

 労働基準法をはじめとする労働者を保護する法律は、歴史的にみても、まずは労働時間をいかに規制するかという点に主眼が置かれてきたことは明らかである

憲法27条2項は「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」と規定し、これを受けて労働基準法が制定されている。

そして、労働基準法1条は「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」と労働条件の大原則を高らかに宣言している。ここでいう「人たるに値する生活」は、憲法25条1項が保障している「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」と共鳴し合っている概念である。

「1日8時間、1週40時間」労働という労働時間規制の大原則は、このような憲法、労基法の基本理念から導き出される労働者保護立法の要というべきものである。今回導入されようとしている高プロは、一部とはいえ、労働法の大原則を無効化する制度であり、労働法のあり方を根本から覆しかねない重大な制度変更である

最後に専門的で長くなるが、高プロにかかわる法案の条文を記載しておく

   賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の 労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であつて書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の

   割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。ただし、第三号から第五号までに規定する措置のいずれかを使用者が講じていない場合は、この限りでない。

一 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)

二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲

 イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。

 ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。

三 対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(この項の委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは 、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(第五号ロ及びニ並びに第六号において「健康管理時間」という。)を把握する措置(厚生労働省令 で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

四 対象業務に従事する対象労働者に対し、一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を当該決議及び就業 規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること。

五 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。

 イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる 回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。

 ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。

 ハ 一年に一回以上の継続した二週間(労働者が請求した場合においては、一年に二回以上の継続した一週間)(使用者が 当該期間において、第三十九条の規定による有給休暇を与え たときは、当該有給休暇を与えた日を除く。)について、休日を与えること。

 ニ 健康管理時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に健康診断(厚生労働省令で定める項目を含むものに限る。)を実施すること。

六 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であつて、当該対象労働者に対する有給休暇(第三十九条の規定によ る有給休暇を除く。)の付与、健康診断の実施その他の厚生労 働省令で定める措置のうち当該決議で定めるものを使用者が講ずること。

七 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

八 使用者は、この項の規定による同意をしなかつた対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。

九 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

第2項以下省略


 

 

 労働者派遣法が1986年施行され、日本の労働界、いや日本の構造自体が大きく変わってしまった。今やこの「不安定雇用」が半分を占めるまでになってしまった。企業側が契約期間終了で「雇い止め」にできるため、人手不足のときばかりか、恒常的日常業務までが「派遣労働者」に置き換えられてしまった。日本が今直面している諸問題の根源は「労働者派遣法」の成立に起因するところが大きいと思う。

 そしてさらに「働かせ方改革」法案は、いよいよ日本を沈没させるものとなるだろう。