安倍政治と無縁とは思えない 「老人は邪魔者」の社会風潮
日刊ゲンダイ 2018年9月1日
岐阜市の「Y&M藤掛第一病院」でエアコンが故障した部屋に入院していた80代の男女5人が相次いで死亡。岐阜県警は熱中症で死亡した疑いがあるとみて、殺人容疑で病院を家宅捜索した。
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■姥捨て感覚の介護放棄も増加の一途
「残念ながら、この先も今回のような事件が相次ぎそうです」と全国介護者支援協議会理事長の上原喜光氏はこう言う。
「小泉政権の頃から、政府は『構造改革』と称し、200床程度の病院の統合を後押し。800床以上の大病院の開設を加速させた一方で、診療報酬は大幅に引き下げ。おかげで200床未満の病院の経営は苦しくなり、今回の病院のように終末期の患者を受け入れ、しのいでいるのが実態です。終末期医療は治すより、痛みなどの緩和が優先。本来、病院は病気を治す場所ですが、死亡届を書くのが仕事のようなものです。今回の病院がそうとは言いませんが、治療しない病院はあり得ないのに、それを百も承知の姥捨て感覚で、親を入院させる“介護放棄”も増えています。特養老人ホームで今回と同じことが起これば、家族はもっと騒ぎ立てたはず。人の命が軽んじられる悲しい世の中です」
2年前に横浜市の大口病院で起きた連続中毒死事件で、入院患者3人への殺人容疑で送検された同病院の元看護師、久保木愛弓容疑者は、患者の点滴に消毒液を混ぜて殺害した動機をこう説明したという。
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「障害者は生きていてもしょうがない」との独善的理由で、相模原市の「津久井やまゆり園」で19人を刺殺した植松聖被告といい、かくも命を軽視する事件がここ数年、頻発しているのはなぜなのか。
相次ぐ人命軽視の陰惨な事件は、老人など社会的弱者は「死んでもいい」とばかりの社会風潮の蔓延の象徴ではないのか。そんな偏見と蔑み、差別と排除を助長しているのが、安倍政権と自民党の冷血な政治姿勢である。
LGBTカップルは「子どもをつくらない」というだけで、「生産性がない」と断言。彼らへの税金投入に異議を唱えた杉田水脈衆院議員をはじめ、まるで家畜や機械のように人の価値を「生産性」で測り、選別する。
恐ろしいことに、優生思想の塊のような杉田のツイッター投稿を追うフォロワー数が12万人を突破。LGBT騒動以降、5000人以上も増えたのも「生産性なき者は去れ」という差別思想が、社会の一定層に浸透していることを物語る。それだけ安倍冷血内閣が旗振り役となって、おぞましい風潮が日本社会にはびこってしまったということだ。実に罪深い。
中央省庁の障害者雇用の水増しについても、安倍政権は寛容だ。エコノミストの高橋乗宣氏は本紙コラムで、「法定雇用率をしっかり守ると、障害者にどう働いてもらうべきか、職場の扱いが難しくなる。そんな雇用差別に結びつく意識が、中央省庁にはびこってはいなかったのか」と疑問を投げかけていた。
水増しの根底に障害者への差別意識があるかもしれないのに、麻生財務相は「(ガイドラインの)解釈の仕方が違っていた」と問題を矮小化。それだけ、差別と排除に鈍感な証拠だろう。
大体、麻生ほど「老人は死ね」と言わんばかりの蔑視に満ちた政治家はいない。2013年には高齢者の終末医療を「政府のお金でやってもらっていると思うと、ますます寝覚めが悪い。さっさと死ねるようにしてもらわないと」と言い放ち、2年前にも「90になって老後が心配とか、訳の分からないことを言っている人がテレビに出ていたけど、いつまで生きているつもりだよ」と言ってのけた。
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政治評論家の森田実氏はこう言った。
「私は86年生きてきましたが、今ほど人の命と価値や、人格が大事にされない世の中はありません。儲け第一の新自由主義に根ざした『今だけ、カネだけ、自分だけ』という刹那の発想が政財界を支配し、『生産性』や『効率化』を声高に叫び、社会の隅々まで競争が強いられ、格差は広がっている。こぼれ落ちた人々が、さらに弱い者を叩くすさんだ世相です。歪んだ風潮を止める努力こそが本来の政治の務めなのに、安倍政権は率先して助長している。国の指導者たちの道義が廃れれば、この世は闇ですよ」
弱者いじめの風潮を蔓延させた政権と政党が今なお幅を利かし、この先も歪んだ世相が続くのかと思うと、ますます、おぞましくなってくる。
こうした風潮が役所の窓口まで及ばないことを望む。
予算がない、人がいないーこうした問題もこのまま放置することで窓口は「弱者いじめの風潮を蔓延」させるだろう。対策を講じないであきらめさせるのが政権の狙いだ。
今朝は10℃を下回る気温、またストーブにお世話になりました。