imidas連載コラム 2019/09/26
先月、Colabo(コラボ)のシェアハウスで暮らす10代の女の子たちと、沖縄県へ合宿に行った。Colaboでは年に数回、さまざまな合宿を開催している。Colaboとつながる多くの少女たちが経験せずにきた修学旅行や家族旅行のようでもある。
2年ぶりに開催した沖縄合宿では、初日にひめゆり平和祈念資料館に行き、彼女たちと同世代の生徒たちが、どのようにして戦地に行くことになり、どのような経験をしたのかを学んだ。2日目は、米軍基地の新設問題を抱える辺野古へ。行きの車の中で、案内してくださったノンフィクションライターの渡瀬夏彦さんに、辺野古基地新設の問題について話を聞いた。
政府が、住宅街にあり世界一危険だと言われる普天間基地を移設するためとして、辺野古に新たな基地を作ろうとしていること。しかし、辺野古でなくてはならない理由が明確でないこと。地元住民や、沖縄県民はこれに反対し、選挙でも民意を何度も示していること。反対している人たちの想いや、基地ができることで、その地にどんな影響があるか。基地建設の過程で、さまざまなルール違反を国がしていること。
基地建設のための工事を少しでも遅らせ、止めるために抗議を続けている人々のことなどについて聞いた女の子たちは、「基地って沖縄に作らないといけないの?」「自分の家の近くに基地があったら嫌だ。安心して生活できないじゃん」「そもそも基地って必要なの?」「工事をしている人たちは沖縄の人たちなの?」などの質問をし、沖縄にどうして米軍基地が集中しているのか、その歴史と沖縄への差別、本土に暮らす私たちの責任についてや、沖縄の人々を分断する政府のやり方にも目を向けていた。
辺野古で抗議行動をする人々と合流
辺野古のキャンプシュワブゲート前に到着すると、抗議行動をする人々が集まっていた。人々の後ろには、閉じられたゲートがあり、その中に民間の警備会社の警備員がずらっと並んでいた。そして、ゲートの外にはたくさんの機動隊員がいた。私は2015年から5回目の訪問だが、女の子たちにとっては初めての体験なので、驚いたり、怖がったりするのではないかと思った。
1分1秒でも工事を遅らせたい、この基地建設を必ず止めると抗議を続ける地元の方々の座り込みの様子を見ながら、「参加したい人がいたら一緒に行ってみる? 行きたい人?」と聞くと3人の女の子が「行く!」と言って、機動隊の横を通って地元の方々に合流した。
皆さん、若者たちの参加を歓迎してくれた。この日の抗議行動の司会は、長年沖縄で性暴力被害者女性と共に闘ってこられ、Colaboの活動もよく知ってくださっている高里鈴代さんだった。彼女の司会で地元の方々と腕を組み、「座り込めここへ」「沖縄 今こそ立ち上がろう」「沖縄を返せ」などを歌った。
歌が始まると、機動隊員が続々と私たちの目の前に集まってくる。周りは見えなくなり、見えるのは機動隊員だけ。そんな状況の中、私の隣で抗議に参加した女の子は、初めて聴く歌にもかかわらず大きな声で堂々と歌っていた。
地元の方が「体を触られたくない人は、無理をしないで、排除が始まったらすぐに立ち上がって移動するように」と言ってくれた。これから何が起こるのだろうかと全員が身構える。その後、すぐに機動隊による強制排除が始まった。初めにColaboのメンバーが「ごぼう抜き」(ごぼうを抜くように次々と排除する、機動隊による強制排除のこと)された。
抗議行動に参加した地元の人が強制排除される様子
こんなことが日本で起きているなんて……
ただ座り込んでいる一人の市民を何人もの機動隊員が囲み、無理やりその場から連れ出していく。女性の隊員はおらず、「若い女性を触らないで!」と抗議の声がたくさん上がったが、男性の隊員たちは「自分で立ってください。立てないなら連れていきます」「自分の足で歩けないんですか?」などと言って四方から手を伸ばし、女の子たちも私も椅子ごと引きずられ、肩をつかまれたり、背中を押されたりして排除された。
正直、怖かった。女の子たちは、もっと怖かっただろう。そう思い、女の子たちに「無理しないで」と声を掛けたが、みんなその場を動こうとしなかった。
県民の民意を無視した違法工事に反対し、抗議の意思で座っている市民がたくさんの機動隊員に囲まれ、排除されること。税金がそのような用途に使われていること。市民を守るはずの警察が米軍や基地建設を守っていることに、女の子たちは怒りと恐怖を感じていた。それぞれが驚きとショックを受け、恐怖を感じながらも「こんなことが日本で起きていることを記録し、たくさんの人に知らせたい」と、動画や写真を一生懸命撮って抵抗していた。
彼女たちは最後まで気丈に振る舞っていたが、目に涙を溜めていた子もいたし、機動隊に排除される時は体も表情もこわばって、自分の身を守るように両手を体の前でクロスさせておびえた様子だった。
道路の向かい側で、座り込みには参加せず、一連の様子を心配そうに見ていた2人の女の子たちは、「機動隊に囲まれていた夢乃さんたちのことは全く見えなくなってしまい、何が起きているのかは分からなかった。外から見てるだけでも怖かった」という。後から、座り込みに参加した子の撮影した動画や写真などで、どのように強制排除が行われたのかを知って驚きながら、「次は私も座り込みに参加する」「次は体に重りを付けていこう」とか「体重の重そうな人を連れていこう」と話していた。
機動隊員も「心ない人」ではなかった
排除された後も、機動隊員が「ここには立たないでください」「あっちに行ってください」と言うのに対し、一人の女の子は「なぜですか? 危なくないですよ」などと言い抵抗していた。
「あなたたちが移動しないと、私たちが車にひかれてしまう」と言う機動隊員に「それならあなたが別の場所に移動すればいいじゃないですか」とその子が言い返したりしていると、「どうしてもここがいいの? 今日は特別」と言って機動隊員が諦める場面もあった。それは、私たちを「今日だけ」の人だと思ったからかもしれない。
また別の女の子は、強制排除された後、機動隊員に話し掛けていた。「沖縄の人なのか?」「この仕事をどういう気持ちでしているのか?」「海が埋め立てられることについてどう思うか?」「沖縄の海は好きか?」などと質問し、機動隊員も「心ない人」ではないことが分かって、複雑な気持ちになったという。
女の子たちは、沖縄の人々を分断する国のやり方にも憤りを覚えていた。
道路の反対側で様子を見ていた女の子に、「今朝は15分工事を遅らせることができた」と地元の方が教えてくれた。「若い女性には機動隊員も乱暴にしたり、気安く触ったりできないため、工事を遅らせることができる」と聞いて、その子は「修学旅行でみんな来たらいいのに」と言っていた。
確かに機動隊員は若い女性である私たちには手荒なことはしなかったが、私たちの周りで抗議を続ける地元の方々に対しては、容赦なく身体ごと持ち上げて排除するなど扱いが違った。
ゲート前に立ちはだかる警備員や機動隊員。こんな光景が日々続いている
沖縄の貴重なサンゴや魚たちに感動
女の子たちは、「こういうことが起きているなんて知らなかったし、学校でも教えてくれなかった」「テレビとかでももっと報道したらいいのに」「安倍さんに見せたら? 官邸前に行って映像を見せられないの?」などと言っていた。
安倍晋三首相はもちろんこういう現状を知っており、それでも基地新設を推し進めようとしていることを知ると、とても驚いて、「安倍さんも知っててやっているなら、誰に言ったらいいの?」「10年以上前から住民の人が反対しているのに、変わらないの?」「東京には反対する議員はいないの?」などと言い、選挙の大切さを感じたり、どのように投票する人を選べばいいのか、沖縄の外に住む人々にどう伝えるかなどを自分事として考えたりしていた。
辺野古ゲート前での抗議の後、グラスボートで大浦湾の貴重なサンゴを見せていただいた。初めて見る大きなサンゴや魚に、女の子たちは「こんなきれいな海を埋め立てようなんて、信じられない」と口々に話していた。土砂が入れられている工事現場の近くまで船で近付くと、民間の監視船が「これ以上近寄るな」と警告を出してきて、離れるまで私たちの動きを監視していた。
その後、土砂を採掘している場所や、土砂の運び出しをしている琉球セメント桟橋前での抗議、カヌーチームの抗議の様子なども見学した。途中、休憩先でシークワーサージュースやパインかき氷、沖縄そばを食べ、抗議の後には美ら海水族館にも行って沖縄を満喫した。美ら海水族館にも、大浦湾のグラスボートで見たサンゴや魚がいて、女の子たちは辺野古の海にもたくさんの生き物たちが暮らしていることに思いを馳せていた。
みんなクタクタになり、夕食時にはご飯を食べながら寝てしまう子もいるほどだったが、宿に帰ってからも、「どうしたら起きていることをみんなに伝えられるだろう?」「友達に話してみる」「ゲート前でキャンプできないのかな」「渋谷のスクランブル交差点で映像を流せないの?」「TikTokで流せないかな」「インスタライブで辺野古の様子を生配信したい」などと「私たちには何ができるんだろう?」と口にして、考えていた。
基地問題を間近に体験した少女たちは
この日のことを発信する際に、伝えたいことはあるかと聞くと、彼女たちはこう話した。
「思ってたよりひどかった。メディアでも全然報道されていないし、『問題ないです』などいいところしか出てこないから現状を知らなかった。もっとみんなが真剣にこの問題を考えないといけないと思った」
「土砂を運ぶ仕事をしている人や警備員、機動隊員の中には、あのような仕事を好きでやっているわけでない人もいるだろうし、2兆円以上のお金を使って無駄なことをしている。そんなお金があるなら基地を作ることではなく、Colaboみたいな支援団体に使うとか、そういう考えで世の中を良くしてほしい。基地を作って良くなると思っているから、ああいうことをするのかもしれないけど、みんなにとっていいことをしてほしい」
「学校の修学旅行で沖縄に行ったけど、今起きてる沖縄の問題は知らなかった。基地問題はなんとなく知っていたけど、こんなひどい状況とは知らなかった。沖縄で戦争の歴史を学ぶことは大事だけど、それ以外にも今の米軍基地の問題も、全国の学校で学習として取り入れて合宿とかしてほしい」
「何がひどいと思った?」という質問には、「何の得もないのに、両方の国の偉い人たちの自己満にしか思えないし、国民が訴えているのに何年も変わってないのがひどいと思った」と話した。私自身も初めて機動隊に排除される経験をし、権力が間違った使われ方をしていることを今まで以上に実感した。
一緒に辺野古に行った女の子たちは、この後、沖縄の海で遊んでいる時も、東京に帰ってきてからも、辺野古で起きていること、沖縄が抱えさせられている問題に対して、自分たちができることを考え続けている。
自分事として捉え、考え、行動できる人に
辺野古訪問の報告を私のFacebookとTwitterに投稿したところ、Twitterには3000件以上のリプライがあり、ほとんどが匿名の攻撃や中傷で、実名登録のFacebookとは全く違う反応だった。女の子たちはその現状にも目を向けていて、「ネットでアンチしてる人たちも自分の目で見てみたらいいのに。そうしたら変わるんじゃない?」と言っている。
自分が見たこと、聞いたこと、体験したことから分からないことを質問し、いろいろな意見や立場、ネットでの攻撃的なカキコミがある中で、自分はどう考えるのかを議論して、自分の頭で考えて、自分の言葉で発信する。一つひとつを、誰から言われたわけでもなく自分たちでやっている。友達に伝えてみたり、SNSで発信してみたりして、友達から「でも、仕方なくない?」「私たちに変えられることじゃないっしょ」と言われたり、関心を持ってもらえなかったりして、その反応を踏まえて、もっとできることはないか、自分事として考えてもらうにはどうしたらいいのかを考え、議論し続けている。私も、一緒にできることを考え、やれることから実践していくつもりだ。
Colaboとつながるのは、虐待や性暴力・性的搾取被害など、さまざまな暴力の被害に遭ってきた少女たちだが、背景には多くの市民の無理解や、誰かの犠牲の上に自分の生活や幸せが成り立つことをよしとする社会/考え方がある。彼女たちが抗議に参加する様子に、沖縄の問題は「私たちの問題だ」と直感的に感じたのではないかと思った。
彼女たちのように、さまざまな社会の問題について、自分事として捉え、痛みを分かち合い、考え、行動できる人が、今の日本社会にどれだけいるだろう。そんな人でありたい、と彼女たちを見ていて私は強く思った。
これから札幌です。ですので、朝の更新です。
もう、すっかり朝晩のストーブが定着してしまいました。
のぶどう。少しづつ色がついてきました。