Imidas連載コラム生きずらい女子たちへ
雨宮処凛(作家、活動家)
新型コロナウイルス感染拡大が世界中を大混乱に陥れている。
東京にいる私は、日々祈るような思いで「今日の感染者数」を毎日夕方、確認する。新たに感染が発覚した人が100人を超えた頃から胃が痛くなるようになり、芸能人などの感染を知るたびに、コロナはほんのすぐ傍まで来ていることに戦慄する。
一方で、新型コロナ感染症により、世界の経済も大打撃を受けている。
東京でも、夜間の外出自粛で居酒屋やバーなどが悲鳴を上げ、ライヴハウスやジム、カラオケをはじめ、観光業や宿泊業も大打撃を受けている。
貧困問題に関わっている私のもとには、家賃やローンを払えない、ネットカフェが閉鎖して行き場がないなどの声があちこちから寄せられている。
ホームレス支援をしている知人によると、3月頃から炊き出し(ホームレス状態の人たちに食事を提供する場。現在は感染予防のため、弁当や食料が配布されているところが多い)にぽつぽつと「新顔」が並ぶようになったという。それが4月はじめには2〜3割になり、4月なかば頃には半数近くまで増えたそうだ。つまり、それだけ「新たにホームレスになった層」が増えているということだ。
反貧困運動に14年間関わってきた私のもとにも、多くのSOS情報が入る。「今、〇〇区で所持金十数円の人から連絡が来た」「今日は1週間前から初めて野宿生活になった若者の支援をした、所持金は900円だった」等々。私自身も所持金が尽きたネットカフェ生活者の生活保護申請に同行したりした。
今まで、ギリギリでなんとか生活していた人たちが、コロナ不況によって一気に路上に追いやられている。現場を見ていて痛感するのは、雇用を不安定化させてきた「自己責任社会」の脆弱さだ。格差と貧困が深刻化することを許してきた社会は今、手痛いしっぺ返しを受けている。
このコロナ禍を、リーマンショックの時と比較して語る人たちも多くいる。私自身もまず思い出したのは12年前のリーマンショックだ。その後、派遣切りの嵐が吹き荒れ、年末年始に年越し派遣村が開催された。私も現場にいたが、住む場所も職も所持金もなくした500人以上が日比谷公園の吹きっさらしのテントで年を越す光景は、とても先進国のものとは思えなかった。が、今回のコロナ不況は、リーマンショックを余裕で超える規模になるとも言われている。そんな中、気になっているのは女性たちだ。
例えば年越し派遣村を訪れたのは、多くが男性だった。それは当時の派遣切りの多くが、製造業派遣で働く人たちを襲ったことが大きい。もちろん、不況によってあらゆる業種や自営業者なども影響を受けていたのだが、派遣村で炊き出しに並ぶのは男性ばかりだった。派遣村を訪れた中には当然女性もいたが、ホテルなどに案内されていたという実情もあった。よって、「リーマンショック→派遣切り→ホームレス化」は、あくまで「男性の問題」として理解されていたように思う。
一方、現在のコロナ不況を見ていると、多くの女性たちが失業だけでなく、ホームレス化にも晒されているのがわかる。特徴は、あらゆる業種が影響を受けているということだ。寄せられている相談者たちの職種は多岐にわたる。ホテル、観光、飲食、テーマパーク、イベント、小売、キャバクラ等。また、フリーランスも多い。スポーツジムのインストラクターなどからも多く相談が届いている。
いくつか実例を上げよう。以下、3月に開催された「全国ユニオン」のホットラインからだ。
「スーパーで試食販売で派遣されていたが、2月中旬から仕事がなくなった」(派遣 女性 流通)
「3月2日から休みになった。補償がどうなるか説明がない」(パート 女性 テーマパーク)
「週6日・1日5時間、20年以上勤務しているが、仕事がなくなった」(パート 女性 ホテル配膳)
「新型コロナの影響で学校給食が中止になった。補償はあるのか」(公務非正規 女性 学校給食)
「学校が休みになったので、同じように休みになった。時間給なのに時間が短くなったので収入が減っている。補償はないのか」(アルバイト 女性 学習塾)
「3月1日から『休んでくれ』と言われた。いつ出勤するかもわからず補償もない」(パート 女性 ホテル)
「派遣会社が運営を担っていた博物館。休みになったが補償もなく、次回の契約の更新もわからない」(派遣 女性 イベント)
「今日は来なくてよいなどと言われる日が増えている。補償はされるのか?」(公務非正規 女性 図書館司書)
「空港内の店で働いている。勤続20年。3月上旬に突然『明日から来るな』と言われた。店は開いているが会社は社員優先で出勤させている」(パート 女性 物販)
「ホテル内のエステでひとり〇円で働いている。ホテルは宿泊キャンセルが続き、エステは密室なので客が来ない」(個人事業主 女性 エステ)
「離婚して昨年11月から働いている。やっと慣れてきたが、雇い止めを通告され、寮も出るように言われ困っている」(派遣 女性 ホテル)
どれもこれも、切実な訴えだ。4月18、19日に開催された「いのちとくらしを守るなんでも相談会」にも、キャバクラなどで働く女性から「休業手当がないので日々の生活費もなく家賃が払えない」「5月6日まで休むよう指示されたが手当がない」といった相談が寄せられた。
また、「全国ユニオン」の相談には、休業に伴う補償が正規と非正規で差があるという相談も多く見られた。
「正社員は特別休暇で有給で休みにするが、パートはないといわれた」(パート 女性 社会福祉施設)
「新型コロナの影響で仕事がなくなった。正社員は有給だが、パートは無給と言われた」(パート 女性 旅行会社)
一方、在宅ワークが推奨されているが、非正規ではそれができない実態も明らかになっている。
「派遣先の正社員はコロナの影響でテレワーク。派遣は認められない」(派遣 女性)
「派遣先はリモートワークになった。自宅でもできるのでリモートワークにしたいと言ったが、派遣はダメだと言われた」(派遣 女性 翻訳)
このような相談記録を見ていると、特に「非正規女性」がコロナ不況のしわ寄せを受けている構図が浮かび上がってくる。現在、非正規で働く人は37.3%と4割に迫り、数にすると2000万人以上。そのうち約7割を占めるのは女性だ。
また、国税庁の「平成30年分民間給与実態統計調査結果について」によると、正規の平均年収が504万円に対し、非正規の平均年収は179万円。これを男女別で見ると、男性非正規236万円、女性非正規154万円になる。
ちなみに2019年の労働力調査によると、女性非正規の44%が年収100万円未満だという。つまり、コロナ不況の前から非正規で働く女性の多くはギリギリの状態だったのだ。
もちろん大変なのは女性だけじゃない。私は前述した「いのちとくらしを守るなんでも相談会」の相談員をつとめたが、そこには当然男性の相談も多く寄せられた。居酒屋店主や、もう残金が2万円しかないという飲食店勤務の男性の声も聞いた。が、住む場所を失う、路上に行くかもしれないという場合、女性には女性に特化した支援が必要である。家がないと知られると、性的搾取の対象になる確率も高い上、女性の野宿にはあらゆる危険がつきまとう。
「まだ貯金があるから大丈夫」という人もいるだろう。が、この国には貯蓄ゼロ世帯が多くいる。金融広報中央委員会の19年の調査 によると、貯蓄がゼロ世帯は2人以上の世帯で23.6%、単身世帯で38%。現在、すでに貯金を切り崩しながらの生活に入ったという人は、様々な制度利用を考え始めた方がいい。
ということで、貯金が尽きた場合、もっとも使い勝手がいいのは生活保護制度だ。社会福祉協議会の貸付金とか住居確保給付金とか、すでに調べている人も多いだろう。が、コロナ収束がわからない今、それで本当に生活が立て直せるか、不安は尽きないはずである。
生活保護であれば、ざっくり言うと今の全財産が6万円以下くらいで収入のあてがなければ受けられる。働いても、年金をもらっていても、ホームレス状態でも国が定める最低生活費に満たない収入しかなければ受けられる。車があるとダメ、持ち家があるとダメと思っている人も多いが、一律ダメというわけでは決してない。また、コロナ禍を受け、生活保護を受けるにあたっての「条件」的なものは今、かなり緩和されているので「以前窓口に行ったけどダメだった」という人もこの機会に行ってみるといいかもしれない。
そうしてコロナが収束し、仕事ができるようになり、収入が保護費を上回ったら生活保護を「卒業」すればいい。今まで頑張って働いて税金を納めてきたのだ。制度を利用し、また働き始めたら納税という形で貢献すればいい。そういう「安心」のために税金を納めているのだ。
生活保護申請ができなかった、働けと言われた、などの場合「首都圏生活保護支援法律家ネットワーク 」にご一報(048-866-5040)を。また、日弁連も無料の電話相談(0570-073-567)を始めた。
一方で現在、「ステイホーム」の中、在宅勤務になった夫のDVが始まった、などの声も多く届いている。DV被害者支援団体「エープラス」の吉祥眞佐緒さんによると、この3月は、「通常の1.5倍から2倍くらいの相談が寄せられている」という。その中には、リモートワークで1日中家にいる夫に女中のように扱われる、夫に「マスクを用立ててこい」と言われて何軒もドラッグストアを周り、行列にも並ぶがどうしても入手できない、怖くて家に帰れない、などがあるそうだ。
そんなDV被害に困っている人は、4月20日から始まった「DV相談+ (プラス)」に電話(0120-279-889)してみてほしい。24時間受付で、外国語にも対応しているので、困っている人がいたらぜひ教えてあげてほしい。
今、みんなが大変だ。そんな中、「自分より大変な人がいる」と口をつぐむことは、他の人の口を封じてしまうことにもつながる。だからこそ、声を上げてほしい。そうしてとにかく生存ノウハウを交換して、生き延びていこう。
昨日は日中も寒かったのでポータブルストーブを点火して帰ったのだが、今日は天気が良くハウスの中は30℃以上で、帰る時間にもそれほど下がってはいない。明日の予想最低気温は3℃だから、本当は点火して帰りたかった。明日は朝から晴れるようで、ゆっくり眠っていられない。
圃場のさくら。
かなりのピンボケでした。
フキも大きくなってきまして、ご近所の方々が採りに来ています。
昼から江部乙公園に桜を見に行ってきた。
外に見物客は無し。