AERAdot 2025/02/07/ 16:00
中居正広さんにまつわる週刊誌報道から始まった#MeTooが日本社会を揺るがしている
作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、中居正広さんの週刊誌報道からはじまった、日本の#MeTooのその先について。
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#MeTooが止まらない。先週末は「#私が退職した本当の理由」というハッシュタグがトレンド入りしていた。希望をもって入社した会社で、どのような目にあったか。女というだけで、どのような屈辱を受けてきたのか。女性たちが溢れるように語り出しているのだ。
もちろん背景には、フジテレビを巡る一連の報道がある。中居正広さんに関する週刊誌報道から、日本社会を揺るがすまでに発展した#MeTooが日本の根本を揺さぶっている。
被害は詳細に語られる。入社直後、「今年の新人の顔はどう?」とニヤニヤと取引先の男性が聞いてくる。それに困ったように答える先輩たちがいる。難しい取引先に若く綺麗な女性が同行することになっている。職場の男性たちが連れ添って風俗に行き、その話がオープンに語られる。日本を代表する大手企業の名前と共に語られる被害は、あまりにも簡単に想像でき、とても簡単に理解できる。そのくらいに、私たちの絶望は似ていて、「わかるよ、私もそれ、味わってきたよ」と女性たちは息を吐くのだ。
それにしても、ここまで大きな話になるなんて、誰が思っていただろうか。先日、海外メディアから「日本で何が起きているのか?」と驚いた調子でコメントを求められた。有名人の週刊誌報道ではなく、その後に起きた社会の反応に、である。今回は、スポンサーが一斉にフジテレビから離れた。コンプライアンス違反を理由にして生島ヒロシさんがすべての番組を降り、芸能活動を無期限で自粛するなど、影響が広がっている。5年前だったら、ここまで急激にことが進んだだろうか? 日本社会が性に関して急激にカーブを切ろうとしているのだ。振り落とされる人は、きっとものすごい数いるだろう。
フジテレビの記者会見を観た。さすがに10時間は無理だったが、横になりながらスマホで聴いていた。率直に言えば、時間が長いだけで中身の薄い記者会見であった。記者会見後、むしろ、フジテレビに同情の声が大きくなったのは世情のリアルというものであろう。
私は同情はしなかったが、テレビ業界の人の体力に驚いた。登壇した役員一同高齢男性だが、あの人たちはフツーのおじいさんじゃない。「24時間戦えますか」の昭和を駆け抜け、激しい人事戦争を勝ち抜き、男組織で生き抜いた高齢男性の体力は私よりも多分ある。無理だよフツーに10時間なんて。
記者会見後に、実感する。今の日本で吹き荒れる#MeTooが明らかにしたのは、女を排除し、女を利用し、男で連帯し、男が競い合うことで発展してきた組織が結局何につまずくのか、ということだ。男たちは、最終的に自らの足に絡まってつまずいた。今までと同じ歩き方をしていたのに、女を前に、激しく転倒した。もしかしたら、男の人たちとは、そのことをいやというほど知っているからこそ、女を警戒し排除するのかもしれないと思うほどに、今回、男たちが激しく転ぶのを目撃した思いである。
日本が#MeTooで揺れている。そして男たちは男たちの性欲で転がり続けている。
いったい、性欲とは何なのだ。
なぜ、あれほど地位も名誉も人気もあった人が、そんなことでつまずくのだろう。
なぜ、あれほどの大組織が、こんなことで転ぶのだろう。
「性欲と性加害を結びつけるべきではない」とは、良識的なフェミニストが言ってきたことだ。性加害とは、性欲ではなく、支配欲によるものなのであると。では、なぜ「支配欲」は「性」と結びつくのか。ある種の男たちが女という性に、自分の男根と人生をかけて暴力を振るう、侮辱する、攻撃するのはなぜなのか。なぜ、性は、これほどまでに利用されるのか。
専門家によれば、性欲は定義されていないのだそうだ。私も性について関わり続けているが、性欲は心理学の専門分野であるが、性欲研究はほとんどされていないことを知ったのはつい最近のことである。
3000人以上の性犯罪加害者と関わり、性依存問題に向き合い続けている精神保健福祉士の斉藤章佳氏による『セックス依存症』(幻冬舎新書)には、AV男優の森林原人氏との対談が収められている。
そこで森林氏が性欲には「支配関係欲」があると語っていた。率直な当事者の声として腑に落ちた。男性が性でつまずき、性で女たちがこれほど苦しむ理由が見えてくるように思ったからだ。問題はそういった男性の性欲が、男性自身が求め肯定する「男性らしさ」と強く結びついていることである。
少し前に取引先の人(男性50代)から聞いたことだが、某雑貨店で一番売れているのは精力剤ということであった。風俗に行く前に、精力剤を求める客が少なくないのだそうだ(しかも男どうしで連れ合って)。1000%意味がわからなかった。風俗に行くのはそもそも精力があるから、ではないのか。なぜそれをさらに「補おう」とするのか!?!?!?!? 理解不能である。私の理解があまりにも追いつかなかったので、取引先の人が教えてくれた。精力=男らしさなのだ、と。男性が怖いのは、女に嫌われることではなく、「性欲が薄れること」なのだ、と。それはつまり、男じゃなくなることなのだ、と。
たとえば、薄毛治療薬は男性ホルモンの生成を抑制するので抜け毛を減らすが、性欲が減退する可能性があるとされる。薄毛を選ぶか性欲を減退させるか男の人は深く葛藤し究極の選択をするのだ……と(ちなみに性欲が薄くなっても勃起しなくなるわけではないという)。
私は女性モノの仕事をしてきて、男性の性欲については全く考えたことはなかった。でも、「一部の男性の特殊な事件」と言い切ってしまうには、あまりにもこの社会で女性たちは性被害にあっている。日常的にセクハラにあっている。それは仕事を続けられないほどの強度で。そして、女性たちは案外自分の性に向き合い語ろうと努めているのだが、男性たちは「自分の性の語り方」すら、もしかしたら知らないのではないかと思われる。
男らしさ=性欲の強さ、というような男性観、性欲観がもたらす弊害に、日本社会が揺れている今こそ、男性の性について語っていくのが必要なのかもしれない。男性の性について語る。それが、女の#MeTooの後に求められていることなのではないか。
今日の予報は曇りですが晴れました。
これから明朝にかけ晴れるので氣温はひょっとすると今季一番の冷え込みになるかもしれません。
youtubeを観ていると氣になるドキュメントが紹介されていましたので、参考までに紹介しておきます。
【小学校~それは小さな社会~】
【海外の反応】世界が泣いた!米アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画ノミネート、日本の小学校を舞台に少女の成長を描く感動作|日本の教育システムに賛辞と異論も
何の病気でも事故でもいいから、いっそのこと早く退場したいです。