東京大学教授 鈴木宣弘さん
「しんぶん赤旗」2022年3月23日24日
国連憲章も国際法も踏みにじるロシアのウクライナ侵略は、食料や資源の安定供給にも影響を及ぼしています。農学国際専攻の鈴木宜弘東京大学大学院教授に寄稿してもらいました。
不測の事態が現実に
ロシアのウクライナ侵攻を機に、ロシアとウクライナで輸出市場の3割を占める小麦をはじめ、穀物価格、原油価格、資源価格などの高騰が顕著になり、食料やその生産資材の調達への不安に拍車をかけています。
「買い負け」も
近年、国際的な市場で日本の食料の「買い負け」が現実になってきていました。中国などの新興国の食料需要が伸びており、中国などの方が高い価格で大量に買う力があり、コンテナ船も相対的に取扱量の少ない日本経由が敬遠され、日本へ運んでもらうための海上運賃も高騰しているのです。
日本は、小麦を米国、カナダ、オーストラリアから買っています。しかし、ロシアやウクライナの代替国として、これらの国にも需要が集中し、争奪戦は激化します。
日本はまた、化学肥料原料のリンやカリウムを100%輸入に依存しています。ところが、中国の輸出抑制で調達が困難になりつつあったところへ、中国と並んで大生産国のロシアなどからの今後の調達の見通しも暗くなっています。ちなみに、リン鉱石の生産は世界1位が中国、4位がロシア、カリウムの生産は2位がベラルーシ、3位がロシア、4位が中国です。
一方、「異常」気象が「通常」気象になり、世界的に小麦供給が不安定さを増しており、需給ひっ迫要因が高まって価格が上がりやすくなっています。その代替品となる穀物のバイオ燃料需要が原油高によって押し上げられ、暴騰を増幅します。
国際紛争などの不測の事態は、一気に事態を悪化させます。ロシアのウクライナ侵攻で今、それが起きてしまったのです。3月8日、小麦のシカゴ先物相場はついに、2008年の「食料危機」の最高値を上回りました。食料危機は現実のものとなっています。
国内生産欠落
岸田文雄首相の施政方針演説では、「経済安全保障」は語られましたが、そこには「食料安全保障」「食料自給率」への言及はありませんでした。農業政策の目玉は、農産物輸出の振興とデジタル化とされました。これだけ食料や生産資材の高騰と、中国などに対する「買い負け」が顕著になってきて、国民の食料確保や国内農業生産の継続に不安が高まっている今、まずやるべきことは輸出振興ではなく、国内生産の確保に全力を挙げることでしょう。
さらに、ウクライナ侵攻を受けて、与党や農林水産省にも食料安全保障の検討会が立ち上げられました。しかし、当面の飼料や肥料原料を何とか調達するためにどうするかの議論が先に立っています。そこには、根本的な議論が抜けています。
今、突き付けられた現実は、食料、種、肥料、飼料などを海外に過度に依存していては国民の命を守れないということです。それなのに、貿易自由化を進めて調達先を増やすのが「安全保障」であるかのような議論がまだ行われています。
国内の食料生産を維持することは、短期的には輸入農産物より高コストであっても、飢餓を招きかねない不測の事態の計り知れないコストを考慮すれば、総合的コストは低いのです。その不測の事態がもう目の前にあるのです。
国内農業への期待
食料危機が眼前に迫る中、国内農業への期待は高まっています。
「日本の宝」
「ここまで頑張ってきた農家さんも、新たに就農する農家さんも、日本の宝。感謝しかないです。ありがとう!」
こういった国内の農家への感謝と期待の声が筆者のツイッターにも多く寄せられています。
今こそ、食料安全保障確立のための国家戦略として、国内資源を最大限に活用した循環農業の実現を一気に加速しなくてはなりません。コメや生乳や砂糖の減産要請をしている場合ではありません。余剰農産物については、農家の損失補填(ほてん)、政府買い上げによる人道支援、子どもたちを守る学校給食の公共調達などを、総合パッケージで実現したいものです。諸外国では当たり前なのに、日本では行われていません。
世界一過保護だと誤解され、本当は世界一保護なしで踏ん張ってきたのが、日本の農家です。その頑張りで、今でも世界10位の農業生産額を達成している日本の農家のみなさんは、まさに「精鋭」です。誇りと自信を持ち、これからも家族と国民を守る決意を新たにしていただきたい。
特に、輸入に依存せず、国内資源で安全・高品質な食料供給ができる循環農業を目指す方向性は、子どもたちの未来を守る最大の希望です。
現場から悲鳴
肥料、飼料、燃料などの生産資材コストは急騰しているのに、国産の農産物価格は低いままで、現場の農家は悲鳴を上げています。輸入小麦がこんなにひっ迫する事態になっているのに、国産小麦は在庫の山だというのです。加工・流通・小売業界も消費者も、国産への思いを行動に移してほしい。
「食料を自給できない人たちは奴隷である」。キューバの著作家・革命家のホセ・マルティ(1853~95年)はこう述べました。
「食うものだけは自給したい。個人でも、国家でも、これなくして真の独立はない」。高村光太郎はこう言いました。
2020年度の食料自給率(カロリーベース)が37・17%と、1965年の統計開始以降の最低を更新した日本は、はたして独立国といえるのかが、今こそ問われています。不測の事態に国民を守れるかどうかが、独立国の最低条件です。
農林水産業は、国民の命、環境・資源、地域、国土・国境を守る安全保障の柱、国民国家存立の要、「農は国の本なり」なのです。
今日は札幌の皮膚科へ行ってきました。それで更新が遅れてしまいました。道路上には雪はなく、天氣も良く、快適なドライブでした。お昼は友人と久しぶりに・・・。たくさん話しもあるのですがテーブルの上には「黙食」と書かれたチラシが置いてあります。