ハフポスト 2021年01月22日
人の欲望とのせめぎ合い...SDGs突き詰めると、矛盾にぶち当たる。世界の排水の20%と世界の二酸化炭素排出量の10%を生み出しているファッション業界。いま私たちができるサステナブルは?
Jun Tsuboike / HuffPost Japan坂井佳奈子・エルグループ編集局長=2020年9月、東京都内のオフィスで
ファッションは、悩ましい。
クローゼットにその日に合わせて選ぶ洋服があるのは気持ちを高めるし、新しく手に入った洋服に袖を通す時には嬉しい自分がいる。
一方で、消費世界の中で踊っているのかーーという心の声も聞こえくる。
人々の欲望を刺激し、人々の羨望を集め、次の時代の世界観を示すファッション誌。消費社会と向き合う現場でもある。
時代の波頭をとらえるファッション誌は、次々と流行を生み出し消費を喚起させてきた立場から、今、どう方向転換しようとしているのか。「確実にきている」というサステナブルの流れを、どうとらえ、発信しているのかハースト婦人画報社で『ELLE JAPON』などを統轄する坂井佳奈子・エルグループ編集局長に聞いてみた。
アボカド食べて、チューリップを飾るのは罪か
そもそも私がELLE JAPONに話を聞かせてもらおうと思ったのは、消費社会とサステナブルと二つの相反することにどう向き合っているのか、ファッション誌はどうとらえているのか教えを乞いたかったからだ。
ステキな洋服、美味しいご飯、飛行機を使っていく旅...。こうしたものはなかなか手放しにくい。(「私、欲望のまま生きすぎている?」と心の声。)
冬でもアボカドやトマトは食べたい...。(「海外から輸送したり、温室で作られたりするときの二酸化炭素出しているよ」との声が頭の隅っこにこびりつく。)
ビンテージを着ていても、それを取り寄せたら輸送中の二酸化炭素が排出される。アフリカの雇用を作るためと銘打つアフリカの薔薇を買っても、空輸時の二酸化炭素はいかばかりか。春を感じさせてくれる真冬のチューリップは、温室栽培。春の花は春まで待つべきか。
服を着る、ものを買う、肉や輸入野菜を食べる。消費社会では当たり前にやってきたことに、罪悪感を感じる時代がきつつある。知れば知るほど、人の経済活動の負の部分が見えてくる。
本当に“いい事”とは何かーー。
「いいと思っている行為でも欺瞞では」。無限ループのように問いかけがこだます。
Yogesh Kumar Attri via Getty Images新型コロナウイルス感染拡大を受けた2020年、北インドでは普段みられないヒマラヤ山脈を見ることができた。活動が制限されたことで大気汚染が抑えられたことで、100~200キロ離れたところからも見ることができたという。
究極には、地球を破壊する「ヒト」という動物がいなくなると、地球は救われるということになってしまう。SDGsは、人の存在という矛盾を抱えながら考えるしかないものなのかもしれない。
ジレンマの中で、我々はどう生きるのか。
考え続け、できるアクションをとる、今すぐにできることからでいいよ、と背中を教えもらえる一冊がELLEから出版されていた。
「人類が消えたら...」新型コロナで垣間見え
2020年、新型コロナで、人々がこれまでの当たり前だった活動をやめ家に篭った。すると、インドではヒマラヤが十数年ぶりに望めるようになり、イギリスでは人が消えた町に野生のヤギの大群が出てきて闊歩し、香港ではイルカが海辺に戻り、ベネチアではヘドロが沈み魚の姿が見えた。
「もし、地球を傷つける人類が消えたら...」そんな世界が少しだけ垣間見えたと言っても大袈裟ではない。そんな情景が見え始めた2020年初夏。ELLEが打ち出したのが「Green for Life 地球からのメッセージ ー未来を変えるアクションを!」という特集だ。世界45カ国・地域で発行するELLEは、これまで毎年一度、各国号で一斉にサステナブルをテーマにしてきた。
″本気でない人”たちへの窓口に。50人の言葉
2020年版は、個人のライフスタイルやファッションはどうあるべきか、 事例を通して踏み込んだ提案をする特集となった。
「100%エコな暮らしをするのはむずかしいですよね。自分の変化が地球の変化にどう繋がるのか? そのアプローチは? まずは想像を膨らましてみてほしい」と坂井編集局長は話す。
いわゆる“本気ではない人“たちへの窓口を作るのが使命だといい、ゼロか100で判断せず、一歩踏み出せる方法を提案する。
巻頭で坂井編集局長は「(例えば)冷蔵庫のゼロ・ウェイストに個人的にチャレンジする。それはフードロスを減らせるし、料理のレパートリーが増えるので一石二鳥になりますよ」と一歩先を行くための地図を見せてくれようとする。
この号には、サステナブルに生きようとする50人あまりが紹介されている。
Jun Tsuboike / HuffPost Japan
「大好きなファッションが害」と知るのは怖い
ミュージシャンのグライムスは、「自分が大好きなことが環境に害を与えていると認識するのは怖いし、不快ですらあるけれど、解決すべき問題のリストのトップに挙げるべき」と自分も好きなファッションのあり方を変えようと訴える。
1本のプラスチックのストローを減らすことで何が変わるのかと聞かれた、モデルのアンニャ・ルービックは「ストローなしの生活を選択すれば、プラスチックのカップも、ボトルも不要だと考えるようになる」と話す。
新しい生活での習慣は、より大きな変革に繋がる。「意識が変わった人は、温暖化に反対する政治家に投票するようになるはず」。サステナビリティは、単なるキャッチフレーズではなく私たちに残された最後の選択だ、と力強い言葉を放つ。
さらに、「最初の一歩」をどう踏み出せば良いのか、身近な人の話も続く。
プラスチック製ではなくシルクのデンタルフロスに変えたり、アパレル産業の二酸化炭素排出量を気にかけ、ビンテージの洋服をお洒落に着たりするブロガーたちの様子も紹介する。
Theo Wargo via Getty Images「自分が大好きなことが環境に害を与えていると認識するのは怖いし、不快ですらあるけれど、解決すべき問題のリストのトップに挙げるべき」と話すグリムスさん=2018年、ニューヨーク
ファッションは楽しいもの。それは変わらない
「世の中がSDGsに向かっていくという確信が数年前からありました」と
坂井編集局長は話す。危機感を様々なファッション業界の関係者たちとのやりとりから感じ取っていたという。「ファッション界は、SDGsのことを考えないと先がないという意識です」。
服の制作過程での環境負荷は、かなり多い。コットンTシャツで15kg、デニム1本作るのに33kgの二酸化炭素を排出する。ファッション業界は、世界の二酸化炭素排出量の10%を生み出していると言われている。世界の排水の20%もファッション業界によるものだとされる。
「100%地球に害がないと言うのもはない。一方、ファッションが楽しいものであり続ける、その価値は変わらない。ならば、カラー染め、化学物質使ったものではなく環境に配慮したものを。それが最初に一歩になる。みんなの背中を押す発信を積極的に展開していきたい」と言う。
一人一人が、責任ある買い物ができるよう、消費社会の中でステークホルダーだと意識することだ。
ファッション界は変わったという確信がある
いわゆる“本気ではない人”たちへの窓口を作るのが使命だとはいえ、サステナビリティは、非常に壮大テーマだ。どう自分ごとにしてもらうか。
地球規模のことを自分ごとに落とすための秘訣をこう坂井編集局長は言う。「シリアスなことを語るには、ユーモアを入れなさい」。これは、ELLE創業者の言葉で、ELLEのDNAなのだと言う。
人の欲望とサステナブルのせめぎ合いの中、「今できること」を最大限に提示しようとしている。
「ファッション界も大きな変革が始まった。これまでのコレクションはこれが最後だったのかもしれません」
と坂井編集長。変わり目にいることだけは確かだ。
【ハフポスト日本版・井上未雪】
今朝の気温ー24℃。またもやトイレの水が出てこない。日中は晴れて氣持ちが良い。でも空気が冷たい。散歩をしていても顔がビリビリする。これは―15℃をこえている。
江部乙の納屋の雪降ろし。
雪がぎっしりと詰まって固い。これはちょっと難儀。