面白く、そして下らない

私は批判をして何かを為した気になっている大衆の一人に過ぎないが、何か少しでも波紋を起こす小石になれればと書いている。

法務大臣かくあるべし

2020-01-07 23:28:57 | 政治
閣僚の中でも法務大臣は「軽量級」と言われる。法務・検察官僚の裁量の余地は大きいが、法務大臣は検察の個別事件に介入すべきではないとされ、法務大臣の裁量の余地は小さいと考えられているからだ。

民主党政権では柳田稔法務大臣による次のような問題発言もあった。

~~引用ここから~~
柳田稔(ウィキペディア)

(略)

国会答弁軽視発言

2010年11月14日、柳田は広島市での国政報告会で大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件などに言及し「皆さんも、何で柳田さんが法相と理解に苦しんでいるんじゃないかと思うが、一番理解できなかったのは私です。私は、この20年近い間、実は法務関係は1回も触れたことはない」

「法務大臣とは良いですね。二つ覚えときゃ良いんですから。 個別の事案についてはお答えを差し控えますと、これが良いんです。 わからなかったらこれを言う。で、後は法と証拠に基づいて適切にやっております。この二つなんです。まあ、何回使ったことか」などと発言した。

この発言について自民党の河井克行は、11月16日の衆議院法務委員会で「法相という職を汚している発言」として謝罪と撤回を要求。審議が止まったため柳田が「委員会の審議では真摯な答弁を心掛けたい」と陳謝し再開した。

11月17日、柳田は国会軽視ととられる発言をしたとして仙谷官房長官から厳重注意を受け、「謹んでお受けしました」と答えた。また同日の参議院予算委員会でも思慮が足りなかったと陳謝した。柳田はその後も法相続投に強い意欲を示していたが、11月22日午前に首相官邸で菅直人首相に辞表を提出した。就任当初から死刑執行に前向きではあったが、死刑執行起案書を受け取ることなく退任した。法相は仙谷が兼務。

(略)
~~引用ここまで~~


国会答弁軽視として柳田稔法務大臣は辞任に追い込まれるのだが、これは法務大臣という職が実質的に法務・検察官僚の操り人形であるべきと考えられていることへの皮肉ないし自嘲も含まれているのではないか。

だが確かに殺人や窃盗などの一般的な犯罪に法務大臣が関与すべきだとは思わない。オウム真理教のような凶悪事件でも「「デュープロセス」に欠けることがないようしっかりやれ」と訓示するくらいではないだろうか。

法務大臣が関与しない検察官による独立した、起訴不起訴の決定及び裁判での立証が、公正中立なものかはわからないが。

法務大臣が関与すべき検察の捜査は何かと言えば「国策捜査」になる。

密出国で保釈中に日本からレバノンに逃亡したカルロス・ゴーン前日産会長を東京地検特捜部が逮捕したそれだ。

ゴーンはマクロンの意を受けてフランスのルノーによる日産統合つまりフランスによる日産乗っ取りを画策していたために逮捕されたのだ。これを陰謀論などと嗤う人は洞察力が足りない。

明日ゴーンがレバノンで「国策捜査」であることを暴露する記者会見をするそうだからそれを愉しみにしていよう。

ただこれはゴーンが無実であることを意味しない。ゴーンが日産を私物化していたことは事実だからだ。

だからといってゴーンが有罪になるかというと必ずしもそうではなくそれは検察官が立証できるか、裁判所が認めるかどうかである。日本の刑事裁判は起訴されれば99%有罪になるが。

日産の独立派役員と経済産業省が気脈を通じて日産乗っ取りを防ぐために東京地検特捜部を動かしゴーンを逮捕させたのだ。当然安倍晋三にも報告がいっていたはずだ。当時の山下貴司法務大臣にもだ。

ただこの「国策捜査」を山下貴司法務大臣が主導したとは考えていない。東京地検特捜部の部長主導ではないか。

まあ関与と言っても「指揮権」を発動して「やれ」というわけにはいかないが。「国策捜査」は公然の秘密であって、見え透いていても認めたりしないからだ。

逆に小沢一郎の資金管理団体「陸山会」をめぐる事件のように検察が「暴走」した場合は国民の負託を受けた法務大臣(民間人でもなれるが)が検察を糺す必要があるのではないか。

しかし当時の小川敏夫法務大臣は野田佳彦内閣総理大臣に内閣改造で更迭されてしまった。野田佳彦にとって小沢一郎は政敵でもあったし、法務・検察官僚を忖度したのだろう。

そして本題だ。検察庁のことは官僚に任せて、法務省の仕事こそ法務大臣が関与すべきだと考えるのだ。

法務省勤務の法務官僚は俗に「赤レンガ組」と呼ばれ「現場」の検察庁に比べてエリート扱いされている。もっとも検事総長は法務省事務次官経験者がなるのだが。

法務大臣は検察庁の個別事件に介入することはせず、「赤レンガ組」による法務行政に関わるべきなのである。

しかし法務大臣は法制審議会から排除されてしまった。

~~引用ここから~~
法制審議会(ウィキペディア)

法制審議会(ほうせいしんぎかい)は、日本の法務省に設置された審議会等の一つ。法務大臣の諮問に応じて、民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議すること等を目的とする。

沿革

法務府設置法(当時)に基づき、1949年(昭和24年)6月1日に設置された。法務総裁(のち法務大臣)を会長とし30人以内の委員により構成される「大臣自ら主催する審議会」として運営されてきたが、2000年(平成12年)5月31日に「法務大臣を会長とする」旨の条項が削除(以後の会長は委員から互選される旨の規定が追加)され「大臣の牽制を直接受けない審議会」へと質的変化を遂げた(ただし、委員の任命権者は引き続き法務大臣であり関与が皆無となったわけではない)。また、2001年(平成13年)1月6日の中央省庁再編に伴い委員数が20人以内に削減された。

(略)
~~引用ここまで~~


~~引用ここから~~
保釈中の逃走対策強化を 法務省が法制審議会に諮問へ 2020年1月7日(NHK)

保釈中の被告らが逃走する事件が相次いでいることを受けて、法務省は、対策の強化に向けて必要な法律を改正するため、近く、法制審議会に諮問することになりました。

去年6月、神奈川県で実刑判決が確定した男が身柄の収容に抵抗して逃走した事件など、保釈中の被告らが逃走する事件が相次いだことを受けて、法務省は、対策の強化を検討してきました。

森法務大臣は、閣議のあとの記者会見で、「実刑判決が確定した者や保釈中の被告人などの逃亡事案が相次いでいることは誠に遺憾で、このような者の逃亡を防止し、確実に収容できるようにすることは極めて重要だ」と述べました。

そのうえで、森大臣は、「できるかぎり速やかに法制審議会に諮問できるように幅広い観点から十分な検討をしていきたい」と述べ、刑法や刑事訴訟法などの必要な法律を改正するため、近く、法制審議会に諮問する方針を明らかにしました。

法務省によりますと、刑務所などから逃走した場合のみが対象となっている逃走罪の適用拡大や、裁判所からの呼び出しに応じない場合にも罰則を設けることなどのほか、日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告が中東のレバノンに不法に出国した問題も踏まえ、GPSを付けて監視することを含めた保釈制度の見直しについても、議論される見通しだということです。
~~引用ここまで~~


法務大臣の権限では六法である憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法および刑事訴訟法をひとつも変えることができないのだ。もちろん憲法は一法務大臣の手には余るし、立法は国会の専権だが。

法務大臣の権限では六法の改正案を内閣提出法案として国会に提出することさえできない。必ず法制審議会に諮問しなければならないのだ。

独断でできないのは良いことかもしれないが、法制審議会の委員はいくら法学の権威とはいっても学者に過ぎない。権限を持ちすぎだ。

国民の負託を受けた法務大臣(繰り返すが民間人でもなれるが)が法制審議会の「会長」として審議に参加すべきなのだ。平成12年5月31日以前はそうだったのだから。

もちろん法制審議会を時の法務大臣がまとめきれないなら法律の改正はできない。

会議ひとつまとめられないあるいは法務大臣に任命される(実際に選ぶのは法務官僚だろうが)委員にさえ拒否される改正案であれば、その案は潰れる。それだけのことだ。

そして法制審議会の「会長」を兼務する法務大臣には、刑法39条を廃止せよで書いたように、刑法39条を廃止して欲しいのだ。

保守的な法務官僚や法学者は嫌がりそうだが。

現在の体制でも法制審議会が拒否しなければ、あるいは議員立法で刑法39条の廃止に動けばできる。しかし刑法39条を廃止したら最高裁が憲法39条がないことは違憲との判決を下す可能性もなくはないのだが。

死刑執行署に署名することと「個別の事件には答えられない」と国会答弁することが法務大臣の職務ではないはずだ。

法務大臣をもっと「重量級」の職に格上げしたい。その際には「法務省」の名称も「司法省」に改称したいものだ。

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