ある程度、漢方や中医学を学んだ人が、更に上の段階に次に学ぶのに「どんな本を読めばいいか」という質問を良く受けます。そんな時にお薦めできる書物が思い浮かばなくて困っていましたが、ある時《臓腑虚実標本用薬式》にぶつかり、これはいいと思ったので紹介します。
『中薬の配合』丁光迪 (著), 小金井 信宏 (翻訳),東洋学術出版社,2005年10月11日,第1版
上の書は「臓腑虚実標本用薬式」の有用性について述べた本邦唯一の書物です。「臓腑虚実標本用薬式」とは張元素の代表作のひとつで、内臓の寒熱虚実の観点から病機を説明したものです。この臓腑辨証説は后世の医師によっても高く評価されています。本書の処方と用薬方法は簡潔であり、古典を継承しつつ革新的な理論を加えています。五臓六腑の生理機能を把握し、疾病の病理発展を理解し、巧妙に引経報使薬物を使って薬の効能を向上させています。この臨床診療のアイデアは、今でも指導的な役割を果たしています。
『中薬の配合』より引用
臓腑の病には,虚実・標本の区別があります。用薬法にも,五臓が邪気に侵されているのか,不足しているのかの違いによって補と瀉の区別があります。どのようにすれば,この両者を有機的に結びつけ,薬と証との確かな相応関係を設定できるのでしょうか。
これについては,張潔古や王海蔵などによって提示された「臓腑虚実標本用薬式」が,非常に大きな役割を果たしました。彼らは「法にもとづいて薬を使う」という方法論を説き,用薬法についての新たな一歩を踏み出しました。
彼らの提示した方法論によって,さまざまな要素が交錯する複雑な病証と,数百種に及ぶ薬とを,1つの方法で結ぶことができるようになったのです。これは学習と実用の両面にわたる革新的な成果です。のちに,これをこじつけだとする議論も起こりましたが,繁雑さを嫌い簡便さを追求した彼らの方法は,初学者に初歩的な認識をもたせる際には,非常にすぐれたものであると思います。
李時珍は『本草綱目』第1巻序例で以下のように述べています。「甘味のもつ緩性,酸味のもつ収性,苦味のもつ燥性,辛味のもつ散性,鹹味のもつ軟性,淡味のもつ滲性は,五味が備えている不変の本性である。この不変の本性を,五臓四時の状況に合わせて,補法・瀉法として使い分けることができる。温・涼・寒・熱は,四時に備わっている本性である。この本性もまた,五臓に対する補法・瀉法を行う際に,状況に合わせて使い分けることができる。これは『素問』が述べている飲食補瀉の意味を,張潔古氏が例をあげて説明したものである。中医を学ぶ者は,意味をよくわかったうえで,これを自らのものとすべきである」
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