ガンの漢方治療法は今日, ガンの原因を確定しない。
従って治療法に決定的なもののない現在, 真剣に取り上げて然るべきものと思われる。
私の最近の治験として33才女の急性白血病の例がある。三宿病院で急性骨髄性白血病と診断したもので,
白血球2500(MbL1.5,Pro.0.5, M.1., Met.1.5,Bamd 11.,Seg.25, E. 2.,Lymph.9)
赤血球228万等の血液像を呈していたものに 45.3.7 加味帰脾湯 を投与したところ 4,24,
病院で白血病がなおったから退院してもよい,不思議なこともあるものと医局の話題になったとのこと。
なんとか治療効果の報告を取ってくれないかと頼んでみたが病院にいうと叱られるからとあやまられた。
以前にも再生不良性貧血を帰脾湯で治癒せしめた例を報告したが,白血病に対しての帰脾湯の治療効果は,是非現代医の病院で実験或績を報告してもらいたいものである。
今日のガン治療の主題は,手術療法であるが,ガンが手術のために生命の予後を悪くする事が少くない。
厚生年金病院で手術したところ,胆のうから十二指腸にかけてガンが蔓延していた。
退院して十全大補湯を投与したところ,三ヵ月で非常に良くなった。
病院側はその経過の良さに,根治手術をすすめ,患は薬を廃めて手術を受けたが,手術後死亡。
この例でも病院側が手術の判断を誤うたとはいえない。ただ漢方療法を受けていること知らなかったための手違いだったのである。
医学の対立よ りは,人命は貴重である。現代医学と漢方との協力によりガン患者の生命を守るべきだと思う。
67才 男で,十二指腸癌の広汎な転移で,手術不能で閉じたものに,十全大補湯加紫根を投与して四ヵ月で腫瘍が消失してしまい,相模原協同病院で驚かれた例がある。
この患者はその後四ヵ月で死亡したが,漢方が延命効果に有力な寄与をしたことはあらそえない。
現代医学は医学的検査が前程とされるだけでなく,目的ともされているが,それがガン患者の生命の予後を悪くすることがある。
77才男で,舌癌の患者に小建中湯を投与したところ,腫瘍は縮小してきたが,その試験切除による創傷が潰瘍となり,食事がとれなくなり,飢餓の状態で死亡した例があった。
ガンは全身性疾患であるから,手術によって治癒することはできない。
ガンの手術はどこまでも機械的障害を排除して延命をはかることを目的とすべきで あって,早期発見,早期手術を過信すべきではない。
むしろ早期手術で根治し得たという例は,ガンでなかったか,ガンであっても発育の遅い良性ともいうべきものであろう。
たとえば胃の粘膜ガンというものにそれが多いと見るべきである。
ガンは異所性増殖を営むものをいうので膜粘癌は定義の上からはガンとはいえないからである。
私は乳癌を桂枝茯苓丸で治癒せしめた例を数例報告したし,
子宮癌も初期のものは同じく桂枝茯苓丸で治癒せしめ肉例をもっている。
66才女,女子医大で食道癌と診断され,即刻手術を命ぜられたものに利隔湯を投与したところ全治した。
64才女,肝臓癌と診断された。黄疽がでていたので十全大補湯合菌蔯五苓散をやったところ,三ヵ月で全治した。
70才女,直腸癌。桃核承気湯合芎帰膠艾湯で4ヵ月で治癒した。
このように現代医学的診断でガンと診定されたものも漢方で治癒するものがあるから, 手術療法と漢方療法との適応指示については,同一診療機関でなさるべきであろうと考える。
現代医学の診療目標は局所的であり,機質的である。それに対して漢方医学は全身的機械的である。
従って厳密には両者に共通の地盤はないというべきであろう。
しかしそれだからといって,両者にコンファレンスが行われないというべきものではないであろう。
人間そのものは生物学的存在でないから,今日の医学の生物学的方法論の一遍倒が,
ことにガンの診療の場合は初歩的段階であるというべきである。それに体質的全体的漢方的治療が編入されることは当然であり,
さらに将来性としては精神療法的領域まで参加せしめなければならないであろう。
(この項は相見博士に御自分で御寄稿を頂いた。)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1950/21/2/21_2_106/_pdf