長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

男伊達ばやり

2011年01月11日 01時23分00秒 | 歌舞伎三昧
 「男伊達ばやり」という芝居がある。もう十数年前。男ざかりの当代成田屋、市川團十郎がひたすらにカッコよかった。
 国立劇場の花道七三で、畳んだ手拭いだったか半纏だったかをパシッと肩に掛けて、「男伊達を、流行らせようぜぇ」と、舞台の当世菊五郎に言った、あのセリフと姿が忘れられない。話の筋は他愛のないものなのだが、理屈はどうでもいい、おおどかな味わいのある芝居こそ、歌舞伎の醍醐味だと思う。
 また、そういう大ウソの世界を、臆面もなく演じきれるものこそが、歌舞伎役者なのだ。
 今は亡き紀伊国屋の「女伊達」…いや、「女暫」も、かっこよかったなぁ。

 最近巷では、「伊達直人」ばやり。
 このキャラクターは、わが世代には捨て置くことができない。
 小学二年生だったろうか、クラスの男の子が、一晩であの、「タイガーマスク」のマスクをつくってみせる、と、大見得を切ったのだった。
 へえぇ、じゃ、出来なかったらどうする? 「丸坊主にしてやるよ!」と、言い出しっぺのI君は叫んだ。
 小学生はすべてに極端で大胆な発言をしてしまうのだった。 
 翌朝、やっぱりI君はつくってこなかった。成り行き上、賭けの受け手になっていた私は、仕方がないので、すでにして五分刈りだったI君の前髪の一、二本を、二、三ミリばかり、切った。
 クラスの連中も、それで事はおさまった。

 昭和40年代の小学生にとっては、大山といえば将棋の大山康晴名人ではなくて、大山倍達。少年誌では、相撲界に代わって、野球界の長嶋・王か、プロレス界の馬場・猪木の、各界の黄金コンビが表紙を飾っていた。プロレスはもっと、一般紙の新聞でも、スポーツ欄のトップに来ていた時代だった。
 子供向けTVアニメ番組では、「空手バカ一代」「キックの鬼」など、「巨人の星」「侍ジャイアンツ」というような野球漫画以外にも、多種多様なスポ根ものがひしめいていた。ユーモア小説味が強かった「いなかっぺ大将」も面白かった。女子に人気があったのはバレーボールの「アタック№1」。
 (私にとって「ドカベン」「エースをねらえ!」は中学生時代のスポ根なのだ)
 実写ドラマでも「柔道一直線」「サインはV」、「金メダルへのターン」という水泳もの、タイトルが想い出せないが、プロボウラーのスポ根ものもあって、あの時代流行った♪中山律子さん、というメロディとともに、ライバルの執拗な嫌がらせと謀略を描く、ある試合の1シーンを、よく思い出す。

 「さすらいの太陽」という、芸能界根性マンガもあった。シンガーソングライターを目指す少女の、出生の秘密という母子物の定石である設定を軸に、長谷川一夫の芸歴エピソードなどを主人公に当てはめて、まさにその時代のテレビドラマの要素を網羅した、手に汗握るメロドラマ・スポ根だった。
 「タイガーマスク」のエンディングと双璧の、秀逸なバラード系のエンディングテーマが、いい曲だった。今でもたぶん、そらんじて歌える。
 世の中すべて、ど根性、だった。

 今思えば、日本国中、みな、しみじみと健気な生き方をしていた。
 いつからだか日本人は、心の満たし方を間違えたのだ。
コメント (4)
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