子供の頃、近所にマルチーズを飼っているお宅がありました。
犬の名前はロン。
いつも放し飼いで、美容院でカットしてもらうことはなく、
モップのような外見で、その毛むくじゃらが私を見つけると、
嬉しそうに駆け寄ってくれる姿が、大好きでした。
「お手」と言うと、必要以上に手を高く、一生懸命あげる姿が
印象的でした。
そのお宅は、当時珍しい父子家庭で、2人姉妹。
私より、年上のお姉さんだったので、姉妹より、
おじさんに、よく遊んでもらいました。
私が5歳のときに、上のお姉さんがお嫁に行くことになり、
「これは持っていけないから」
と、大きなスヌーピーのぬいぐるみをくれました。
私の身長と、そう変わらない大きさのぬいぐるみを
抱えて、ふらつきながら走って親に見せに行ったのを覚えています。
それから3年後の夏、ロンの家の前を通りかかったので、
いつものように遊ぼうと思ったら、姿が見えません。
家の前で洗車をしていた、妹さんに「ロンちゃんは?」
と尋ねると、
「あのね、死んじゃった。私が車でひいちゃったの」
と、悲しそうに説明してくれました。
妹さんが、仕事から帰ると、喜びすぎて車に駆け寄り、
前輪にひかれたそうです。
「ぎゃん」と鳴いて、家の中に逃げ込もうとして、玄関の前まで走り、
そこで倒れて息絶えたと。
車に駆け寄るのは、いつものことだっただろうに、
なぜこの日は近づきすぎてしまったんでしょう
私は、「死」というものに初めて直面して、
よそ様の犬だというのに、ご飯も食べられないほどのショックを受けました。
それから時は流れ、スヌーピーのぬいぐるみは
真っ黒のくたくたになるほど遊びました。
一緒に布団に入れて寝たりしたので、私の寝ぞうが悪くて
押しつぶしてしまい、ちょっと平べったくなったりして、
十分“ぬいぐるみ”としての役目を果たしてくれたと思います。
結婚するときに、「やっぱり持っていけないから」
と、手放しました。
離婚してすぐに、2代目スヌーピーのぬいぐるみを買いましたけど、
見事に娘の手によって、真っ黒にされています。
毎年1回は洗うんですけどね^_^;
2年前に、妹さんとお話する機会がありました。
町内の、子供会で集まったときに、
「ロンちゃんとよく遊びました」
と、話しかけました。
ロンが死んだ日の事は、よく覚えていて、
あの日と、全く同じ説明をしてくれました。
「あの時小学生だったの?」
と、私に対して少々複雑な気持ちを抱いていたようです。
だって、妹さんのお子さんは、私の娘より1つ年下なんです。