長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『オールド・ボーイ』

2019-11-21 | 映画レビュー(お)

パク・チャヌク監督による2003年の韓国映画『オールド・ボーイ』のハリウッドリメイクだ。企画当初からスピルバーグやウィル・スミスら大物の参入が報じられ、その後著作権を巡って原作の出版元双葉社が韓国の映画会社を提訴。流れ流れて公開まで10年の月日を要し、スパイク・リー監督、ジョシュ・ブローリン、エリザベス・オルセン、シャルト・コプリーで撮影される事となった。香港映画『インファナル・アフェア』のリメイク『ディパーテッド』がオスカー作品賞に輝くなど、リメイクブームは言語や文化、さらには作家性の違いを楽しむ1つのジャンルとして定着した感も強い昨今、果たしてその仕上がりは…。

 この機会にパク・チャヌク版を見直してみたが、韓国映画を見慣れた今になってもなおパワフルな“怨”のエネルギーに圧倒されてしまった。チェ・ミンシクのほとんど狂気の沙汰のような演技、ユ・ジテのヒールっぷり、ヒロイン役カン・ヘジュンの大胆さと演出に応えた俳優陣の演技も実に見応えがあった。

 スパイク・リーも“熱気”においては引けを取らない映画作家だが、残念ながら本作はオリジナルに屈した失敗作と言わざるを得ない何の理由もわからず20年間監禁された男の復讐劇、というプロットを損なう事なく踏襲したのはまだしも、チャヌク版のハイライトである横移動ワンカットの乱闘シーンをそのままフォローする等、リーは自らの作家性を試そうともしていないのだ。

 当時、新進女優だったエリザベス・オルセンのヌードも辞さない熱演はマーベル映画で多忙を極める昨今からは想像もつかない大胆さであり、出世作『マーサ、あるいはマーシー・メイ』で注目した身としては、多才な俳優を1つの役に押し込め、スケジュールを逼迫するマーベルの多作ぶりも如何なものかと思わなくもなかった。


『オールド・ボーイ』13・米
監督 スパイク・リー
出演 ジョシュ・ブローリン、エリザベス・オルセン、シャルト・コプリー、サミュエル・L・ジャクソン
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『王様のためのホログラム』

2019-09-03 | 映画レビュー(お)

2017年、トム・ハンクスはどういうわけかテック企業に勤める役柄が連続した。まんまスティーヴ・ジョブズ風のSNSサービス設立者を演じた『ザ・サークル』と、中東の王族にホログラフ投影機を売るセールスマンに扮した本作だ。砂漠のど真ん中に未来都市を建設しようとする王族と一介のサラリーマンの交流を描くお仕事モノかと思いきや、王様もホログラフも映画の主題ではなく、テーマは人生のやり直しだ。妻とは別れ、新しく着いたこの仕事にも大した熱意は湧かず、そして背中には何やら悪そうな“おでき”がある。ひょっとして、自分はそう遠くないうちに死ぬんじゃないだろうか?時差ボケで眠れぬサウジアラビアでトム・ハンクスは中年に危機に瀕するのである。テック企業である事は物語において重要な意味はない。ハンクスのさすがの貫禄で飽きはしないが、これでは散漫過ぎやしないか。

監督は『ラン・ローラ・ラン』『クラウド・アトラス』でも“生まれ変わり”を描いてきたトム・ティクヴァ。自ら脚色も手掛け、キャリアの転換を模索したのだろうか。


『王様のためのホログラム』16・米
監督 トム・ティクヴァ
出演 トム・ハンクス、アレクサンダー・ブラック、サリタ・チョウドリー、シセ・バベット・クヌッセン、ベン・ウィショー、トム・スケリット
 
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『女と男の観覧車』

2019-08-29 | 映画レビュー(お)

今のところ“最後の”ウディ・アレン監督劇場公開作である。ミア・ファローの娘ディラン・ファローへの虐待疑惑が再燃したアレンは#Me too旋風に呑まれる形で近年の製作パートナーであるAmazonから契約を打ち切られてしまったのだ。アレン映画への出演経験がある女優達も相次いで「出演するべきではなかった」と声明を発表した。92年時点で証拠不十分により無罪判決が出ているにも関わらず、御年83歳の巨匠は事実上キャリアを絶たれてしまったのである。

そんな一連の騒動を思いながら2017年の本作を見ると、人生に対する彼のシニカルな視線はいつも以上に味わいがある。舞台は1950年代のコニーアイランド。元舞台女優のジニーはアルコールに呑まれて職を失い、今はウエイトレスとしてわずかな稼ぎを得ていた。依存症時代に知り合った夫ジムとは共依存的関係性だが、愛情はない。そんな時、劇作家を目指す青年ミッキーと出会い、激しい恋におちてしまう。

ジニー役にはケイト・ウィンスレット。『レボリューショナリー・ロード』『とらわれて夏』『リトル・チルドレン』と人生に疲れた人妻役はもはや十八番。熟れて落ちそうな色気に『欲望という名の電車』を思わせる神経症演技が加わり、充実のパフォーマンスである。

夫の連れ子キャロライナが転がり込んできた事から始まる悲劇と皮肉が従来のアレン節を超えた迫力を放つのは、ひとえに名撮影監督ヴィットリオ・ストラーロの功績と言えるかもしれない。コニーアイランドの美しい青空、眩いネオン、登場人物の心情に寄り添う青と赤のコントラスト…12年の『ミッドナイト・イン・パリ』以後、名手ダリウス・コンジが担当してきた撮影は特に時代モノで美しいライティングを見せてきたが、それでも雇われ仕事の域は出ていない印象だった。ところが、前作『カフェ・ソサエティ』と本作という“50年代モノ”で名匠ストラーロを起用したウディは近年になく映画的快楽を追及している(プロダクションデザインの豪奢さといい、Amazonの潤沢なバックアップがあってこそである)。ウディ映画をストラーロが凌駕しているとも言えなくないが、新興スタジオの台頭も手伝い、巨匠には作風の変化が訪れていたのではないだろうか。

ジニーはこう言う「あたしの不幸は自己責任」。今頃、ウディはものすごくシニカルで、可笑しく、そしてたまらなく哀しいホンを書いているのではないだろうか。


『女と男の観覧車』17・米
監督 ウディ・アレン
出演 ケイト・ウィンスレット、ジャスティン・ティンバーレイク、ジュノー・テンプル、ジム・ベルーシ
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『オペレーション・フィナーレ』

2018-10-12 | 映画レビュー(お)

ホロコーストで主導的役割を果たしたとされるナチス戦犯アイヒマンの捕縛を描いた実録サスペンス。当時、南米に潜伏していたアイヒマンはイスラエル諜報機関モサドによって逮捕され、歴史的裁判にかけられる事となる。『アバウト・ア・ボーイ』や『トワイライト』シリーズ等を手掛けてきたクリス・ワイツ監督がメガホンを取り、これまでにない大人っぽい語り口を見せた。自身もユダヤ系であるだけに想いも強かったのか、さながらスピルバーグにおける『シンドラーのリスト』のような気迫である。音楽アレクサンドル・デスプラ、夜間シーンの深みが素晴らしい撮影ハビエル・アギーレサロベのカメラらスタッフワークも好投だ。

1960年、アイヒマン潜伏の情報を掴んだモサドは慎重に裏付けを取り、ついに捕獲作戦を決行する。しばしば世界最強のスパイ組織と称されるモサドだが、どういうワケか映画では実戦不足で場当たり的と描かれる事が多く(『ミュンヘン』)、ここでも予定外のトラブルに次々と見舞われ、映画の緊迫感は増す。国外脱出ルートを絶たれた彼らが10日後の飛行機を待つ件は『アルゴ』を彷彿とさせ、狡猾なアイヒマンとの心理戦にサスペンスは高まる。

アイヒマンの“凡庸さ”をいち早く感じ取ったピーター・マルキン(オスカー・アイザック)が人間的扱いを施す事で心を開かせていく過程が面白い。さすがの巧さでアイヒマンを演じるベン・キングスレーは邪悪さと哀れさを同居させ、それは後の裁判でも露わにならなかった表情では、と思わせてくれる真実味があった。

 終幕のアルゼンチン脱出からアイヒマン裁判まではもう少し時間をかけて欲しかったが(ピーターの足取りがわからない)、ピーターが己の心に決着を見出す姿は胸に迫るものがあった。描かなければならない、というワイツの思いが感じられる1本だ。


『オペレーション・フィナーレ』18・米
監督 クリス・ワイツ
出演 オスカー・アイザック、メラニー・ロラン、ベン・キングスレー
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『オーシャンズ8』

2018-09-02 | 映画レビュー(お)

なるほど、ジョージ・クルーニーらオールスターキャストで大ヒットした“オーシャンズシリーズ”をオール女性キャストでリブートするというのは“Me too”の時代に即した企画だ。監督はスティーブン・ソダーバーグからゲイリー・ロスへとバトンタッチされたが、まぁ手堅くまとめてくれるだろう。主演にサンドラ・ブロック、オスカー女優のケイト・ブランシェット、アン・ハサウェイ、おっとリアーナまでいる。脇にはヘレナ・ボナム・カーター、サラ・ポールソンと達者な俳優が揃った。若者に人気のアイドルが足りないが、インド系も中国系もキャスティングして各方面への目配せはしてあるからまぁいいだろう。男性版までとは言わなくても、そこそこはヒットするんじゃないか。

…おそらくこんな所が公開前の業界、批評家、観客の予測だったのではないだろうか。ところがフタを開けてみれば男性版を上回る興行収入を記録、そして抜群にこっちの方が面白いのである。
ムリもない。既に男たちによってやり尽くされた集団ケイパーものというジャンルをわざわざ1960年の凡作『オーシャンと十一人の仲間たち」をリメイクして作り上げた男性版3作はまるで大スターの慰安旅行を見せられているような、怠惰で気の抜けた映画だった。かつてブランシェットはオスカー受賞時にこうスピーチした「女性達にも物語はあります」。

この女性版のフレッシュさはどうだ。お色気にも若さにも頼らず、ゲイリー・ロス監督はさすがの手際でシャープで痛快な作品に仕上げている(ソダーバーグとは互いの現場で第2班監督を引き受け合う盟友だという。気質は異なっても映画人としての基礎体力の高さが二人を通じ合わせたのかも知れない)。
 ブラット・ピットなんか必要ない。『キャロル』の5割増し(当社比)でハンサムなケイト・ブランシェットには男も女も抱かれたくなるハズだ。何より8人という数字は全員に均等に見せ場があっていいじゃないか。男性版でクルーニーとブラピ以外に誰がいたか憶えている人、いる?

そんな本作のスピリットは中盤、サンドラ・ブロックのセリフから露わとなる。
「自分たちのためじゃない。世界のどこかでアウトローを夢見る8歳の女の子のためにこのヤマを踏もう」
 そう、アクションもハードボイルドもケイパーも男だけのモノじゃない。映画館を出たら肩で風を切りたくなるような映画は誰だって見たいじゃないか。腑抜けたジャンル映画に新風を吹き込んだ意義ある1本だ。断固支持したい。


『オーシャンズ8』18・米
監督 ゲイリー・ロス
出演 サンドラ・ブロック、ケイト・ブランシェット、アン・ハサウェイ、ミンディ・カリング、サラ・ポールソン、オークワフィナ、リアーナ、ヘレナ・ボナム・カーター
 
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