もし今から2011年製作の壊滅的なメロドラマ映画『ワン・デイ 23年のラブストーリー』を見ようとしているなら、30分×14話の時間を確保してNetflixのTVシリーズ版『One Day ワン・デイ』を見るべきだ。1988年、大学卒業パーティで出会ったエマとデクスターの20年間を描くデヴィッド・ニコルズの小説を、たった1時間47分の劇映画で描くには土台無理があった。イギリス中産階級育ちの文系エマにはハリウッドスターのアン・ハサウェイが配役され、ジム・スタージェスはデクスター役になんら人間的深みを見出すことができなかった。映画を見終えた後には「こんな人に20年も費やして…」と身も蓋もない感想しか残らなかったのは悲劇としか言いようがない。
そう、エムとデックスは必ずしも親しみやすい人物ではない。エマは利発なばかりに時に辛辣で頑なだし、デックスは誰からも愛されるチャームを持ちながら、あまりにも軽薄で愚かだ。TVシリーズ版の成功はそんな少なくない欠点を抱えた2人に決して美男美女ではないアンビカ・モッド、レオ・ウッダールをキャスティングし、彼らの誠実なパフォーマンスによって『ワン・デイ』を私たちの物語へと昇華させたことだ(ウッダールは終盤を一手に引き受け、キャリアの重要なブレイクスルーとなっている)。
『One Day ワン・デイ』に相応しいストーリーテリングとは、1話30分全14話というTVシリーズのフォーマットにこそある。20年間を毎年の7月15日だけで描く本作は、まるで自身の日記を読み返したり、親友の打ち明け話に耳を傾けるような親密さがある。人生の定点観測には2人が出会わない時間も多く含まれ、互いがそうであるように視聴者もまた相手の全てを知ることはできない。恋愛とは相手の過去、現在、未来に介在したいと願いながら、その実、自分から見える一面しかわからず、惑い、傷つき、想う切なさは知られる由もないのだ。
TVシリーズのナラティブを得たことで、本作は個人史が普遍へと転じるダイナミズムを獲得した。誕生、出会い、愛、別れ、死…年月と共に蓄積されていくエムとデックスの“1日”の物語は人生そのものである。そして、私たちはこんなにも愛しい人に巡り合うことができる人生が、どれほど奇跡的なものかと思わずにはいられないのである。
『One Day ワン・デイ』24・英
製作 ニコール・テイラー
出演 レオ・ウッドール、アンビカ・モッド、エシー・デイヴィス、エレノア・トムリンソン
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