昨今のコロナショックを受けて配信チャート上位にランクインしていると聞き、筆者も2012年のソフトリリース以来に再見した。当時もスティーブン・ソダーバーグのサスペンス監督としての手腕に唸ったが、スマホの画面を触り、手すりを握る事の意味が変わった今、本作で描かれる恐怖はケタ違いであり、感染が急速に拡大する前半30分は身の毛もよだつ出色の仕上がりだ。『トラフィック』を思わせるカラーコーディネートで世界各地の様子を同時進行で描き、人々が触れた物体にじっと目を凝らすカメラには背筋が凍る。
そして脚本スコット・Z・バーンズの徹底した取材によるリアリズムはまさに僕らがここ数か月で見てきた風景そのものであり、そしてこれから見る風景なのかと戦慄する。バーンズは昨年もソダーバーグと組んでパナマ文書事件のからくりをコメディ仕立てに描いた『ザ・ランドロマット』の脚本を担当。さらにCIAによる公文書隠蔽を暴く力作『ザ・レポート』で監督デビューするなど社会派映画人として活躍著しい。『コンテイジョン』の再評価が彼のさらなるキャリアアップへと繋がるだろう。
出演はマット・デイモン、ケイト・ウィンスレット、ジュード・ロウ、マリオン・コティヤール、ローレンス・フィッシュバーン、グウィネス・パルトロウというオールスターキャストながら、興行収益にも受賞歴にも忖度しないウィルスによって誰が初めに命を落とすかわからないサスペンスがあり、さながらホラー映画のような緊迫感だ。これこそまさに国境も人種も超えて襲い来るウィルスのリアルな恐怖だろう。
公開当時の2011年、日本は3.11以後でありジュード・ロウ扮するブロガーのデマ拡散によるパニックが特に恐ろしく映った。それ以後、SNS上に見る分断の深まりは知るところであり2020年の今、僕らがこの映画から省みるのはウィルスの恐怖はもちろん、非常時に直面した時「何をやってはいけないか」という事だろう。
映画の最後では感染ルートの原因として環境破壊が示唆される事にも驚いた。時代を先駆け、ついに真価を認められた傑作である。
『コンテイジョン』11・米
監督 スティーブン・ソダーバーグ
出演 マット・デイモン、ケイト・ウィンスレット、ジュード・ロウ、マリオン・コティヤール、ローレンス・フィッシュバーン、グウィネス・パルトロウ、ジェニファー・イーリー、ジョン・ホークス、ブライアン・クランストン
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます