長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『運命は踊る』

2020-04-10 | 映画レビュー(う)

 原題はダンスの種類である“Foxtrot”。ステップを踏んでも必ず元のポジションに戻るそれのように連環する運命を描いた3幕の物語だ。

 映画は従軍していた息子ヨナタンの死の報せから始まる。身を切るような深い苦しみは遺された両親の間にあった溝を浮き彫りにしていく。サミュエル・マオス監督は徹底して計算された美術と撮影で息詰まるような室内劇を展開、その筆致は冷徹にすら思える。
 一転して第2幕では国境警備にあたるヨナタンが描かれる。見渡す限りの砂漠で道を通るのはラクダくらい。そんな牧歌的な日々に、やがて悲劇が起こる。

 本作は監督の実体験を基に作られているという。ある日、子供がいつも通りスクールバスで登校した後、そのバスが爆破テロにあったという報せが届く。映画の両親同様、筆舌し難い苦しみの時間の後、なんと子供は帰宅した。たまたまそのバスに乗り遅れていたのだ。喜びを噛み締めたマオスはふと気付く。我が子が無事、帰宅できた一方で、どこかには帰ってこれなかった子供達がいるのだ。

 第2幕の悲劇はそんなイスラエルの日常に根差したものであり、再び“最初のステップ”に戻る本作は子の世代にそれを引き継がせてしまったマオスの贖罪と罪悪感が込められているのだ。


『運命は踊る』17・イスラエル、スイス、独、仏
監督 サミュエル・マオス
出演 リオル・アシュケナージ、サラ・アドラー、ヨナタン・シライ、シラ・ハース
 

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