長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ダーク』

2020-07-23 | 海外ドラマ(た)
※このレビューは物語の重要な展開に触れています※

 Netflixは各国でオリジナルドラマの製作に力を入れており、中でもこのドイツ産ドラマ『ダーク』はスペインの『ペーパー・ハウス』と並ぶ世界的な人気作だ。ドイツの田舎町で起きた少年失踪事件を皮切りに、複雑怪奇なタイムトラベルを描いた本作は多くの熱狂的ファンを生み、考察ファンダムが過熱した。複数の登場人物が入り乱れる群像劇は普段、見慣れないドイツ人キャスト、人名を把握するにも一苦労で、さらには過去、現在、未来と多くの時制がシームレスに描かれるため、時制毎に演じる俳優も異なってくる。これはシーズンを重ねる毎にさらに複雑化し、終盤は人物相関図片手に視聴したファンも多かったのではないだろうか。そういう意味ではブームに乗り遅れてでもシリーズ完結後にビンジしたのは正解だった。

 戦後間もない1953年、東西分裂の1986年などドイツにとって重要な時代を舞台にしながら、歴史的背景やポップカルチャーを一切描いていないのも特徴的で、吹替え音声ならどこの国の作品かもわからないだろう。これもグローバルな人気の要因だろうか。

 『ダーク』の魅力の1つはその複雑なタイムコードにある。タイムトラベルものの常套として過去が現在に影響を及ぼすが、ここではある理由から未来も過去に影響を及ぼす。複雑な時制を整理しながらピースを埋めていく作業は知的好奇心をそそられるし、作り手も視聴者の知性を信頼した演出だ。

そしてこれは時間に囚われた人々の怨念の物語でもある。血縁と禍根を引きずり続ける姿は田舎町特有の呪いだ。中でも少女時代の片想いを引きずり続けるハンナの屈折ぶりが面白い(幼年時代を演じるエラ・リーはゲーム『スター・ウォーズ フォールン・オーダー』のCMに出演。ワールドワイドな活躍を期待したい美少女!)

折り返し地点となるシーズン2第4話でついに登場人物全員がタイムトラベルの存在を知り、物語が本題に入る。しかし“終末の日”6/27にリリースされた最終シーズンはなおもタイムコードの整理に終始した。『ゲーム・オブ・スローンズ』の如く物語はヨナスとマルタに収束していきながら、新登場した並行世界はシーズン1のやり直しに過ぎず、視聴者にとっても無間地獄である。ほとんどの登場人物がさほど描かれる事もないまま劇中の言葉通りピースを埋めるだけの“駒”となっているのも惜しい(マグヌスやフランツィスカはほとんど空気のようだ)。

 連続ドラマのナラティブとは長い時間をかけてキャラクターの人生と伴走する事に醍醐味があったのではないか?辻褄合わせに終始するセミファイナル、全体の半分がナレーションで進行する最終回にここまで緻密な構成を創りながら、語りのペースを誤ったショーランナーへの失望が募った。タイムトラベルや群像劇というスタイルはデイモン・リンデロフの出世作『LOST』を彷彿とさせるが、『ダーク』は理詰めが過ぎる。

 なにより最終回で明かされる無間地獄からの脱出方法に思わず『え、それなの?』と声を出してしまった。
もっとも、それは時間に選ばれなかった者の無意味な呟きかもしれないが。


『ダーク』17~20・独
監督 バラン・ボー・オダー
出演 ルイス・ホフマン、リサ・ヴィカリ、マヤ・ショーネ、オリヴァー・マスッチ、エラ・リー、カルロッタ・フォン・ファルケンヘイン

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