長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『スプリット』

2018-04-21 | 映画レビュー(す)

M・ナイト・シャマラン完全復活を世に知らしめた大ヒット作。
『シックス・センス』のあの大どんでん返し以後、観客にサプライズを期待され、自らも半ばそれを課すようなキャリアを形成したためかやがて“過去の人”となってしまった異才だが、本作を見ると“交流”をテーマにした丁寧なストーリーテリングこそ本位としてきた人である事を思い出した。『シックス・センス』で僕たちが最も心動かされたのはブルース・ウィリスに訪れる癒しよりも、我が子と交わす言葉を失くしてしまったシングルマザーと、早熟ゆえに距離を置いてしまった息子の和解ではなかったろうか。

『スプリット』も予告編で期待したシチェーションスリラーではなく、監禁犯と被害者の交流、心理描写に重きが置かれており、孤独な魂を抱えた2人のある種のラブストーリー、『美女と野獣』の変奏にも見える(ヒロインは初めからあまり犯人を恐れていない)。それぞれの過去と現在を往復しながらやがて魂の共感が明らかになる作劇はなるほど、『シックス・センス』の名手の腕が光る。

24人格演技なんて朝飯前のジェームズ・マカヴォイよりも注目はヒロイン、アニヤ・テイラー=ジョイだ。
 なんて不思議な顔なんだろう!離れ気味の目の色と漆黒の髪色が表情に陰りを呼び、僕らはその奥の感情を読み取ろうと踏み込み、手探り、2時間魅入ってしまう。彼女を見ているだけで全く飽きない。彼女の目と髪色のマッチングに気付いたシャマランの功績は大きく、この“暗さ”はブレイク作『ウィッチ』にもなかった魅力だ(彼女、作品毎に髪色が全く違うため、地毛の色がわからない)。そしてラストシーンの表情は“Me too”の時代にシャマランがもう一度表舞台に戻るべくして戻った力強さに満ちており、感動的だ。

 長年のシャマラニスト(いや、シャマラーか?)はクライマックスに腰を抜かしただろう。決してくじけない(unbreakble)シャマラン、第2章の始まりだ。


『スプリット』17・米
監督 M・ナイト・シャマラン
出演 ジェームズ・マカヴォイ、アニヤ・テイラー=ジョイ
 

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