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Netflixとライアン・マーフィーによる最新作は1970年代に活躍したファッションデザイナー、ホルストンの伝記ドラマだ。彼の名を一躍有名にしたのは1961年、ジョン・F・ケネディの大統領就任式で妻ジャクリーンがかぶった「ピルボックス帽」のデザインだった。以後、帽子の流行が下火になると彼は洋服デザインへと転向し、その流麗でエレガントなスタイルが人気を集めていくことになる。
『POSE』『ハリウッド』『ボーイズ・イン・ザ・バンド』同様、徹底再現された時代風俗が本作の見どころの1つだ。ホルストンのブランド初期メンバーには後に映画監督へ転身し、『バットマン・フォーエヴァー』や『オペラ座の怪人』など数々の大ヒット作を手掛けた故ジョエル・シュマッカー監督が在籍していた事に驚いた。ホルストンは映画界との繋がりも強く、ボブ・フォッシー監督作『キャバレー』では衣装を改良した事からライザ・ミネリと親交が生まれ、それは終生に渡って続いたという。演じるクリスタ・ロドリゲスはミネリに似せているのはもちろん、ホルストンがブランドの威信をかけたファッションショー"ヴェルサイユの戦い”を描く第2話で見事なステージアクトを披露している。
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だが、ドラマはホルストンがファッションによってもたらした革命〜女性解放〜についてはあまり注力していない。彼は体にフィットしたデザインが主流だった時代に緩やかさとパンツルックを持ち込み、ハイブランドから中小価格帯へ進出することで中産階級の衣料を一変させる。しかし、その先駆的な経営戦略は当時、ブランド価値を傷つけるとして物議を醸す。本作ではホルストンは商才をほとんど持ち合わせておらず、経営は彼の意に反したものだったとしている。
彼は経営者である以前に、アーティストだった。1975年、ホルストンがマックスファクターから発売した香水は終生の大ヒット作となる。第3話、調香師はホルストンのルーツから香りを探り出そうと、まるでセラピストのように彼の内面へと迫っていく(ヴェラ・ファーミガがこの職人に神妙な説得力を持たせており、さすがの巧者ぶり)。家族の帽子を手掛けていた幼少期の記憶と、ゲイとしての孤独と向き合う彼が見出した匂いに調香師は言う「あなたは天性の調香師よ」。最もパーソナルなことが最もクリエイティブなのだ。
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最終回タイトルは『批評』。薬物依存で経営判断もままならない彼の仕事を酷評したのが批評家であり、社から放逐された後、懇意の演出家の下で手掛けた舞台衣装を大絶賛したのも批評家であった。物語はマーフィーの代表作『POSE』同様、エイズ禍の1990年代に突入して幕を閉じる。『ホルストン』は時代に埋もれたゲイの物語に光を当てるが、薬物に依存していくナルシズムに時間を割いた構成はやや活力に乏しい。しかし商業主義に背を向け、時に批評に泣き、批評によって尊厳を取り戻すアーティスト、ホルストンへの強い憧れにこれまでにないマーフィーの強い想いを感じるのである。
近年、バイプレーヤーとして磨きをかけてきたユアン・マクレガーはホルストンの野心と繊細をエレガントに演じ、キャリアベストの演技。エミー賞では主演男優賞はじめ、美術部門など計5部門でノミネートされている。
『ホルストン』21・米
監督 ダニエル・ミナハン
出演 ユアン・マクレガー、レベッカ・デイアン、デヴィッド・ピトゥー、ジャン・フランコ・ロドリゲス、ビル・プルマン、ヴェラ・ファーミガ
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