長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『フォックスキャッチャー』

2019-09-14 | 映画レビュー(ふ)

1996年、デュポン財閥の御曹司が自らスポンサーを務めるレスリングチーム“フォックスキャッチャー”の金メダリスト、デイヴ・シュルツを殺害した実話を描く。アカデミー賞ではベネット・ミラーの監督賞はじめ5部門でノミネートされた。

スキャンダラスな事件を描く監督の冷徹な視点はドキュメンタリーのを思わせ、いたずらに劇的効果をもたらすような事をしていない。元狩猟場であったデュポン家の敷地“フォックスキャッチャー”は外界から閉ざされた特殊な環境であり、そこで繰り広げられるデュポン、シュルツ兄弟ら3人の愛憎が次第に狂気を帯びていく様はまるで舞台劇のように濃密だ。コメディ演技から一転、死んだ目つきで自らの王国に閉じこもったデュポンの狂気をスティーヴ・カレルが体現。屈折した兄への愛情を抱きながら次第に精神が瓦解するマーク・シュルツ役で実力を証明したチャニング・テイタム、そしてその柔和な個性と圧倒的な肉体改造で存在する助演の鑑マーク・ラファロと充実の演技アンサンブルである(怪物的な老母として君臨するヴァネッサ・レッドグレーヴの異質さも見逃せない)。

本作は単なる実録殺人ものに留まらず、ミラーは事件を俯瞰する事でアメリカそのものを描き出そうとしている。偉大なアメリカの父権を体現しようとするデュポンから見えてくるのは選手を搾取する国家権力の姿だ。無知な国民が妄信的に国家に追従し、破滅する様はこれまでも、そしてこれからも起こり得る事であり、同時期公開の『アメリカン・スナイパー』と同じ病巣を抉り出している。ドラッグと享楽でボロボロになったシュルツがまるで奴隷のようにデュポンに跪くグロテスクさが頭から離れない。ミラーの題材に対するインテリジェンスが事件からより多くの物を映し出す力作である。


『フォックスキャッチャー』14・米
監督 ベネット・ミラー
出演 スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、シエナ・ミラー、ヴァネッサ・レッドグレーヴ
 

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