1959年9月13日、プリシラは父の転勤先である西ドイツで兵役中の人気スター、エルヴィス・プレスリーと出会う。プレスリー24歳、プリシラ14歳の時だった。人気歌手との交際は世界中の女性が羨むシンデレラストーリーだったが、『ヴァージン・スーサイズ』『ロスト・イン・トランスレーション』『マリー・アントワネット』と常に囚われの少女を描き続けてきたソフィア・コッポラは、プリシラにも同じ憂鬱を見出している。心だけ連れ去られたかのような音信不通の遠距離恋愛生活。プリシラの心を繋ぎ止めようとするエルヴィスの甘い言葉は尊大な自己愛にも裏打ちされている。8年の長すぎる春を終えれば今度は妻、そして母親として彼女はプレスリーの実家グレイスランドに囚われ続けていく…。
2024年『シビル・ウォー』『エイリアン:ロムルス』で動的存在感を見せたケイリー・スピーニーの小柄な身体は、実際のエルヴィスよりもずっと背の高い身長193センチのジェイコブ・エロルディと並ぶことでプリシラの孤独とあどけなさを色濃くする。スピーニーは前述の2作とは異なる心理演技を披露しており、本作でヴェネチア映画祭女優賞を獲得。エロルディは歌唱もダンスも再現することはなく、出世作『ユーフォリア』で見せたサイコパス的なニュアンスをプレスリーにもたらしている。
プリシラが囚われ続けている最中、プレスリーにはいったい何が起きていたのか?薬物への依存が極まり、過労で疲弊していた彼もまたマネージメントを務める“大佐”に囚われていたが、本作にトム・パーカーは登場しない。バズ・ラーマン監督、オースティン・バトラー主演の2022年作『エルヴィス』が『プリシラ』のA面であり、描かれない各自キャラクターアークは2作を合わせることで明確になってくる。
『プリシラ』23・米
監督 ソフィア・コッポラ
出演 ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ
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