1999年『ヴァージン・スーサイズ』で監督デビューしたソフィア・コッポラも49歳。パークハイアットの窓辺で憂いた少女は中年となり、再び“ロスト・イン・トランスレーション”する彼女の手を取るのは今度もビル・マーレイだ。女たらしで軽妙洒脱、そしていつだって1番の味方である理想のチョイ悪オヤジをもちろんマーレイはチャーミングに演じて最高である。
僕はどういうワケか『マリー・アントワネット』以来のソフィア・コッポラ映画となったが、久しぶりに見てその洗練に驚かされた。描かれるライフスタイルは相変わらず世俗から遠いが、ここには不惑の年齢を迎えた人間普遍の実感がある。子育てと夫の不倫に悩まされ、自身の創作もままならない生活感は大いに共感できた。だがビル・マーレイと繰り出せば、夜のNYはなんともゴージャスで、胸躍るカメラなのだ。女優の趣味も実に良く、ラシダ・ジョーンズはマーレイ以上にこの映画のハートである。
ソフィアはマーレイ扮するダメ親父に憧れながら、それを良しとは描かない。レストランのウェイトレスですら口説かずにはいられず、職質を受ければのらりくらりとかわし、孫には『ブレイキングバッド』を見せる(「面白いけど子供はダメ!」)彼は、事も無げに「(加齢で)女性の声が聞き取れない」とのたまう。歳を取ると高音が聞き取れないとは言われるが、親父はいつだって女性の声に耳を傾けてこなかった。2010年代後半、“女性映画”が更新されて以後、これまで活躍してきた女性監督達も今一度、男性性について見つめ直しているのだ。
『オン・ザ・ロック』20・米
監督 ソフィア・コッポラ
出演 ラシダ・ジョーンズ、ビル・マーレイ、マーロン・ウェイアンズ
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