野沢温泉のシンボルは大湯、温泉街の中心に、江戸時代の趣ある湯屋建築の美しい姿を見せている。
カランコロンと下駄を鳴らして13ある外湯を巡るのが、この北信濃の温泉地の大きな魅力だ。
ガラガラと引き戸を開ける。奇跡的に誰も居ない。タイミングかな。
湯気が高い天井までゆらゆらと上がっていく様子は、見ていて案外癒しになるなぁ。
湯船は二つ、ぬる湯とあつ湯があるけれど、そもそも50℃を超えているから、何がぬる湯?
真鍮の蛇口を全開にして加水、恐る恐る浸かる。身動きがとれない。
10秒も使っただろうか、堪らずに湯船から逃げ出す。全身は真っ赤なのだ。
っと、戸を引く音がしたので、慌てて蛇口を閉める。地元のお父さんに叱られるからね。
温泉街を見下ろす高台で、真湯と麻釜、2つの源泉をかけ流している野沢グランドホテルに投宿。
久しぶりにふるさと信州を訪ねて、北信濃のお湯と地酒と「おごっつぉ」を楽しみたい。
木耳辛子和え、菊花なます、高原花豆の甘煮、紅鱒イクラ、わらび甘酢漬と八寸を並べて生ビール。
クリーミーな泡を口ひげにして、キンキンに冷えたやつを呷る。風呂上がりには堪らない。
信州サーモンとするめいかの向付、高野豆腐と夏野菜の冷し鉢が追っかけてきて、膳が華やぐ。
甥っ子を含めて20代の男が4人、酒が飲める年ごろになって頼もしい。今回はちょっと賑やかな宴だ。
平皿に鮎が泳いだら、城下町飯山の酒 “水尾” を開けて、年長の義弟と差しつ差されつ。
「金紋錦」を醸した “小吟” は華やかな香りの純米吟醸、コクの深い味わいがいい。
野沢菜の “おやき” を味わっているうちに、信州牛にいい感じで焼き色が付いてきた。
地酒は戸狩の “北光政宗” に代わる。“雪明かり” は「ひとごこち」を醸したやわらかい口当たりの純米吟醸。
あっ、酒の順番は逆の方が良かったかなぁ。いやご馳走さまでした。
今宵、奥信濃の酒肴を堪能した湯宿、あとは早暁、露天風呂を独り占めしたいものだ。
<40年前に街で流れたJ-POP>
そして、僕は途方に暮れる / 大沢誉志幸 1984