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出張が明けた週末は、冷たい風が吹き荒ぶものの、雲ひとつない青空が広がっている。
今日は阪神電車に乗って、灘五郷のいずれかを訪ねて一杯飲りたい。
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特急専用の2番線に停車しているのは「阪神甲子園球場100周年記念ラッピングトレイン」だって。
名作野球マンガのキャラクターや、甲子園球場の歴史を辿る数々の写真で電車を彩る。
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水島新司氏の「ドカベン」が彩るのが1号車、岩城が吠え、殿馬が舞っている。
11:10、幸運にもこの希少な列車に遭遇して、ボクの阪神電車の旅は始まる。
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特急の最初の停車駅は尼崎。速度を落とした車窓には、車両基地越しに天守閣が見えてくる。
尼崎城は大坂の役後、戸田氏によって築城され、明治の廃城令まで大阪湾に浮かぶようにあった。
現在の復元天守は2018年に落成した。まだ新たしい白壁が冬の陽を浴びて眩しい。
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急行に乗り換えて3つ目、武庫川橋りょう上に設置された武庫川駅のホームは底冷えがする。
川の土手を降りたところに武庫川線が発着する1面2線の島式ホームがある。
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わずか1.7kmの武庫川線は1944年、紫電改など海軍の航空機を製造した川西航空機への輸送を目的に建設された。
武庫川西岸の築堤沿いに走る深緑の「甲子園号」は、武庫川団地の通勤通学を担っている。
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武庫川に戻ったら再び急行電車に飛び乗って、2つ目の特急停車駅、甲子園へと駒を進める。
呑み人の母校は在学中に春の選抜大会に出場している。応援に行った頃は蔦に覆われていたのだが。
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甲子園駅に滑り込んできたのは「日本一特別ラッピングトレイン」って、これまたラッキーな邂逅なのだ。
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大阪難波方面から神戸三宮まで走るこの車両はそろそろ運行終了かも、関心のある方はお早めにどうぞ。
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芦屋から住吉にかけて、鉄路は神戸市の都市計画事業によって高架化が成った。
急行用の1000系電車はスラブ軌道を、それこそ滑るように快適に飛ばして行くのだ。
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6つ目の特急停車駅は御影。日本一の酒どころ灘は五つの郷から成っている。
なかでも御影郷は菊正宗だの白鶴だのコマーシャルでもお馴染みの大きな蔵が並ぶのだ。
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“福寿” という、なんとも縁起のいい酒蔵、神戸酒心館も御影郷に杉玉を吊るしている。
門をくぐって左手、木造の酒蔵に「蔵の料亭 さかばやし」がある。
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フレッシュな純米吟醸をワイングラスに注いでもらったら、旬魚の四種盛りをアテに一杯。
お姐さんにわがままを言って、ランチの膳を小出しにして貰うのだ。
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煮物にお浸し、それに自家製豆腐の小鉢を並べて、緑のラベルは純米酒。
すっきりとした切れ味の辛口は、出汁がきいた料理には相性がいいね。
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8000系の特急電車が岩屋駅から地下区間に潜り込むと旅の終わりも近い。
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神戸の中心市街地のターミナルは三宮、JRと阪急は高架駅、阪神電車の神戸三宮は地下駅になっている。
5社6路線の駅は互いに「さんちか」で繋がる。イメージのせいか、街ゆく人たちはお洒落な人が多いような。
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この旅のアンカーは山陽電鉄5000系、特急は大阪梅田から山陽姫路まで直通運転をしている。
阪神電鉄本線の終点は元町、その先山陽電鉄の起点西代まで繋ぐのは神戸高速線になる。
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元町を降りたらビル風が吹く街並みを潮の香りがする方へ足を進める。
お色直しを終えた真紅のトーチが、夕陽を浴びて輝いている。旅の終わりの西代まではあと少しだ。
阪神電鉄本線 大阪梅田〜元町 32.1km 完乗
神戸高速線 元町〜西代 5.0km 完乗
武庫川線 武庫川〜武庫川団地前 1.7km 完乗
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<40年前に街で流れたJ-POP>
誘惑 / 井上陽水 1983