旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

剱岳と越前そばと月清しと 北陸新幹線を完乗!

2024-04-06 | 呑み鉄放浪記

敦賀延伸開業から1ヶ月、桜の季節を待って北陸を旅する。
呑むことと乗ることに的を絞って、北陸3県を早回しに訪ねてみたい。

背後から朝日を浴びて、午前7時前の赤れんがは驚くほど静かに佇んでいる。

07:20、22番ホームから2本目の “かがやき” が滑り出す。

全長22.3kmの長大な飯山トンネルを抜けると、車窓左手に頸城三山が現れる。
連聳する火打山と活火山の焼山を従えて、“越後富士” 妙高山が秀麗に裾野を広げている。

トンネルの合間にチカチカと日本海が煌めくと、やがて “かがやき” は富山平野へと飛び出す。
こんどは立山連峰の “剱岳” が遥か昔に氷河に削り取られた峻険な山容を見せる。

東京から2時間、満開の桜が迎えてくれた富山駅。
枝いっぱいの淡い桜色と、ハンギングバスケットの橙や黄それに紫のコラボレーションが華やかだ。

富山地方鉄道の市内線にガタゴト揺られること5分、丸の内電停を降りると富山城のお濠端だ。
天守閣と石垣、お濠に桜色を映すソメイヨシノ、ビルの間に煌めく立山連峰、この共演は美しい。

かつて高山本線のホーム上で繁盛していた「立山そば」は、とやマルシェの一角で出汁の香りで誘っている。
思わず押した券売機の “白えび天そば” 、白えびの香ばしさと薄めの出汁を絡めてズズッと美味しい。 

旅はテンポよく進む。13:40発の “つるぎ” は富山・金沢と敦賀を結び、名古屋・大阪方面へと連絡する。
真っ昼間の便はまだまだ輸送力に余裕があって、乗客は間違いなく訪日外国人観光客の方が多い。

 

“三笑楽” は合掌造りで有名な五箇山の酒、豪雪地帯の冬の寒で醸した芳醇辛口が美味しい。
金沢までは20分と少々、“白えび小判” を添えて、カポッとワンカップ一杯がちょうど良い。

金沢駅ではいつもの鼓門が迎えてくれる。この日は初夏を思わせるような陽気になっている。
どこへ行こうか考えた末、彦三町から浅野川沿を主計町茶屋街へ向かう。枝垂れ桜が川面に花筏を浮かべている。

柳の芽が揺れる「ひがし茶屋街」は紅殻格子の町家を並べて、石畳を漫ろ歩くのが楽しい。
朱に縁取られた花街の街灯が点る頃に訪れたら、さぞかし美しく幻想的だろうと想像する。

 

この街にも溢れる訪日外国人観光客、その喧騒から「きんつば中田屋」の階上に逃れる。
呑んでばかりのボクだけど、たまには甘味もいいだろうか、しっとりと “ロールケーキ” が美味しい。

慈母観世音菩薩を見上げる加賀温泉駅、新規延伸区間2つ目の駅は金沢から20分の乗車。
今宵は山代温泉の老舗に投宿して、加賀能登の野山の味覚を肴に一杯やりたい。

そして今宵の酒はお隣は山中温泉の “獅子の里”、スッキリとした切れ味の超辛純米を愉しむ。

少しだけお膳を紹介する。日本海の「割鮮」はあられ塩でいただく。この超辛の酒が合うね。
「進皿」の春鯛大根挟みは新玉ねぎのソースで、「羹(あつもの)」の能登豚野菜道明寺蒸しは生姜の餡で美味しい。

「台物」の和牛鍋、豚骨醤油出汁仕立てで、追い麺にべんがらこんにゃく麺が珍しい。
釜炊き御飯は朝利めし、薄揚げの甘味と三つ葉の香りと相まって美味しい一杯だ。

翌日の “つるぎ” は、まずは隣の芦原温泉まで8分の乗車。
一度は訪ねたいと思っていた丸岡城までは、ここから路線バスでアプローチできる。

丸岡城は北陸唯一の現存天守、織田信長の時代、柴田勝豊が一向一揆への備えとして築いた。
荒々しい野づら積みの石垣に載った2重3階の天守に、盛りを過ぎたソメイヨシノが花吹雪を散らす。

さらに隣の福井までは9分の乗車、缶ビールを開けるまでもない。新幹線というインフラの凄まじさを感じる。

新幹線の延伸開業で新しくなった東口広場には、トリケラトプスの親子が出現した。
ふくい観光案内所の屋上には、ハートのモニュメントと2体のフクイティタン。恐竜の増殖が止まない福井駅だ。

この週末、東口のハピテラスでは、福井県内23蔵を集めて「春の新酒まつり2024」が開催中。
この手のイベントには関心が薄いボクは、駅から10分歩いて常山酒造の蔵を訪ねる。
試飲を楽しみ、お気に入りを何本か仕込んだから、いずれ家呑みでご紹介したい。

軽快なチャイムがホームに響いてまもなく、緩やかなカーヴを描いて東京からの “かがやき” が進入してくる。
終点の敦賀まではあと2区間、時間にしてわずかに10分少々の乗車になる。

敦賀駅のまるで要塞のような堅牢で大きな新駅舎にまずは驚くしかない。
名古屋から、大阪からの特急の乗客を8分で新幹線に乗継させるため、どうしても必要な施設らしい。
いつの日か新幹線が大阪方面に延伸したら、ここが寂しい空間になってしまうだろうと想像する。

駅に降り立ったら、真っ先に佐渡酒造先生にご挨拶。この旅でも美味しいお酒を愉しんでます、っと。
松本零士氏は敦賀出身?っと誤解するほど、街角に「銀河鉄道999」と「宇宙戦艦ヤマト」が溢れている。
お気に入りは「別離」という作品、子どもの頃、映画のこのシーンには泣いた。

かつて1枚の切符で東京からベルリンまで旅する「欧亜国際連絡列車」があった。
毎週金曜の午後8時25分、東京発金ヶ崎(敦賀港)ゆきの夜行急行の乗客は、
ここでウラジオストック航路に乗り継ぎ、遥かヨーロッパをめざした。

なんともロマンのある、そしておそらく過酷な旅だったろう。
かつてのウラジオストック航路の桟橋周辺には海上保安庁の巡視船が並んでいる。
時を経ても、この海と空の「あお」と欧亜国際連絡列車の乗客が見た「あお」はきっと変わらない。

旅の終わりに “越前おろしそば” を啜る。
蕎麦前にいただいた “月きよし” は、20年前に廃業してしまった酒蔵の酒を復刻したもの。
氣比神宮に参拝した松尾芭蕉が詠んだ句『月清し 遊行の持てる 砂の上』からいただいたそうだ。
今宵、つるがの湊で見上げる清々しい月を思って、北陸新幹線の旅は終わる。

北陸新幹線 高崎〜敦賀 460.7km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
真夜中過ぎの恋 / 安全地帯 1984


氷川神社と石神井川の桜と超辛口ばくれんと 埼京線・赤羽線を完乗!

2024-03-30 | 呑み鉄放浪記

林立する高層マンションを縫うように、軽エメラルドグリーンの10両編成が疾走する。
大宮から赤羽そして池袋、呑む旅にはぴったりの街を繋ぐのが埼京線・赤羽線の旅だ。

13路線が乗り入れる首都圏の北の玄関口だけど、街の顔であるはずの駅舎はなんだか懐かしい佇まい。
溢れる人と、古臭くて狭い駅前広場のアンバランス、これもなかなか味がある。

埼京線は新幹線下の地下ホームから出発する。川越発の快速をやり過ごして、19番線の当駅始発に乗車する。
僅かな距離の旅だから、ロングシートでうららかな春の日を浴びながら、ゆるりと行きたい。

大宮は「鉄道のまち」だ。大宮駅、大宮工場、大宮操車場の設置が人を呼び、賑わいを創った。
そして大宮の歴史は武蔵一之宮 氷川神社の歴史とともにある。旅の始めにここを詣でておきたい。

大宮駅から氷川参道そして神社まで参詣者の列が途切れることはない。
初詣の様と言ったら大袈裟だけど、春の陽に誘われて、大宮公園の花見がてら氷川神社に向かう人は多い。

さて埼京線は新幹線と並走して高架線路が都心に向かって延びている。
健脚自慢のエメラルドグリーンは、時折E5系やE7系にバトルを挑むが、たいていは返り討ちに遭っている。

ふたたび東京上野ライン、湘南新宿ラインと出会う赤羽駅に途中下車。結構な乗降客の入れ替わりがある。
一番街のセンベロ酒場で昼呑みを、っと思ったけど、それでは余りに読めた展開と思い直して旅を続ける。

エメラルドグリーンの電車が走る赤羽線の区間は古くからの住宅街、埼京線区間とは雰囲気が違う。
車窓の桜花に見惚れて途中下車、この線路沿いの並木は東京家政大学のキャンパス。

続けてエメラルドグリーンは石神井川を渡る。この狭い谷の両岸に900本の桜が咲き誇って美しい。
この季節には、旧中山道板橋宿から王子の飛鳥公園まで、桜の下を歩きたい。

多くの乗客を吐き出して池袋駅の1番ホーム。埼京線・赤羽線は乗り通してしまえば僅かに30分少々の旅だ。
さてっと、池袋で呑むのもやはり芸がないから、2駅ほど戻ろうと思う。

十条駅から北へ、赤羽線と並行するように延びるアーケードは、200店舗がひしめく十条銀座商店街。
昭和風情のアーケードを漂って、やがてボクは一軒の立ち呑み屋に吸い込まれるのだ。

そして昭和の親父たちを真似て、ボクは “赤星” をグラスに注ぐ。この苦味が泣かせる。
先ずはお手軽に “サバ缶キュウリ” を突っついて、やがて “ミートボールのトマト煮” にクラッカーを散らす。

花冷えの “ばくれん” をお嬢さんが注いでくれる。山形は亀の井酒造の超辛の吟醸酒だ。
アテはホワイトボードに見つけた “ネギトロ”、これには目がない。わさび醤油を垂らして美味しい。

こだわってラインナップした地酒は一杯がワンコイン、かなり優れたパフォーマンスだ。
二杯目の “AKABU” は盛岡の酒。“バラ肉と厚揚げのニンニク炒め” をつまみに、清涼感溢れるやや辛いがいい。

食べ歩きが人気の昭和な商店街、立ち呑み屋のアテも逸品揃いで、きっとまた寄ってしまいそうな十条。
アーケードを這い出る頃には、いい感じで暗くなっている埼京線・赤羽線の旅だ。

埼京線 大宮~赤羽 18.0km 完乗
赤羽線 赤羽~池袋   5.5km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
孤独なハート / 長渕剛 1984


大人たちの X'mas Express 東海道新幹線を完乗!

2023-12-24 | 呑み鉄放浪記

17:27、のぞみ230号は東京駅の15番ホームに滑り込む。
どうやら約束の白いクリスマスツリーには間に合いそうだ。

14:45、地下鉄御堂筋線の階段を駆け降りる。オーバーコートの襟は立てたままだ。
だいたいこんな歳も押し迫った週末に商談なんてどうかしている。
それでも昨日と今日で、継続を2件、新規を1件、大きな成約をまとめたのだから悪い気はしない。

昨日は鎗屋町あたりの居酒屋で、同行した部下と軽い祝勝会をした。
冷静沈着だが案外勝ち気な彼はこの日の結果にテンションが上がっていた。

暖かい部屋に戻ってから、エクスプレス予約で復路の予約を1本前のグリーンに変更した。
出張の帰りはひとり静かに気分を切り替えたいし、彼だってその方が気楽なはずだ。
それに今回に限って丸の内南口を抜ける後ろ姿に余計な詮索はされたくはない。

冬の青空に古都を街を照らす灯台が映えている。京都まではわずかに14分。
今ごろ後続の便で14インチを立ち上げて、カタカタと担当役員へ報告のメールを打っているはずだ。
上々の報告は任せておいた方が良いだろう。

京都でB席に隣客が現れなかったから、ソーヴィニヨン・ブランのスクリューを切る。
2時間後にはシャンパーニュを開ける約束があるのに、何も手頃な白ワインで口を濡らさなくてもと苦笑。

冬至の弱々しい西陽が富士山を照らす頃に富士川鉄橋を渡る。
少しうとうとしたようだ。車窓に浜名湖が流れるところまでは覚えている。

目が覚めたタイミングで、思わず目の前のワゴンサービスに手を挙げてしまう。
濃いめのハイボールを一杯、いつもならこんな感じだから。
ふと我に返ったのは、すでに定刻通りに小田原駅を通過のアナウンスが流れた時だ。

のぞみ230号が多摩川を渡ると、車窓に一つまた一つと航空障害灯の紅い点滅が増えていく。
ビルの合間に “インフィニティ・ダイヤモンドヴェール” が見え隠れして、東京の夜は美しい。

靴の小さな埃をハンカチでさっと拭きとって、この少し赤い顔をなんて言い訳しようか。
白いクリスマスツリー、約束の5分前、大人たちの X'mas はこれから始まる。

東海道新幹線 新大阪〜東京 552.6km 完乗!

<40年前に街で流れたJ-POP>
クリスマス・イブ / 山下達郎 1983


広徳寺のイチョウと秋川渓谷と喜正の冷酒と 五日市線を完乗!

2023-12-09 | 呑み鉄放浪記

発車のチャイムがハモって流れてる。08:13の拝島駅は青梅行きと武蔵五日市行きが同時発車。
こういう光景ってなんだかワクワクするね。五日市線がやや先行して緩やかな左カーブに消えていく。

先週に続いて「休日おでかけパス」を握りしめ、都会の裏庭を乗って呑んで遊ぶ。
なかでも路線距離11キロと最も短い五日市線がこの週末の遊び場だ。
4路線が乗り入れる拝島駅は、6方向に鉄路が延びてなかなかの要衝ぶりなのだ。

08:32発、飛び乗った後続の6両編成は、ほどなく多摩川橋りょうを渡る。
朝の凜とした空気に遠くの山並みもよく見える。平地に降りてきた紅葉もそろそろ見納めかもしれない。

畑中を疾走する都会の通勤電車E233系は抜群にクールだと思う。
ボクはプシュッと季節限定の “キリン氷結®︎国産りんご” を開ける。青森りんごのほのかな甘味が美味い。

武蔵増戸を過ぎると秋川の谷は急に狭くなって、鉄路は左右にくねり勾配をアップダウンする。
大きな左カーブを描いてコンクリート製の橋を渡ると、E233系は錦に染まった武蔵五日市駅に終着する。

6両編成を埋めていたクライマーやハイカーは足速に改札を抜けて、今度はバス停に列をつくる。
藤倉行きとか、数馬行きとか、20〜40分で数多ある登山口まで運んでくれる。

臨済宗建長寺派の古刹広徳寺を訪ねた。2本の大イチョウが境内を黄金色に輝かせている。
墨絵のような山門とシャンパンゴールドのコントラストがなかなか美しい。

武蔵五日市駅駅からは徒歩30分、秋川の河岸段丘を降りて登るから、なかなか歩きごたえがある。
でもこの情景を切り取るなら歩く価値があるなぁ。黄金色の絨毯を踏みしめて思うのだ。

駅に背を向けてもう少し歩いてみようと思う。
せせらぎをたてて浅く流れる秋川、左右から覆い被さる木々が色付いて美しい佳月橋の辺り。

清らかな秋川が流れる山里に「喜正」の野崎酒造、城山から湧き出る伏流水で酒を醸している。
酒林を吊った門をくぐると蔵の玄関先に直営販売店、仕込み時期は土曜日も営業しているので訪ねるといい。

武蔵五日市駅に戻ったら、あきる野うどんの匠「初後亭」を訪ねる。
100%自家製、あきる野産の小麦粉で打った名物うどんが食べられる。

先刻訪ねた “喜正” を一杯、定番の普通酒だけどほどよく冷やしてあって美味い。やわらかな酒だね。
「お任せのおつまみ(300円)」は、板わさ+柚子胡椒、奴+味噌だれ、しめじのお浸し、の優れもの。

うどんを鍋から引きづり出すように食べるから “引きづり出しうどん” だって。
温野菜をトッピングして納豆をつけて土鍋が登場、いい感じで湯気を噴いているね。
うどんちょこに鰹節と醤油を調合したら、熱々のうどんを引きずり出し、茹で汁を少し。
ズズっと啜ると素朴で優しい味が、口いっぱいに広がって美味しい。

遠出をしなくても、錦繍を愛で旨いご当地料理とお酒を愉しんで、穏やかな秋晴れの週末なのだ。

五日市線 拝島〜武蔵五日市 11.1km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
15の夜 / 尾崎豊 1983


渓谷の紅葉と冒険電車と澤乃井の新酒と 青梅線を完乗!

2023-12-02 | 呑み鉄放浪記

鮮やかに色づいた奥多摩の山々。
御岳渓谷や鳩ノ巣渓谷の紅葉狩りか、はたまた雲取山か大岳山に登るのだろうか、
青梅特快からのクライマーやハイカーの乗り換えを待って、奥多摩ゆき4両編成のチャイムは鳴る。
今回は多摩の酒を味わうために青梅線で多摩川を遡っている。

旅のスタートは秋晴れの立川駅、1番線から始発するのは中央線そのままに、堂々の10両編成だ。
緩やかな上り勾配を直線で進む青梅線、駅間も短いので先の駅までよく見通せる。 

立川から30分、青梅駅に途中下車して、昭和レトロな町並みを歩いてみる。

青梅駅の地下通路を飾るノスタルジックな映画看板は久保板観さんの作品。
氏の作品は町のカフェや路地に見ることができる。

以前は化粧品店?空き店舗の庇をそのままに、クラフトビール「青梅麦酒」がある。
オリジナルクラフトビールを青梅豚を使用したフードメニューとともに楽しめる。

駄菓子などの商品パッケージ、ポスター、ドリンク缶を展示した昭和レトロ商品博物館。
時代は昭和30〜40年代?「三丁目の夕日」や「地下鉄に乗って」の世界かな。

戻ってきた青梅駅。駅舎の左手には観光案内所、右手にはまちの駅がある。
まちの駅で澤乃井のワンカップ “東京アドベンチャーライン” を見つけた。車中で呑めるかなぁ。

青梅を出ると右手に山肌が迫り、鉄路は左手多摩川の蛇行に沿ってのたうち、
4両に短くなったオレンジの編成は、キーンキーンと金属音を響かせてゆく。

やがて辿りつく谷間の小駅・沢井には、"澤乃井" の小澤酒造が酒蔵を構えている。
蔵が提供する多摩川べりの清流ガーデンは、御岳渓谷のハイカーでかなりの賑わいだ。

とうふ遊び「豆らく」の開店時間に合わせて澤乃井を愉しむ。
この時期だから新酒をいただく。華やかに香り立つ “しぼりたて” が “わさび漬け” をアテに美味しい。

杯を重ねるうちに “とろ湯葉だしがけ膳” が登場、小鉢たちは絶好のアテとなり、
湯葉丼はとろ〜り旨だしをかけてお茶漬け風にいただく。美味いね。

次の御嶽でも多くの降車客がある。バスに乗り換えて10分も走れば御岳登山ケーブルの山麓駅だ。

御岳渓谷は人気の紅葉スポット、駅前の御岳橋を渡って川岸の小道に降りる。
渓谷沿いにモミジのや赤イチョウの黄を眺めながら、沢井の清流ガーデンまで歩くと楽しい。

駅を降りてすぐに本格的な自然やアウトドアを楽しめる。
そんな青梅線の魅力をワクワクする言葉で表現したのが「東京アドベンチャーライン」だ。
多摩川にBBQパーティーやカヌーの群れを見ながら、やがて4両編成は奥多摩に終着する。

奥多摩駅では、其々の登山口へと向かう路線バスが青梅線の乗客を根こそぎ攫っていく。
そのうちの1台に飛び乗ると、15分ほどで眼前に奥多摩湖が広がるのだ。

周囲を赤や黄に染めて、標高530mに満々と水を湛えた碧の奥多摩湖。
直下の発電所で電気を起こし、玉川上水によって東村山浄水場・境浄水場に送られる東京の水瓶なのだ。

これと言った出張の予定や旅の計画もないこの頃だから「休日おでかけパス」で遊ぶ。
都会の裏庭を一日乗って呑んで、案外と楽しい週末なのだ。

青梅線 立川~奥多摩 37.2km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
ワインレッドの心  / 安全地帯 1983


フクイサウルスと一乗谷遺跡と花垣と 越美北線を完乗!

2023-10-07 | 呑み鉄放浪記

切欠き式の2番ホームに朱色のキハ120形気動車が低くエンジン音を響かせている。
1番線に停車した金沢行きの特急が出てしまうと、朱色の気動車はまた一人ぼっちだ。

どこからか咆哮が聞こえてくる。
駅前広場に出てみると、肉食恐竜のフクイラプトルが、草食のフクイサウルスを威嚇している。
きょうは恐竜たちが跋扈する福井から越美北線に揺られて呑む休日なのだ。

09:08、朱色の気動車は身震いひとつ、たった一人の旅が始まる。
そんな寂しい旅立ちとは裏腹に723Dは軽快なスピードで走り出す。最初の1区間は北陸本線を走るからだ。

止まってしまうのかと思うほどの減速をして、723Dはガタガタと転線する。
W7系の試運転が始まった北陸本線の高架を潜ると越前花堂駅、ここが越美北線の起点になる。

越前花堂駅を出た途端に左右は田園風景に変わる。
刈り入れを待つ黄金色の田圃に混じって、白い蕎麦の花が揺れている。

せっかくボックスシートに掛けたけれど、10分少々で屋根もない小さな駅に途中下車。
ここは一乗谷、朱色の気動車を見送ると、この駅には不釣り合いに近代的な建物に気が付く。
昨秋開館した「一乗谷朝倉氏遺跡博物館」が朝倉氏の栄華を偲んでいる。

博物館の見学は後回しにして、玄関前から無料シャトルに乗車すると10分で復原街並みに案内してくれる。
400年の時をこえて蘇った城下町、色褪せた暖簾がひるがえる商家を冷やかしながら歩く。
大河ドラマに出てくるような町娘が茶を勧めてくれたりして、自分がどこにいるか怪しくなってくる。

かつてこの町並には白戸家のお父さんが帰省してきたり、ウルトラマンが郵便配達をしていたという。

一乗谷の中心部の朝倉館跡、東側後背には山城、他の三方を土塁と濠で囲んでいる。
館跡の唐門は義景の菩提を弔う松雲院の寺門で、豊臣秀吉が寄進したものと伝えられる。

遺跡を貫く一乗谷川の畔に瀟洒なレストラントでブランチ。
竹かごに色鮮やか小鉢を並べた “饗膳KYOZEN” は、福井の野菜や魚介を厳選したメニュー。
福井サーモン、焼きサバ、里芋の煮付け、これは上品なアテになるね。冷たいビールをいただこう。

〆はには当然の “越前そば”、これから訪ねる大野産そば粉というから嬉しい。
おろし汁をぶっかけたら、歯応えのあるそばをズズッとやる。天ぷらを齧りながらね。美味い。

昼過ぎの陽が照りつけるホーム、カンカンと警報機が鳴り始めて、ガタゴトと気動車がやってきた。
朝倉氏の「三つ盛り木瓜」も誇らしげに、黒・赤・金をベースカラーとした「戦国列車」だ。
サイドは乱世を駆け抜けた武将たちのシルエットを描いた豪華なデザインになっている。

一乗谷を出た725Dは直ぐに足羽川を鉄橋で渡って、しばらくはこの水辺とのおつき合いになる。
川原や田圃にはシラサギやアオサギが遊んで、車窓を長閑な風景が流れていく。

上下線が交換する美山駅では多少の乗降客があった。この日はマルシェが開催されているらしい。
小さなピークを越えると725Dは大野盆地へと降り始める。こんもりした亀山(249m)に大野城が見えてきた。

越前大野は名水の町、お殿様の御用水「御清水(おしょうず)」をはじめ、町中には湧水地が点在している。
古くから豊かな水に恵まれた越前大野だから、美味い地酒にも期待しちゃうね。

まずは越前大野城に登ってみる。
亀山に築いた城郭には望楼付き2層3階の大天守と2層2階の天狗櫓、石垣は野面積みだ。
天正3年(1575年)、織田信長の武将金森長近は一向一揆を収束させ大野郡を拝領した。
ほどなく盆地中央の亀山に平山城とその麓に短冊状の城下町を開いたのだ。

天守から天狗櫓越しに越美国境の山々を望む。この山ふところにもう少し越美北線の旅は続く。
近ごろ越前大野城は「天空の城」とプロモーションしている。
展示写真を観ると、なるほど町を包み込む雲海に浮かび上がる天空の城 越前大野城は幻想的で美しい。

城下の南部酒造場は享保18年(1733年)の創業、酒造りは明治の世になってからだとか。
この蔵が醸す「花垣」は呑み人が好きな銘柄の一つでもある。

「戦国列車」が越美北線の旅のラストスパートを担う。終点九頭竜湖までは20キロ、約40分の旅になる。

キハ120形には4つのクロスシートがあって、窓枠の下から大きめのテーブルが張り出している。
それではと遠慮なくショルダーバックからMy猪口を取り出して、キュッと “花垣” の生酒を開ける。

越前大野から終点までは九頭竜川と絡む。柿ヶ島駅を目前に渡る白いトラス橋が第一橋りょうだ。

第二橋りょうから見る九頭竜川の渓谷は深く狭隘になっている。
鉄路で越えられる限界が近づいていることを感じさせられる。

この先の越美北線は、荒島トンネル(5,215m)と下山トンネル(1,915m)と直線的なトンネルで
深く狭隘な谷と勾配を躱わしながら県境へ向かって延びているのだ。

トンネルを抜けた鉄路がR158と並んで左に90度の弧を描くと、行手にXの標識が見えてくる。
ほどなく「戦国列車」はブレーキ音を響かせて、いかにも終着駅らしい単式ホームにたどり着く。

駅舎はリゾートをアピールするかのようなログハウス風で、よく似た「道の駅九頭竜」と並ぶ。
そしてここにも恐竜の親子が時を告げる咆哮を響かせている。

かつて岐阜県と福井県を結ぶ計画だった越美線は、国鉄の赤字が膨らみ繋がることはなかった。
未成区間の九頭竜湖〜北濃(長良川鉄道)は、8kmの徒歩山越えを挟んで2つのデマンドバスで踏破できるが・・・
とりあえず、北に残された越美北線の旅は、恐竜の出迎えを受けてここに終わるのだ。

越美北線 越前花堂〜九頭竜湖 55.1km 完乗!

<40年前に街で流れたJ-POP>
SOMEDAY / 白井貴子 1982


信州そばと浅間嶽とHIGH RAIL 1375と 小海線を完乗!

2023-09-16 | 呑み鉄放浪記

5番ホームに停車中のキハE200形はハイブリッド車両、停車時はアイドリングストップして静粛だ。
爽やかなスカイブルーのラインは、浅間山や千曲川それに八ヶ岳といった背景に映えるだろう。

かつて20往復の特急が停車した小諸駅も、今はしなの鉄道が運営するローカル駅。
それでも旧い駅舎には、小洒落たワインバーやカフェ、インフォメーションセンターができて
浅間山の登山口や信州観光の拠点としての面目を整えている。

小諸は城下町である。駅の裏手には小諸城址懐古園がある。
山本勘助が縄張りし仙石秀久が改修した小諸城は、千曲川の河岸段丘の断崖を天然の防御として利用した穴城、
城郭は城下町よりも低地に位置する格好となり、市街地から城内を見渡せる構造になっている。

三重の天守は寛永年間に落雷により焼失し、今では天守台の石垣だけが残っている。
小諸義塾の英語と国語の教師として赴任した島崎藤村は、小諸で「雲」「千曲川のスケッチ」を書いた。
その関係で城址には「千曲川旅情のうた」の詩碑が建てられている。

5番ホームに夏の観光列車 “HIGH RAIL 1375” が入ってきた。ワクワクの子どもたち。
ヘッドマークは、小海線の夜空と車窓に展開する八ヶ岳の山々をモチーフにして、
JR線標高最高地点「1375m」が描かれている。きょうは小海線で呑む。

っというか、すでにこの城下町で冷えた一杯をいただいているのだ。

小諸はまた前田家が滞在した北国街道の宿場町であり、本町エリアは今でもその面影を残している。
総欅造りの黒い漆喰仕上の土蔵「そば蔵 丁子庵」もそんな趣があるね。

ちょい冷えの “浅間嶽” はこの城下町の蔵で浅間山の伏流水で醸される。
さわやかな柑橘系?の酸味と甘みをほどよく合わせ持った純米吟醸が美味しい。
アテは漬物三点盛、信州育ちの呑み人にはこの “野沢菜” と “たくあん” が嬉しい。

純米吟醸を愉しむうちに “きのこおろしそば” が登場する。
たっぷりのきのこに辛み大根の汁、打ち立てのコシがあるそばを、ちょいと浸してズズッと啜る。
美味いなぁ。やはり信州を訪ねたら蕎麦に限るね。

沿線最大の町である佐久市の中心駅は中込駅、小諸と中込を結ぶ区間運転の列車も多い。
実際の乗降客は新幹線停車駅の佐久平駅はもちろん、岩村田駅の方が上回るらしい。
ちょっとだけ途中下車してみた。

明治8年(1875年)に完成した旧中込学校は、国内の学校建築のうち現存する最古級の擬洋風建築物。
松本の旧開智学校に遅れること2年、教育県と言われた信州人の教育に対する情熱がうかがえる。

“亀の海” の蔵元である土屋酒造店も中込にある。呑み人が好きな銘柄のひとつだ。
美山錦や佐久産米で醸した純米酒を仕込んだから、いずれ家呑みでご紹介したい。

HIGH RAIL 1375は、窓に向いたペアシートを出発1週間前に確保できた。窓は浅間山側に開けている。
早速カウンターで求めた “THE軽井沢ビール” は、華やかな香りと芳醇な味わいのピルスナーだ。

小諸から1時間50分、八ヶ岳の山々をモチーフにして小海の星空を散らした気動車は、
信濃川上で千曲川と別れ、ヘアピンを描いて転針すると、8kmの距離で250mの標高を稼いだ。

野辺山駅は標高1,345mに位置する。言わずと知れた日本で一番標高の高い駅だ。
八ヶ岳の峰々をシルエットに天の川が流れる駅名表示板が格好いい。

野辺山を発った気動車はJR鉄道最高地点(1,375m)をめざしてエンジンの唸りを上げる。
ペアシートからは、一面の高原野菜畑の向こう、カラマツ林の合間から巨大な白い構造物が覗く。
直径45m、国立天文台が世界一の精度を誇る宇宙電波望遠鏡、パラボラ・アンテナ群だ。

雄大な八ヶ岳の裾野を舐めるように、今度は小淵沢駅に向かって490mの標高差を下っていく。
右に傾く身体に急勾配を感じつつ、呑み人はと言うと “寒竹” の吟醸を舐める。
きりりとして爽やかなこの酒も、美山錦を醸した佐久は岩村田の酒だ。

HIGH RAIL 1375は、再びヘアピンを描くと、眩しかった西陽を今度は背に受ける格好になる。
築堤を下るほどに並走する中央本線の複線が浮かび上がって来るようだ。
小淵沢着16:57、八ヶ岳も富士も甲斐駒もすでにシルエットとなって、確実にやってくる秋を予感させるのだ。

小海線(八ヶ岳高原線) 小諸〜小淵沢 78.9km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
ガラスの林檎 / 松田聖子 1983 


紅がらの赤い町と白い蔵の街と嘉美心と 伯備線を完乗!

2023-08-26 | 呑み鉄放浪記

朝陽を浴びて始発の820Mが伯耆大山の3番ホームに入ってきた。濃黄色は岡山の車両だ。
伯備線を旅すると陰陽連絡線の呑み潰しも完了、JR西日本の完乗もゴールが見えてくる。

山陽地方と山陰地方を陰陽連絡線の中で、唯一の幹線と言えるのが伯備線。
14往復の特急と、東京と直結する寝台特急、長大な貨物列車も走って気を吐いている。

車窓に名峰 大山(1,729m)を眺めようと楽しみにしていたのだけれど、
手前の山々と、すでに東の空高くに昇った夏の陽の逆光となって、その姿を仰ぐことができない。
早々に諦めてプシュッと開ける手塩にかけた “男梅サワー” が美味い。

濃黄色の115系の後ろ姿はまるで食パン、中間車両に無理やり運転台を設置するとこうなる。
820Mは途中駅で上り下りの特急やくも号に道を譲って、1時間40分をかけて新見駅に終着する。

赤い瓦が目をひく木造2階建ての新見駅の降り立つのは2度目になる。
2年前の夏、芸備線と姫新線を乗り継いだ際、この小さな町に投宿して一杯やっている。

岡山県で人気のご当地洋食グルメ “えびめし” が食べたくて、ローカルなファミレスに足を運んだ。
9:00開店は調べておいたのだけど、ご飯物の提供は10:00からでした。っでなんだか懐かしいモーニング。
このあたりの「抜け」具合が呑み人の旅、行き当たりばったりが楽しい。とひとり言い訳。

1時間を待てないのは2番手の850Mの出発が09:57だから、これを逃すと2時間待ちになる。
わずかに姫新線のディーゼルカーが先きに出発し、濃黄色の2両編成岡山行きがガクンと動き出す。

車窓には緑深い谷と夏の陽が煌めく川面が流れる。
新見から倉敷までの伯備線は、岡山鳥取県境を源流とする高梁川に寄り添って蛇行して往く。

この113系・115系というのは国鉄時代の電車、だいたいアラフィフといったところか。
普段首都圏で乗っている車両とはモーターの唸り方が全く違っていて、これがまた楽しい。

備中高梁で途中下車するのは、高原の「赤い町並み」が見たいから。
小さなバスに1時間揺られて辿り着く「吹屋」は、かって弁柄と銅生産で繁栄した鉱山町の町だ。

レトロなボンネットバスが走ってきた。戦後まもない頃の風景といったところだろうか。
この町は、財を成した商家の旦那衆が石見(島根県)から宮大工や瓦職人の棟梁たちを招き、
競うように優れた意匠のお邸を建てた結果、形成されたものだという。

旧吹屋小学校は平成24年3月末まで、現役最古の木造校舎として使用されていた。
小さな校庭やプールから、子どもたちの歓声が聞こえてきそうなくらい、そのままに保存・公開している。

壁には紅がら格子を嵌め、屋根には赤銅色の石州瓦を載せて、ジャパンレッドの町並みが美しい。
吹屋の「弁柄」は、九谷焼・伊万里焼あるいは輸島塗り・山中塗りにも用いられ、日本文化の赤を彩った。

苦しそうに坂道を登っていくボンネットバスを追いかける。そろそろ時間だからね。
吹屋を訪ねるには備北バスの2往復がある、どちらの便で行ってもおよそ1時間の滞在となる。

県都岡山が近づいて、さすがに3番手の1840Mは4両編成となった。
濃黄色の4両編成は、停まる駅ごとに乗客を増やし、いつしか立ち客が出るほどの満員になる。

それでも列車は総社に出るまでは、風光明媚な高梁川が織りなす風景の中を走る。
こんな風景の中に帰るべき故郷があったらと思うことがある。
旧盆の帰省で降り立った無人駅、駅頭で偶然に初恋のひとに出会う。いやこれは必然か。
夏祭りの夜、角のたばこ屋の前で落ち合う約束をする。っと妄想がすぎるなぁ。

伯耆大山から所要3時間で山陽路に戻ってきた。山陽本線と合流する倉敷がこの旅の終わりになる。
が陽はまだ高い、東京行きの新幹線に乗車する前に、蔵の街を歩き、そして呑みたい。

この日も35°を超える猛暑日、せめて日陰を求めて古いアーケードの商店街を歩く。
狭苦しい通りを抜けると、突然に白い蔵の街が開ける。こんもりとした緑を背景に眩しいくらいに白。

緩やかにカーブして続いている本町通りは早島とを結ぶ街道筋なんだね。
江戸から明治時代の面影を残して、どこまでも続くかのように白い町家が軒を連ねて美しい。

何度か訪ねた倉敷だけど、今の今まで、大原美術館がある倉敷川沿いしか知らなかった自分が恥ずかしい。
っで、暑さも忘れて路地から路地へ、町家と蔵が織りなす白い世界を歩き廻るのだ。

「おつかれ生です♡」って新垣結衣ちゃんとジョッキを合わせる。
古いアーケードのえびす通り商店街を辿って「ほしや食堂」を見つける。
こんな時間帯は超コアな常連さんしか居なくて、アウェー感いっぱいだけど、
東京行きの新幹線に乗る前に汗は鎮めておきたい。

“白菊” はさっき抜けてきた備中高梁の酒、五百万石で醸した超辛口がキリッと切れる。
そしてこの “胡麻カンパチ” の甘みと風味が辛口の酒によく合う。当たりだ。

夏らしく “なす焼き” が登場、削り節が踊っているね。ポン酢でさっぱりと美味しい。
一転して “嘉美心” は旨口の酒、寄島という瀬戸内海に面した町の蔵らしい。
山の酒と海の酒、地元オヤジの定番酒をいただいて、少しだけ岡山を知った気になって愉しい時間だ。

さて伯備線の列車は山陽本線に乗り入れて岡山まで走る。旨口の余韻を残して呑み人も車中の人となるのだ。

伯備線 伯耆大山〜倉敷 138.4km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
SWEET MEMORIES〜甘い記憶~ / 松田聖子 1983


三段スイッチバックとヤマタノオロチと美波太平洋と 木次線を完乗!

2023-08-19 | 呑み鉄放浪記

定刻から3分遅れてパステルカラーを纏ったディーゼルカーが1番ホームにやってきた。
ヘッドマーク代わりの「き♡」が木次(きすき)線を表しているようだ。
呑み人が乗車するのは折り返しの1462D宍道行き、木次線も今乗っておくべきローカル線と言える。

この日は3月23日の落石〜脱線事故で運休していた芸備線 備後落合~東城 間の運行再開日。
14:30過ぎの備後落合駅は、三次、新見、宍道からやってきた列車がホームを埋めて往時の賑わいを見せる。
三次行きと新見行きを見送って14:43、パステルカラーはガクンと動き出した。

パステルカラーは広島・島根県境をめざして、必殺徐行区間を織り交ぜながらもぐいぐい勾配を登る。
標高727m、県境の三井野原駅から第八坂根トンネルを潜ると、足もすくむ様な崖上に飛び出す。

並行するR314は深い谷をアーチ橋で跨ぎ、1と4分の3周する奥出雲おろちループで急勾配を降りていく。
一方、木次線は三井野原駅(727m)から出雲坂根駅(565m)の高低差162mをZ字の三段スイッチバックで降る。

三井野原からの6.4kmを20分をかけて出雲坂根まで降りてきたパステルカラー、
運転士が運転台を替わるために少し長めの停車をしている。

右手は備後落合方面から降りて来た本線、左手はこれから向かう宍道方面への本線。
急な下り勾配はまだまだ続く。

二つ先の出雲三成駅、宍道方面から登って来たのはピンクの「き♡」やはりパステル調だ。

いくつかのトンネル出口で幻想的な光景を見る。谷川から立ち昇る霧が漂って真っ白になるのだ。

16:50、沿線最大の町木次に到着、ここでは途中の出雲横田まで行く下り列車と交換の10分停車。
青春18きっぷの季節ならでは、ほぼ全ての座席を埋めた乗り鉄ご同輩は誰ひとり降りない。
唯一人改札を出るのは呑み人、そうボクの目的は呑んで乗るだから。

突然っと大粒の夕立、アスファルトが夏の匂いを発する。
慌てて飛び込んだ大きな軒下、振り返ると偶然にも探していた “美波太平洋” の木次酒造さんだった。

「大変ですねぇ 降られちゃって」と品の良い奥さんに声をかけていただいた。
来訪の目的を告げると、奥から出してきたご自慢のお酒を次から次にグラスの猪口に注いでいただく。
ヤマタノオロチを酔わせた酒を思いながら試飲を重ねる。いやぁ酔っちゃいそうだ。

雨上がりに煙った木次駅に夕暮れが近づく、終点の宍道まではあと30分と少々の旅になる。

18:57、宍道行きの1464Dが入ってきた。今度は昔ながらの朱色の車両だ。

おっとその前にこの日の一杯を備忘しておこう。
山中の小さな町で寿司でもないでしょ、でも木次酒造の奥さんが奨めてくれた「和かな寿司」へ。

みっともないくらい噴き出した汗に、やはり生ビールから始める。
中皿の陶器に盛られた、よこあ、はまち、たい、いか、日本海の海の幸が美味しい。

カウンターの中は19時からの宴席の準備に忙しい。
その献立の中から気になった “奥出雲牛しぐれ煮” をアテに分けてもらう。
無濾過生原酒 “雲” は、辛口ながらも米の旨味を感じる爽やかな純米吟醸だ。

“七冠馬” は通り過ぎてきた出雲横田の酒、レモンを絞って “焼き鯖” を肴に美味しい。
七冠馬とは「皇帝」シンボリルドルフのこと、名門牧場のオーナーのルーツが石見にあるらしい。

さて、朱に染まった1464Dはいつしか平地に出て、青々とした田圃の中をラストスパートをかける。

左手から山陰本線が近づいてきた。暫し並走したのち、朱のディーゼルカーは宍道駅の3番ホームに収まる。
出雲の酒肴を楽しみつつ、今乗っておくべき木次線の旅は終わる。中空には上弦の月が輝いている。

木次線 備後落合〜宍道 81.9km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
EMANON / サザンオールスターズ 1983


福山城と瀬戸内産レモンと広島お好み焼きいまちゃんと 福塩線を完乗!

2023-08-12 | 呑み鉄放浪記

福岡でのミーティングを終えた金曜日、博多〜東京のキップを乗変して福山で降りてしまう。
せっかくの週末絡みの出張だから、陰陽連絡線を何本か呑み潰して帰ろうと思うのだ。
これらの路線はたいてい致命的な赤字を抱えているから(沿線の方には申し訳ありませんが)
いつ自然災害による不通〜復旧断念〜廃止の道を辿るとも知れないからね。

福山駅に降り立ったら、迷わずばら公園口の5番のりばに停車中のバスに飛び乗る。
一度観ておきたい「潮待ちの港」鞆の浦の風景、数々の映画やドラマの舞台となったおなじみの風景だ。
刻々と空と海の色彩がうつろう夕暮れ時、海に突き出した常夜燈の雁木で飽かず眺めるのだ。

町の風景に溶け込んだ古民家cafeを見かけた。一組のカップルが食事中だね。
洒落たカウンターで冷たいビールを飲みたいところだがバスの時間が迫っている。んっ残念。

早朝の福山駅にやってきた。東経133°は日の出前だ。
一昨日福岡支社のメンバーと痛飲したから、昨晩は一杯をスキップして、すこぶる快調な朝を迎えた。

8番ホームには濃黄色の105系が待っていた。始発の221Mで先ずは府中をめざす。
駅は福山城の三の丸や内堀外堀の一部を埋め立てた跡に敷かれ、本丸の石垣が間近に迫ってくる。

福山城のビュースポットはおそらく新幹線ホームだろう。福塩線のホームからも聳立する天守閣を望める。
一国一城令発布後の城ではあるが、五重の天守閣と七つの三重櫓を有する美しい城郭だ。

府中までは45分、途中すれ違う上り列車にはそれなりの数の勤め人と学生を乗せていた。
ここまでの区間は、(ほぼ)50万都市福山への都市近郊路線として機能しているらしい。
府中駅はまた濃黄色の105系の寝座 (ねぐら)らしく、入れ替え作業が忙しないなぁ。
乗ってきた2両編成は直様4両に増結されて、ラッシュ時の福山行きの発車準備が万端だ。

改札口を出て朝の1本を調達するうちに、3番ホームには乗り継ぐ1723Dが待っている。
っと、急いで跨線橋を渡らないと、この列車を逃したら8時間待つことになる。

07:04、唯一両のディーゼルカーがガクンと動き出す。
いきなり芦田川を渡ると、あとはこの流れに任せて鉄路も大きく小さく蛇行を繰り返すことになる。

右手に清流を眺めて、プシュッと1本目は “NIPPON PREMIUM 瀬戸内産レモン” を開ける。
駅前のコンビニには地酒は見つからなかったけど、これなら雰囲気あるでしょう。
朝から酷暑だけど、爽やかな酸味と香りに包まれて、扇風機の風が心地よい。

河佐(かわさ)駅では上り列車と行き違い、1日5往復だから長閑な交換風景も貴重かも知れない。

今までノロノロと走ってきたディーゼルカーが、長いトンネルに入ると俄然スピードを上げた。
福塩線開通後に竣工した八田原ダムの関係で直線的な新線を造ったものと思われる。

ボックスシートに預けた身体がやや前のめりになったのは上下(じょうげ)駅の手前。
わりとあっけなくピークを越えたようだ。車窓右手に現れた上下川は進行方向に向けて流れる。
分水嶺を越えたみたいだね。この川はやがて江の川に注いで日本海へと流れる。

ディーゼルカーはしばしばガクンと急減速する。巷では必殺徐行25キロ制限と云うらしい。
JR西日本ではその超ローカル区間において、運転士の目視による安全確認で運行している。
保守点検にかかる費用を抑制し維持費を削減をしている訳だね。

山間をトコトコ走ること1時間30分、右手から流れてきた芸備線に合流して福塩線の旅は終わる。
ディーゼルカーは照りつけるホームに呑み人と少女を一人降ろして、3つ先の三次まで芸備線をゆく。

分岐駅とはいえども1日平均乗車人員が130人だから、塩町はさすがに無人駅。
風を通そうと待合室のサッシを全開にすると、シオカラトンボやらクマバチやらが飛び込んでなかなか賑やかだ。

日本有数の赤字ローカル区間をゆく呑み人は、塩町で4時間40分の待ち合わせ時間を持て余している。
っで、11:00の開店時間に合わせて、R184沿いの広島お好み焼き「いまちゃん」を訪ねる。

ここはかなりの人気店のようで、大将と奥さんのほかパートさん3人がフル稼働だ。
お持ち帰りの予約をたくさん受けているようで、呑み人を含めて3組のあとはお断りしている。

冷たい “生ビール” が吹き出した汗を宥めてくれる。
時間を稼ぎたいボクはアテに “ポテトフライ” を注文する。これがまた大盛りでgood。

頃合いを見計らって “肉玉入り” が登場、二杯目のタンブラーも一緒にね。
麺を抱えた太っちょにマヨネーズで格子を描いたら、たっぷりと追いカープソース。
垂直にヘラを入れて、片田舎の名店で、広島の味と生ビールが美味しい。

ここは極楽浄土か?冷房の効いた店で2時間を稼いだら、灼熱のうつつ世に戻る。ごちそうさまです。
まもなく1番ホームに備後落合行きがやってくる。

福塩線 福山〜塩町 78km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
シーズン / 甲斐バンド 1983


じゃじゃ麺と座敷わらしの湯と安東水軍と 東北本線を完乗!

2023-08-05 | 呑み鉄放浪記

沼宮内駅に停車しているIGR7000系は、JRの701系電車と同系列なのだそうだ。
シルバーの車体に塗られた「スターライトブルー」は無限に広がる岩手の夜空をイメージしているという。

かつて日本最長営業キロを誇った東北本線、盛岡以北はいわて銀河鉄道線、青い森鉄道線となった。
それでもレールは繋がっているのだから、行くぜ、東北。二日目は仙台から青森をめざす。

その前に押さえておくべき利府支線は、岩切か新幹線総合車両センターに並行して利府へ延びる。
そもそも本線の一部であった利府支線だが、塩釜経由の新ルート開通によりいつしか盲腸線となった。

この日は臨時快速「毛越寺あやめ祭号」というワイルドカードが走る。使わない手はない。
少年たちがカメラを構える4番ホームに2両編成の110系気動車が入線してきた。

09:10、鉄ちゃんと家族連れと呑み人を乗せた8番手が仙台駅を出発。
ホームでは横断幕を掲げた駅員氏たちが手を振って、日常とはちょっと違った光景が展開する。

車窓を松島の海岸線が流れたら、プシュッと “一番搾り”、波と戯れる石田ゆり子さんと飲みたい。
そして朝飯代わりに “仙台牛ひとめぼれ” を、甘く煮込んだA5ランクが美味しいね。

いつしか2両編成は鳴瀬川を渡って肥沃な大崎平野、美しい緑が広がる田園風景の中をかけて行く。
おいしいお米とおいしい水に恵まれたこの平野は、当然に銘酒たちのふるさとでもある。

仙台から1時間30分、臨時快速は七夕飾りと縁日と、子どもの歓声が聞こえる平泉駅に終着する。
賑わいに背を向けて、強烈な夏の陽に射られながら、極楽浄土までは1キロの道のり。

ご本尊の薬師如来立像、脇を固める日光菩薩と月光菩薩に手を合わせる。美味しいお酒が呑めますように。
中世、荒廃した寺を奥州藤原氏が再興したことは教科書で読んだ気がする。

 

開山堂を背景に大泉が池周辺には花菖蒲園、300種3万株、紫に白ところどころに黄の大輪が咲き誇る。
学校の宿題だろうか、子どもたちがパレットに思い思いの「むらさき」を表現する姿が微笑ましい。

5分も前から前照灯がチカチカと煌めいている。9番手の盛岡行きが一関からの長い直線を駆けてきた。
偶然だろうけど、車体に帯びる濃淡の紫のラインは、まさに菖蒲か杜若だね。

啄木調の書体で描かれた「もりおか」駅ビルFESANに、元祖じゃじゃ麺の白龍(ぱいろん)が入っている。
この小綺麗な店舗には拍子抜けだけど、この暑い中櫻山神社まで歩かなくて良いのは助かる。

小麦でできた平麺が茹だるまでの10分ほどを、辛味噌を突っつきながら “一番搾り” を呷って待つ。
しつこい様だが、ほんとうは浴衣姿の石田ゆり子さんと飲みたい。

告白しておくとボクはこの “じゃじゃ麺” を混ぜるのは下手くそだ。
割り箸を手元まで汚しても均一に味噌が馴染まない。でも所々で味が変わってむしろ美味しい(と強がる)。
麺を少し残したら玉子を割ってかき混ぜる。店員さんに茹で汁とネギと味噌を入れてもらう。
この〆のスープ “ちいたんたん” がラー油を垂らしてまた美味しい。

いわて銀河鉄道線は構内隅っこの0番・1番ホームから出発する。この旅10番手の八戸行きに乗車する。
IGR7000系=701系はローカルを走るのにオールロングシート、この旅情を廃した鉄道会社に納得がいかない。

それでもワンマン運転の後部車両は大抵空いているから、午後の一本目をカポッと。
八幡平の “鷲の尾” はすっきりした上撰、やや甘いのが好みではないが、キリッと冷えていれば美味しい。

青森県境まであと一駅を残して金田一温泉駅に途中下車。キイコキイコと自転車を漕いで座敷わらしの里へ。
汗が噴き出るころに金田一温泉に辿り着く。まずは座敷わらし伝説の「亀麿神社」に手を合わせる。

それこそ金田一耕助が泊まりそうな旅館のひとつ、仙養館さんを択んで立ち寄り湯をいただく。
なんだか懐かしさを感じるレトロなタイル張り、まん丸な湯船に両手両足を投げ出して浸かる。至福だ。

ツルツルになった身体が再び汗まみれにならない様、慎重に自転車を漕いで駅まで戻ってきた。
ほどなく後続の八戸行きがホームに滑り込む。この11番で県境を越える。いよいよ陸も奥の奥になる。

乗り継ぎの良い列車を見逃して、八戸では1時間と少々の時間を作る。食べておきたい “八戸せんべい汁” だ。
もちろん市中の料理屋まで行く時間はない、っで隣接するホテルのテナント「いかめしや烹鱗」に飛び込む。

ことこと煮込んだ濃厚でもっちりした “いかめし” と、さっぱり醤油ベース鶏出汁の “せんべい汁” を味わう。
味覚で感じる「思えば遠くへ来たもんだ」的な感覚が呑み鉄の醍醐味ではある。

青い森鉄道のキャラクター「モーリー」をヘッドに描いた701系は空色を纏っている。
そういえばやり過ごした列車には空色の制服のアテンダント嬢が乗っていた。この列車には居ないのかな。

意外にも東北本線で海を見る機会は少ない。仙台を出た列車が松島海岸をチラッと覗き見るくらいだ。
野辺地を出た列車はようやく青い海とであう。ボクは思わず浅虫温泉駅に飛び降りてしまうのだ。

海岸線に出ると陸奥湾に弁財天宮を抱えた湯ノ島が浮かび、弓なりしたサンセットビーチに子どもたちが遊ぶ。
もう少し粘れば津軽半島に陽が沈むだろうか、でも青森の酒場も呼んでいるなぁ。

最終ランナーとなった13番手の2両編成が、長い長い青森駅のホームを余らせている。
車内を埋めていた部活帰りの高校生を散らしたら、週末のホームは閑散としてしまう。

かつてはこの長い長いホームを大きな荷物を背負った旅人が青函連絡船へと歩いたことだろう。
改札口を出て線路を辿って歩くと、3本の引き込み線が八甲田丸へと吸い込まれていく。

壁面にねぶたを描いた「壱乃助」を覗く。辛うじてカウンターに席を確保する。
汗を鎮めるキンキンの生ビールは、今度ばかりはプレミアムモルツ。「うまいんだな、これがっ。」
アテは津軽地方の家庭料理 “いがメンチ” をいただく。

厚めに切られた “カンパチ”、“バチマグロ”、“真鯛” を満載した木桶がなかなかの豪華版。
真っ赤なラベルは鯵ヶ沢の “安東水軍”、すっきりとした軽やかな純米酒は白身によく合う。

“貝焼き味噌” をいただく。熱々の玉子にゴロッと大ぶりなホタテ、味噌を溶いた出汁が美味しい。
酒は黒石の “亀吉”、ここまで来ないとお目にかからない辛口は、香り穏やかな旨い酒だ。

東京を発ってまる二日、みちのくの美味い酒肴を堪能して、青森の空は暮れゆくのだ。

東北本線 仙台〜盛岡 183.5km
利府支線 岩切〜利府 12.3km
いわて銀河鉄道線 盛岡〜目時 82.0km
青い森鉄道線 目時〜青森 121.9km

<40年前に街で流れたJ-POP>
夏の夜の海  / TULIP 1983


円盤餃子と政宗公とMr. Summer Time 東北本線を往く!

2023-07-29 | 呑み鉄放浪記

ゴーっと音を立てて5両編成が那珂川鉄橋を渡ってやってきた。
青と白のツートン、常磐快速と同じ形式が走るのは、黒磯駅構内で直流から交流に電化方式が変わるからだ。

休日06:30の東京駅、もう日が高いのに閑散とした丸の内、夢を見ているかのようなギャップだ。
この朝もすでに30度近い、梅雨が明け、太平洋高気圧とともに「青春18きっぷ」のシーズンがやってきた。

06:51発の1522Eがこの旅のトップランナー、東京始発の宇都宮行きはこの列車が唯一。
東北へと旅立つ各駅停車の旅には相応しい列車だと思う。

轟音を立てて渡る利根川鉄橋を合図に、まずは1本目の “こだわりレモンサワー” を開ける。
JR東日本の呑み潰しも二周目に入ったから、今まで以上に呑んで喰らって、ゆるりと旅をしたいものだ。

10番線に2番手ランナーの641Mが待っている。2022年に投入されたE131系という車両だ。
快適性やバリアフリーに優れた車両だけど、ロングシートという一点が、呑む旅を愛するボクには不満だ。

乗り換え時間の30分、7・8番ホームの「野州そば」で “かき揚げ天玉” をズズッと啜る。
東北本線のホームにある駅そばとしては、早くもここが北限ではないかなぁと記憶を巡らす。
これぞ旅の醍醐味と思う反面、おばちゃんの好感度がね、旅情の演出には程遠い。
これではコンコースにあるファストフード店然とした店には敵わないよ。

3番手の4131Mは黒磯から新白河まで約20分少々の短距離ライナーだ。
どうも直流、交流の両方を走れる電車ってのはかなり高価なものらしい。
そこで交直切替のあるこの区間を、たぶん2編成程度が忙しなくシャトルしているのだと思う。

みちのくの玄関白河駅は、西洋がわらをのせた風格ある木造洋風建築だ。
2015年に東北を呑み鉄旅した時には、待合室で「行くぜ、東北」のポスター、木村文乃にやられた。

駅構内の地下道を潜ると白河小峰城、戊辰戦争白河口の戦いの舞台である。
奥州関門の名城には復元した三重櫓、関ヶ原の役以降の城は大天守を持たず、三重櫓がこれに代わった。

5番手の2133Mは郡山までを繋ぐ。ホーム上には188kmのポストが突き刺さっている。
さあここから「行くぜ、東北」の旅、どんな酒肴に巡り会えるだろうか。

13:27、福島着。駅構内の円盤餃子の名店には長蛇の列ができている。
でも構わない。ボクは暑い中を15分歩いて円盤餃子元祖の店へと向かう。

円盤の焼き上がりにはだいたい15分、冷たい生ビールと枝豆で待つ時間も楽しい。
福島稲荷神社近くで暖簾を掲げる「満腹」は、週末にはお昼から営業している。

一杯目のジョッキが空くころ、こんがりきつね色の円盤がボクの卓にも飛来する。
白菜ベースの餡は案外あっさりと美味しくて、苦戦すると思われた30個をぺろりといただいた。
もちろん二杯目のジョッキの助けは借りてなのだが、餃ビーは無敵ですね。

6番手の1183Mは白石行き、とにかく細かく繋がないと先に進めない東北本線の旅。
時間帯も関係するのかも知れないけど、とうとう2両編成、しかも旅情のないロングシートには残念。

県境を越えて30分の乗車で白石駅、市の玄関を1.5km離れた白石蔵王駅に譲ってちょっと寂しげ。
この駅に降り立ったら “白石温麺(うーめん)” をいただこうと思っていたけれど、まだお腹が空かない。

白石城は伊達藩の支城、一国一城令の例外として幕末まで至る。白河小峰城と同様に三重櫓が天守に代わる。
それにしても白石城を一枚収めるための往復2kmに汗が吹き出す夏の午後だ。

7番手の459Mは比較的新しいE721系の6両編成、さすがに仙台地区には主力の車両を投入している。
この車両、呑み鉄には嬉しいセミクロスシート、さらにドリンクテーブルまで付いている。

っで、クーラーから吹き出す冷気を全身に浴びながら、カポッとワンカップを開ける。先頭車両は貸切状態。
コクと旨みのこの本醸造は南会津の酒、沿線の酒ではない、さらにここはすでに宮城だけど、ご愛嬌だ。

459Mは駅毎に乗客を増やして約50分、貸切だった車両はいつしか満員になって仙台駅に終着した。
東北一の大都市・仙台のポテンシャルを十分に実感するところになる。

仙台城跡まで登って来た。いつものことながら街を見下ろす政宗公は逆光になる。
反り返る石垣越しの仙台市街地と瀬音を立てる広瀬川、なるほど杜の都は緑が豊かだ。

文化横丁に壱弐参(いろは)横丁、週末は案外休みの店が多い。名店「源氏」も閉まっている。
っで今宵は一番町南町通りの「横丁三七三(みなみ)」へ、居心地の良いお店でした。

お店の推し “肉厚のチーズハムカツ” に “枝豆” も並べて、たまにはホッピーではじめよう。
日本酒の品書には華やかに夏酒が並んで、これは楽しく呑めそうではある。

華やかな香りとほのかな酸味の “Mr. Summer Time” は、宮寒梅の夏限定純米吟醸。
懐かしいサーカスのハーモニーを聴きながら夏の想い出で呑みたい一杯、少し時期が早かったかなぁ。

これは美味い “クリームチーズのチンジャ和え” を突っつきながら、夏酒をちびりちびり。
カウンター越しの囲炉裏でボクの “大トロイワシ” がパチパチと音を立てて愉しい。

二杯目は港町石巻 “日高見” の夏限定酒、漁師の町の酒だから魚に合わない訳がない。
レモンをたっぷり絞って、脂がのったイワシを崩しながら、キレの良い爽やかな純米吟醸が美味しい。
〆には “仙台牛炙り寿司” 二貫を口に放り込んで、一番町の夜は更けゆくのだ。

東北本線 東京〜仙台 351.8km

Mr. サマータイム / サーカス 1978


鶴ヶ城とみそ田楽と会津中将と 只見線を完乗!

2023-07-08 | 呑み鉄放浪記

13:05発 小出行き427D、入線10分前に来たけれどすでに結構な人数が並んでいた。
満を持しての只見線で呑む旅に発つ。この旅を終えたら「祝・JR東日本を完乗!」なのだ。

鶴ヶ城を意識した会津若松駅は白壁に赤瓦を乗せた城郭風になっている。
車寄せには白虎隊の若き隊士と赤べこが訪れる旅人を出迎えて、会津の旅情を掻き立てる。

只見線の会津若松〜七日町〜西若松の区間は会津鉄道が乗り入れてくる。
レトロな七日町駅にちょうど鬼怒川温泉からのAIZUマウントエクスプレスが入ってきた。

会津若松観光の中心になる七日町通りを歩いてみる。
寛政六年創業の老舗、鶴乃江酒造の重厚な蔵が印象的、ここはお気に入りの “会津中将” を醸している。

もはやレポートの必要もない難攻不落の名城「鶴ヶ城」の層塔型五層天守が空を突く。
眩しいほどに白い城壁、夏の陽を照り返す赤瓦、青空に雄々しく映えている。

七日町通りに戻ったら、これまた天保五年創業の満田屋を訪ねる。この味噌蔵で “みそ田楽” をいただくのだ。
ぐい呑みに注がれた辛口の “会津中将” をお迎えにいって、目の前の囲炉裏で炙られる田楽を待つのが愉しい。

冷たい “ところてん” の喉越しを楽しむうちに、先ずは “こんにゃく” が2本、柚子みそ甘みそを纏って登場。
続いて、豆腐生揚げ、おもち、しんごろう餅、里いも、身欠にしん、って辛口の酒の肴が美味い。

キハE120形+キハ110系の混成2両編成は、会津盆地の西端を舐めるように会津坂下まで北上、
只見川と出会ったら針路を南西に一転、川を右に左に絡めながら、一緒になって蛇行してゆく。

寄り添う只見川は、ある時は渓谷となって、
ときには満々と湛えたダム湖となって、呑み人の目を楽しませてくれる。

混成2両のキハはやがて旅の折り返しとなる会津川口駅に辿り着く。ここでなんと30分の交換待ち。
ここから車で10分ほどの玉梨温泉にも浸かってみたいし、名物カツカレーラーメンも食べたい。
でも次の列車は3時間半後だからね、お楽しみはZで走ってきた時にしようか。

谷に覆い被さる濃い緑はすでに真夏のそれ、灼けた2本のレールがどこまでも延びている。

真夏日にもかかわらず、都会と違って心穏やかなのは、目に優しい緑とひんやりとした川風のせいだろうか。

ところで会津川口で幾らかの降車客があったので、呑み人はボックスシートに席をえた。
然らばっとショルダーからマイ猪口を取り出して、会津の酒 “末廣” のスクリューキャップを開ける。
酸味と甘味が相まった山廃純米をちびりちびり呑みながら、車窓に流れる雲を追いかけている。

只見駅では案山子の歓迎を受ける。フラガールと言いながらチャイナ服を纏って、いずれにせよ艶やかだね。
ところで只見は福島県側の最後の駅、ちょっと長めの停車で乗務員が交代した。
ここからは六十里越トンネル(6,359m)が貫いて、約20キロ所要30分、県境を越える旅となる。

トンネルの暗闇に少しばかりうとうとしていた様だ。
気がつくと車窓の川は渓流となり、流れは進行方向と一緒になっている。かなりの下り勾配を感じる。
ほどなく停車した大白川は新潟県の駅、たった1両の会津若松行きが行き違いを待っていた。

ここから終点の小出までは約40分、混成2両編成は西日を追いかけるように、田圃の中を滑り降りていく。

独り「はんばぎぬぎ」の店は決めてある。4月にふらりと立ち寄った粋なそば処なのだ。
大将にお借りした団扇を扇ぎながら冷たい生ビールを。こんな時に “たこの酢の物” が泣かせる。

地元小出の酒 “緑川” をいただく。新潟の酒らしい淡麗でキレのよい純米が美味しい。
蕎麦前は “じゃこ豆腐” を択ぶ。ラー油とニンニクでカリカリに揚げたじゃこ、食欲を唆る夏のアテだ。

建設会社の営業所長さん、確か介護士のお姉さん、ご常連おふたりに挟まれて今宵は愉快なカウンターだ。
二杯目はお隣小千谷の “長者盛 福壽千歳” を。地元オヤジの晩酌酒のアテに新潟の枝豆が美味しいのだ。

時間も押し迫ったところで “ざる” を一枚、越だけにコシのある田舎そばをズズッと啜って大満足。
所長さんと二人で6合を空けて酔い酔い、女将さんに小出駅まで送っていただき、ご迷惑をお掛けしました。

会津から魚沼へ。旨い酒と肴、よき出会いに恵まれて、記憶に残るJR東日本全路線完乗の宵なのだ。

只見線 会津若松〜小出 135.2km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
川景色 / 石川セリ 1983


花嫁のれんと縁結びの大社と能登末廣と 七尾線を完乗!

2023-05-27 | 呑み鉄放浪記

伝統工芸である加賀水引をモチーフにしたヘッドマークの「花嫁のれん」と交換する。
旧い気動車は真紅にお色直しをして、輪島塗や加賀友禅をデザインした人気の特急列車となった。

とは言え「呑み鉄」の旅は鈍行列車に揺られることをルールとしているので「花嫁のれん」には乗れない。
さて、七尾線は津幡で北陸本線(IRいしかわ鉄道)から分岐して能登半島を北上する。

アニーローリーのメロディが流れて、ステンレスのボディーに茜色を引いた2両編成がやってきた。
なんとも都会的なデザインの電車が里山里海の田園風景を駆け抜ける七尾線なのだ。

プシュッと小気味良い音を立ててストロング缶のプルトップを引く。レモンの香りと炭酸が口の中に広がる。
JR西日本の521系は転換クロスシートになっていて、学生達が降りて空いた車両は呑み鉄の旅に打って付けだ。

羽咋駅で途中下車したら、富来行きの路線バスに10分揺られて「能登國一宮 氣多大社」を訪ねる。
天平の時代、大伴家持はここで『之乎路から直超え来れば羽咋の海朝凪ぎしたり船楫もがも』と詠んだ。
本殿に大己貴神(おおなむちのかみ)を祀るのだが、大社は恋愛成就を願う女性に人気がある。
どうもオヤジの一人旅には似つかわしくないパワースポットのようだ。

鈍行列車の旅は続く。二番手もやはりアーバンな521系のシルバーボディーだ。
このラインの茜色は輪島塗りの漆をイメージしているらしい。

羽咋を発った列車は能登半島中央部を西から東へと横断していく格好になる。
車窓の水田には早苗がそよぎ、虫を啄んでいるのだろうか、白鷺やら青鷺が遊ぶ情景が続く。

金沢から90分、鈍行列車は七尾駅の3番ホームに到着する。
駅舎へと向かう通路には「花嫁のれん」が懸かり、漆塗りに花火が咲き乱れる駅名標と並んで華やかだ。

さて、七尾線の旅はここが終わりではない。のと鉄道の車両に乗車して一駅先の終点をめざす。
大阪からの特急列車を先に行かせたら、身震いひとつ単行137Dが動き出した。

巨大な山車の車輪は「能登キリコ祭り」のもの、能登観光の拠点らしい趣きある和倉温泉駅なのだ。

前菜を突っつきながら、百万石乃白を醸した輪島の酒 “能登末廣 純米” を注いでもらう。
フルーティで優しくすっきりした酒は、きっと白身の刺身にぴったり来るはずだ。
今宵は和倉温泉の老舗に投宿して呑む。

“あら”、“ナメラ”、“マグロ” そして “カンパチ” と、北陸の旬が鮮やかに登場。
蓋をはぐれば、うぐいす餡をかけて “アイナメ” の煮物。酒と肴が惹かれあって美味しい。

台の物は “咽黒”、“能登牛”、“サザエ” を源泉で蒸して、まさにこれ能登の宝箱。
これには寧ろ本醸造が良いかな、珠洲の “宗玄 黒峰” を冷やでいただく。キレの良い晩酌酒が旨い。

ザザざっと大きな音を立てて陶器から熱い湯が溢れる。
眩い朝の陽と煌めく七尾湾に目を細める。優しい潮風に吹かれる露天風呂に浸かって至福なのだ。
奥能登の旨酒の余韻が消えたらさらに北へ、今日はのと鉄道で呑もうと思う。

七尾線 津幡〜和倉温泉 59.5km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
夏女ソニア / もんたよしのり&大橋純子 1983


久遠寺の桜と信玄の隠し湯と七賢と 身延線を完乗!

2023-04-08 | 呑み鉄放浪記

 青春18きっぷで、東海道本線の始発321Mに乗って、製紙工場の煙突を眺めて富士までやって来た。
身延線を呑み潰すのは3度目だろうか。08:06、西富士宮止まりの3529Gで富士川を遡る旅は始まる。

富士山本宮浅間大社は駿河國一宮、御祭神は木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)、女神様が富士山を鎮める。
桜が御神木とされ、奉納された500本の満開の桜は、朝の春時雨にピンクの花びらを散らし始めている。

ちらほら開き始めたお宮横丁で、かつてB-1グランプリで名を上げた “富士宮焼きそば” を食べておく。
“静岡麦酒” をグッと呷ってからの、イワシの削り粉をたっぷり振りかけた塩焼きそばが美味い。

特急ふじかわ3号を先行させて、10:39、2番手の3629G甲府行きのセミクロスシートに収まる。
大きく円を描くように電車は標高を稼いで行く。眼下に富士宮の町が広がっても富士山は雲の中だ。

車窓に富士川が見えてきたら、さっき富士高砂酒造で仕込んでおいた “高砂からくち” のスクリューを切る。
富士山を描いた蛇の目のお猪口で呑むと、フレッシュな辛口の酒が一層美味しくいただけるね。

次の目的地身延までは1時間ほど、飽かず流れる車窓を眺めながら、300mlを愉しむにはちょうど良い時間だ。
身延駅に着いたら、山梨交通の路線バスに揺られて10分少々、身延山久遠寺を訪ねてみたい。

薄紅色に満開の桜に見送られて三門を潜ると、目の前に本堂へと続く287段の石段「菩提梯」が立ちはだかる。
まるで昭和な部活動のトレーニングメニュー「腿上げ」の苦痛を経なければ、涅槃に達することはできない。

辿り着いた本堂、樹齢400年の巨木が淡いピンクに枝垂れる情景は、なるほどここは涅槃かと思わないでもない。

明治の大火から130年余ぶりに再建された美しい宝塔も、淡いピンクの簾の向こうで恥ずかしそうに見える。

旅の続きは13:44発の3631Gで、富士川に添いつつこのまま甲府への予定だったけど、3度目の途中下車。

下部温泉駅の構内踏切を渡ったら、老舗旅館下部ホテルを訪ねて、柔らかなお湯に浸かろう。
春とはいえ、まだ冷たい狭い谷間の風を頬に感じながら露天風呂に浸かる。涅槃の次は極楽浄土か。

風呂あがりのラウンジ、この時間に生ビールの提供なない。最近の呑み人は果敢に甘味にもチェレンジする。
アップルパイにアイスクリームをのせて球状にペーストで包んで、“真っ赤な林檎ケーキ” が美味しい。

アンカーの3633Gは30分遅れでやって来た。ひとりぼっちの駅待合室は旅情を通り越してうら寂しい。

車窓は鰍沢口から突然に開けて電車は甲府盆地に入る。どんよりした空からはとうとう雨粒が落ちてきて、
南アルプスの山々が見えない。やるせ無い気持ちを引きずって、電車は甲府駅5番ホームに終着する。

川中島の戦いの武田信玄公像に一礼して、駅前ロータリーから1本路地に入ると「酒蔵七賢」がある。
先ず “生ビール” で始めるのはいつものお約束。季節を感じて “菜の花からし和え” を抓まもう。

白州台ヶ原にある「七賢」の直営店だろうか?限定酒を含めて蔵のラインナップが並んでいる。
一杯目は春らしい桜色のラベルの “春しぼり” を択んだ。爽やかな香りを楽しみつつ、辛口の純米生酒が美味い。

大ぶりなジャガイモがほろりと崩れて、出汁が染み込んだ “肉じゃが” が美味しい。七味を振ってね。
黒塗りの盆に朱い塗り箸、ちょっとした料理屋を訪ねた気になる。いい気分で二杯目の選択に悩んでみる。
っで、滑らかなのど越しの “一番しぼり”、初冬に蔵出しされる新米新酒は緑色のラベル。これって酒林のか。

竹林の七賢人から名前をいただく “阮籍” は本醸造生酒、酸味とコクがある旨酒って感じか。
行く冬を惜しんで?、レモンを絞って抹茶塩を塗して “わかさぎ天ぷら” が美味い。コクある酒に合うね。
酒蔵七賢で七賢に酔いながら暮れていく小雨の甲府。身延線の旅を終えて、そろそろ上りの中央線に乗らないと。

身延線 富士〜甲府 88.4km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
Friday Magic / 中原めいこ 1983