合掌造りの白川郷を流れる庄川は100kmの旅を終えて富山県射水市で富山湾に注ぐ。
その河口近くの庄川鉄橋、轟音を響かせて超低床電車「アイトラム」が渡っていく。
こんな鉄橋を軌道車両(路面電車)が走る風景は、そうそう多くで見ることはできないだろう。
高岡の街は「ドラえもん」に溢れている。ここは藤子・F・不二雄氏の故郷なのだ。
駅前の「ドラえもんの散歩道」には、高岡ならではの銅像のキャラクターが遊んでいる。
瀟洒な高岡駅ステーションビルには「ドラえもんポスト」がある。これも銅製だ。
このポストに手紙を投函すると、ドラえもんの消印が押されるからぜひお試しを。
そうこうしているうちに、07:45発の越ノ潟行きが、駅ビルに突っ込むように高岡駅停留場に入ってきた。
黄色い矢印のシグナルが点灯して「ドラえもんとらむ」がゆっくりと滑り出す。
青×赤のドラカラーを装い、ほら、ピンクに塗られた乗降口は「どこでもドア」になっている。
万葉線の高岡駅停留所から庄川鉄橋手前の六渡寺駅は軌道法という法律に準拠するいわゆる路面電車。
官庁や銀行、オフィスや病院がならぶ電車通りをドラえもんが走る。
3つ目の電停で途中下車、坂下町交差点から緩やかな坂を上って行くと、端正な仏様が見えてくる。
銅器製造技術の粋を集めた高岡大仏、歌人与謝野晶子は「鎌倉の大仏様より一段と美男子」と言ったとか。
真紅の「アイトラム」が庄川鉄橋をまるで這うように渡っていく。
六渡寺駅から庄川を渡って終点の越ノ潟駅までは鉄道事業法に拠るところの鉄道線になる。
ドラえもんトラムの旅は続く。射水市新湊、この辺りの海岸を「奈呉ノ浦」といった。
『あゆの風 いたく吹くらし なごの海士(あま)の 釣する小舟 漕ぎかくる見ゆ』
万葉の歌人大伴家持は国司として赴任したこの地で歌を残している。
なっなるほど、それで万葉線なのか。
新湊漁港の「きときと食堂」でお昼にしよう。キトキトとは富山の方言で「新鮮」な様をいう。
白えびとカニがハーフ&ハーフの “紅白丼” を択ぶ。ワサビをたっぷりと溶いた醤油を垂らして旨い。
この時季、最後のベニズワイと獲れはじめた白えびが出会って、美味しいハーモニーの丼なのだ。
海の貴婦人「海王丸」が、雪が残る剱岳を背景に白いドレスを広げて美しい。
この日は「総帆展帆」のイベント(年10回)開催日、これを狙って訪ねたわけだ。
(総帆展帆と言いながら上部が張られていないのは「ボランティアが足りなかった」とのこと)
余談だけれど、弟は商船時代にこの「海王丸」で世界周航の訓練航海をしている。
最後のひと区間、まもなく還暦を迎える デ7000形 の電車に揺られる。
唸りを上げるモーター音、オイルの匂い、揺れに合わせてラインダンスする吊り革たち、
夕暮れの風景の中、こんな旧い電車に揺られるのも、また愉しい。
終点の越ノ潟駅は越ノ潟フェリー(富山県営渡船)に直結している。
富山新港造成に伴う港口切断により廃止された鉄道や県道の代替交通手段は無料、対岸までは7分の旅だ。
「兄ちゃん乗ってみるかい」って声をかけられた。この便は誰ひとり乗船することなく桟橋を離れた。
駅を4つ戻ってノスタルジックな雰囲気漂う内川エリアを歩く。潮の香りがする。
橋の上でカメラマン氏と談笑、今日はこの運河の延長線上に夕陽が落ちる日だそうだ。が、あいにく厚い雲だ。
氏のInstagramを拝見する、茜に染まる空とそれを映す運河、運河の先で朝陽に輝く剱岳、美しい。
古民家をリノベーションした隠れ家的な運河沿いのBAR、重い扉を押すと異空間が広がる。
カウンターに落ち着いたら、まずは冷たい “スプマンテ” を一杯。
黙々とグラスを磨いているバーテンダーのひとりは甥っ子だ。
国立の修士を終えた彼、そのまま富山に残って何やら地域おこしの活動をしているらしい。
そんな生き方も良いかもしれない。
BARのオーナーはアメリカ人、いきおいアメリカンウイスキーのラインナップが多い。
生ハムとナッツを並べてライ麦のウイスキー、ほろ苦くてスパイシーな一杯を愉しんでいる。
グラスを傾けるほどに、初めてだけどどこか懐かしい、そして案外縁のある新湊の夜が更けゆく。
万葉線 高岡駅前〜越ノ潟 12.8km 完乗
<40年前に街で流れたJ-POP>
メリーアン / THE ALFEE 1983