残雪を朝の日に煌めかせる白馬三山(白馬岳、杓子岳、鑓ヶ岳)、田起こしを待つ田んぼ。
田中の小道が跨ぐ踏切が点滅をはじめた。カタンコトンと軽快なリズムが薫風に乗って耳に届いてくる。
8時ちょうどに新宿駅を発った特急あずさ号が目の前を流れていった。今回は大糸線で呑む。
糸魚川駅の新幹線側はJRの管轄、名称はアルプス口、ちょっと大きく出たなぁ、気持ちは解るけど。
階下に再現された赤レンガ車庫「ジオパル」には、かつて大糸線を走ったキハ52形気動車が保存されている。
と言うことで、最初のはくたかで糸魚川までやってきた。今日は松本まで大糸線に揺られる大人の休日。
4番ホームでアイドリングしているのはキハ120形、JR西日本の非電化ローカル線でおなじみの顔なのだ。
南小谷までの大糸線は姫川(奴奈川姫に由来)に沿って、ゆっくりと勾配を登っていく。
白馬〜糸魚川の45キロで標高700mを下るからかなりの急流、美しい風景とは裏腹に暴れ川として知られる。
カポっと “加賀の井” を開ける。新潟県最古の酒蔵は糸魚川宿本陣、前田公が滞在したことに由来する銘柄だ。
アテは “ほたるいか素干し”、ほんとはライターでちょっと炙るといい。急峻な山肌を眺めて朝の一杯を愉しむ。
35キロを1時間かけて南小谷に終着、ここはJR西日本とJR東日本の結節点、信濃大町行きの電車が待っている。
淡いブルーと淡いグリーンの帯を引いた信州色の127系が信濃森上に差しかかると急に視界が開ける。
正面は唐松岳か、視線を右に追うと鑓ヶ岳、杓子岳、白馬岳と白馬三山が標高を競っている。
プレートガーダの松川橋梁を渡るとまもなく白馬に到着する。ここからの北アルプスの眺望は素晴らしい。
車窓に仁科三湖(青木湖・中綱湖・木崎湖)が次々に現れると、いつしか川の流れる方向が変わっている。
これから松本に向けて安曇野を緩やかに下っていく大糸線の旅なのだ。
立山黒部アルペンルートの玄関口・信濃大町駅は山岳都市らしく山小屋をイメージした造りだ。
折角だから信州そばを食べたい。っと駅から5〜6分、明治元年に建てられた趣ある「タカラ食堂」を訪ねた。
突き出しのポテサラと柿ピーを傍にスーパードライをグラスに注ぐ。喉が鳴るこの瞬間が嬉しい。
先に出てきた天ぷらをアテにビールを呷る。サクサクの “エビ天”、“ふきのとう” の苦みを楽しむ。
せいろに右横書きの文字が老舗そば屋の風格を感じる。素朴な “信州そば” をズズッと啜る、美味いね。
小走りで駅に戻ると、13:48発の5240Mに間に合った。標高の高い大町ではこの頃がサクラの盛りだ。
高瀬川橋梁から遠望する蓮華岳、その奥は針ノ木岳か。山塊を黒部立山アルペンルートが穿っているはずだ。
信濃鉄道として開通した信濃大町〜松本間は駅間が短い。信濃松川では同じ信州色の127系2両編成と交換する。
昭和15年(1940年)に改築された駅舎、立派な社殿造りになっているのは穂髙神社への参拝駅だから。
穂髙神社の御祭神は穗髙見命、古事記には別名・宇都志日金拆命(うつしひかなさくのみこと)とある。
その奥宮は上高地の明神池に、嶺宮は北アルプスの主峰奥穂高岳(3,190m)の頂上に祀られている。
駅を挟んで反対側には焼きレンガを積み上げた西欧教会風の碌山美術館、ここにもまた多くの人を集める。
日本近代彫刻の扉を開いた荻原碌山は安曇野の生まれだ。子どもの頃、家族のドライブで訪ねた記憶がある。
駅舎とホームを繋ぐ構内踏切が鳴動して、この旅の最終ランナー5242M松本行きがゆっくりと入ってきた。
穂高駅の駅名表示版には安曇野の代名詞的な道祖神の写真、睦まじい夫婦道祖神に見送られて松本へ向かう。
安曇野を往く大糸線の車窓からは常念岳(2,857m)の存在感が大きい。やがて梓川橋梁を渡ると松本は近い。
槍ヶ岳を発し山々の雪解け水を集めた梓川は、奈良井川と合流して犀川となり北へと向きを変える。
先輩の添乗を得て乗務してきた車掌嬢が降車確認を終えて5242Mの扉を閉める。ほっとする瞬間だろうか。
松本駅の6・7番ホームには大糸線と上高地線の電車が並んで、まさにアルピニストの駅だ。
酒場の提灯が灯るまで少し時間が早い。しからばお約束の松本城まで歩いてみる。城下はすでに葉桜だ。
五重六階の大天守が、乾小天守と月見櫓を従えて、黒漆塗と白漆喰仕上げの威風堂々とした姿を見せる。
背景には西に傾いた日によってシルエットになりつつある北アルプス、やはり常念岳が主役のようだ。
駅近の大衆酒場「風林火山」は5時半に暖簾がかかる。人気のある店だから開店時間に合わせて戻ってきた。
メニューに “ふき味噌” を発見、これ酒に合うんだよね。今宵は生ビールはパス。信州の酒肴を堪能しよう。
先ずは辰野の “夜明け前”、ちょっとシュワシュワ感のある生一本しずく採りでさわやかに始める。
“馬刺し” はロースを択んで、たっぷりと生姜醤油をつけて美味しい。
若山牧水も愛飲したであろう “美園竹” は望月町の酒、中山道を歩いた時に訪ねた。ちょっと懐かしい。
この季節限定の “春花見” は生酛造りの純米生原酒、ちょっぴり黄色に色付いて卓に花びらが舞い降りたよう。
生酛を楽しみながら “いわな塩焼き” にかぶりつく。まず塩でそのまま、後半はレモンを絞って味わう。
山賊焼きと迷って “川中島納豆と野沢菜のかき揚げ”、大粒の納豆と野沢菜のコラボ、汁は相当に塩っぱい
でも嫌いじゃないなぁ、大根おろしをたっぷり浸して、刻み海苔を散らして、なかなかの美味。
真打は松本の “アルプス正宗”、兄さんが奨めてくれたフレッシュな生酒が、濃口のかき揚げを中和して旨し。
まだちょっと肌寒かった葉桜の松本の街、このほろ酔い加減が心地よい大糸線の旅の締めくくりだ。
大糸線 糸魚川〜松本 105.4km 完乗
聖母たちのララバイ / 岩崎宏美 1982
いつもコメントありがとうございます。
穏やかな週末をお過ごしください。
💻何時も素敵な情報を有難う御座います🚃・✌で~す!
(^_-)-☆お互いに今日も元気で楽しい充実した一日にしましょ~!本日も宜しくお願いします!
🔶来訪コメントや応援有難う御座いました!👋!
年が明けてから、大糸線廃止可能性の問題が取り上げられていますね。
一趣味人からすると、鉄路は維持して欲しいと思いますが、
乗らずして反対をする首長をはじめ地域の反応には違和感があります。
雪景色の大糸線沿線の風景も良いですね。ありがとうございます。
廃線の危機にある知りました。
ぬつかしい問題です。
今は 長野から糸魚川まで新幹線で行けるし
以前 冬の雪の中仁科三湖と大糸線路を
撮った事があります。
https://blog.goo.ne.jp/tsakaegoo/d/20150114
残雪を抱えた山々は素敵ですね。常念岳は存在感大です。
前週は富山側から眺めましたし、4月の呑み鉄旅の醍醐味です。
風林火山は、山を下ったらお寄りになるのでしょうか。
なかなかの人気店ですね。私は3度目の正直で入ることができました。
メニューもご当地ものをしっかり並べていて満足の酒肴でした。
雪山を背景に素敵な写真ですね。
山好きとしては目が釘付けです。
また同じお店を訪問してました。
松本「風林火山」
気に入って3〜4回
馬刺しもいただきました。
また訪ねてみたくなりました。
先日、訪ねてみたいお城の1位が松本城でしたよ。
常念岳をバックに素晴らしい景色ですよね♡
常念岳は3度登頂してます。
のん
最近の旧い山の記事、興味深く拝見しております。
新宿発の夜行急行も無くなってしまいましたね。
昨今のアルピニストは、高速バスで行くのでしょうか。
コメントありがとうございます。
4月末に訪れたのですが、もう少し早く
山に雪がたっぷり残っている頃に来れたら良かったです。
四万温泉へのお出かけ、いいですね。私も好きな温泉です。
一度、野反湖まで行ってみたいのですが、未だ叶いません。
コメントありがとうございます。
あまり遠くにはお出かけになりませんか?
缶ビール片手、文庫本片手でも楽しい旅になります。
鶴見線、南武支線は飽きないし、魅力的ですね。
鶴見や川崎には昔ながらの酒場もありますし、
私も好きなエリアです。
休日乗るにはちょっと厳しいですけど。
長大な貨物列車の写真、いいですね。
戻れぬ郷愁に想い馳せる。
ありがとうございます😭!
手を合わせました( *´艸`)
楽しく読ませて貰ってます。