副都心渋谷と中央林間を結ぶ田園都市線は、東横線と並んで東急の本線格といえる。
R246の地下から抜け出すと、大井町線を従えて堂々の複々線が二子橋梁で多摩川を渡っていく。
今回は田園都市線に乗って、西へと小さな旅をしている。
副都心線の開通で渋谷の地下は賑やかになったと思う。
渋谷スクランブルスクエア前にポッカリと開いた地下空間への入口、ゲートの路線案内がカラフルだ。
B3階の1番線に降りると見慣れぬ黄色い電車が止まっている。乗務員交代するこの駅の停車時間は長い。
「南町田グランベリーパーク号」と云うらしい。この後寄ってみよう。
スヌーピーと仲間たちが電車に乗っている様子が描かれており、心弾むワクワク感を演出していると云う。
新鋭2020系は堂々の10連、準急の中央林間行きが溝の口駅にはいってきた。
先にも触れた通り、多摩川〜溝の口間は大井町線が乗り入れる複々線区間になっていて、
すれ違ったり追い越したり車窓はとても賑やか、男の子たちのテンションが上がっているね。
早いお昼を町中華で呑む。「芳蘭」はR246が南武線を跨ぐ陸橋下のような場所にある。
老夫婦で切り盛りする店は、単品はちょっと単価高めだけど、リーズナブルなランチメニューがある。
真っ昼間の町中華だから、ここは王道として “餃子” に “ビール” でいきたい。
狐に焼き色がついた餃子は、この手の店にありがちな、具だくさんのもちもちタイプ。
ジュワっと滲み出る肉汁を味わって、苦味走ったラガーで流す。美味いね。
ビールを楽しむうちに “五目そば” が登場、これも具だくさん、大きな焼豚の存在感が半端ない。
レンゲですくってスープを味わう。優しい味だ。
割り箸を駆使して野菜やら焼豚を抓んだり、麺を啜ったり、この五目そばってのは楽しいね。
さて、昼呑み後の腹ごなしにもう少し郊外まで歩く。めざしたのは国の登録有形文化財「久地円筒分水」だ。
多摩川から取水された二ヶ領用水はここ久地へ導かれ、ここから四つの堀に分水されていた。
これ江戸時代の話し、正確な分水ができずに水争いが絶えなかったことは想像に難くない。
昭和16年に造られた久地円筒分水は、二ヶ領用水を円筒の円周比により四つ堀に分水し正確に供給を始めた。
この知恵と技術もさることながら、この遺構の機能美がまた素晴らしい。
東急の車両にフェイスは似ているけど、パープルに化粧しているのは東京メトロの18000系。
溝の口からの二番手は各駅停車の中央林間行きだ。
次なる途中下車は宮崎台駅、各駅停車しか停まらない駅だけれど、ここに「電車とバスの博物館」がある。
小さな子ども連れの来訪者に混ざって、この小さな博物館を訪ねるのは訳がある。
田園都市線の前身である玉川線のデハ200形を見ることができるからだ。
玉川線(通称:玉電)は1969年まで渋谷から二子玉川園まで走っていた。
R246に敷かれた軌道を走っていたと云うから、路面電車みたいな感じだったろうか。
デハ200形は当時としては画期的な超低床構造の2両連接車、下ぶくれの顔が愛嬌があるなぁと思う。
続いて宮崎台からの三番手は橙が眩しい東武の50000系、急行の中央林間行き。
始発駅は久喜か南栗橋か、いずれにせよその距離90キロ超、所要2時間超の長い旅の途中だ。
溝の口を発った田園都市線は、起伏の多い多摩丘陵に突入する。
溝の口隧道を皮切りに、駅間に必ずあるのでは?と云うくらいたくさんのトンネル、切り通し、
半径の小さなカーブ、谷を渡る高架が連続し、車窓は目まぐるしく変わるのだ。
橙色の急行は南町田グランベリーパーク駅に滑り込む。そんな駅あったっけ?
東急が手掛ける「グランベリーモール」の最寄駅であることから改称されたらしい。
2019年に完成した新駅舎は、まるでモールの一部のような、明るく開放的で洒落た空間に仕上がっている。
モールには SNOOPY MUSEUM TOKYO、大欠伸のスヌーピーの口に次から次に女の子たちが吸い込まれる。
なるほど、渋谷駅で見たスヌーピーと仲間たちを描いた黄色い電車は、このモールのプロモーションなのだ。
MUSEUM を見渡すカフェのテラス席にご同輩らしき人物を見つけた。これっ何と云うキャラクターなの?
この日は寒かったから彼は独りぼっち。スヌーピーを撮っているのか、それとも自撮りしているのだろうか。
もう日が暮れそうだけど、ここまで来たらこの旅の終点まではもう一息、否あとふた駅。
つきみ野駅を通過して住宅地の中にぽっかり開いた四角いトンネルに吸い込まれて地下線に入る。
東武から出張してきた橙の10両編成は、ほどなく終点の中央林間駅へ到着するのだ。
冬枯れの田園都市線の旅、住宅街を突き進むこの路線は、なかなか見どころも見出せず単調な旅になった。
それでもJR線と交差する溝の口や長津田、いやいや中央林間にだって酒場が見つかるかもしれない。
ちょっと宿題を残して、今回は町中華の昼呑みでお茶を濁した田園都市線の旅なのだ。
東急田園都市線 渋谷〜中央林間 31.5km 完乗
<40年前に街で流れたJ-POP>
卒業-GRADUATION- / 菊池桃子 1985