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「バク夢姫のご学友」 柏葉幸子 偕成社
児童文学はかなり好きで、結構読んでいるのだけど、海外のものが多くて、柏葉幸子を読みだしたのも最近。
でも、この作家の本は、とびっきり面白い! この間読んだ「帰命寺横町の夏」などは、あんまり面白くて一気に読んでしまい、「こんな凄い想像力と文章力を持った作家を、今まで読まなかったなんて」と悔し涙(?)にくれたほど。
そして、この本。表紙を見たら、開いた扉のところに女の子と妙な動物が立っているのだけど、いかにも何か起こりそう。
まちがい電話がもとで、マンションの一室で、主人公五月がであったのは、カバと猪の合いの子みたいな妙な動物。そして、なぜかそのまま現実世界とは別の不思議な世界に運ばれて――というストーリー。そこでは、鼠もバッファローも人間と同じようにしゃべり、くだんの妙な動物は「夢姫」と名乗るバクだと判明。そして、彼らが出会ったのは、暗い森の中の、気味の悪い屋敷。ここには誰がいるのか? 最初出会った召使が「御主人様を楽しませてほしい」といったはずなのに、真夜中の屋敷を歩くとまるで人気がない。鼠のプップは「おいらは、家に人がいるかどうかはわかる。ここは誰もいない空き家さ」というのだが…。
圧倒的なスピード感と奔放なイマジネーションで、物語が展開していって、飽きさせない。有名作品でさえ、退屈してしまうことの多い私としては、「柏葉マジック」にはまって、物語の最後まで運ばれてゆくのは、得がたい読書体験だ。翌朝、五月たちの前に出てきた「御主人様」は、何と車いすに座った少女の人形。おつきのメイドは「人形のように見えるが、ちゃんと生きていて、ある朝突然、こうなったしまったのだ」などという。だが、実はこの屋敷はキラと呼ばれる怪物の屋敷で、気配はないが、どこかにこの怪物がいるらしい。屋敷をさぐろうと、部屋々に足を踏み入れる五月と夢姫の前に現れたのは、何と劇場だった――。
こんな風に、飽きさせない物語なのだが、何といってもバク「夢姫」のキャラクターが面白い。夢を食うバクという設定なのは、言うまでもないのだが、お上品ぶって、情け容赦もない言葉を吐き、その癖変に可愛らしいバク。こんなバクと不思議でおかしな世界を旅できたら、と願うのは私だけではないはず。