ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

いのちの姿

2017-12-23 19:50:32 | 本のレビュー
  
ここのところ、しばらく疲れていて、文字を読んだり、何かに集中することが困難だった。 読書もなかなかできないので、しばらくぶりにカリグラフィーの練習をしたら、1時間が精いっぱいというところ……でも、何とか持ち直したようなので、これも久しぶりにブログを書くことに。

今夜の本は、宮本輝のエッセイ「いのちの姿」(集英社文庫)であります。宮本輝の若い頃書かれたエッセイ「二十歳の火影」とかがスゴク良かったので、何十年ぶりかで、このほど出た「いのちの姿」を期待十分で読んだのだけど、やっぱり良かった!(といっても、この本を読んだのは、大分前)

何しろ、内容が凄い。 彼の子供時代や、若い頃の思い出がふんだんに散りばめられているのだが、戦後まもなくの大阪ってこんなんだったんだ……。


デビュー作となった「泥の河」の舞台となった川で船に乗って生活する貧しい人達や、シルクロードでの旅の思い出。一つ一つが、珠玉のような体験というべきもので、「深い人生体験」ってこういうのを言うんだなあ、と、とても感動してしまった。

中でも、深く印象に残ったのは、「トンネル長屋」の章。宮本輝氏は、十歳の時、その長屋に住む叔母のところに、しばらく預けられるのだが、ここがとんでもないところ。何せ、建物自体が道路をはさんで二階でくっついていて、凹の字を逆さまにしたような、違法建築なのだ。

そこで、繰り広げられる人間模様を、幼い宮本輝は見聞きすることになるのだけれど、闇の金貸しだとか、キャバレーで働いていたり……と住人の姿も様々。ある日など、二階の部屋で一人暮らしの老人が亡くなっていたりするのだが、発見者は何と、彼。どうしてかというと、この長屋では、部屋と部屋の押し入れが、自由に出入りできるようになって、幼い宮本輝は、そこを抜けて遊んでいたというわけ。


また、ある時は、もと教師という中年男に「自分の部屋の鍵をかけてくれ」と頼まれ、そうすると、後日、その教師の自殺死体が部屋で見つかった――というかなりすさまじいエピソードも。 駆けつけた警官に「また、お前か。お前の行くところ、事件ばかり起こる」とどやされたりする後日談も待っているのだが、本当、凄いなあ……こんな体験をしてきたんだ。貧民窟といっていい世界で、幼い宮本輝氏は、人生の縮図とでもいうべき世界を「見て」来たのに違いない。
 彼の小説の面白さの秘密が、わかったような気がするのでありました。

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