田園城郭都市構想 Ⅴ

2017年01月22日 | 湖と城郭都市

 

  

1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義

3.日本型田園都市構想

3-2-3 都市計画理論による問題是正

② 日本型グリーンベルトの必要性(環境のポイント)

田園都市構築の一つの目的には、地球環境問題対策も含
まれている。特に、地球温暖化防止のための行動計画と
して、省エネルギー政策、ライフサイクル・アセスメン
トによる二酸化炭素輩出量の最小化、植林、緑化の推進
をあげている。もちろん、これらの計画は温暖化防止に
対して効果はあるのだが、これらには基本的視点が欠落
している。それは、都市構造自体の変革なしには、地球
温暖化の問題は解決しえないという事実であり、都市構
造の変革(①土地所有問題、②土地区画、③税制など)
をしなければ、過去のように、混在した住宅、人口の膨
張などを引き起こすという同じ過ちを繰り返すことにな
る。これは、今日の都市問題は、土地利用における問題
である。

2000年5月に、都市計画法が改正され、新たに線引き制
度(原則として都道府県の選択制とすること、市街化調
整区域で、一定の要件を満たす区域を条例で定め、住宅
などの立地を許可対象とすること、特定陽と制限区域の
創設、準都市計画区域の導入)が定めらる。この線引き
制度への移行は、地球環境問題に向けてのコンパクト
都市形成の計画を、それぞれの自治体の裁量に委ねたこ
とを意味する。まさに、基礎自治体の先見性、力量、ビ
ジョン、行動力、決断力が、都市構築を左右する時代と
なった。

また、ただ単に環境問題対策としての環境のあり方を見
るのではなく、景観やデザインといった視覚的要素も考
慮しなければならない。ただ植林をし、緑を増やしてみ
ても、そこに統一性がなければ、個性も創出できず、環
境はさらに悪化するであろう。その表現の仕方は様々で
あるが、各地域の特色や個性を引き出せるものを創出が
必要で今後必要とされることは、

  1. 洪水、地震などの災害国である日本は、広域連携
    により市街化調整区域の緑地を担保していくこと
    が、必須であり、特に、永続的担保を行うべき緑
    地については、税制の見直し、個別自治体の枠組
    みを越える問題を考えること。
  2. あらかじめ、都市に最適な人口設定(予測)をし
    ておく。市街化調整区域という不明瞭で、消極的
    な都市計画用語を変更し、理念と思想を明確にす
    る必要がある。
  3. それぞれの土地所有者を明確にしておく。土地区
    画整理を効率的に行うために整理する必要がある。
  4. 国土利用法、農振法をはじめとする各種土地利用
    規制の縦断的見直しが必要である。
  5. 最新技術を使用し、既存のビルや住棟や駐車場棟
    の屋上にビオトープ)を作りだし、公園や大小様
    々なビオトープなどをつなぎ、ビオトープネット
    ワークを形成させる。地域における生き物の生息
    空間の拡大、ヒートアイランドの防止を目的とす
    る。
  6. 新技術を使用した、様々なシステムの活用を積極
    的に行う。(コンクリートリサイクル・グリーン
    バンクシステム、水循環システム、生ごみのコン
    ポスト化、バッシプソーター住宅、雨水地下浸透施
    設など)。

③ 市民参加型農業の必要性(農業のポイント)

農園とは単に、自給自足や市場に出荷するための農産物
を作り出すためだけに使われる場ではない。そこには、
市民との交流、自然とのふれあいの場を提供する機能も
ある。現在、相当数の市民農園や学童農園が設置されて
いて、都市住民や学童に土に親しむ機会や作物をつくる
喜びを提供している。

しかし、既存の市民・学童農園の多くは狭小な区画、無
秩序な利用、農家・利用者間の交流の欠如、貧弱な施設
などの内容面でも景観面でも不充分である。市民・学童
農園を住民共通の息い場、緑のオープンスペースとして
育てて行く必要がある。

また、農家は農地の提供者としてのみではなく、利用者
に対して農業生産や地域文化の専門家として関わること
が期待される。そのために必要なことは、
 

  1. 地方自治体による農地の確保(長期借地か、出来
    れば買い上げ)。
  2. 利用者の契約期間の長期化(年単位の契約ではな
    く、10~20年の長期利用契約が必要。)の決定。
  3. 都市計画の中への組み込み。公共施設、緑のオー
    プンスペースとしての位置付け、長期利用者のた
    めにも、長期的な都市計画の中に市民農園を組み
    込んでいく。
  4. 運営団体の育成、活動援助。運営は利用者による
    組織を育成し、行政側はその組織への活動の援助
    を行っていく。 

このように農地の確保・維持を行っていけるようにする。
その次の段階は、農家と都市市民の交流・連携の促進で
ある。市民が直接農業生産に参加し、農家と協力し、共
に働きながら地域の農地・農業を守って行く方式をとる。
これが、すなわち市民参加型農業の育成である。

この方式の提案の背景には、農業サイドにおける高齢化、
担い手・後継者不足のために農作業への支援を求める声
が強まっていると共に、都市住民の間で土や自然に触れ
たいという欲求が高まる背景がある。

また、都市住民の中には、一定の農業技術を有する者、
農業への参加により余暇や余生を有意義に過ごしたいと
考えている人が、少なからず存在し、行政や農業団体が
積極的に条件整備を進めて、市民参加型農業実現を促進
する。今後、必要とされることは、 

  1. 農地制度・税制面での制約除去
  2. 農家と都市住民の相互理解・連帯感の熟知
  3. 農業形態やプロセスの決定、農地の管理方法設定

④ 魅力創出の必要性(地域・個性のポイント)

都市が人々を惹きつけるのは、単に工業が都市集中した
だけではなく、そこに魅力が存在する。いかなるな魅力
に惹かれるかは、各人それぞれである。その都市に魅力
が多ければ多いほど、多くの人をその都市に惹きこむこ
とができる(仕事や富の集中)。

また、魅力創出には、「個性」「特色」を重視し、例え
ば、これまで数多く施行されてきた過去のプロジェクト
には「箱もの」――テーマパークやレジャー施設、郷土
資料館や博物館、美術館、宿泊施設――などがあげられ
る。

これらの箱ものは、バブル期以降衰退し、行政の前例主
義の採用により、ありきたりのものが増えすぎ、人はそ
れらに対してあまり良い評価をしなくなった。また、郷
土資料館や博物館なども、立派な建造物(器)を作った
としても、展示する品が貧弱であれば、地元の人でさえ
寄りつかないと指摘し、今後必要とされることを列挙す
る。

  1. 基幹産業を中心にその土地の産業を活性化させる
    こと。例えば、青森といえばりんご、愛媛はみか
    ん、富山は製薬、といったような、その土地から
    連想できるような農産物や工業製品を中心にその
    土地の「個性」「特色」を売り込み、外来客や観
    光客を呼び込む効果がある。
  2. 経済波及効果を引き起こす。基幹産業を中心に、
    新たなビジネスチャンスを生み出し、他の産業も
    活性化させるといった相乗効果を狙うのが目的で
    ある。

農産物自給力の弱い日本においては、このような農産物
を基幹産業とした生産拡大をすることで、農産物市場に
刺激を与え、日本全体の農業の活性化につながることが
期待できる。

⑤ 財政の有効活用

上述したような、各キーワードのポイントの沿ったまち
づくりを計画・実行するには、莫大な資金が必要である。

現在、国と地方の財源はきわめて深刻な状況(失われし
20年、デフレ不況)の日本では、レッチワースのよう
に財団の介入による、独自の財政収支方法を使用しての
まちづくりを実行する都市はない。まちづくりは、主に
市町村、地方自治体の裁量に委ねられる。

現在、特に問題なのは、まちづくりを行うための資金で
ある地方自治体の財政は、交付税特別会計の借入金によ
り辛うじて支えられているという状況である。その原因
として考えられるのは、バブル期に行った大型開発や、
バブル崩壊後、国の景気対策の地方への押しつけによる
地方事業の著しい拡大である(25)。それにより、地方
債の償還費が財政収支を圧迫したことによるものである。

こうした財政収支の危機にある各都道府県は、自治体リ
ストラと公共サービスカット、課税自主権の行使するこ
とによる、税収確保を模索している状況下で必要とされ
ることは、
 

  1. 各都道府県における独自の課税を導入する
  2. タイムリミット制の導入(無駄に継続されている
    公共事業を終了させる目的)
  3. 財政の情報公開と市民による事業評価の導入。必
    要な事業か不必要な事業かを、通信インフラを通
    じて、市民の評価により判断して行う。市民のニ
    ーズに応えやすくする効果がある。
     

などがあげられる。これらを採用することにより、資金
の有効利用を計ることができる。この他にも、利用でき
るものは、できるだけ多く効率的に利用することを常に
考えなければならないとし、以下を列挙する。
 

  1. 総合補助金の有効利用
  2. 第3セクター(28)の見直し。民間と行政との関
    係をスムーズにする。民間企業の技術や経営ノウ
    ハウをまちづくりに活用する。企業や会社が地域
    とコミュニティを作り上げることにより、農業に
    従事したいという定年後の社員に就職先提供でき
    る。また、それにより、農業後継者を確保するこ
    ともできる。
  3. 企画調整機能を利用したまちづくり、事業計画の
    実行。部分を見るのではなく、総合的な見地に立
    ち、まちづくりをプロデュース、デザインする必
    要がある。
  4. まちづくり研究会(30)を中心とした地域コミュ
    ニティの設立。自主的な参加者を募ることにより
    やる気のある人材で構成することができる。力強
    いリーダーシップのもとにプロジェクトを推進さ
    せる目的。

※ ここは、大胆な地方分権による財政基盤の強化の制
  度改革が前提となる。この件は後に考察する(筆者)。

3-3 モデル都市の構築計画―京田辺市を中
    心とした発展構想

以上のように、様々な視点から日本柄田園都市を構想し
てきた。しかし、すぐにこれらの要望を満たす都市を構
築することはできない。このプロジェクトは、長い目で
見据えなければならない。そして、最終的な目標は、ひ
とつのモデル田園都市を構築し、そこから派生し、周辺
の地域にも田園都市を構築していくという流れを築き上
げ、田園都市郡を各地に作り上げることである。それら
の田園都市郡のネットワーク・コミュニティを確立させ
ることで地方格差を是正し、一極集中から均衡した発展
へと変化させる。


3-3-1 京田辺市の魅力の創出(モデル都
      市シミュレーション)

まず、京田辺を田園都市のモデルにする理由は、上述し
た各項目理論の条件をある程度満たしているからである。
また、当市も田園都市を築き上げようと積極的に働きか
けていることもあげられる。

① 各種インフラ面における市の対応

京田辺市は、京都府の南西部、京都・奈良・大阪を結ぶ
三角形の中央に位置し、東に木津川が流れている。鉄道
駅はJR片町線(学研都市線)5駅、近鉄京都線4駅、平
成9年度よりJR東西線が開業し 大阪の中心部を経て神戸・
宝塚方面にも直結され、利便性が向上した。近年では、
学研都市線松井 山手~木津間の沿線は、住宅開発が進
み人口も年々増加傾向にある。沿線市町である京田辺市・
精華町・木津町の沿線人口は、97年には105,000人と
10年間で約30%の増加率を示している。今後も住宅
開発が計画されており、将来の旅客需要が十分に期待で
きる。

また、大住~西木津間の乗車人数は、98年までの10年
間で1日あたり11,000人となり7倍以上の伸びを示して
いる。旅客流動の面から見てみると、京田辺市の鉄道利
用者は、90年と95
年の住民流動状況を比較すると、
人口が8%の増加率であるのに対し鉄道利用者は約21
%増加する。

ここで注目すべきは、公共交通インフラの活性化に力を
入れていることで、人口流動化促進効果が実証されたこ
とである。京田辺市だけでなく、周辺地域の人口流動化
も促進するとし、京田辺市を事例に田園都市構想の展開
が示される。

                  この項つづく
                

【エピソード】 
    
     

 

 珠玉の湖東焼

【脚注及びリンク】
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  1. 田園都市 Wikipedia
  2. 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
    京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也
  3. 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
  4. 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
    45、2003.7.8
  5. 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
  6. 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
    宮﨑洋司市
  7. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.06 28
  8. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  9. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
    橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  10. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  11. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
    のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2
    例の
    場合-(これからの都市づくりと都市計画
    制度全
    国市長会) 中島一 2005.05.09
  12. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  13. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  14. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  15. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  16. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  17. 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
  18. 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  19. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  20. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    波新書
  21. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  22. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  23. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  24. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  25. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  26. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
  27. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  28. 彦根市立図書館|簡易検索
  29. 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  30. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
    展望 2014.11.26
  31. アウガ Wikipedia
  32. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
  33. 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
  34. コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
    青森から見る居住の自由 2016.11.08, Ya hoo!ニュー
  35. <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河北新
    2016.01.28
     

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