1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
3.日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市
4-2-2 新しい景観 和歌山大学と
ふじと台周辺
短時間だが「学園城郭都市」との言葉に着目し、彦根市
の都市計画のビジョン理念「田園城郭都市構想」を考え
和歌山市北部地域の「ふじと台学園城郭都市」を看てき
たが、中世ヨーロッパの街並みを彷彿させる森に囲まれ
た美しい文化都市を理念とした「ふじと台」ニュータウ
ンは、ギリシャ・ローマ時代の都市国家・スペイン文化
建築様式――フェニキア式の文化建築→ローマ様式の文
化建築様式→ビザンチン文化建築様式など7つのヨーロ
ッパ建築様式を下敷きにサンフランシスコの高級住宅地
サー・フランシズ・ウッド(『田園城郭都市構想 Ⅳ』
2017.01.21)とレジリエンス設計(これもポスト・モダニ
ズム文化建築様式?)を組み込まれたパートナーシップ
に基づく地域都市※の1つである。
※ 地方自治体が自らの責任のもとに、独自のビジョン
と戦略を確立し、行動する時代――成熟型社会を迎
え経済優先から生活の質を最優先する都市計画への
移行期――の変化に対応する行政、市民、NPO等が
自律的・機動的に連動し、個性あふれる地域主体の
まちづくりをすすめる仕組み。
和歌山城
ところが、具体的に「城郭都市」を表現するものは見あ
たらず、モダニズム文化建築様式の特徴である「普遍性」
が見あたらない。有り体に言えば、「尖った象徴的な建
造物」、この場合、和歌山城を歴史的景観を背景とした「
エシカル・コード」(倫理規定)あるいは「パブリック・
コード」(市民憲章・倫理規定)※の延展が乏しいこと
に気づく。例えば、国が定める建築基準法を地方で補完
する例外規定、道路幅員の変更や町並みを整える諸規定
であり、現在、再生可能エネルギー普及著しい太陽光パ
ネル設置条件を<都市の歴史文化的な景観に溶け込ませ
る>規定(制限)など、多様性と画一性の融和コードと
いったものである。
※ エシカルとは、英語の名詞ethic(倫理/道徳)の形
容詞ethical(倫理的な/道徳上の/(社会規範に照ら
して)正しい)だが、源は欧州の都市文化建築様式
として、現在では、きわめて多義的で、包容力のあ
る概念。価値観として流布され、この源流は、英国
のブレア元首相が80年代末から90年代初めにか
け外交上の政策過程で道義的、人道的な国際介入を
「エシカルアプローチ」と表現している。
5.近代ニュータウンの系譜
-理想都市像の変遷-
ここでは、理想都市像の変遷(脚注の佐藤健正著「近代
ニュータウン系譜3」)を参考に本論を揉み込み課題を
明確にしていく。
5-1 イギリス:ニュータウン政策の終焉と
インナーシティ政策への転換
英国のニュータウン政策は、労働党政権により推進され、
保守党政権によって抑制されるという経過を辿ってきた
が、1977年、その労働党からニュータウン政策の終結宣
言が発せられる。この問題が深刻な政策課題として70年
代後半に浮上、この時代に生じた環境危機やエネルギー
危機により、自国製造業は急速に衰退、1971年から81年
の間だけでも200万人の製造業雇用が失われ、工業セン
ターとして発展してきた主要都市のインナー・エリアを
直撃し、地域の人口減少、空洞化とともに失業、貧困な
ど、深刻なインナーシティ問題をもたらす。
また、産業・人口の分散を進めてきたニュータウン政策
が深刻なインナーシティ危機の原因の一つだと指摘され
るが、大都市への産業・人口の集中抑止と大都市からの
分散促進という40年代以降一貫して追及されてきた政府
の都市政策転換が迫まられる。1977年、環境大臣ピータ
ー・ショーは、白書「インナーシティの政策」を発表、
国民の信を問い、翌1978年にインナーシティ再活性化法
を制定、インナーシティへの傾斜投資で、衰退防止に取
り組むことを決定。他方でニュータウン政策の大幅な縮
小を行うこととし、一定期間をおいてニュータウン開発
公社を閉鎖し、公社による都市建設を終結、目標人口も
縮小する。
1985年のニュータウン及び都市開発公社法では、イング
ランドでは1992年までに全てのニュータウン開発公社を
解散、公社の資産のうち、ニュータウン住宅、公共公益
施設は自治体に、未処分の土地は主としてニュータウン
委員会(CNT:Commission for the NewTowns)に移管する。
1992年のミルトン・キーンズを最後に、イングランドニ
ュータウン開発公社は全て解散し、資産の処分。ニュー
タウン委員会は、移管を受けた用地を主として民間事業
者に処分し、その収入で国の融資額を返済する。またニ
ュータウン住宅は、サッチャー政権による払い下げ(rig-
ht to buy, 1980~)政策により、住民に払い下げられ、残
余が自治体に移管される。
このようにして、英国のニュータウン政策は輝かしい歴
史に終止符を打ち、英国のニュータウンでは、イングラ
ンドだけで50万戸を超える住宅が建設され、200万人以
上の住民が居住し、100万人に近い雇用が形成。また、
多くのニュータウンがめざましいビジネス投資を生み、
各地域経済活性化の拠点を担うが、ニュータウン政策終
結後の対応のまずさなどから、後に住宅や施設の老朽化、
土地・建物の所有権の錯綜した状況による再生の困難さ
など、深刻な問題を抱えることになる。
1979年政権に就いたサッチャー政府によってイギリスの
都市再生政策は急展開。環境大臣マイケル・ヘーゼルタ
インにより立案された新政権の戦略は、それまで地方自
治体の権限に属す再開発を中央政府のイニシアティブの
もとにすすめる方式に転換し、同時に規制緩和・民営化
を柱とする事業手法を導入。政府は「1980年地方自治体・
計画・土地法」により都市再開発を単一の目的とする準
政府機関、「都市開発公社(UDCs)」の設置を定め、翌
1981年にロンドン・ドックランズ開発公社(London
Docklands Development Corporation:LDDC)を設立する。
LDDC の設立から解散までの17年間に、ドックランズで
は、24,000 戸を超える住宅が建設され、2,700社の企業
が立地、58,000人の雇用が生まる。印刷、出版、報道、
旅行、金融等の産業が集積し、特にエンタプライズ・ゾ
ーンの中心を占めるカナリー・ウォーフは、シティに次
ぐロンドン第二の金融センターと呼ばれたが、一方で、
LDDC の開発は大企業と高所得層にのみターゲットをあ
てたもので、以前からの住民は何の恩恵も受けず、開発
は地価の高騰と物価高をもたらしただけという不満も地
元には根強い。
数々の問題を含みながらも、ロンドン・ドックランズは、
その後世界各地で展開された「大規模土地利用転換型ニ
ュータウン」の先駆例となった。英国ではLDDC に続き
9か所の衰退地域で都市開発公社が設立され、また全国
に25のエンタプライズ、ゾーンが指定され、同様の都市
再生プロジェクトが展開されている。サッチャー政権に
より、1980年代に展開された規制緩和、民営化の政策は、
戦後英国の都市計画史におけるターニングポイントをマ
ークするものである。
この項つづく
【脚注及びリンク】
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- 田園都市 Wikipedia
- 日本エシカル推進協議会(Japan Ethical Initiative) -
エシカル日本 - 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存
活用の前史として― 佐々木孝文 2015.06.26 - 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
奥村誠 2015.10.15 - 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
2017.01.12 - 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
- 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也 - 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
- 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
45、2003.7.8 - 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
- 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
宮﨑洋司市 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.06 28 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 26 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 26 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 03 - 平成 28年度 主要事業 彦根市
- 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
滋賀県 - 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
- 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主導
のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2例の
場合-(これからの都市づくりと都市計画制度全
国市長会) 中島一 2005.05.09 - 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
- 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
- ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
- 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
- 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
- 「道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
波新書 - 日本の道路史 武部健一 中公新書
- 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
- 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
- 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
- 彦根市都市計画道路網見直し指針
- 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
- 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31
- 彦根市立図書館|簡易検索
- 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
- 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
展望 2014.11.26 - アウガ Wikipedia
- 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
- 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
- コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
青森から見る居住の自由 2016.11.08, Yahoo!ニュース - <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河
北新聞 2016.01.28
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