1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
3.日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市
5.近代ニュータウンの系譜
-理想都市像の変遷-
5-2 ポスト「1968年」の新しい波
-近代都市を超えて
今回は、前節より時代を巻き戻し、ポスト「1968年」か
ら2つの歴史的事例を考える。1968年、この年をピーク
としてその前後に歴史的な諸事件が全世界的、同時多発
的に噴出した。フランス・パリの五月、プラハの春、大
学紛争をはじめとする若者の反乱、ベトナム反戦運動、
米国での全国的な都市暴動など、一連の革命的事件は、
資本主義、社会主義を問わず既成の体制全体とそれを支
える近代合理主義に対抗する運動であっとする。世界シ
ステム論のイマニュエル・ウォーラスティンは、これを
「1848 年に次ぐ世界革命」と呼ぶ。近代性の根源を突
くような批判が世界中で集中的に展開された「1968 年
」は、200年の近代の終焉を告げる歴史の転換点であっ
た。これ以後、「ポスト・モダン」が盛んに語られるよ
うになり、モダンを様々な角度から批判しつつ、新しい
可能性を模索する取り組みが開始され、都市計画・デザ
インの世界にも、ポスト・モダンの都市空間創造をめざ
す「新しい波」が現れる。
5-2-1 ルーバン・ラ・ヌーヴ:中世都市の再発見
ブリュッセル近郊の新大学都市、ルーバン・ラ・ヌーヴ
(1970~、 900ha、人口50,000人(うち学生15,000人))
の計画は、「近代都市」を乗り越える試みの最も初期の
ものとされる。1425年、ベルギーの古都ルーバンに創設
された伝統校、ルーバン・カトリック大学は、言語上の
軋轢から、1968年、フラマン(ドイツ)語圏のルーバン
を離れ、フランス語圏のブリュッセルに移転するという
歴史的な判断を下した。このとき大学は、単なる大学移
転ではなく、伝統的な大学都市の再現を目指して新たな
都市を一体的に建設することを決定。新都市は、新しい
都市づくりの実験室的役割を担うものとされ、その計画
は、ルメール教授を筆頭とする大学の都市計画専門家と
外部の建築家グループの手によってすすめらる。
ルーバン・ラ・ヌーヴの計画は、近代の巨大な間都
市、空洞化した都心部やモータリゼーションに痛めつけ
られた都市への反省に立ち、「中世都市の再発見」を基
本理念に掲げる。伝統ある中世都市ルーバンの現代的再
構築をめざし、これを実現するために以下の計画コンセ
プトを設定する。
- タウンとガウンの一体化と相互発展:都市の中に
大学の機能が渾然一体に融合し、お互いが有機的
に発展する都市 - スモールイズ ビューティフル:あらゆる部分にお
いてヒューマンスケールであること、人間関係重
視のまちづくり - 人車分離の徹底:完全な歩車分離による歩行中心・
人間優先のまちづくり - ランドスケープの中の都市:地形との一体化、自
然との対話と調和、連続的な町並みとタウンスケ
ーピング - 複合機能と多様性:無個性の単一的なモノトーン
ではなく、豊かな個性を主張し、複合的な機能を
持つ都市 - 都市アメニティとフレキシビリティ:芸術文化の
重視(1%芸術投資)、多様なアクティビティに対
応する環境、交流の場の創出、時代の変化に対応
する柔軟性の確保
ルーバン・ラ・ヌーヴは、幾何学的パターンと巨大スケ
ール、単調で無個性な「近代都市」に代わる新しい都市
空間の創出をめざし、その手がかりを「中世都市」に求
める。都市の中心部には大規模な人工地盤が設けられ、
上部は完全に歩行者に解放されている。歩行動線に沿っ
て建物が連続的に配置され、町並みを形成。
建物が通りや広場を包み込み、空間の閉じた感覚が創り
だされている。ヒューマンスケールを維持するために高
層建築は否定され、建物は3~5層に抑えられている。
通りは不規則に屈曲し、歩行者が歩みをすすめるに従っ
てその視界が変化する。建物の通りや広場に面する部分
にはコロネードが設けられ、通りと建物の一体化が図ら
れている。そして、計画的用途複合開発と多様な外部空
間の形成によって、それぞれの場所の個性と人々の交流
が生み出されている。
建物のデザインにも多くの建築家が参加することで、全
体としての調和の中に変化と多様性を感じさせる町並み
ができあがっている。ルーバン・ラ・ヌーヴは、生き生
きとした生活感を持った「有機的都市」の実現に成功し
ている、と著者は評価する。
5-2-1 学術研究都市:「つくば」と「けいはんな」
(1)筑波研究学園都市
わが国最初のサイエンスシティである筑波研究学園都市
の建設計画の発端は、1960年、当時の政府(池田内閣)
による首都改造計画に求められる。東京の過密解消、首
都機能分散の議論がすすむなかで、首都圏整備委員会に
おいて、都内の全大学を人口70万人の新都市に移転する
大学分散計画試案や、都内の全ての官庁を移転する人口
18万人の官庁都市試案などが検討された。また平行して、
移転候補地についても富士山麓、赤城山麓、那須高原、
筑波山麓等について、調査・検討がすすめらる。
1963年9月、首都圏整備委員会に設置された「首都圏基本
問題懇談会」が、新都市は国の試験研究機関の集中移転
による「研究団地」と大学等の高等教育機関からなる
「学園地区」をあわせた研究・学園都市として建設する
という構想を提示、都市の基本的性格づけがなされる。
政府は同月、閣議において、①研究・学園都市の建設地
を筑波とすること、② 計画規模はおおむね 4,000haとす
ること、③ 用地の取得・造成を日本住宅公団に行わせる
ことを了解し、筑波の建設を決定する。
筑波は「首都機能の分散と国立研究機関の集中移転によ
る研究環境の刷新・強化」という、世界のサイエンスパ
ークとは全く異なる目的で建設された。国の最先端の研
究機関がこれほどの規模(32 機関、1,400ha、17,000人
の研究者)で集積しているのは世界でも稀な例と言える。
当初は国等の研究・教育機関のみが立地する筑波であっ
たが、その後の時代変化とともに都市の性格も大きく変
化する。1980 年代に「周辺開発地区」で茨城県、公団等
による工業団地の建設が開始され、今日までに9団地615ha
の開発が行う。また、1988年には茨城県、日本政策投資
銀行、民間等の出資によって(株)つくば研究支援センタ
ーが設立され、レンタル・ラボを経営するなど、民間の
企業活動を支援する体制も整備された。特に「科学万博」
の開催された1985年以降、民間企業の立地に弾みがつき
今日まで約420社の民間企業が都市内に立地している。
1990年代、バブル経済の崩壊とともに日本経済が長期の
停滞期に入ると、わが国の産業競争力の低下と研究開発
の立ち遅れが指摘され、新産業創出への取り組みの強化
が喫緊の課題として取り上げられるようになる。1996年
の科学技術基本計画では、公的研究機関の研究成果の産
業への移転を促進すること、そのために公的研究教育機
関と民間研究機関等の研究交流や共同研究の一層の推進
を図ることなどが提案され、その後関連の施策も講じら
れた。筑波でも1998年に「研究学園地区建設計画及び周
辺地区開発整備計画」が改訂され、新たに科学技術集積
を活かした新産業創出の拠点をめざす方針が示された。
それらを受けて、2002年に筑波大学産学リエゾン共同研
究センターが設立され、2009 年にはより幅の広い産学
連携を推進するために筑波大学産学連携本部が設置。ま
た、茨城県も2003年インキュベート施設、筑波創業プラ
ザを都市内にオープンさせる。そうした取り組みにより
1991~2012年の間につくば発ベンチャー企業が231社誕生。
2005年、東京と筑波を45 分で結ぶつくばエクスプレスが
開業し、また一方で東京50km 圏を結ぶ首都圏中央連絡自
動車道等の広域交通体系の整備が進展するなど、筑波地
域のポテンシャルは一層高まりつつある。つくばエクス
プレス沿線でつくばエクスプレスタウン(1,611ha, 計画
人口12万人)の建設が進むなど、新たな都市機能立地の
受け皿整備も進んでいる。
個人的な感想を言うと、1985年の国際科学技術博覧会を
境に、関東周辺を中心とした生活圏は、それまでの関西
優位性を逆転したことを実感する。面白いものである。
この項つづく
● 新年会の再々案内
新年を迎え恒例の彦根市民の飲み水を守る会の新年会
を下記要領にて開催いたします。万障繰り上げの皆様方
のご参集をこころからお願い申し上げます。
尚、会場は、彦根キャッスルホテル内の日本料理橘菖
(きっしょう)/常磐の間ですのお間違いないよう願い
ます(マップ下図参照)。
『記』
1.日時:2017年2月4日(土)17:30~
2.会場:日本料理橘菖 (きっしょう)/常磐の間
3.内容:近況報告/宴会4.会費:5,500円+酒代
※ 出欠のご返事は1月28日(土)まで幹事まで、
ご連絡下さい。
※ 連絡先:090-5124-1479
日本料理橘菖 (きっしょう)電話番号:0749-21-3001
【脚注及びリンク】
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- 田園都市 Wikipedia
- 日本エシカル推進協議会(Japan Ethical Initiative) -
エシカル日本 - 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存
活用の前史として― 佐々木孝文 2015.06.26 - 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
奥村誠 2015.10.15 - 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
2017.01.12 - 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
- 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也 - 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
- 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
45、2003.7.8 - 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
- 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
宮﨑洋司市 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.06 28 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 26 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 26 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 03 - 平成 28年度 主要事業 彦根市
- 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
滋賀県 - 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
- 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主導
のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2例の
場合-(これからの都市づくりと都市計画制度全
国市長会) 中島一 2005.05.09 - 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
- 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
- ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
- 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
- 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
- 「道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
波新書 - 日本の道路史 武部健一 中公新書
- 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
- 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
- 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
- 彦根市都市計画道路網見直し指針
- 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
- 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31
- 彦根市立図書館|簡易検索
- 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
- 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
展望 2014.11.26 - アウガ Wikipedia
- 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
- 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
- コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
青森から見る居住の自由 2016.11.08, Yahoo!ニュース - <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河
北新聞 2016.01.28
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