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施設ジプシー・4

2025年02月22日 09時16分13秒 | みりこんぐらし
市外にある病院経営の有料老人ホームに電話をかけ

ここからもパンフレットを送ってもらうことにした私。

その電話を切ってからほどなく、“みんなの介護”を名乗る男性から 

うちへ電話があった。

優しい話し方の若い男性だ。


まだ慣れていないらしく、たどたどしいが

どうやら彼が私に聞きたいのは

「見学に行くことを決めたのかどうか」

らしい。

「まだそこまでは決めていません。

とりあえずパンフレットを送ってもらうことにしただけです」

そう答えると、今度は

「みんなの介護に電話をされたのは、どうしてですか?」

とたずねる。

「ハハ…年寄りがいるからに決まっとるじゃないの」

そう答えると彼は絶句して、質問は終わった。


しかし後で思い返してみると、もしや二つ目の質問は

「みんなの介護の存在をどうやって知ったか」

それを聞きたかったのではなかろうか。

ほら、よくあるだろう。

「この商品を何でお知りになりましたか?

以下の一つにマルをつけてください。

店頭・口コミ・インターネット・その他」

なんてアンケートが…あれじゃないのか。

「友だちから聞いた」と言えばよかった。

年寄りがいるからじゃあ、身も蓋も無いわな…

そう思ったけど、後の祭りさ。


ともあれ、みんなの介護に掲載されている施設の電話番号は

どれも050で始まっていて、下の番号は施設によって違う。

みんなの介護のサイトを見て、かけた電話は

みんなの介護のコールセンターへ繋がっているらしい。

施設は、電話の受付業務を委託しているのだ。

なるほど、合理的である。


なぜなら電話の切り際に、彼は言った。

「何かご質問やご相談などありましたら、いつでもお電話ください」

「どこへ電話するんですか?」

「先ほどおかけになった施設の番号です」


電話に出るのは施設の人ではなく、みんなの介護の人。

だからパンフレットを送ってもらうために伝えたのは

こちらの住所氏名だけで、電話番号を言わなかったにもかかわらず

みんなの介護から折り返しの電話があったのだと思う。


それは構わないけど、何しろ私は疑り深くてひねくれてるじゃん。

このまま、みんなの介護のサイトであちこちに電話しまくっていたら

その度に折り返しの電話で見学を決めたかどうか聞かれ

そのうちに「こいつ、よっぽど困ってんじゃね?」と思われて

どうでもこうでも入居先を見つけられ

型にはめられるような気がしてくるじゃあないの。


しかしそれは私の勝手な印象であって、梶田さんは違う。

「みんなの介護のお陰で、母親がグループホームに入れて本当に助かった」

と、今でも喜んでいる。

元看護師の彼女だって、そうなのだ。

みんなの介護で入居を決めた人はおそらく

皆さんがそう思っておられることだろう。


さらに、みんなの介護のサイトやテレビCMでは

「今なら入居祝い金最大10万円がもらえる!」 

と謳っていて、梶田さんも入居を決めた時に10万円をもらったそうだ。


年寄りに関わると、細々したお金が出ていくものよ。

誰でも最初は、親と自分のお金をきっちり分けようと誓って臨むが

年寄りを引き受けると忙しいので、そのうち買い物のついでに

入れ歯洗浄剤や肌着なんかを自分の財布で買うようになる。

老人は世話をしてもらえるとなったら色々食べたがるし

迷惑をかけたり世話になった人へのお礼も必要になる。

病院などの立ち回り先へ連れて行くガソリン代もバカにならない。

年寄りの行く所といったら、西へ東へと効率が悪いものだ。


が、長く生き残っている年寄りというのはたいていケチだから

人の出費は気にせず我が道を行く。

そんな子世代の言うに言えぬ気持ちに

入居祝い金という形で寄り添うアイデアは、素晴らしいと思う。

反面、そのお金はどこから?入居者を得た施設から?

という疑問も湧くが、いずれにしても

介護ビジネスが儲かるらしいのは確かだ。


私はたった一軒、電話をかけただけで

みんなの介護を検索して電話をかける作業を中断した。

介護ビジネスの現実を目の当たりにして

何だかシラケちゃったのよ。


そして手当たり次第でなく、もっとじっくり検討して

確実な所を一発で決めたい…そう思うようになった。

確実な所とは、ひとたび入居したら二度と生きて出て来ない所さ。

そのためには、何でも不満タラタラの本人が

多少なりとも気に入って、居着く可能性のある所でなければ。


出るだの帰るだのと家族を困らせ

施設を点々とする本当の施設ジプシー、いるんですよ。

例えば同級生マミちゃんのお父さん。

彼も要介護度が2だったので特養に入れず

最初はサチコと同じショウタキのデイサービスに通っていたが

男性なので大きいし暴れるしで退所勧告を受けた。


その後は特養に併設されたショートステイ、その次はサ高住

それから2ヶ所の有料老人ホームを経て

最後はサチコの入院している精神病院で亡くなった。

聞くだけでウンザリじゃないか。


お父さんは、暴れたら施設を出られると学習したのだ。

マミちゃんは親が可愛いから一生懸命だったというが

わたしゃ、そんな地獄はゴメンだね。


そうは言っても、サチコの退院は刻々と近づいている。

立ち退きの方も、工事が家から見える位置まで迫ってきた。

「そろそろ出て行って」と言われてから

引っ越し作業と並行して施設を探すのは、ものすごく大変そう。

近い将来、サチコが家なき子になるのは決定事項なので

早めに施設に入れて慣れさせた方がいいとも思う。

さりとて当てがあるわけじゃなし、さてどうしたものか。

私は天井を見上げて考えるのだった。

《続く》

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