殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

2割引

2009年05月02日 14時48分24秒 | みりこんぐらし
最近自分の書いた記事を見返すと

いかにも私が心の広い穏やかな人間であるかのようだ。

いっこうに構わないが、本当はそうではないので

真実の姿を記そうと思う。


今夜から夫の親戚が2人、うちへ泊まりに来る。

夫のほうの親戚とはいえ、仲が良いので楽しみだ。

私の九州時代の恩人である

あのおばさんの娘とその孫である。


そこで昨夜…

泊まる2人のためにいろいろ準備しておこうと思い立ち

夫を従えてホームセンターへ赴いた。


そこでふと、私好みのアクセント・ラグを見つける。

小ぶりなカーペットみたいなやつだ。

毛足が長くて、オシャレ。

しかも2割引!

買いましょう、買いましょう。

マットレス2枚にラグ1本、夫に持たせ

他にもいろいろ買い物してレジへ。


レジは中年の男性だった。

慣れない手つきで、トロいこと!

一緒に買った、たくさんの日用品のバーコードを

一個一個探しながらやるもんだから、時間がかかる。


最近、こんなのが多い。

人員削減で、今までいばっていた管理職も

奥から出て来て慣れない接客をする運命となる。


私は「心広く穏やか」なので、辛抱強く待つ。

長いこと待って、やっとレジが終わった。

男が告げた値段は、私の予測した値段と数千円かけ離れていた。


    「ちょっと!ラグ、ちゃんと2割引にしてくださいました?」

「え?2割引?」

私はラグに貼ってあった「2割引」の紙をベリッとはがし

男の目の前に突き出す。


「あ、これ、2割引だったんですか」

     「そうですよ。引いてくださいね」   

あ、はい…

男はレジをつつくが、合計の終わったものを

後から割り引く機能はついていないわい。


男はあきらかに戸惑いあわて、パニックに陥る。

そして信じられないことを口走った。

「あの、どうしても2割引じゃないといけませんかね?」
  

   「あったりまえじゃないのっ!

    2割引じゃないと、こんな冬物買わないわよっ!」

「じゃあ、もう一回最初からやり直すことになりますけど…」

ものすごく面倒臭そう。


責任者、出てこい!と叫びたいところだが

男の名札には「店長」とある。

責任者を呼んだら、こいつが出て来るのだ。


いらんわいっ!と突き返したいが、ここで私も意地になる。

     「待つからやってくださいよ」


また最初から、ひとつずつモタモタとやり直すが

2割引のところで、また手が止まる。

やり方がわからないのだ。


この男、レジができないことを

回りの従業員に知られたくないらしい。

なんとか一人で解決しようと、あれこれ試行錯誤するが

レジはピーだのプーだの、むなしいエラー音を発するだけ。

プライドだけは一人前なのだ。


私は隣のレジに向かって言う。

    「ちょっと、あなた!やり方を教えてあげてよ!」


隣のレジからパートのおばちゃんが来て

あれこれ教え、やっと合計が出る。


照れ隠しなのか、この男、またあらぬことを言う。 

「あれ?さっきとずいぶん金額が違いますね…」

まるで、安くし過ぎたかのような言い方だ。


私はキレた。

    「2割引なんだから、当然じゃないのっ!

     しっかりしなさいよっ!

     納得いかないんなら、気がすむまでやったら?!」


この男、店の者に相当嫌われているらしい。

他の店員たちは、遠巻きにしてニヤニヤしている。

嫌いな上司が文句言われて、さぞ気分が良かろうが

自分たちの私的感情で客に迷惑をかけるのは筋違いだ。

    
私は、なおもわめく。

     「何見てんのよっ!」


夫はこの騒ぎが恥ずかしくなったのか

いつの間にか姿を消していた。


私はマットレスとラグを肩にかつぎ

4つのレジ袋を両腕にぶら下げ

砂漠を旅するラクダのような格好で店を出た。


車まで行く途中、脇にはさんだ蛍光灯がずり落ちてきたので

口にくわえた。

それすら、意味もなく腹が立つ!


あのホームセンターには、とうぶん行けない。
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これがミノリの生きる道

2009年05月01日 14時03分22秒 | みりこんぐらし
ミノリ…その生き様が思わぬ人気?なので

続編をつづることにする。


ミノリ夫婦は、とあるマルチ商法を生業にしている。

これに転職してからは、私も距離をおいているのだ。


夫婦して明るく、人なつっこく、親切心も人一倍あるほうだが

ま、危険ゆえに友達が少ないタイプである。

にこやかに近づいて取り入り、金を出させるので

警戒されるのだ。


そのわりにはやたらと神仏をあがめたてまつり、祖先を大事にする。

この一貫性の無さが、ミノリの不思議を作り出している。


数年前、ミノリの母親が病死した。

これまで肉親や夫の庇護のもと

人生をなめきっていたミノリは

初めて生きる苦悩を知る。


ミノリの嘆きようは大変なもので

昔馴染みとしては、放っておけないほどだった。

目先の利益だけを追い求めてきたので

こういう時、支える友達がいないのだ。

今は煮ても焼いても食えないが

マルチを始めてチヤホヤされ、高慢ちきになるまでは

楽しい思い出もたくさんある。


ちょうどその頃、市民会館のホールで

東京のバレエ団の公演があると聞いた。

私はミノリをバレエ鑑賞に招待することにした。


歌舞音曲を理解しないミノリだが

バレエなら楽しいのではなかろうか…。

チケットを渡すと、ミノリは喜んだ…ように見えた。


さて当日。

席に着いて待っていたが、ミノリが来ない。

ふと会場を見回すと

中央のスペシャルシートに、すまして座るミノリの姿が…。

    「ちょっと!あんたの席はこっちよ!私の隣よ!」

「いいの、いいの。差額を払って代わってもらったから」

何日か前に、知り合いに交換してもらったという。

「私ともあろう者が、一般席なんてイヤよ」


     S席は売り切れだったんだよ…。

ミノリと私は、別々にバレエを見て、別々に帰った。


またある日、ミノリがカメラを貸せと言ってきた。

この夫婦、金はあるのに変なところで始末屋だ。


当時、うちのはまだフィルム式だった。

貸したはいいが、何ヶ月も返ってこない。

     「ねえ、うちも使うから、早く返してよ」

「う…うん…」

どうも歯切れが悪い。

悪い予感がして、私はミノリの家に行った。


     「どうなってても怒らないから、出してみ?」

「…」

     「早く!!」

ミノリはしぶしぶ、カメラを持って来た。

カメラの胴体に輪ゴムが何重にもかけてある。

輪ゴムをはずしてみると、フィルムを出し入れするフタが

ぱっくり開いて、しまらない。

      「壊れたの?」

「う…うん…」

弁償問題に発展するのが恐ろしくて、隠していたのだ。

輪ゴムでグルグル巻きにしていれば

クセがついてそのうち閉まるかもしれないと思った…と言う。

輪ゴムを巻いたら普通と同じに写真が撮れると思うので

完全に壊れたわけではない…と力説する。


古いから、気にしなくていいよ…と笑うと

心底ホッとしたような顔をし

その時点で初めて、旦那も奥から出て来た。

「やぁ~!いらっしゃい!」


その帰り、狭い庭からバックで車を出す。

ここの出入り口は道路が狭く、向こう側はガケ。

落ちたら無傷ではすまない難所だ。


ミノリは、2車線の道路を常にまたぎ

話に夢中になるとアクセルを踏み忘れるという

人間離れしたドライブテクニックを誇るが

タクシーもいやがる自宅のケモノ道だけは

立派に運転してのける。


夫婦で私を誘導してくれたものの

ガリガリガリ…

庭石とバンパーが接触してしまった。


   おまえら、さっきオーライオーライ言ってたじゃないかよ~!


ミノリと旦那は叫ぶ。

「ああっ!石が!」

大丈夫か!

傷はついてないか!

二人は石のそばへ駆け寄り、安否を気遣う。


私は壊れたバンパーとカメラの冥福を祈りながら

もう二度と来ることはないであろうケモノ道を帰った。
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