毒を持つベニモンアゲハに擬態したシロオビアゲハの雌(琉大戦略的研究プロジェクトセンター・鶴井香織特命助教提供)
擬態したシロオビアゲハの雌(左上)、毒を持つベニモンアゲハ(右上)、擬態していないシロオビアゲハの雌(左下)、シロオビアゲハの雄(右下)(琉球大戦略的研究プロジェクトセンター・鶴井香織特命助教提供)
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擬態できる種の中に擬態しない個体がいるのはなぜか-。ダーウィン以来の謎とされてきた進化学的パラドックス(逆説)を、琉球大学の研究チームが解明した。県内に生息する鳥の捕食から身を守るため毒チョウに擬態するシロオビアゲハを用いて、「増えすぎると擬態の効果が失われる(鳥が擬態チョウを襲う)ため、集団内で擬態できるチョウの割合に上限がある」という古くからの仮説を世界で初めて立証した。島ごとにチョウの生息割合が異なる琉球列島の特性を生かし、毒チョウの多い島で擬態率が高いことなどから仮説を裏付けた。
研究結果は学術雑誌「エコロジー・アンド・エボリューション」の4月24日付オンライン版に掲載された。
シロオビアゲハの雌は、毒を持つベニモンアゲハに模様を似せ、天敵の鳥から身を守る性質がある。すべてのシロオビアゲハが擬態すれば、毒を嫌う鳥から襲われにくくなるはずなのに、擬態しない個体がいることが、進化学的なパラドックスだった。
琉大研究チームは、ベニモンアゲハの生息割合が異なる奄美・琉球の島々で擬態チョウの割合を比較。毒チョウが多い石垣島や宮古島では擬態率が高く、毒チョウが少ない喜界島や竹富島では擬態率が低かった。
同様の調査は1982年にも行われていたが、研究チームはDNA解析で島ごとの遺伝的な違いはなく、擬態率が変化する要因は鳥の捕食以外にないことも証明し、「擬態率の毒チョウ依存説」を裏付けた。
毒チョウが多い島ほど、鳥が毒チョウの外見を覚えているので、多くのシロオビアゲハが擬態すると考えられる。
このパラドックスを巡り、「擬態した雌は雄にモテないから擬態しない個体が出る」という説もある。今回の研究は「毒チョウ依存説」を立証したが「モテない説」は否定していない。
研究チームには琉大戦略的研究プロジェクトセンターの鶴井香織特命助教、同センターの佐藤行人特命講師、同大農学部生(当時)の加藤絵美さん、鹿児島連合大学院連合農学研究科院生の加藤三歩さん、琉大学医学部研究科の木村亮介准教授、琉大農学部の立田晴記教授、同学部の辻和希教授が参加した。 (稲福政俊)