郎女迷々日録 幕末東西

薩摩、長州、幕府、新撰組などなど。仏英を主に幕末の欧州にも話は及びます。たまには観劇、映画、読書、旅行の感想も。

珍大河『花燃ゆ』と史実◆29回「女たちの園」

2015年07月22日 | 大河「花燃ゆ」と史実

 珍大河『花燃ゆ』と史実◆28回「泣かない女」の続きです。

 見出し絵は、楊洲周延の「千代田之大奥 おたち退」3枚組の一部です。
 江戸城火災時、大奥の避難の様子を描いたようですが、幕府が滅びて久しい明治になっての作品ですし、私にはなんとなく、大奥の最後を象徴した絵のように思えまして、皮肉をこめて、載せました。

花燃ゆ 後編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)
クリエーター情報なし
NHK出版


 えー、こちらは大奥ならぬ毛利家の奥
 奥奉公RPG、今回のクエストは、毛利家奥女中のリストラ!です。
 奥御殿総取締・園山さまが、銀姫付きのお次女中・文改めミワ(ありえないけど、義理のおにーさまより授かったお名前だそーです。あー、小田村が奥奉公ゲームをするのに、ミワの名を選んだと理解しときましょう)と、同僚で出世したがりーの鞠さん(士族の養女になってお次女中にあがったんだそーで、普通なら嫁入り修業だけど、この人は出世がしたいんだそーで)の二人にこのクエストを与えたわけなんですけれども。
 しかも、そのリストラの理由といいますのが、椋梨藤太の提案で、藩主&世子&その家族&お付き女中、みんなで萩に帰るので、萩城には女中たちの部屋がないというのです。

 園山いわく「都美姫さまも銀姫さまも、もともとは江戸のお住まい。萩城には、殿様のお世話をするものだけで(いっぱいで)、とうていお二方のお住まいになるだけのゆとりは(ない)」 
 なにをぬかすか、ばばあ! 萩城に部屋がないなら、山口中河原御屋形には、もっとないだろうがよっ!!!

 もうね。なにから突っ込みをいれたらいいんだか、なんですが、そもそも実際は、都美姫も銀姫も世子も、山口中河原御屋形には住んでいないんです!!!
 山口中河原の御殿って、御茶屋なんですね。山口市の歴史「幕末の藩の中心地・山口御茶屋」を見ていただいたらわかるのですが、御茶屋とは、藩主の参勤交代や領内巡行時の宿泊、あるいは幕府の役人や他藩大名の通行時の宿泊のための長州藩の公館でして、山口御茶屋は、山口新屋形完成までの仮住まいでしかなかったんですね。

 珍大河『花燃ゆ』と史実◆27回「妻のたたかい」でそのときの騒動を書きましたが、 都美姫さまと銀姫さまが江戸から萩へ移ったのは、文久2年の暮れのことです。
 文久3年、長州は即刻攘夷を藩是とするにいたり、萩城は海に面していて危険であること、瀬戸内海側へ近い山口の方が指揮がとりやすい、ということで、4月に、まずは藩主のそうせい侯が湯治を名目に山口御茶屋に入り、5月、実際に下関で攘夷戦をはじめてから、都美姫、世子、銀姫も萩から山口へ移ります。
 「もりのしげり」(近代デジタルライブラリー)の219ページをご覧ください。
 都美姫は龍福寺(宮野御殿)、世子は吉敷御殿、銀姫は伊勢大宮司松田上野介邸(五十鈴御殿)を居館としていたんです。

 だ・か・ら、どこの異世界の中河原御殿で、どこの異世界の殿さま一家が、そうぶれとやらをやるのさっ!!!
 だいたい、見本になっております江戸城大奥では、通常将軍は江戸城本丸にいて、御台所が本丸大奥。
 世子は西の丸にいて、奥は御簾中(世子夫人)が支配します。つまり、将軍と世子では、御殿が別なのです。
 なお狭義で大奥という場合は、江戸城でも御台所が支配します本丸大奥のみをさすそうです。
 いったいこのRPGの、成り上がりの中小企業の社長のおっさんと奥さんがやる朝礼みたいな「そうぶれ」とやらは、どこからどうひねり出したのか、少々しらべかかったのですが、あまりに馬鹿馬鹿しいのでやめにしました。といいつつ。

歴史ミステリー 女達の裏日本史 大奥2


 この「歴史ミステリー 女達の裏日本史 大奥2」に総触れとやらが出てくるのですが、そういわれてみれば、朝食の後、将軍が御台所とともに仏間でご先祖の位牌を礼拝し、お目見え以上の奥女中たちがご挨拶、というような話を、どこかで読んだような気もするのですが、どこで読んだか忘れてしまいました。
 ついでにこの歴史ミステリーについて述べますと、新参舞が全裸だったというのが大嘘だとも、どこかで読んだような気がするのですが、どこで読んだかさがす気力がありません。

 まあ、通常、大奥ドラマとはこのフィルムのごとく、どろどろどろどろした女の園妄想もののはず、ですが、しかしこのRPG大奥、なにか妙に無機質で、プラスチックでできた異世界キャラクター妄想のような、薄気味悪さがあります。
 ともかく、なにもかもがなんだか、不条理(ノンセンス)なんです。

 えー、なんで新参者の、しかも銀姫のお付き女中でしかありません杉酒屋の芋虫ミワさんに、奥御殿全体(しかも藩主の奥と世子の奥が一緒くたというありえなさ!)のリストラなんぞといいます絶大な権限が付与されますのやら、このRPG、そこらあたりもまた不条理な上に無秩序で、ゲームとしての出来の悪さを感じるのですが、ともかく。
 芋虫ミワさんはリストラミッションを成し遂げるための御殿探検途上で、御蔵番・国島といいます、お道具の九十九神にめぐりあったりします。
 大奥女中の職制に御蔵番なんぞ聞いたことがない、とか、御蔵にたっぷりと日の光が差し込んだら御蔵の意味がないだろうが、とか、そもそも臨時住まいのお茶屋の蔵に嫁入り道具を展示しているはずがなかろうが、とか、まあ、もともとが意味のない世界の支離滅裂ゲームですから、なにを言っても無駄です。

 不条理(ノンセンス)と言えば、不思議の国のアリスです。
 この童話、リーズデイル卿とジャパニズム vol10 オックスフォードに書いておりますが、このわずか2年前、ルイス・キャロル(チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン)が第二回ロンドン万博見物に向かう汽車の中で下書きしたものでして、この第二回ロンドン万博には、駐日イギリス公使のラザフォード・オールコックの手配で日本の美術工芸品が展示され、日本の遣欧使節団(文久使節団)も顔を出して評判となっていたりしました。
 
不思議の国のアリス 完全読本
桑原 茂夫
メーカー情報なし


 えーと、例えば、です。不思議の国でスペードトランプの庭師が白いバラをペンキで赤く塗っている奇妙な出来事は、このRPG不条理ワールドで、なめくじのような九十九神・国島が、漆や人形を直射日光にさらしてぼーっと自己満足の夢を見ているのに、似ています。
 しかし、ですね。アリスが不条理にあがき、抵抗し、最後は夢から覚めますのに、この芋虫ミワさん、お化けのようにすんなりと不条理に溶け込み、その一部になって、「私がなんで生きているのか知りたい」とか、平成の自分探し有閑マダムのおっとりセリフだけで、わけもわからずなめくじ九十九神に気に入られ、お道具を売り払ってリストラ手当にまわす、といいます、ありえへんところがほとんど韓国ドラマのような非現実的な手で、ミッションを果たすんですね。
 「不思議な国のアリス」の不条理には、どこかなつかしいような、それでいて知的な魅力を感じるのですが、このRPG大奥ワールドの不条理は、ただただ意味がないだけで、さっぱりなんの魅力もなく、生理的に気持ちが悪いばっかりです。

 あげくの果てに、実はリストラは、萩城に部屋がなかったわけではなく、世子の側室候補に若くてピチピチのお側女中を十人入れるためだった!!!とハートの女王都美姫さまが宣言します、不条理の極地の不毛!!!
 側室候補の乃木坂46十福神が、なぜかみんな同じ顔をして、一言のセリフもなくじと目でずらりと並んで、不気味に幕!

 いや、史実の銀姫さまは、萩では江向八丁筋の八丁御殿に住まわれ、都美姫さまと同じ御殿にいたりはしませんし、すでに長男を妊娠しています。

 もうこれ、大河としては最低最悪の黒レッテル決定なのですから、どうせならここで、ベビメタに「イジメ、ダメ、ゼッタイ」を歌わせるくらいはじけていたら!!! いや、まずベビメタがこんな駄作に出てくれるわけがありませんし、そこまで制作陣がはじけていたら、最初から、もっとましなものを作ってましたわね。

BABYMETAL - イジメ、ダメ、ゼッタイ - Ijime,Dame,Zettai (Full ver.)


 余談ですが、ボーカルのスーメタルのお姉さんは、乃木坂46にいるんだとか。

 まあ、ですね。芋虫ミワさんが松陰の妹でも久坂の嫁でもなく、江戸城の本物の大奥で不条理RPGをやるのでしたら、大河ドラマとはいえないにしましても、そういうドラマがこの世に存在するのだと、理解できないでもないのですが、これが幕末長州の話とはね、いやはや。
 ともかく。
 大奥不条理RPG突入で、歴史的事実はもはや、地球の裏側へと消えていってしまい、どーでもよくなっておりますが、ため息をつきつつ、こんなでたらめやるのなら、幕末の長州じゃないことに早くしてしまえよ!!!と、つくづく。「ここは、幕末長州の不条理大奥パラレルワールドでございます」と、一言、ナレーションを入れたらすむことです。

 で、不思議なパラレルワールドでは、お殿様の臨席しない不思議な会議で、帽子屋・周布政之助とグリフォン・椋梨藤太が対峙しまして、周布はふてくされて、投げやりに「戦えばよい。いまさら慌てて、(幕府に)許しを乞うたところでなんらかわらん」といい、椋梨の圧勝に終わります。

 
幕末維新の政治と天皇
クリエーター情報なし
吉川弘文館


 前回に書きましたが、高橋秀直氏の「幕末維新の政治と天皇」によりますと、すでに周布政之助ほかの「正義党」は、禁門の変で京へ先発していました三家老&四参謀の処分、藩主敬親の辞官退隠まで、覚悟していました。
 で、いわゆる「正義党」が、攘夷戦の敗北、禁門の変での敗北と、失態を続けていたにもかかわらず、なぜ、力を残していたかといいますと、惨憺たる敗北の中から奇兵隊をはじめとします諸隊が生まれ、戦える軍隊となって、「正義党」を支持していたからです。
 いわゆる「俗論党」の支持者は、主に中から上の藩士たちで、萩を拠点にしていました。それが山口へ出てきて、「正義党」の追い落としをはかるようになっていたのですが、しかし、彼らは個人的な武術にはすぐれていましても、それはそれだけのことでして、ろくに戦えませんことは証明済みで、うかつに「正義党」に手は出せませんでした。

明治維新と国家形成
クリエーター情報なし
吉川弘文館


 諸隊が、元治内乱期の長州でいかに大きな存在となっていったかにつきましては、青山忠正氏の「明治維新と国家形成」収録の論文「長州毛利家の政治的基礎構造」で詳しく分析されています。

 与党でありました「正義党」は、諸隊の軍事力を背景に、世子のかわらぬ支持を受け、いわば武備恭順を貫いて、国難を乗り切ろうとするのですが、いわゆる「俗論党」からは、これまで、既得権益を突き崩される立場に甘んじておりました不満が一気に噴き出し、周旋役の岩国藩主・吉川監物を頼りにして、政権奪取が試みられます。
 両者の力が拮抗する中で、「正義派」の井上聞多は「俗論党」藩士に襲われて瀕死の重傷を負い、「正義党」の三家老四参謀を切り捨てても政権を守ろうとした周布政之助は、吉川監物を引き入れたことにより、それさえも危うくなったことに責任を感じて、自刃します。

 10月に入って、藩主敬親が萩へ行くこととなり、これは「俗論党」にとって、藩主を諸隊から離して手中にするチャンスだったのですが、「正義党」は藩主が「俗論党」処分のために萩入りすると思い込み、藩主に随行して萩入りしました。
 結果、藩主の敬親は「正義党」を切る方に傾き、前田孫右衛門、渡辺内蔵太、毛利登人、楢崎弥八郎、大和弥八郎、松島剛蔵、山田亦介など「正義党」中枢は、一網打尽に捕らえられます。
 その直前、高杉晋作は勝負勘よく、一人亡命して、命を長らえました。

 「俗論党」政権が樹立しましてから、諸隊は藩庁からは独立し、地域の行政機構を押さえて草の根を張るように定着していき、本来の家臣団とはまったく組織が異なる異分子であるとともに、強力な軍事力として育っていきます。
 こののち、有志の集まりであります長州諸隊、いわば志願兵制の歩兵隊は、再編され、当時の日本におきましては図抜けた強さを誇り、薩摩に匹敵する歩兵団が誕生するのですが、それはさておき。

 えーと、それで私、前回書きましたが、「俗論党」が長州の政権を握ってから、禁門の変関係者の処分は行われたと、なんとなく思い込んでいまして、俗書でもけっこうそう書いているものはあると思うのですが、それがなぜかと言えば、どうも高杉晋作が功山寺挙兵においてそのように主張した!からのようです。

この不条理大奥ゲームの異世界では、帽子屋周布さんは羽が舞う中、グリフォン椋梨さんと対峙して死に、眠りネズミ聞多くんは、なんと! グリフォン椋梨さんが放った忍者に襲われ、三月うさぎ高下駄晋作くんは家出した様子ですが、次回のお題はなんと!!! 「お世継ぎ騒動!」だそうでして、もう心底げんなりして、見る気力をもり立てるのに苦労しそう、です。

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コメント (15)
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